IDEA DEVELOPMENT株式会社 アイディア社
企業向け社員研修会社 全国対応の人材育成企業
公式ブログ
2026.08.25管理職研修

管理職アセスメントで実力を可視化する|4領域レーダーと半日シミュレーションの設計

管理職候補を決めるとき、多くの企業が使っている材料は「現職での成果」と「上司の推薦」の2つです。どちらも大切な情報ですが、この2つだけで決めると、成果を出してきた人が管理職になった途端に苦戦する、という現象が繰り返されます。原因は本人の資質ではなく、任命の前に「マネジメントの実力」を測る手段を持っていないことにあります。

この記事では、アイディア社が実施しているマネジメントシミュレーション「Potential Leader」を題材に、管理職の実力を「教える・気づかせる・動機づける・発表する」の4領域で測る方法を整理します。何を測るのか、半日でどう測るのか、返ってきたスコアをどう読むのか、そして測った結果を個別の育成プログラムにどうつなげるのかまでを、実際のレポート様式と海外の実証データの両面から扱います。候補者を選ぶ段階で手応えのある材料がほしい人事のご担当者に向けた内容です。

なぜ「測らずに任命する」と失敗するのか

結論から申し上げると、測らずに任命した場合の損失は、本人が苦戦することではなく、悪い習慣が固まってから初めて手を打つことになる点にあります。マネジメントのスタイルは想像以上に早く固まり、育成の介入は想像以上に遅れて届きます。この時間差が、管理職育成でいちばん大きな無駄を生んでいます。

60%
新任管理職が最初の2年で目標未達
1年
マネジメントスタイルが固まるまで
10年
初めて研修を受けるまでの平均経験年数
7%
自社のリーダー育成は効果的だと答えた経営層

並べてみると、順番が逆になっていることが分かります。スタイルが固まるのは着任1年目で、研修が届くのは平均して10年目です。つまり多くの企業は、直したい癖が定着しきったあとで、それを直すための研修に投資しています。もし任命の前後に実力を測る仕組みがあれば、この9年間の空白を短くできます。

昇格してから育てるのでは、なぜ遅いのか

ATD ICE 2017でKen Blanchard Companiesが示したデータによると、新任管理職の60%はリーダーシップ能力の不足によって最初の2年間で目標を達成できず、その結果として部下の離職率が高まり、業績にも悪い影響が出ます。ハーバード大学のLinda A. Hill教授は、多くの新任管理職が最初の1年でマネジメントスタイルを固めると指摘しています。問題は、その1年を指導のないまま過ごすと、望ましくない習慣のほうが先に定着してしまうことです。

さらにZenger Folkmanの調査では、初めてリーダーシップ研修を受講する時点で、マネージャーとしての経験年数は平均10年に達しています。悪い癖を10年繰り返し、その状態で出る成果に本人も組織も慣れてしまってから、ようやく研修が始まるわけです。実証データにもとづく管理職育成で扱ったように、何を鍛えるかを実証で選ぶ以前に、いつ手を入れるかで結果の大半が決まっています。

McKinseyが2014年に発表したレポート「Why Leadership Development Programs Fail」も同じ方向を示しています。経営層の89%がリーダーシップ強化を重要課題と認識している一方で、自社の育成が効果的だと答えたのはわずか7%、リーダー人材の不足によってビジネスチャンスを逃したと答えた企業は30%にのぼります。同レポートが挙げる解決の方向は3つで、より高い到達点を目指すこと、リーダーの発掘・評価・開発をそれぞれ改革すること、そして育成をより早いタイミングで始めることでした。真ん中の「評価」が、本記事で扱うアセスメントにあたります。

ハイブリッドワークで「見て判断する」が効かなくなった

もうひとつ、ここ数年で条件が変わりました。従来、候補者の見極めは「日々の仕事ぶりを見ていれば分かる」という前提に支えられていました。ATD ICE 2022でDDIのPatrick Connell氏が指摘したのは、ハイブリッドワークへの移行によってこの前提が崩れたという点です。リーダーシップが発揮される場面を観察する機会そのものが減り、候補者の姿が見えにくくなりました。加えて、チームは以前より自律的に動き、メンバーの所属地も分散しています。

その結果、候補者を評価できるだけの接点を持っているのは直属の上司だけ、という状態になりがちです。上司が1人で判断すれば、評価は上司との相性や接触頻度に左右されます。同氏はこれを含めて、次世代リーダーの見極めを難しくしている要因として、対象人数の多さ、ポテンシャルの定義が社内で共有されていないこと、リーダーシップのアセスメントがほとんど使われていないこと、上司が候補者の成長を加速させる訓練を受けていないことなどを挙げました。

この状況では、観察量を増やす方向で解決しようとしても限界があります。必要なのは、候補者全員に同じ場面を用意し、そこでの行動を同じ基準で見る仕組みです。次章では、その前提として整理しておきたい「成果が高い人と、管理職として伸びる人は何が違うのか」を扱います。

成果が高い人=次の管理職、ではない

結論から申し上げると、現職での成果と、管理職として伸びる可能性は、別々に測るべき別々のものです。この2つを一緒くたにすると、「営業成績1位の人を課長にしたら、チーム全体の数字が落ちた」という典型的な失敗が起きます。まず、候補者について何を見ようとしているのかを分解するところから始めます。

Performance・Potential・Readinessは、測り方が違う

ATD ICE 2022でDDIのPatrick Connell氏は、タレントマネジメントで混同されやすい3つの概念を明確に分けて示しました。現職での業績(Performance)、速く成長する可能性(Potential)、そして特定の役割への適合(Readiness)です。重要なのは、この3つが「レベルの違い」ではなく「見ている対象の違い」であり、それぞれに適した測定手段が異なるという点です。

候補者について、私たちは何を見ているのか

現在を見る

すでに起きた結果を評価する。人事評価の主戦場であり、材料もそろっている

これからを見る

まだ起きていない役割での振る舞いを推し量る。専用の測定手段がないと材料が出てこない

▼ 3つの測定対象に分けると、使う道具が決まる
1

Performance|いまの役割でどれだけ成果を出しているか

現在を見る

現職での実績。数字と評価履歴で判断できるため、社内にすでに蓄積がある。

測る手段:業績データ、人事評価、360度評価

2

Potential|速く成長し、伸びていく可能性があるか

これからを見る

現職の成果からは読み取れない。学ぶ速さ、フィードバックの受け止め方、複雑さへの対応力を見る。

測る手段:ポテンシャルを対象にしたアセスメント

3

Readiness|その役割を、いま任せられるか

これからを見る

特定のポジションとの適合。可能性があることと、いま任せられることは別

測る手段:その役割の場面を再現する没入型シミュレーション

この分解が効いてくるのは、選考の議論が行き詰まったときです。「彼は優秀だが、管理職はまだ早い」という感想は、Performanceは高いがReadinessは未確認、と言い換えられます。逆に「地味だが伸びそう」はPotentialへの評価です。どの層について話しているのかが揃うだけで、選考会議の空中戦はかなり減ります。そして、3つのうち社内に材料がないのは下の2つで、そこを埋めるのがアセスメントの役割です。

ポテンシャルの捉え方は、この10年で変わった

では、Potentialとは具体的に何を指すのでしょうか。DDIが整理した従来の見立てと、現在の捉え方を並べると、選抜基準がどこで入れ替わったのかがはっきりします。

2010年代までの見立て

2020年代の捉え方

最も成果を出している人

直近の数字が良い人から順に候補者リストに載せる

→ ビジョンと目的をもって働く人

数字の背後に、自分なりの目的意識があるかを見る

誰よりも努力し、長時間働く人

投入量の多さを、責任感やコミットメントの証と見なす

→ 影響を意図して優先順位をつける人

どこに力を集中させるかを自分で選べるかを見る

既存のリーダーに似ている人

いまの管理職層と同じ振る舞いができる人を選ぶ

→ 定着した考え方に問いを立てる人

前例に対して健全な疑問を持てるかを見る

経験年数が最も長い人

在籍年数と経験の量を、そのまま準備度と読み替える

→ 独自の経験と視点を活かせる人

他の候補者と違う経路を通ってきたことを強みと見る

自分の力で結果を出せる人

プレーヤーとしての完成度を選抜の中心に置く

→ 他者の良さを引き出せる人

周囲の力を引き出して成果を大きくできるかを見る

変わらない原則:現職の成果は候補者リストに載る条件であって、管理職として伸びる根拠そのものではありません。

左の列を見て、自社の選抜基準に思い当たるものがあれば、それは珍しいことではありません。左の5つはいずれも「観察していれば分かる」情報で、右の5つは意識して聞き出さなければ表に出てこない情報だからです。だからこそ、右側を見るための場面を意図的につくる必要があります。

興味深いのは、この捉え方が特定の企業の主張にとどまらない点です。DDIが2022年に示したポテンシャルの4要素は、リーダーとしての期待(Leadership Promise)、自ら成長する姿勢(Development Orientation)、理念と成果のバランス(Balance of Values and Results)、複雑性への対応力(Mastery of Complexity)の4つでした。一方、2017年のATD ICEでEmory大学が発表したリーダー育成プログラムでも、ポテンシャルの定義はほぼ同じ4項目が採用されていました。5年の間隔をおいた別々の発表で同じ枠組みが使われている、という事実は、この4要素が実務で定着していることを示しています。

管理職育成の最新トレンドや、海外カンファレンスの現地取材レポートを、月2回のメールマガジンでお届けしています。

▶ メールマガジンに登録する

選抜では「Will」と「Can」の両方を見る

実務に落とすとき、DDIが勧めているのは2つの軸をそろえて見ることです。ひとつはWill(やる気)で、自ら主張できるか、好奇心があるか、粘り強く進められるか、そもそもリーダーになりたいと思っているか。もうひとつはCan(実力)で、成果を出す道筋を描けるか、戦略を立てられるか、変化をリードできるか。どちらか一方だけで選ぶと、意欲はあるが空回りする人か、実力はあるが引き受ける気のない人が候補者リストに残ります。

同氏はもうひとつ、選抜者に多様性を持たせることを勧めています。従来の早期選抜で選ばれてきたタイプとは違う人をあえて含めると、集団に良い刺激が生まれ、候補者プールそのものが広がるためです。管理職になる意思が固まっていない層への向き合い方は、管理職になりたくない若手への伝え方で詳しく扱っています。

測ったあとの使い方まで踏み込んだ例が、先ほどのEmory大学です。同大学は候補者をPerformance(実績)とPotential(可能性)の2軸で9つのマスに置いて対象者を決め、次期マネージャー・新任管理職・中間管理職・シニア管理職の4階層に分けたプログラムを用意しました。階層ごとに使う診断ツールも変えています。プログラムの流れはオリエンテーション、診断、集合研修、職場実践、修了というシンプルなもので、卒業生の離職率は0%、23%が昇進しました。測ることは、それ自体が目的ではなく、誰にどのプログラムを当てるかを決めるための入口だと分かります。

ここまでで、測る対象と選抜の考え方が整理できました。次章では、アイディア社が管理職候補について実際に何を測っているのか、4つの領域に分けて具体的に見ていきます。

何を測るのか|管理職の実力を4つの領域に分解する

結論から申し上げると、アイディア社のマネジメントシミュレーション「Potential Leader」では、管理職の実力を教える・気づかせる・動機づける・発表するの4領域に分けて測ります。「向いている/向いていない」という印象で語られてきたものを、名前のついた4つの力に分解し、それぞれ5点満点で現在地を返すという設計です。

4領域はそれぞれ何を指すのか

4つの領域は、どれも「部下に対して何かをする力」です。知識を持っているかどうかではなく、相手がいる場面で実際にどう振る舞うかを見ます。

教える|TEACHING

相手の理解度に合わせて情報を分かりやすく伝え、知識やスキルの習得を支援するコミュニケーション技術。

採点項目:ロジカルなコミュニケーション/相手の巻き込み

気づかせる|COACHING

質問と傾聴を通じて相手の思考を整理し、自ら答えに気づいて行動できるよう促す対話の技術。

採点項目:雰囲気づくり/確認/質問

動機づける|MOTIVATION

相手のタイプや価値観を理解し、その人に合った関わり方で行動意欲を高め、成果につなげる働きかけの技術。

採点項目:安心を求めるタイプへの関わり方/支援を求めるタイプへの関わり方

発表する|PRESENTATION

伝える目的を明確にし、構成・話し方・非言語表現を工夫して、相手の理解・納得・行動を促す表現技術。

採点項目:声の使い方/ノンバーバル

4領域を並べると、レポートが「性格診断」ではないことが分かります。採点項目はすべて、その場で観察できる行動です。声の大きさやうなずきまで含めて具体的な項目に落ちているため、返ってきた結果に対して本人が「では次に何をすればいいのか」を考えられます。この点が、抽象的な適性の判定と決定的に違うところです。

なぜこの4つなのか

アイディア社は部下育成に必要な力を、教える・気づかせる・定着させる・モチベーションを上げる・課題を解決する、の5要素として整理しています。このうちシミュレーションで測るのは、対人の場面にその場で表れる力に限られます。定着させる力や課題を解決する力は、数週間から数カ月の職場実践を経て初めて確かめられるものだからです。半日の演習で無理に測ろうとせず、後半の職場実践フェーズに回す。この線引きが、測定の精度を保っています。

4領域の妥当性は、現場の声とも一致します。マネージャー育成フォーラム2026でアイディア社が実施した調査では、コミュニケーション研修で最も良い学びになったこととして、新任管理職の48%が「気づかせる質問・考えさせるテクニック」を挙げました。次世代リーダー層でも「広げる・深める質問」が30%、「巻き込み」が25%と続きます。調査データの全体像は別記事で扱っていますが、受講者自身が価値を感じているのは、まさにCOACHINGとTEACHINGの領域だということです。測る対象と、鍛えたい対象が同じところを向いています。

なお、それぞれの領域を実際にどう鍛えるかは、領域ごとに独立した技術体系があります。気づかせる質問の具体的な組み立ては指示から問いへ転換する技術、対話全体の型はGROWモデル、言いにくいことの伝え方はDAPの型で扱っています。本記事は、それらを鍛える前に「いまどこにいるか」を測る話に集中します。

4領域は、職場のどの場面に対応するか

4領域が抽象的に感じられる場合は、日々の場面に置き換えると分かりやすくなります。教える力が問われるのは、新しい業務を引き継ぐときや、若手に手順を説明するときです。気づかせる力は1on1や振り返りの面談で、動機づける力は目標設定や停滞しているメンバーへの声かけで、発表する力は部門会議や経営層への報告で試されます。

ここで注意したいのは、4領域の重要度は候補者の役割によって変わるという点です。プレイングマネージャーの比率が高い組織では発表する力より教える力の出番が多く、部門横断のプロジェクトを任せたいなら発表する力の比重が上がります。全員に同じ4領域を測ったうえで、自社ではどの領域を優先して伸ばすかを決める。この順番であれば、育成投資の配分に根拠が生まれます。管理職研修全体の設計は管理職研修の完全ガイドで整理しています。

次章では、この4領域を実際にどう測るのか、半日のシミュレーションと30分の面談で構成される測定の中身を見ていきます。

どう測るのか|半日シミュレーションと30分のニーズ面談

結論から申し上げると、測定は2本立てです。実際のマネジメント場面を再現する半日のロールプレイ演習で行動を見て、その直後の30分の個別面談で本人のニーズを聞き取ります。行動だけでも、希望だけでも、育成プログラムの設計材料としては足りないためです。

半日で、何をどの順に測るのか

演習は複数の講師が相手役を務めるロールプレイ形式で、4時間半で構成されています。順番には意図があり、比較的取り組みやすい業務場面から入り、心理的な負荷の高いヒューマンスキルへと進みます。

アセスメント当日の流れ|4時間半で測って、その場で設計まで進む

0:00-1:45 マネジメントの基本

指示出し、プレゼンテーション、ミーティング・ファシリテーション、ネゴシエーション。日常業務に近い場面から始めて緊張をほぐす

1:45-3:15 マネージャー向けのヒューマンスキル

コーチング、ネガティブフィードバック、動機づけ。相手の反応に合わせて振る舞いを変えられるかが表れる

3:15-3:40 フィードバック

記憶が新しいうちに結果を返す。何が良く、何を変えると効果が大きいかを講師が直接伝える

3:40-4:30 ニーズ面談と研修プラン

優先度の高いスキルと場面、障害になっている場面を聞き取り、その日のうちに研修プランとカリキュラムに落とす

この流れで効いているのは、測定と設計が同じ日に完結することです。結果を後日レポートで送る形式にすると、本人の記憶が薄れたころに数字だけが届き、行動につながりません。演習の直後にフィードバックを返し、その勢いのまま「では何から手をつけるか」を一緒に決める。ここまでを1日で終えるからこそ、アセスメントが診断で終わらずに育成の起点になります。

なお、後半の30分面談で聞くのは、希望する研修テーマではありません。仕事上で優先度の高いスキルと場面、うまくいっていない場面、障害になっている状況の3点です。本人が困っている具体的な場面が分かると、同じスコアでも処方が変わります。

なぜロールプレイ形式なのか

スキルのギャップを把握する方法は他にもあります。ATD ICE 2022でCapsim Management Simulations社が整理したところによると、よく使われる手段にはそれぞれ弱点があります。人事評価は主観が入りバイアスを受けやすく、自己評価は自分のスキルを実際とは違って認識してしまい、職場での観察や360度評価は時間とリソースを大量に消費します。

そこで同社が示した判断軸が3つです。客観性(現実の環境をそのまま再現しているか)、関連性(受講者の実際の職務に近いか)、正確性(知識ではなく、実務の中での行動をタスク単位で評価できるか)。シミュレーション形式がこの3つを同時に満たしやすいのは、「知っているか」ではなく「その場でどうしたか」だけが記録に残るからです。管理職の実力は、知識テストでは表面化しません。

この考え方は特定の分野に限りません。アイディア社がグローバル人材について実施している実践力の測り方でも、語学スコアではなく、実際の商談や会議の場面を再現して測るという同じ原則を採用しています。

匿名アンケートを集めても、行動は変わらない

もうひとつ、測定手段を選ぶうえで見落とされやすい論点があります。集めたデータが、行動を変えられる形になっているかどうかです。マネージャー育成フォーラム2023でアイディア社が紹介した組織心理学の知見によると、複数人の匿名データをまとめて伝えても、行動の変化にはつながりません。理由は単純で、匿名の集計は相反する声を打ち消し合うからです。

匿名で10人に聞いた結果、上司は何をすればよいか

同じ上司の「指示の出し方」に対する部下10人の回答例

「指示が少ない」と答えた部下
7人
「指示が多い」と答えた部下
3人

ポイント:多数決に見えても、上司は動けません。誰に対して指示が足りず、誰に対して過剰なのかが分からないため、結局これまでどおりの出し方が続きます。

この構図は、アセスメントの結果を「平均点」で返してはいけない理由でもあります。必要なのは、誰との、どの場面での、どの行動を増やすのかという具体です。同フォーラムで紹介された取り組みでは、匿名にせず上司と部下が直接、増やしてほしい行動と減らしてほしい行動を伝え合う方式が採られていました。従来の匿名式より参加者のストレスが低く、納得感が高かったと報告されています。評価ではなく、認識と期待のすり合わせとして設計されているためです。

ロールプレイ以外の選択肢と、その使い分け

測る対象によっては、講師との対面演習以外の形式が向く場合もあります。アイディア社代表のJason Durkeeが人事向け専門メディアの連載で整理したところによると、判断力や優先順位のつけ方を見たいのであれば、メール中心の受信箱型シミュレーション(インボックス演習)が有効です。届いた案件に対してどれから手をつけ、何を委ね、何を保留するかがそのまま記録に残ります。ヒューマンスキルを見たい場合はVRやインタラクティブビデオが選択肢になり、一部の演習に講師や診断者を入れると現実味が一段上がります。

受信箱型が扱いやすいのは、メールという誰にとっても馴染みのある形式を使うため、操作説明がほとんど要らず、職種を問わず成立するからです。自動採点で終了直後に個別フィードバックが表示される仕組みもあり、研修前後で同じ演習を実施して変化量を出すこともできます。多人数を一度に測る必要がある場合には、この拡張性が効きます。

形式は複数ありますが、設計そのものは頻繁に変えるものではありません。アイディア社の半日シミュレーションと30分面談という構成は、2023年のフォーラムで公開した内容と2026年版がまったく同じです。3年にわたって同じ設計で運用しているということは、測定結果を年度をまたいで比較できるということでもあります。次章では、この演習から返ってくるレポートの中身を見ていきます。

結果をどう読むか|スコアとコメントの設計

結論から申し上げると、レポートは領域の平均点ではなく、項目ごとの凹凸で読みます。同じ「気づかせる力3.5点」でも、雰囲気づくりが弱いのか、質問が弱いのかで、次に打つ手はまったく変わるからです。ここでは、アイディア社が実際に受講者へ返している個人レポートの様式に沿って、読み方を整理します。

平均点では、次の一手が決まらない

個人レポートは、4領域の下に置かれた9つの項目をそれぞれ5点満点で評価します。実際のサンプルを項目順に並べると、次のようになります。

個人レポートのスコア例(5点満点・9項目)

伝える側の項目は高く、相手から引き出す側の項目が低い、という凹凸が出ている

教える|TEACHING
ロジカルなコミュニケーション
4
相手の巻き込み
3
気づかせる|COACHING
雰囲気づくり
4
確認
3
質問
3
動機づける|MOTIVATION
安心を求めるタイプへの関わり方
3
支援を求めるタイプへの関わり方
4
発表する|PRESENTATION
声の使い方
5
ノンバーバル
4

読み取れること:この方は「伝える」力がすでに高く、弱いのは巻き込み・確認・質問という相手から引き出す側の項目です。プレゼンテーション研修を追加しても伸びしろは小さく、優先すべきは問いかけの訓練だと分かります。

この凹凸は、本人にも組織にも意外なことが少なくありません。声が通り、話が分かりやすい人は「コミュニケーションが得意な人」と見なされ、そのまま管理職候補になります。しかし部下を伸ばす場面で必要なのは、話す力よりも引き出す力です。項目まで分解して初めて、この取り違えに気づけます。

コメントは「良かった点」と「もう一段良くする点」の両方を書く

スコアの隣には、講師のコメントが項目ごとに付きます。書き方には一貫した型があり、良かった点(+)と、もう一段良くするための点(ー)を必ず対で記述します。実際のレポートでは、たとえばロジカルなコミュニケーションの項目に「テーマが明確で、キーワードが分かりやすい。つなぎ言葉も良い」という+と、「数字を使うとさらに良い」というーが並びます。相手の巻き込みでは「全体への巻き込みと個別の巻き込みの両方があった」に対して、「もう少し早めに、頻度を上げても良い」が添えられます。

この型が効くのは、指摘が次の行動に翻訳できる形になるからです。「巻き込みが弱い」だけでは何をすればよいか分かりませんが、「早めに、回数を増やす」であれば明日の会議で試せます。コーチングの項目に添えられた「主観を入れず、質問を短くして、相手に考えてもらうと尚良い」というコメントも同様で、抽象的な評価ではなく操作可能な指示になっています。

総評でも同じ姿勢が保たれます。サンプルの総評は「前半は良かったが、後半は解決の方向に向かっていなかったのが残念」というものでした。全否定でも全肯定でもなく、どの局面で何が起きたかを具体的に返しています。言いにくいことを行動が変わる形で伝える技術そのものは、DAPの型で整理しています。

返し方を間違えると、測った意味がなくなる

結果の返し方には、いくつか外せない条件があります。第一に、大量のデータを渡して終わりにしないこと。スコア表を送付するだけでは、受け取った本人は何をすればよいか分かりません。アイディア社の設計で演習直後にフィードバックとニーズ面談を置いているのは、その場で具体的な行動に落とすためです。

第二に、評価の焦点を「その人の能力」ではなく「観察された行動」に置くこと。マネージャー育成フォーラム2023でアイディア社が示した運用上の注意でも、評価するポイントは相手の能力そのものではなく、あくまで受け取り手側の受け止め方に置くべきだと整理されています。人格ではなく行動を返すからこそ、本人が防御的にならずに受け取れます。

第三に、フィードバックの場をきちんとリードすること。上司と部下、あるいは講師と受講者の間には力関係があり、放置すると本音が出ません。第三者である講師がセッションを進行することで、結果が人間関係の改善につながる方向に働きます。

アセスメントの結果をもとに6カ月の個別育成を設計し、会議での実践力が2.83から4.00へ変化した事例を公開しています。測る、設計する、再び測るまでの全工程をご覧いただけます。

▶ 個別育成の事例を読む

次章では、返したレポートを実際の育成プログラムにどうつなげるのか、その道筋を整理します。

測った後どうするか|結果を個別プログラムに変える

結論から申し上げると、アセスメントはプログラムの起点であり、終点でもあります。冒頭で測って個別のカリキュラムを組み、数カ月の実践を挟んだあと、同じ物差しでもう一度測る。この往復があって初めて、育成にかけた時間が何を生んだのかを説明できるようになります。

測った結果を、6カ月のプログラムに変換する

アイディア社が個別ラーニングジャーニーと呼んでいる設計では、アセスメントで出た弱い項目がそのままテーマになります。全員に同じカリキュラムを配るのではなく、受講者ごとに扱うテーマと順番が変わる仕組みです。

アセスメントを起点にした個別育成プログラムの流れ

STEP 1|事前

アセスメント

4領域9項目のスコアと、30分のニーズ面談。この2つを重ねて、その人が扱うテーマと優先順位を決める

STEP 2|毎月

インプット(自己学習)

必要な知識だけをオンデマンドで取る。集合研修の時間を解説に使わずに済む

STEP 3|毎月

アウトプット(定着演習)

録画して提出する反復演習。分かったことを、できる状態まで持っていく

STEP 4|毎月

個別サポートと職場実践

20分のオンラインコーチングでアクションプランを決め、上司を巻き込んで職場で使い、結果を報告する

STEP 5|事後

アセスメントと成果発表

同じ演習で測り直し、変化量を出す。成果は上司と経営層の前で本人が発表する

この形が成立するのは、最初に測っているからです。テーマが人によって違っても、選んだ根拠がスコアとニーズ面談にあるため、受講者本人も上司も納得して時間を使えます。「なぜ自分がこの研修を受けるのか」に答えられる状態から始まる点が、階層別に一律で配る研修との最大の違いです。

なお、毎月のコーチングは20分程度で完結します。成果、取り組み内容、うまくいったこと、障害と課題、次のステップを順に確認する構成で、短くても振り返りとして機能します。実際の運用はフォローコーチング20分の事例で公開しています。アクションプランを決めるときは、誰と、どの場面で、どのタイミングで試すのか、想定される障害は何か、第一歩は何かまで具体的に決めます。ここが曖昧なまま職場に戻ると、実践は起きません。

事後アセスメントで「変化」を測る

プログラムの最後にもう一度アセスメントを置く理由は、変化量を出すためです。事前と事後で同じ演習を使えば、スコアの差がそのまま成長の記録になります。ATD ICE 2022で紹介されたシミュレーション型アセスメントでも、研修前後で同じ演習を実施して比較する使い方が示されており、課題解決力が49%向上したという測定例が報告されていました。

アイディア社の実績でも同じ効果が確認できます。製薬企業のグローバルマネージャーを対象にした6カ月のプログラムでは、会議を進める力の評価が2.83から4.00へ変化しました。重要なのは、この数字が満足度アンケートではなく、演習での行動評価から出ている点です。「良い研修でした」という感想と、「できるようになった」という記録は別物です。

もっとも、測るべきは能力の変化だけではありません。アイディア社は成果を学習・行動・成果の3層で捉え、学習はオンライン課題の記録と講師評価で、行動は職場実践の報告とコーチングでの報告で、成果は成果発表と上司のコメントで確認します。この考え方の全体像は研修効果測定の方法で、成功事例から成果を測る手法はサクセスケース・メソッドで扱っています。

個別プログラムが向くケース、集合研修が向くケース

ここまで読むと個別型が万能に見えるかもしれませんが、そうではありません。アイディア社は研修の形式を3つに分けて整理しています。全員が共通の知識をゼロから学び、共通言語をつくりたい場合は集合研修が最適です。実践のタイミングが人によってばらばらで、目的が行動変容よりも知識の習得にある場合は自己学習が向きます。個別ジャーニー型が効くのは、所属や職種によって必要な内容と応用の仕方が異なり、それを職場で実践してもらう必要がある場合です。

管理職候補の育成は、この3つ目に当てはまります。同じ「課長候補」でも、10人の部下を持つ人と3人のチームを率いる人では必要な力が違い、技術部門と営業部門でも詰まる場面が異なるためです。逆に言えば、対象者の背景がそろっている場合や、まず全員に共通の型を入れたい段階では、集合研修から始めて構いません。アセスメントは、どちらを選ぶべきかを判断する材料としても使えます。スコアの分布が全員似ていれば共通研修で足り、ばらついていれば個別型の効果が大きいという読み方です。

最後に、ここまでの設計を実際に導入するときに外すと機能しなくなる条件を整理します。

導入で外さない3つの条件と、避けたい運用

結論から申し上げると、アセスメントの成否はツールの選定ではなく、設計と運用で決まります。どの形式を選んでも共通して外せない条件が3つあり、そこを満たしていれば内製でも外部委託でも機能します。逆に、条件を欠いたまま導入すると、受講者に警戒され、データだけが残ります。

形式を問わず外せない3つの条件

1

受講者が想像しやすい場面であること

部下を持った経験がない候補者にとって、マネジメントは抽象的な言葉です。設定を具体的にし、操作方法の説明がほとんど要らない形式を選ぶことで、演習そのものに集中してもらえます。

2

実際の職場に近い内容であること

自社で実際に起きる場面から遠いほど、結果は使えなくなります。指示出し、面談、会議、報告といった日常業務の場面を題材にすることで、スコアがそのまま職場の課題として読めるようになります。

3

個人別に、細かくフィードバックすること

全体傾向の報告だけでは、誰の行動も変わりません。項目ごとに、良かった点と次に変える点を一人ひとりに返す。ここまでやって初めて、測定が育成につながります。

この3つは、アイディア社代表のJason Durkeeが人事向け専門メディアの連載で、ツールの種類を問わず重要だと整理したものです。順番にも意味があります。場面が想像できなければ演習が成立せず、職場から遠ければ結果を使えず、個別に返さなければ行動が変わりません。導入を検討する際は、候補となるサービスをこの3点で並べて比較すると判断しやすくなります。

「選抜のラベル貼り」にしない

もっとも避けたいのは、アセスメントが選別の道具だと受け取られることです。そう伝わった瞬間、受講者は無難な振る舞いを選び、素の行動が出てこなくなります。測定としても失敗ですし、本人にとっても嫌な半日になります。

アイディア社が管理職候補向けのプログラムで押さえているポイントは5つあります。最初に楽しい研修を置いてマネジメントの面白さを実感してもらうこと、管理職にならなくても使えるスキル(コーチングや動機づけ)を教えること、研修中の小さな成功体験で自信を持ってもらうこと、シミュレーションで刺激のあるマネジメント体験をさせること、そして自分の得意・不得意を特定して今後の学習プランをつくること。アセスメントを「評価される場」ではなく「体験する場」として設計するという考え方です。管理職になることへの迷いがある層への向き合い方は管理職になりたくない若手への伝え方でも扱っています。

測りっぱなしにせず、上司を巻き込む

もうひとつの失敗は、測ったあとの受け皿を用意しないことです。スコアが出た時点で本人の関心は最高潮に達しますが、次の打ち手が2カ月後では熱が下がります。測定・設計・実践・再測定までを一続きの計画として先に組んでおく必要があります。

その際に鍵を握るのが、候補者の上司です。ATD ICE 2022でDDIが挙げた課題のひとつは、上司が候補者の成長を加速させる訓練を受けていないことでした。同社は、上司自身がタレントスカウトとして候補者を見つけ、育てられる状態にすることを勧めています。職場実践の時間を業務として認め、実践の障害を取り除き、成果発表の場に立ち会う。この3点だけでも、上司の関与の有無で結果は大きく変わります。

アセスメントは、候補者を判定するための道具ではなく、誰に何を、いつ手渡すかを決めるための道具です。この位置づけを社内で共有できていれば、導入の障壁はかなり下がります。

よくある質問

管理職アセスメントは、適性検査や性格診断と何が違うのですか?

測っている対象が違います。適性検査や性格診断が把握するのは、その人の傾向や志向です。管理職アセスメントが測るのは、実際のマネジメント場面での行動です。ATD ICE 2022では、知識ではなく実務の中での行動をタスク単位で評価できることがシミュレーション型の利点として整理されていました。「知っているか」ではなく「その場でどうしたか」が記録に残るため、結果をそのまま行動改善の指示に翻訳できます。

アセスメントの結果を人事評価に使ってよいですか?

育成目的と評価目的は分けることをおすすめします。評価に直結すると受講者が身構え、演習で素の行動が出なくなるためです。結果は本人と育成担当者が共有し、次の学習プランを決めるために使う。この前提を事前に伝えておくと、受講者の協力を得やすくなります。なお、昇格判断の材料として使う場合は、その旨を最初から明示することが最低条件です。

360度評価とアセスメントは、どちらを実施すべきですか?

用途が違うため、置き換えではなく使い分けになります。360度評価が捉えるのは、現職での振る舞いに対する周囲の認識です。一方、まだ経験していない役割での行動は、その場面を再現しないと分かりません。また、匿名で集計された複数人の声は相反することが多く、そのままでは行動を変える手がかりになりにくいという課題もあります。管理職候補の見極めが目的であれば、まず場面を再現するアセスメントから始めるのが実務的です。

実施するタイミングはいつが適切ですか?

昇格の前です。ATD ICE 2017で示された調査によると、多くの新任管理職は着任1年目でマネジメントスタイルを固めます。指導がないまま過ごすと望ましくない習慣が先に定着するため、任命後に手を打つと修正コストが跳ね上がります。候補者段階で測っておけば、着任と同時に必要な支援を届けられます。

候補者が多く、全員に半日の演習を実施するのは難しいのですが?

対象を絞る方法と、形式を変える方法の2通りがあります。ATD ICE 2017で紹介されたEmory大学の例では、実績と可能性の2軸で候補者を整理してから対象者を決め、階層ごとに使う診断ツールを変えていました。人数が多い段階では受信箱型のシミュレーションのように自動採点で拡張しやすい形式を使い、絞り込んだあとに講師との対面演習を行う、という二段構えも有効です。

管理職候補の実力を、測るところから始めませんか

アイディア社では、マネジメントシミュレーションによる実力の可視化から、結果にもとづく個別プログラムの設計、事後の効果測定までを一貫してご支援しています。対象人数や期間に合わせた実施方法をご提案しますので、まずはお気軽にご相談ください。

お問い合わせはこちら

関連コンテンツ

「わかった」で終わらない。「できる」ようになる。
研修内容を実践で活かし、徹底した定着フォローにより職場で成果を出す

演習中心の飽きさせないダイナミックな研修

人材育成、企業研修に関するお問い合わせはこちらからどうぞ

WEBサイトに掲載されていない研修も多数ございます。
最適なご提案をさせていただきます

03-5368-0890
メールフォームからのお問い合わせはこちら
メルマガ登録
無料レポートダウンロード
Copyright IDEA DEVELOPMENT INC.
All rights reserved.
TOPへ