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管理職に効くのは気づかせる質問|指示から問いへ転換する技術

部下に何度説明しても動き出さない。良かれと思って始めた1on1が、いつのまにか雑談か進捗確認だけで終わってしまう。多くの管理職が、この壁に突き当たります。原因は熱意でも相性でもなく、「教える・指示する」以外の引き出しを持っていないことにあります。

その引き出しの正体が、本記事のテーマである「気づかせる質問」です。マネージャー育成フォーラム2026で、コミュニケーション研修を受けた新任管理職に「最も良い学びになったこと」を尋ねたところ、1位は他を大きく引き離して「気づかせる質問」でした。つまり現場の管理職自身が、指示や説明よりも問いのほうが効いた、と実感しているのです。

ただし「良い質問をしよう」と言われても、その中身が言語化されている職場はほとんどありません。本記事は、対話全体の進め方(GROWモデル)やコーチング研修が機能しない理由といった周辺テーマには立ち入らず、「気づかせる質問」という問いそのものの技術に絞って解説します。

データが示す、管理職に最も効いたスキルは「質問」だった

まず、なぜ質問なのかをデータで確認します。下のグラフは、コミュニケーション研修を受けた新任管理職が「最も良い学びになった」と回答したスキルの割合です。

「最も良い学びになった」コミュニケーションスキル(新任管理職)

マネージャー育成フォーラム2026 調査より。気づかせる質問が突出して1位

気づかせる質問・考えさせる技術

48%

安心して話せる雰囲気・心理的安全性

32%

巻き込み・双方向の工夫

6%

ペーシング・同調

6%

リフレーミング

6%

オンラインツール活用

5%

「気づかせる質問」が48%と、2位の「心理的安全性」(32%)以下を大きく引き離しています。さらに同じ調査で「今後いちばん活用してみたいこと」を尋ねても、新任管理職の1位は気づかせる質問(37%)、次世代リーダーの1位も質問スキル(45%)でした。学んで効いたものも、これから使いたいものも、そろって質問なのです。

ここで読み取るべきは、順位そのものより「実感と言語化のギャップ」です。これだけ多くの管理職が質問の効果を実感しているにもかかわらず、では良い質問とは具体的にどういうものか、と問われると答えに詰まります。質問は才能やセンスの問題に見えて、実は「型」で説明できる技術です。次章からは、その型を分解していきます。なお、同じ「質問」でも新任管理職と次世代リーダーでは重心が少し異なります。階層ごとの打ち手の違いは「コミュニケーション研修 階層別ナビ」で整理しています。

その質問、「気づかせ」ていますか、「言わせ」ていますか

「気づかせる質問をしよう」と意識した管理職が、最初につまずくのがここです。質問の形をとっていても、中身は自分の用意した答えへ部下を誘導しているだけ、というケースが少なくありません。「これ、普通こうするよね?」「もっと早く相談すべきだったと思わない?」——いずれも語尾は疑問形ですが、相手に考える余地はなく、実質は指示や叱責です。これを本記事では「言わせる質問」と呼びます。

両者を分ける基準はシンプルで、答えを出す主語が相手か、自分かです。あるコーチング研修で、プロコーチが管理職のセッションを評価したレポートには、効いた問いと効かなかった問いの違いが具体的に記録されていました。そのポイントを整理すると、次のようになります。

つい「言わせて」しまう質問

説明が長く、答えが混ざっている

「こういう時はAとBがあって、普通はAだと思うんだけど、どう?」前置きの中にすでに正解がある。

はい/いいえで終わる

「ちゃんと確認した?」相手は「はい」と言うしかなく、思考が止まる。

自分の答えへ誘導する

「〜すべきだったと思わない?」同意を取りに行く質問は、形を変えた指示。

「気づかせる」質問

短く区切る

「やってみて、どうだった?」短い問いほど相手の言葉が出てくる。説明したくなったら一度止める。

自由に答えられる(拡大質問)

「その時、何が起きていた?」事実や考えを相手の言葉で語ってもらう。はい/いいえで閉じない。

相手を主語にする

「何の制限もなければ、どうしたい?」答えを預けることで、視点が広がり当事者意識が生まれる。

見分ける一言:その質問の答えを、すでに自分が持っているか。持っているなら、それは質問ではなく指示です。

同じ「どう思う?」でも、用意した結論へ連れて行くために使えば言わせる質問になり、相手の考えを本当に知るために使えば気づかせる質問になります。違いは言葉づかいではなく、聞く側の姿勢です。評価レポートでも、管理職が良い問いを投げた直後に説明を足して長くしてしまい、せっかくの問いが弱まる場面が繰り返し指摘されていました。問いを投げたら、足さずに待つ。これが気づかせる質問の出発点です。

では、その「気づかせる質問」を実際にどう組み立てるのか。次章では、ひとつの問いではなく、確認・広げる・深めるという三つの動きとして分解します。

気づかせる質問の3つの動き——確認・広げる・深める

気づかせる質問は、たったひとつの「いい問い」を当てることではありません。性質の異なる三つの動きを、順番に行き来する対話です。アイディア社のコミュニケーション研修では、この流れを「確認・広げる・深める」という3ステップで教えています。順番に意味があるので、ひとつずつ見ていきます。

1

確認する|事実と現状をそろえる

いきなり解決へ進まず、まず何が起きているかを相手の言葉で共有する。ここを飛ばすと的外れな深掘りになる。

問いの例:「今、どこまで進んでる?」「事実として、何が起きた?」——聞いた内容は「〜という理解で合ってる?」と要約して返す。

2

広げる|選択肢と視点を増やす

最初の思いつきで結論を出させない。複数の案や別の視点が出るまで問い続け、考える余地を広げる。

問いの例:「ほかにどんなやり方がありそう?」「何の制約もなければ、どうしたい?」「相手の立場だと、どう見える?」

3

深める|本質と理由に降りる

相手の熱量が上がった話題を見つけたら、そこを掘る。なぜ大事なのかに触れると、当事者意識が生まれる。

問いの例:「それは、なぜ大事だと思う?」「いちばん引っかかっているのはどこ?」「実現したら、何が変わりそう?」

三つの順番には理由があります。確認を飛ばせば、現状を取り違えたまま的外れな問いを重ねることになります。広げずに深めれば、最初に口をついて出た思いつきに固執させてしまいます。確認で土台をそろえ、広げて視野を開き、深めて理由に降りる。この行き来があるからこそ、部下は誰かに教わるのではなく、自分の頭で考えを整理し、自分の言葉で答えにたどり着けます。それが「気づく」という体験の正体です。

なお、この三つの動きを、目標設定から最初の一歩の合意まで一本の対話として組み立てる進め方は「GROWモデル」として体系化されています。1on1全体の流れを設計したい場合は「1on1が変わるGROWモデル」をあわせてご覧ください。本記事では引き続き、問いそのものの精度に焦点を当てます。

確認・広げる・深めるを、管理職一人ひとりが現場で使えるレベルまで落とし込むには、解説だけでなく反復演習が欠かせません。アイディア社のコミュニケーション研修は、演習中心で「分かる」を「できる」に変えます。

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問いを成立させる土台——聞く・待つ・要約する

ここまで質問の組み立て方を見てきましたが、どれほど良い問いを用意しても、それを受け止める姿勢がなければ機能しません。コーチングが「質問と傾聴を通じて相手が自ら答えに気づくよう促す対話」と定義されるとおり、質問と傾聴はセットです。そして聞く・待つ・要約するは、バラバラの心がけではなく、ひとつの問いのやり取りの中で順番に起きるものです。下の図で、その流れを見てください。

ひとつの問いのやり取りで、3つはこの順に効く

起点:あなたが「気づかせる質問」を投げる

まず/待つ

管理職は沈黙を埋めない。先に答えを言わない。

部下:考え始める

話す間/聞く

決めつけず、最後まで受け取る。次の質問は考えない。

部下:自分の言葉で語る

話し終えたら/要約する

「つまり〜ということ?」と相手の言葉で返す。

部下:考えを客観視する

結果:部下が自分の言葉で答えにたどり着く。その答えが、次の問いの出発点になる。

ポイントは、聞く・待つ・要約するが「三つの心がけ」ではなく、ひとつのやり取りの中の間(ま)の取り方だということです。問いを投げた直後に待ち、相手が話す間は受け取り、話し終えたら返す。この間を管理職が作れるかどうかで、同じ問いが「気づき」にも「尋問」にもなります。三つを順に掘り下げます。

聞く。相手が話している間、頭の中で次の質問を組み立てていれば、それは聞いているふりでしかありません。あいづち、うなずき、視線といった反応を返しながら、相手の話を最後まで受け取ります。先入観で「どうせこういうことだろう」と決めつけた瞬間、問いは相手の現実から離れていきます。先ほどのプロコーチの評価レポートでも、あいづちや反応、要約や確認といった傾聴の姿勢があったからこそ、相手が安心して話せる場が生まれた、と記録されていました。

待つ。問いを投げたら、答えを待ちます。数秒の沈黙は気まずさではなく、相手が考えている時間です。ところが多くの管理職は、この沈黙に耐えきれず、自分で答えを言ってしまいます。それでは前の章で見た「言わせる質問」に逆戻りです。沈黙を怖がらず、必要なら「もう少し聞かせて」と促すだけで、相手の言葉は驚くほど深まります。

要約する。相手がひと通り話したら、「つまり、〜ということ?」と自分の言葉で返します。これには二つの効果があります。ひとつは、きちんと聞いていたと伝わること。もうひとつは、相手自身が、口に出した自分の考えを客観的に眺め直せることです。整理して返してもらうだけで、本人が次の気づきにたどり着く場面は少なくありません。

逆に、聞かず・待てず・受け止めない状態でいくら質問を重ねても、相手にとっては尋問にしかなりません。なお、こうしたコーチングの関わりとは別に、事実をはっきり伝えて行動を変えてもらう場面もあります。耳の痛いことを相手を傷つけずに伝える型については「部下を傷つけないネガティブフィードバック(DAPの型)」で解説しています。

とはいえ、ここまでの技術は「気づかせる質問が効く相手」が前提です。最後に、質問しても気づきが起きない場面、つまり質問が向いていないケースの見極め方を確認します。

「分かりません」が返ってきたら——質問が効く場面の見極め

ここまでの技術には、ひとつ大事な前提があります。気づかせる質問は万能ではない、ということです。良い問いを投げ、聞いて、待っても、相手から「分かりません」しか返ってこないことがあります。このとき質問を重ねるのは逆効果です。問いが効くのは、相手がすでに何かを持っている場合だけだからです。

現場のコーチングを分析した知見では、部下の状態は大きく三つに分かれ、それぞれ取るべき関わり方が変わります。気づかせる質問が効くのは、このうち真ん中の状態だけです。

① 自分では分からない(知識・経験がない)

教える(ティーチング)

サイン:質問すると沈黙、または「分かりません」。考えていないのではなく、答えの材料を持っていない。

ここで問いを重ねても出てきません。まず分かりやすく教えるのが正解です。

② なんとなく分かるが、もやもやしている

気づかせる(コーチング)

サイン:考えや材料は持っているが、整理できていない・迷っている・言葉にできていない。

気づかせる質問が最も効くのはここです。確認・広げる・深めるで、本人の中にある答えを引き出します。

③ 何をすべきか決まらず、動けない

指示する(指示出し)

サイン:締切や緊急度が高い、優先順位がつかず止まっている、判断材料が本人にない。

悠長に問うより、何を・いつまでに、を明確に指示するほうが部下のためになります。

つまり「分かりません」が続くのは、質問が下手なのではなく、相手がまだ①の状態にいるというサインです。沈黙を「考え中」と「知らない」で読み分けられるかどうかが、見極めの分かれ目になります。多くの1on1がかみ合わないのは、どの状態の相手にも質問で押し通そうとするからです。逆に、何でも先回りして教える・指示するクセがあると、②のもやもや状態の部下から考える機会を奪ってしまいます。状態を見てから関わり方を選ぶ。これが、気づかせる質問を活かす最後の条件です。

この三つの関わり(教える・気づかせる・定着させる)を管理職のスキルとしてどう体系化するかは「管理職研修で身につけるべき3つのスキル」で、コーチングを学んでも現場で機能しない理由とその設計は「管理職コーチング研修|現場で機能する5つの課題と解決策」で、それぞれ詳しく解説しています。

教える・気づかせる・指示するの使い分けは、知識として伝えるだけでは身につきません。実際のケースで繰り返し練習することで、現場の管理職が状態を見極められるようになります。管理職研修の設計でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

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よくある質問(Q&A)

コーチングとティーチング、結局どちらが正しいのですか?

どちらが正しいというものではなく、部下の状態で使い分けます。知識や経験がなく「分かりません」となる相手には教える(ティーチング)、なんとなく分かっているが整理できていない相手には気づかせる質問(コーチング)が効きます。コーチングを一言でいえば、質問と傾聴によって相手が自ら答えに気づくよう促す対話のことです。両者は対立するものではなく、相手を見て切り替えるものだと考えてください。

1on1が毎回雑談で終わってしまいます。どうすればよいですか?

雑談化の典型的な原因は、その回のゴールを最初に握っていないことです。冒頭で「今日は、どうなったら良い時間でしょう?」と目的を確認し、終わりに「次の一歩は何にしますか?」と行動を一つ決めて締めると、雑談や進捗確認だけで終わるのを防げます。やり取り全体を目標から行動まで導く進め方は「1on1が変わるGROWモデル」で解説しています。

質問しても「分かりません」しか返ってきません。

多くの場合、それは質問が下手なサインではなく、相手がまだ答えの材料を持っていないサインです。本記事で見た三つの状態のうち、最初の「自分では分からない」段階にいる可能性が高く、ここで問いを重ねても出てきません。沈黙を「考えている」と「知らない」で読み分け、知らない様子であれば、まず分かりやすく教えることが先決です。

面談に1時間も取れません。短い時間でもできますか?

できます。気づかせる質問は、まとまったセッションでなくても、日常の数分のやり取りで使えます。たとえば「やってみて、どうだった?(確認)」「ほかにやり方はありそう?(広げる)」の二問を投げて待つだけでも、こちらが答えを言って終わらせるより、相手ははるかに考えます。短く問い、答えを待つ。この二つさえ守れば、立ち話の数分でも気づきは生まれます。

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