問いの設計で1on1を変えた管理職研修の事例|GROW実装
コーチングの重要性は98%が認識する一方、研修効果を実感できているのは25%。この企業でも1on1が雑談で終わり、職場のビデオ映像から傾聴不足やアクション未確認など5つの課題が確認されていました。

研修テーマ
事前インプット・演習中心リモート研修2回・職場実践ビデオ・個別フィードバックで構成する3カ月の管理職コーチング研修(GROWモデル実装)
1on1を制度として導入し、管理職向けのコーチング研修も実施した。それでも部下との対話は雑談で終わり、行動は変わらない——。人事・研修担当者から、このような悩みを聞くことが増えています。
本記事では、GROWモデルの「問い」を研修の中だけで終わらせず、職場の1on1に実装した管理職コーチング研修の事例を紹介します。研修前の状況、実施した設計とその意図、そして実際の評価レポートに表れた結果まで、人事担当者が自社の研修設計に使える粒度で解説します。
状況:コーチング研修を受けても、1on1は変わらなかった
コーチングスキルの重要性そのものは、すでに広く認識されています。IDEA DEVELOPMENT株式会社が主催した「マネージャー育成フォーラム 2023」のアンケートでは、マネージャー研修の担当者の98%が、コーチングは管理職にとって「大切」または「とても大切」と回答しました。約7割がコーチング研修を実施中か、実施を予定・検討しています。
ところが、同じ調査で研修の効果を聞くと、結果は大きく異なります。
コーチングへの期待と、研修効果の現実
マネージャー育成フォーラム 2023 アンケート結果(回答者:マネージャー研修の担当者)
ポイント:重要性の認識と成果の実感に73ポイントの開き。残りの75%は「研修はしたが、期待には満たない」と感じています。
この数字が示しているのは、「研修をやるかどうか」はもう論点ではない、ということです。ほとんどの企業は重要性を理解し、実際に研修を実施しています。それでも4社に3社が効果を実感できていないのですから、問題は研修の有無ではなく、研修の中身と、学んだことを職場に持ち込む設計にあります。本事例の企業も、まさにこの75%側からのスタートでした。
職場のコーチング映像で見えた、5つの課題
この企業の研修で特徴的だったのは、受講期間中に、マネージャーが職場で実際に行っている部下との1on1をビデオ撮影して提出してもらう取り組みです。研修中のロールプレイは受講者同士で行うため、実はある程度うまく見えてしまいます。しかし職場の実映像を講師が分析すると、想像以上にコーチングスキルが使われていない実態が明らかになりました。代表的な課題は次の5つです。
相手の話を聞かず、一方的に話す
傾聴が不足し、決めつけや自分の経験談が中心になる。50分の映像を見ても、コーチングの要素が一つも見当たらないケースすらありました。
コーチング・ティーチング・業務指示の区別がついていない
教えるべき段階の部下に質問を重ね、自分で考えられる部下に答えを教えてしまう。部下の状態に合わない関わり方が続いていました。
1on1の目的が不明確
雑談で終わる、部下の愚痴を聞くだけで終わる。何のための時間だったのか、上司も部下も説明できない1on1が驚くほど多く見つかりました。
上司が課題解決を考えてしまう
上司が答えを出して指示すると、部下は単なる情報提供者になります。自分で考えて納得するプロセスがないため、主体性もモチベーションも上がりません。
アクション・期限・結果共有の確認が不足している
「心理的安全性のためには何も決めず、話を聞くだけでよい」という勘違いです。次に誰が何をするかが決まらないまま終わり、成長のサイクルが生まれません。
5つの課題を並べると、共通の根が見えてきます。課題1・3・5の原因は、上司の人柄や意欲ではなく、「何を、どの順番で、どう問うか」というフレームを持っていないことです。フレームがないから話が拡散して雑談になり、聞くだけで終わり、次の行動が決まりません。そこでこの企業では、研修のテーマを「コーチングを学ぶ」から「問いの設計を職場の1on1に実装する」へ置き直しました。次のセクションで、その具体的な設計を見ていきます。なお、コーチング研修が現場で機能しない課題の全体像は管理職コーチング研修|現場で機能する5つの課題と解決策で詳しく解説しています。
やったこと:問いを「知る」から「使える」にする3カ月の設計
この研修が従来と最も違うのは、ゴールを「コーチングの知識を得ること」ではなく「職場の1on1で問いが使われている状態」に置いた点です。そのために、1日で完結する単発研修をやめ、研修と職場実践を交互に挟む3カ月のサイクルに再設計しました。
全体設計:研修を2回に割り、間に職場を挟む
プログラムは「事前インプット」「リモート研修1」「職場実践とビデオ提出」「リモート研修2と個別フィードバック」の4要素で構成されます。解説部分は事前のオンデマンド学習に切り出し、研修当日は集中力が切れない3時間に絞って、時間のほとんどを演習に使います。
3カ月の実装サイクル
コーチングの基本を事前課題とオンデマンドで自己学習。解説を研修の外に出す
3時間・演習中心。事前に学んだ問いの型を実際に使い、できるようにする
職場で部下との1on1を実施。その様子をビデオ撮影して提出する
職場実践を踏まえた演習と、映像への個別フィードバック・評価
研修を2回に分ける狙いは、研修期間中に受講者が職場で実践し、その実践に対して講師がフォローとフィードバックをできるようにすることです。単発研修では「学んだが、いつ使えばよいか分からないまま自信を失う」という定着の失敗パターンに入ります。この設計なら、インプット、研修で練習、職場で使う、振り返るという学習サイクルが期間内に一巡し、行動変容につながります。
問いの設計:GROWの各ステップで、何を問い、何をしないか
研修内容の中核は、GROWモデルの4ステップを「問いの型」として渡すことです。ここで重要なのは、有効な問いだけを教えても職場では機能しないという点です。ビデオ映像の分析から分かるのは、マネージャーがつまずくのは良い問いを知らないからではなく、各ステップで「やってはいけないこと」を知らずに踏んでしまうからです。そこでこの研修では、問いと禁止事項を必ず対で教えました。なお、GROWモデルそのものの解説は1on1が変わるGROWモデル|目標から行動まで導く対話の型をご覧ください。
右列に注目してください。「5割以上話さない」「状況把握の前に解決に走らない」「フォローを決めずに終えない」——前のセクションで見た5つの課題と、一つずつ対応しています。つまりこの表は、ビデオ映像で実際に観察された失敗から逆算して作られた禁止事項のリストです。自社で1on1のガイドラインを作る場合も、問いの例文集だけでなく「避けることリスト」を対で配ることをおすすめします。
プロコーチ体験とビデオ提出を入れた、2つの設計意図
この研修には、一般的なコーチング研修にない要素が2つ組み込まれています。1つ目はプロコーチによるコーチング体験です。ほとんどのマネージャーは、良いコーチングを受けた経験がありません。受けたことがないものを提供できるかというと、疑問です。そこでまずプロコーチのセッションを受けてもらい、「問われる側」として良いコーチングの基準と価値を体感してから、スキル習得に入る順番にしました。
2つ目は、職場の1on1をビデオ撮影して提出してもらう仕組みです。研修中のロールプレイはマネージャー同士で行うため、上下関係のある実際の職場とは条件が大きく異なります。実映像を提出してもらうことで、講師は現実の場面を評価できます。最も効果的なのは、評価レポートを渡すだけでなく、講師と受講者が一緒に映像を見ながら話し合うことです。自分の1on1を客観視する機会は、これ以外にほぼ存在しません。
30分で回す1on1の型
もう一つの工夫が、時間の設計です。コーチングの代表的な活用場面は1時間程度の1対1セッションですが、多くの職場にはその余裕がありません。そこでこの研修では、GROWの流れを30分に収めた1on1の型を配布し、職場実践はこの型で行ってもらいました。
30分1on1のタイムテーブル(職場実践用の型)
挨拶とテーマの確認
今日の1on1で何を話すかを合意する(GOAL)
取り組み内容と進捗
結果と達成度を部下の言葉で話してもらう(REALITY)
うまくいった点と課題
問いで選択肢を広げる、この型の中心部分(OPTIONS)
次のステップと質疑
アクションと期限を部下に決めてもらう(WILL)
この型は、GROWの4ステップを30分に写像したものです。冒頭3分でテーマを合意するので雑談に流れず、最後の5分で次のアクションを部下自身に決めてもらうので「聞いただけで終わる」ことがありません。前のセクションの課題3(目的が不明確)と課題5(アクション確認の不足)は、上司の意識ではなく、この時間の型で構造的に防いでいます。
アイディア社では、本事例のような職場実践とフィードバックを組み込んだ管理職向けコーチング研修を、貴社の1on1の実態に合わせて設計しています。
結果:評価レポートと受講者の声が示した変化
この研修の結果は、2つの層で確認できます。1つは、提出された職場実践の映像とコーチングセッションに対する、プロコーチの実際の評価レポート。もう1つは、受講したマネージャー自身が「何が最も役立ったか」を答えたアンケートです。
実際のGROW評価が示す到達点
評価を担当したのは、国際コーチング資格(PCCほか)を持ち、コーチング実績1,000時間以上のプロコーチです。GROWの4ステップそれぞれについて5点満点でスコアとコメントが付きます。あるマネージャーのセッション評価は、次のとおりでした。
プロコーチによるGROW評価(5点満点・実際の評価レポートより)
注目すべきは、WILL(意思)だけが5点満点である点です。研修前のビデオで最も深刻だった課題は「アクション・期限・結果共有を決めずに終わる」ことでした。評価コメントには、「この3つを習慣化のアクションとした時に、次に向けて何からやりましょう?」と部下に選ばせて自分の言葉で語ってもらったこと、期限を確認し、次回また話を聞く約束をしたことが高く評価されています。つまり、研修前に最も欠けていたステップが、最も高いスコアに変わりました。30分の型の最後5分を「部下がアクションを決める時間」として構造化した効果です。
もう一つ重要なのは、改善点の指摘も問いベースで具体的なことです。このマネージャーへは「具体性を持たせようとして質問が長く説明調になる。シンプルで短い質問のほうがパワフル」、別のマネージャー(全体評価4.5)へは「アクションで何をすべきかを先に伝えると指示になってしまう」というコメントが付きました。何点だったかではなく、次の1on1でどの問いを変えるかまで示されるため、評価そのものが次の実践につながります。
受講者アンケート:最も響いたのは「気づかせる質問」
個別評価だけでなく、受講者側のデータも「問い」を指しています。マネージャー育成フォーラム 2026で公開された調査では、コミュニケーション研修を受けた新任管理職に「最も良い学びになったこと」を聞いています。
コミュニケーション研修で「最も良い学びになったこと」(新任管理職)
マネージャー育成フォーラム 2026 調査データより
「気づかせる質問・考えさせるテクニック」が48%で、2位の心理的安全性に16ポイントの差をつけた一強です。同じ調査の「今後活用してみたいこと」でも気づかせる質問が37%で1位、管理職手前の次世代リーダーでは質問スキルが45%で1位でした。本事例の企業に固有の結果ではなく、1on1に悩むマネージャーが最も価値を感じるのが「問い」であることは、受講者側のデータでも一貫しています。気づかせる質問のテクニック自体は管理職に効くのは気づかせる質問|指示から問いへ転換する技術で詳しく解説しています。
自社のコーチング研修が「学んで終わり」になっていないか、1on1の実態からの見直しをご検討の方は、お気軽にご相談ください。
よくある質問
対象人数と期間はどのくらいですか?
期間は3カ月が基本です。研修自体は3時間のリモート研修2回で、その間に事前インプットと職場実践を挟みます。人数は、講師が映像への個別フィードバックを一人ひとりに行うため、1クラスあたり12人程度までを目安にすることをおすすめします。人数が多い場合は、クラスを分けて並行実施する設計が現実的です。
1on1のビデオ撮影を、部下に嫌がられませんか?
運用のポイントは2つです。1つ目は、評価の対象があくまで上司側のコーチングスキル(傾聴力、質問術、目標設定、動機付けなど)であり、部下の発言内容や能力は一切評価されないことを、撮影前に部下へ明確に伝えることです。2つ目は、上司の研修の一環であるという目的を説明し、同意を得てから撮影することです。実際の運用では、上司が自分のスキルアップのために協力を求める形になるため、拒否されるケースはまれです。
プロコーチによるコーチング体験だけを、単発で実施できますか?
実施は可能で、良いコーチングの基準を体感する入口としては単発でも価値があります。ただし、コーチング体験の位置づけは「提供する側に立つ前のスタートライン」です。体験だけで終えると、イメージは持てても職場の1on1は変わらない、という従来型研修と同じ結果になりがちです。効果を求めるなら、体験の後に職場実践とフィードバックのサイクルを組み合わせることをおすすめします。
GROWモデルはすでに研修で教えましたが、定着しませんでした。何が足りないのでしょうか?
よくある原因は3つです。第一に、研修が知識の解説中心で、反復演習の時間が足りていないこと。第二に、職場のどの場面で使うかが特定されておらず、受講者が使いどころを判断できないこと。第三に、研修後のフォローがなく、時間の経過とともに自信が失われることです。本事例の設計は、この3つをそれぞれ「演習中心の研修」「30分1on1の型で使う場面を固定」「職場実践ビデオへの個別フィードバック」で埋めています。知識を足すのではなく、使う場面と振り返りの仕組みを足すのが定着の鍵です。
1on1を変える管理職コーチング研修のご相談
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