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研修事例

製薬R&Dのグローバルマネージャーを6カ月で変えた個別育成の中身|会議力2.83→4.00を生んだ研修設計の全工程

専門領域では一流だが、多言語・多文化のチームで会議運営・交渉・部下育成に課題を抱える製薬R&D部門のグローバルマネージャー。全員一律・単発の研修では個別の弱点に届かず、職場の行動変容と成果につながらないことが課題だった。

製薬R&Dのグローバルマネージャーを6カ月で変えた個別育成の中身|会議力2.83→4.00を生んだ研修設計の全工程

研修テーマ

6カ月・月1テーマの個別ラーニングジャーニー。アセスメントで弱点を特定し、インプット→アウトプット→個別サポート→職場実践のサイクルを反復した。

専門領域では誰もが一目置く——けれども、多言語・多文化のチームで会議を仕切り、利害の異なる相手と交渉し、専門の違う部下を育てる場面になると、とたんに力が出し切れない。グローバルに事業を展開する企業のマネージャー育成では、こうした「優秀な専門家ほど、対人・運営の場面でつまずく」という悩みがよく聞かれます。

本記事では、ある日本の製薬メーカーの研究開発(R&D)部門で、グローバルチームを率いるシニアマネージャーを対象に、アイディア社が6カ月間伴走した個別育成プログラムの中身をご紹介します。会議を仕切る力(会議ファシリテーション)は6カ月で2.83から4.00へ、交渉・影響力も大きく伸び、会議準備・運営の効率化だけで週あたり2.5時間を生み出しました。この事例は、世界最大の人材育成会議ATD International Conference & Expositionでアイディア社が登壇し、各国の専門家から高い評価を受けた実装事例でもあります。

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なぜ「優秀な専門家」が、グローバルの現場でつまずくのか

今回の対象者は、製薬R&D部門のシニアマネージャー。担当する専門領域では国内外から信頼される実力者ですが、マネジメントの現場には固有の難しさがありました。チームには言語も文化的背景も異なるメンバーが混在し、会議では論点が拡散しがちで、専門の違う相手への説明や交渉に時間がかかる。部下育成も、これまでは自身の専門知識を伝えることが中心で、相手に合わせて引き出す関わり方には課題が残っていました。

こうした「人によって弱点が違い、しかも職場で実際に使えて初めて成果になる」課題に対して、従来型の研修はうまく機能しません。全員一律の集合研修は、扱うテーマが共通で一人ひとりの弱点に届きにくい。かといってeラーニング中心の自己学習は、本人任せになりやすく、知識は入っても職場の行動が変わりにくい。この事例で個別育成という形を選んだのは、3つの育成方式の得意・不得意がはっきり分かれているからです。

3つの育成方式は「成果」と「個別ニーズ対応」で分かれる

集合研修

成果:定着フォローがあれば限定的に

個別ニーズ対応:全員が同じ内容を学ぶため、一人ひとりの弱点には届きにくい。

このマネージャーには:共通の基礎は学べても、本人固有の会議・交渉の課題は残る。

自己学習(eラーニング)

成果:行動変容につながりにくい

個別ニーズ対応:必要な講座を選べるが、コンテンツ自体は汎用的。

このマネージャーには:知識は入っても、多忙な現場では「見て終わり」になりやすい。

個別ラーニングジャーニー

成果:短期間で行動変容と成果に

個別ニーズ対応:インプットは汎用でも、職場のニーズと本人の実力に合わせてアウトプットを設計する。

このマネージャーには:弱点に絞って学び、自分の会議・チームで実践して成果につなげられる。

集合研修と自己学習が機能しにくいのは、それぞれ別の理由からです。集合研修は「個別の弱点に届かない」、自己学習は「職場の行動が変わらない」。この事例のように、人によって必要なテーマが異なり、しかも実際の会議や交渉で使えて初めて意味がある課題には、ニーズに合わせて内容を選び、職場実践まで伴走する個別ラーニングジャーニーが噛み合います。次章では、その6カ月をどう設計したかを具体的に見ていきます。

6カ月・月1テーマの個別ジャーニーをどう組み立てたか

個別育成と聞くと「本人の希望を聞いて講座を見繕う」イメージを持たれがちですが、成果を出すための出発点は、本人の現在地を客観的に測ることです。この事例では、プログラムを始める前にアセスメントを実施しました。中心となるのは、複数の講師が相手役を務めるシミュレーション演習(半日)。指示出し、プレゼンテーション、会議ファシリテーション、交渉、コーチングといった場面を実際に演じてもらい、「何ができていて、どこに伸びしろがあるか」を第三者の目で評価します。あわせて30分の面談で、優先度の高いスキルや、本人が難しさを感じている場面、今後のミッションを聞き取りました。

次に行うのが、扱う内容を「選ぶ」ことです。アイディア社には、ロジカルコミュニケーション、会議ファシリテーション、Win-Win交渉、影響力、部下育成、ネガティブフィードバックなど、提供可能なテーマが数多くあります。個別最適とは「すべてをやる」ことではなく、アセスメントで見えた弱点とニーズに合わせて、その人に効くテーマだけを取り出すこと。今回は、グローバルチームを率いる立場を踏まえ、グローバルスキルとマネジメントを軸に6つのテーマを選定しました。

そのうえで、6カ月の骨格を組みます。設計の要点は、1カ月につき1テーマに絞ること。同時に多くを詰め込むと混乱し、定着しないためです。各月は「インプット→アウトプット→個別サポート→職場実践」という同じサイクルを回し、毎月テーマを変えながら積み上げていきます。短期集中で密度を保つことが成果につながるため、期間は3〜6カ月のスプリント設計とし、前後に同じアセスメントを置いて変化を測れるようにしました。最後は、本人が上層部に成果を発表する場で締めくくります。

6カ月個別ジャーニーの骨格

事前|アセスメント

半日のシミュレーション演習+30分面談で現在地とニーズを把握し、伸ばす6テーマを決める

1〜6カ月目|月1テーマ ×6

毎月テーマを変えながら、同じサイクルを回す:

インプット → アウトプット → 個別サポート → 職場実践

事後|再アセス+成果発表

同じアセスメントで変化を測り、本人が上層部に成果を発表する

この骨格が示すのは、個別最適の正体が「コンテンツを配ること」ではないという点です。本質は、アセスメントでニーズを掴み、毎月回す枠組みを用意し、前後で変化を測れるようにすること。この3つさえ押さえれば、対象が製薬R&Dのマネージャーでなくても、自社のグローバル人材や専門職マネージャーの育成にそのまま当てはめられます。では、毎月回す「サイクルの中身」には何が入っていたのか。次章で具体的に見ていきます。

各月で回した「サイクルの中身」——インプットは最小、アウトプットに時間を割く

毎月のサイクルは「インプット→アウトプット→個別サポート→職場実践」の4要素で構成しました。ここで最も重要なのは、4つが均等ではないという点です。知識を入れるインプットは最小限に抑え、できるようにするためのアウトプットと振り返りに時間を割く。アイディア社が研修設計で守っている目安は「インプット1に対してアウトプット3以上」です。

インプットは、講師が教える集合形式ではなく、本人が短時間で学べるオンデマンドの自己学習にしました。多忙なマネージャーの負担を減らし、知識の習得は各自のペースに任せるためです。一方、アウトプットは3本立てで厚く設計しました。AIツールによる定着演習(同じ場面を繰り返し練習できるロールプレイ型ツール)、講師との1対1のロールプレイ、そして実際の職場での実践です。同じスキルを形を変えて何度も使うことで、「分かる」を「できる」に変えていきます。

これを支えるのが個別サポート、すなわち月2回の1対1セッションです。オンライン上でインプットや練習課題を投稿すると、講師がコメントとアドバイスを返します。さらに、職場実践に入る前にはアクションプランを一緒に作ります。「どの相手と」「どの場面で」「どのタイミングで」「予想される成果は」「起こりそうな障害は」「乗り越えるために何が必要か」「動き出す第一歩は」——この問いに沿って、研修と実際の仕事を具体的に結びつけます。実践した後は、その場面をコーチングで振り返り、次の月のテーマへつなげていきます。講師がそのままコーチを兼ねるため、学びと現場が途切れません。

1カ月のサイクル:時間配分はアウトプット側に寄せる

知る(最小限)

必要な知識を短時間で。負担を抑える

できるようにする(厚く)

インプット1に対しアウトプット3以上。練習と振り返り、職場実践に時間を割く

↓ 毎月、テーマを変えてこの順で回す
1

インプット

知る

負担の少ないオンデマンドの自己学習で、その月のテーマに必要な知識を習得する。

ねらい:講師が教える時間をかけず、知識の習得は各自のペースに任せる

2

アウトプット(3本立て)

できるようにする

AIツールによる定着演習/講師との1対1ロールプレイ/実際の職場での実践。同じスキルを形を変えて反復する。

ねらい:「分かる」を「できる」に変える。量はインプットの3倍以上

3

個別サポート(月2回の1on1)

できるようにする

オンラインで課題を投稿→講師がフィードバック。アクションプランを一緒に作り、職場実践の後はコーチングで振り返る。

ねらい:講師がコーチを兼ね、学びと現場を途切れさせない

4

職場実践

できるようにする

アクションプランに沿って、自分が実際に担当する会議やチームで使う。上司も巻き込み、承認とサポートを得る。

ねらい:インプット→アウトプット→職場実践を強く連動させ、成果につなげる

この配分が、成果の分かれ目になります。動画やeラーニングを見せて終わりにすると、知識は入っても職場の行動は変わりません。インプットをあえて最小限にとどめ、アウトプットと振り返りに時間を割いたからこそ、学んだスキルが実際の会議や交渉で使えるようになりました。自社の研修を点検するときも、「インプット偏重になっていないか」「アウトプットと振り返りに十分な時間を割けているか」が一つの目安になります。

自社のグローバル人材や専門職マネージャーの育成設計について相談したい方は、お気軽にお問い合わせください。世界の最新事例をまとめたATD2025報告レポートもあわせてご覧いただけます。

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6カ月で何が変わったか——自己申告・客観診断・職場成果の3層で測る

成果は、能力の伸びだけを見て終わりにしませんでした。アイディア社が用いるSCMメソッドでは、3つの層で変化を捉えます。1つ目は学習(知識・スキルの習得度を、研修前後のアセスメントやAI演習・講師評価で測る)、2つ目は行動(職場で実際に使ったかを、本人の報告とコーチングで把握する)、3つ目は成果(職場でのビジネス成果を、報告と上層部への発表で確認する)。能力だけでなく、職場の行動と成果まで測るからこそ、上層部に対しても説得力を持って報告できます。

まず客観的な能力の変化です。プログラムの前後で同じアセスメントを実施したところ、5点満点で評価される主要スキルが軒並み上昇しました。なかでも伸びが大きかったのが、グローバルな現場で直接効く会議ファシリテーション(2.83→4.00)交渉(2.50→3.83)影響力(2.50→3.83)です。

研修前後の能力変化(5点満点・本人アセスメント)

薄いバーが研修前、濃いバーが研修後。会議・交渉・影響力で大きく伸びた

会議ファシリテーション
2.83
4.00
プレゼンテーション
3.50
4.17
交渉
2.50
3.83
影響力(指示・働きかけ)
2.50
3.83
フィードバック
2.67
3.00

注目すべきは、伸びた領域が会議・交渉・影響力という、専門知識だけでは補えない対人・運営スキルに集中している点です。一方でフィードバックの伸びは緩やかで、ここは継続的な課題として残りました。前後を同じ基準で測っているため、どこが伸びてどこに伸びしろが残るかが明確になり、次の打ち手につなげられます。

本人の実感も、この数字を裏づけています。「グローバル会議をどう統制すればよいかは、コーチングが特に参考になった」「交渉では、相手が口に出さない前提をどう引き出すか、使えるフレームの幅が広がった」「実際に試す機会と、それに対するフィードバックが効果的だった」——いずれも、知識を入れただけでは得られない、実践と振り返りを重ねたからこその手応えです。

そして、能力の伸びは職場の成果にも表れました。会議の準備と運営が効率化したことで、週あたり2.5時間、6カ月のプログラム期間を通じて計約100時間の時間が生まれました。あわせて、直属の部下やグローバルメンバーとの関係が改善し、より直接的で明確なフィードバックを返せるようになったという変化も報告されています。

週2.5時間
会議の準備・運営の効率化で創出
計100時間
6カ月プログラム期間の合計

この「週2.5時間」という数字こそ、個別育成の成果を語るうえで重要です。能力スコアの上昇は本人や講師にとって意味があっても、上層部には伝わりにくいもの。それを「会議が効率化して時間が生まれた」という経営の言葉に翻訳できたからこそ、現場の実感としても、投資対効果の説明としても、成果が伝わる形になりました。

この設計を、自社のグローバル・専門職マネージャー育成にどう持ち込むか

この事例の価値は、製薬R&Dという特定の業種にとどまりません。設計の本質は、対象がグローバル人材でも、高度専門職のマネージャーでも、そのまま当てはめられます。自社の育成施策を点検するとき、次の3つの問いが手がかりになります。

問い1:弱点が人によって違う層に、全員一律の研修を当てていないか。ベテランや専門職のマネージャーは、強みも課題もばらばらです。全員に同じ集合研修を行っても、一人ひとりの弱点には届きません。アセスメントで現在地を測り、その人に必要なテーマを選ぶ発想に切り替えられないかを考えます。

問い2:インプットで終わらず、アウトプットと振り返りに時間を割けているか。動画やeラーニングを配って終わりにすると、知識は入っても行動は変わりません。インプットを最小限にし、練習・職場実践・コーチングでの振り返りに時間を寄せる「インプット1:アウトプット3以上」の配分になっているかを点検します。

問い3:成果を「能力」だけでなく「職場の行動と成果」で測れているか。研修満足度やテストの点数だけでは、投資対効果は語れません。能力の前後比較に加えて、職場で実際に使ったか(行動)、どんなビジネス成果が出たか(時間の創出など)まで測ることで、上層部に説得力を持って報告できます。

この3つを押さえれば、「優秀だが対人・運営でつまずく」マネージャーを、職場の成果につながる形で伸ばせます。最後に、人材育成のご担当者からよくいただく疑問にお答えします。

よくある質問

個別ラーニングジャーニーは、1人だけのプログラムでコストが高くなりませんか?

一人ひとりに合わせる一方で、知識を入れるインプットは汎用のオンデマンドコンテンツを活用し、AIツールによる定着演習やオンラインコーチングで運営の手間を抑えています。技術を組み合わせることで、かつては手間とコストの面で難しかった個別最適を、無理のない形で提供できるようになりました。少人数からでも始められます。

集合研修と個別育成は、どう使い分ければよいですか?

全員が共通の知識をゼロから学び、足並みをそろえて行動に移す必要がある場合は集合研修が向いています。一方、人によって必要なテーマが異なり、職場で実践できて初めて成果になる課題には、個別ラーニングジャーニーが噛み合います。両方を組み合わせ、土台は集合研修、個別の弱点克服はジャーニーで補う設計も有効です。

育成期間は6カ月でなければいけませんか?

3〜6カ月のスプリント設計が目安です。短すぎると定着する前に終わってしまい、長すぎると密度が落ちてモチベーションが続きません。1カ月に1テーマと絞り、毎週何らかの接点を持って密度を保つことが、期間以上に重要です。

受講者の上司は、何をすればよいですか?

成果を左右する最大のポイントが、上司の巻き込みです。具体的には、業務時間内に取り組んでよい実践課題を一緒に設定すること、実践で困ったときに相談に乗ること、そして成果発表の場に立ち会ってフィードバックと評価を返すことです。上司の関与があるほど、学びが職場の成果につながりやすくなります。

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