部下との信頼関係の築き方|30年研究が示す3条件と鍛え方

「部下とは信頼関係ができている」。多くの管理職はそう考えています。ところが360度評価のデータを見ると、部下が上司に寄せる信頼は、上司本人の自己評価より平均45%低いことが分かっています。信頼されているつもりの上司と、そうは感じていない部下。このずれが、1on1を導入しても関係が深まらない職場の出発点です。
この記事では、Zenger Folkman社のJoe Folkman氏が30年以上の研究から導いた信頼の3条件「Trifecta of Trust」をもとに、部下との信頼関係を何で築き、どう鍛えるのかを解説します。結論を先に述べると、信頼は人柄ではなく行動で決まり、行動は研修で変えられます。管理職研修を設計する人事・育成担当者の方が、自社の施策に置き換えられる形でまとめました。
部下との信頼関係は、なぜ管理職育成の最優先テーマなのか
信頼関係が最優先になるのは、管理職に求められるほかの能力すべての効き目を左右する土台だからです。Folkman氏は、優れたリーダーと普通のリーダーの違いを30年以上にわたって360度評価のデータで調べ、優れたリーダーに共通する16のコンピテンシーを特定しました。そのうえで分かったのは、信頼関係が高まると16項目が自然と高まるという関係です。氏はこれを「醤油や砂糖が料理を美味しくするのと同じように、信頼関係がリーダーシップを良くする」と表現しています。
指示の出し方、目標設定、フィードバック。どれも個別に鍛えることはできますが、部下が上司を信頼していなければ、同じ言葉でも受け取られ方が変わります。スキル研修を重ねても行動が変わらない職場では、スキルの手前にある信頼が不足している可能性を先に疑う価値があります。
信頼の有無で、職場の指標はどこまで変わるのか
信頼は雰囲気の話ではなく、経営指標に表れます。経済学者のPaul Zak氏は、米国の就業者1,095名を対象に、信頼の高い職場と低い職場で働く人の状態を比較しました。この調査は、ATD人材育成国際会議2021でKenneth Nowack氏が脳科学の視点から紹介したもので、アイディア社のATD 2021の報告でも取り上げています。
信頼の高い職場は、低い職場と比べてどう違うか
Paul Zak氏の調査(就業者1,095名)。差が最も大きいのは、働く人の意欲に関わる指標
高くなる指標
低くなる指標
読み取れること:信頼の差は、まず意欲と満足度に大きく表れ、その先で生産性と定着の差になります。信頼づくりの施策は、エンゲージメント調査と定着率で成果を追うのが現実的です。
人事・育成担当者にとってこのデータが役立つのは、信頼関係の強化を「職場の雰囲気づくり」ではなく、エンゲージメント・生産性・定着という経営課題への打ち手として社内に説明できる点です。管理職研修の企画を通すとき、信頼をテーマに据える根拠になります。
信頼づくりの起点は、経営層ではなく直属の上司
では、誰の行動を変えれば信頼は高まるのでしょうか。答えは直属の上司です。Folkman氏はATD人材育成国際会議2026で、エンゲージメントの70%は直属の上司とチームの環境に左右されると報告しました。2023年の同会議でも、従業員は経営者よりも直上の上司を信頼していること、そして管理職の360度評価の結果が部下のエンゲージメントに直結し、評価の高い管理職のチームは低い層の4倍以上になることを示しています。
経営メッセージの発信や制度の整備も大切ですが、部下が毎日接しているのは目の前の上司です。全社施策よりも、管理職一人ひとりの日々の関わり方を変えるほうが、信頼には早く効きます。ただし、ここに一つ落とし穴があります。当の管理職が、自分は十分に信頼されていると考えていることです。
「信頼されている」は上司の思い込み|自己評価と部下評価の45%の差
多くの管理職は、部下との信頼関係を実際より高く見積もっています。Folkman氏の分析によると、管理職本人の自己評価に比べて、部下が上司に寄せる信頼は平均45%低いという結果でした。本人に悪気はありません。むしろ熱心に関わっているつもりの上司ほど、この差に気づきにくいのです。
信頼関係についての上司の自己評価と、部下からの評価
Joe Folkman氏(Zenger Folkman社)の360度評価データより。上司の自己評価を100としたときの相対値
上司の実感は、部下の実感の約1.8倍。管理職本人へのアンケートやヒアリングだけでは、信頼関係の実態はつかめません。
このデータが人事・育成担当者に示しているのは、測り方の問題です。研修前のニーズ調査で管理職に「部下との関係に課題はありますか」と尋ねても、多くは「特にない」と答えます。課題がないのではなく、見えていないのです。信頼を育成テーマに据えるなら、部下の側から見た評価を出発点にする必要があります。
なぜ上司は気づけないのか
気づけない理由の一つは、上司が「自分が話した量」を「部下と関わった量」と取り違えることにあります。アイディア社のコーチング研修では、受講者である管理職が職場で部下と行う実際の面談を録画して提出してもらい、講師が分析しています。そこで見えてきたのは、研修中のロールプレイでは分からない現場の姿でした。
評価に最も困るのは、50分の映像を見ても、相手に考えさせる問いかけがどこにも見当たらないケースです。上司が一方的に話し続けています。部下と向き合うと、多くの管理職は無意識のうちに説教の姿勢に入ってしまうようです。話を聞かずに決めつける、自分の経験談ばかりを語る、部下が考える前に解決策を出してしまう。こうした場面が、研修で学んだ直後の職場実践でも頻繁に起きていました。
上司の側には「50分かけて丁寧に指導した」という手応えが残ります。部下の側に残るのは「50分、話を聞いてもらえなかった」という感覚です。45%の差は、こうした日々の面談の積み重ねから生まれます。現場で起きているコーチングの課題の全体像は、コーチング研修の5つの課題と解決策で整理しています。
世代や性別のせいではない
信頼が築けない理由を、部下の属性に求める声もよく聞きます。アイディア社が研修受講者に行った調査でも、管理職手前の次世代リーダーが挙げたコミュニケーションの悩みは「Z世代・世代差」が25%で最多でした(詳しくはマネージャー育成フォーラム2026の調査データをご覧ください)。
しかしFolkman氏の研究は、別の事実を示しています。信頼について男女の差はまったく見られません。世代別では、25〜35歳の従業員のほうが60歳以上の従業員よりも高い信頼を寄せています。「若手は上司を信頼しない」という見方は、データでは裏づけられないのです。
つまり、信頼の差を生んでいるのは部下の世代や性別ではなく、上司の行動です。これは育成担当者にとって良い知らせでもあります。部下の属性は変えられませんが、上司の行動は研修で変えられるからです。
信頼関係づくりは、管理職研修の全体設計のなかに位置づけると効果が出やすくなります。目的の決め方から内容・効果測定までの全体像は、総合ガイドにまとめています。
では、上司のどの行動が信頼を決めるのでしょうか。Folkman氏はそれを3つの条件に絞り込んでいます。
Trifecta of Trustとは? 30年の研究が導いた信頼の3条件
Trifecta of Trustとは、上司への信頼を決める3つの条件「人間関係の構築」「的確な判断能力」「一貫性のある行動」を指します。Zenger Folkman社のJoe Folkman氏が、30年以上にわたる360度評価の分析から導き、ATD人材育成国際会議2023で発表しました。Trifectaは「3つがそろうこと」を意味する言葉です。
3つの条件を、Folkman氏は次のように定義しています。人間関係の構築は、幅広くいろいろな人と良い関係をつくること。的確な判断能力は、変化が早く情報が不十分な状況でも、冷静に適切な判断をすること。一貫性のある行動は、場当たり的に行動を変えず、自分の方針を持って行動することです。どれも性格の話ではなく、周囲から観察できる行動として定義されている点が重要です。観察できるものは、測れますし、鍛えられます。
3つとも「平均より少し上」で、信頼は上位2割に入る
信頼を高めるのに、どれか一つで突出する必要はありません。Zenger Folkman社が8万7,000人のリーダーの360度評価を分析したところ、3条件すべてで上位40%以内(60パーセンタイル以上)に入ったリーダーは、信頼の総合評価が上位20%の水準(80パーセンタイル)に達していました。
これは管理職育成の目標設定を変える発見です。「聞き上手の達人」や「決断力のあるカリスマ」を育てる必要はなく、3つの条件のどれにも大きな穴がない状態をつくればよいのです。研修の到達目標を、一部の優秀層の伸長ではなく、全管理職の底上げに置く根拠になります。
最も効くのは人間関係。欠けると信頼は33ポイント下がる
3条件の重みは同じではありません。同社の分析では、判断能力と一貫性が高くても人間関係が低い場合、信頼の評価は33ポイント下がりました。一貫性が低い場合の低下は17ポイントです。Folkman氏もATD 2023で、人間関係の構築が最も大切で、一貫性のある行動はほかより関係が少し薄いと説明しています。
正しい判断をし、言動がぶれない上司であっても、部下との関係が築けていなければ信頼は得られない。この順序は、管理職研修の時間配分にそのまま反映できます。
別の研究も、同じ構造を示している
3条件の妥当性は、別の研究からも確かめられます。ATD人材育成国際会議2021で、Envisia LearningのKenneth Nowack氏は、信頼が2つの側面から成ると報告しました。相手の共感性や素直さから生まれる感情的な信頼と、相手の能力や一貫性から生まれる認知的な信頼です。Folkman氏の3条件を重ねると、人間関係の構築は感情的な信頼に、判断能力と一貫性は認知的な信頼に対応します。
出発点の違う2つの研究が、同じ構造にたどり着いています。信頼は「感じの良さ」だけでも「仕事ができること」だけでも成り立たず、両方がそろって初めて生まれるということです。
Nowack氏は文化による違いにも触れており、日本は「気が合う」「分かってくれる」といった感情面を重く見る傾向があるとしています。人間関係が最も効くというFolkman氏の結果は、日本の職場ではなおさら当てはまると考えてよいでしょう。管理職研修では、人間関係をつくる行動に最も多くの練習時間を充て、判断と一貫性は日々の約束事として定着させる。この配分が、3条件の重みに沿った設計です。
では、3つの条件は具体的にどんな行動で満たせるのでしょうか。次の章で、管理職が明日から変えられる行動に落とし込みます。
3つの条件を、鍛えられる行動に落とす
3条件は、それぞれ数個の具体的な行動に分解できます。Folkman氏はATD 2023で、条件ごとに何をすればよいかを示しました。ここではその内容に、アイディア社が管理職研修の現場で使っている基準を重ねて、管理職が明日から変えられる行動として整理します。
人間関係の構築|まず「聞く」を5割以上にする
人間関係は、部下と接することから始まります。Folkman氏によると、管理職が部下のコーチング、動機づけ、協力に取り組むと関係は自然に良くなり、さらに部下からフィードバックを求めると信頼につながります。そのすべての土台になるのが聞くことです。氏のデータでは、管理職のリスニングスキルと、部下との人間関係の評価が直接結びついていました。
「よく聞きましょう」という呼びかけだけでは、行動は変わりません。必要なのは測れる基準です。アイディア社のコーチング研修では、面談で上司が話す量を5割以下に抑えることを目安にしています。ATD 2023でPaul Stabile氏も、会話では聞くことを5割以上にする、一度に20秒以上話し続けない、ほかの作業をしながら聞かない、という具体的な目安を挙げました。前の章で紹介した「50分間話し続ける上司」は、この基準に照らせば自分で気づけます。面談全体の進め方は、1on1のGROWモデルで解説しています。
聞いたあとの返し方にも型があります。プロコーチが管理職の面談を評価した際、高く評価したのは、相手の話を要約して確かめること、そして相手の考えや取り組みを具体的に認めることでした。講評には、こうした関わりが「場づくりと信頼関係の構築につながっていく」と記されています。聞き方の3ステップは管理職の問い方・聞き方で、問いの立て方は気づかせる質問の技術で詳しく扱っています。
聞くスキルへの需要は、受講者の声にも表れています。アイディア社の調査では、新任管理職がコミュニケーション研修で最も学びになったこととして、「気づかせる質問・考えさせるテクニック」が48%、「安心して話せる雰囲気づくり」が32%を占めました。管理職自身が、聞く力と問う力を必要としているのです。部下からフィードバックを求める具体的な方法は、受ける側を育てるフィードバックをご覧ください。
的確な判断能力|判断の理由を見えるようにする
判断能力を磨くポイントとして、Folkman氏は4つを挙げています。見本となること、部下と頻繁にコミュニケーションをとること、経営方針に沿って考えること、問題を予測することです。
注目したいのは、4つのうち2つが部下とのやり取りに関わる点です。信頼につながる判断能力とは、正しい結論を出す力だけではありません。その判断が部下から見えていて、納得できることまでを含みます。Stabile氏は、管理職は部下が指示の背景を理解していると誤解しがちだと指摘し、指示の行き違い1件あたり平均で約80万円・40時間の損失が生じるという研究を紹介しました。結論だけでなく、理由と背景を言葉にする。それだけで、同じ判断の受け取られ方が変わります。
一貫性のある行動|小さな約束を守る
一貫性を保つポイントも4つです。高い目標を設定して達成にこだわること、チームワークを重視すること、約束を守ること、常に改善を目指すことです。
部下が上司の一貫性を判断する材料は、方針発表のような大きな場面よりも、日々の小さな約束にあります。次回の面談で確認すると言ったことを確認する。決めた日程を動かさない。こうした行動は目立ちませんが、破られたときには確実に記憶されます。一貫性の重みは3条件のなかで相対的に小さいものの、欠ければ信頼は下がります。新しいスキルを学ぶ必要がなく、今日から実行できる条件でもあります。
信頼を削る行動と、築く行動
ここまでの内容を、管理職が自分の行動を点検できる形にまとめます。左列に心当たりがあれば、右列がその置き換え先です。
この表は、管理職研修の事前課題としても使えます。受講前に左列で当てはまるものに印をつけてもらい、研修では右列の行動を練習し、職場で試す。行動の単位まで具体化しておくと、研修後に「何が変わったか」を本人も周囲も確かめやすくなります。
聞く・問う行動を、実際の管理職研修でどう定着させたのか。面談の設計から職場実践までを事例で紹介しています。
優しい上司は信頼されるのか|信頼と心理的安全性、率直さの関係
優しいだけの上司は、信頼されません。信頼には、言いにくいことを伝える率直さが含まれるからです。人間関係が最も重要だと聞くと、部下に寄り添い、厳しいことを言わない上司を思い浮かべるかもしれません。しかし3条件に「的確な判断能力」と「一貫性のある行動」が入っていることが示すとおり、信頼は居心地の良さとは別のものです。
共感力の高い上司ほど陥る落とし穴
ATD人材育成国際会議2026で、Kenneth Nowack氏とSandra Mashihi氏は、共感力の高いリーダーほど深刻な会話を避け、評価を甘くつける傾向があると報告しました。部下の気持ちを思いやるあまり、必要な指摘を先送りにしてしまうのです。
一方で、部下の側はフィードバックを求めています。同じ報告によると、従業員の65〜72%がタイムリーなフィードバックを望んでいるのに対し、効果的なフィードバックを受けているのは5人に1人にとどまります。優しさから指摘を控える上司は、部下が最も必要としているものを渡していないことになります。
アイディア社が管理職研修の現場で見てきた課題も同じです。心理的安全性を重視するあまり率直なフィードバックができなくなる、あるいは心理的安全性を「何も決めない、部下の話をただ聞くだけ」と受け取ってしまう。その結果、面談は雑談で終わり、部下の行動は変わりません。言いにくいことを関係を壊さずに伝える型は、DAP(事実・解釈・期待)の型で解説しています。
信頼関係と心理的安全性はどう違うのか
信頼関係と心理的安全性は、よく同じ意味で使われますが、単位が違います。ATD 2023でPaul Stabile氏は、信頼関係を個人と個人のあいだのもの、心理的安全性を集団のものとして整理しました。信頼関係は「この上司を当てにできるか」という1対1の見立てであり、心理的安全性は「このチームで発言しても大丈夫か」という場の感覚です。
上司と部下の一人ひとりとのあいだに信頼があっても、会議で誰も反対意見を言わないチームはあります。逆に、チームの雰囲気が良くても、上司の判断が当てにされていないこともあります。ここに率直なフィードバックを加えた3つを、区別して整理します。
混同されやすい3つの違い
信頼関係
単位:上司と部下の1対1
問われること:この上司の関わり・判断・言動を当てにできるか
管理職の行動:聞く、判断の理由を伝える、約束を守る(本記事の3条件)
心理的安全性
単位:チーム全体
問われること:この場で疑問や反対意見を口にしても大丈夫か
管理職の行動:発言を促す問い方・聞き方、情報の共有、自己開示
率直なフィードバック
単位:個別の場面
問われること:言いにくい事実を、相手が受け取れる形で伝えられるか
管理職の行動:事実・解釈・期待を分けて伝える
読み取れること:3つは互いに支え合いますが、単位も必要な行動も異なります。一つの研修で「関係を良くする」とひとまとめにせず、別のスキルとして練習する設計が必要です。
GIFTモデル|信頼の土台の上に、発言できるチームをつくる
心理的安全性の側で管理職が何をすればよいかを示す枠組みに、GIFTモデルがあります。Great on the JobのJodi Glickman氏がATD人材育成国際会議2025で紹介したもので、氏は心理的安全性を、優しくすることとも、期待水準を下げることとも、信頼そのものとも別のものだと明確に区別しています。
GIFTは4つの行動の頭文字です。Generosity(厚情)は、時間をつくって話をよく聞き、メンバーを認めること。Initiative(自主性)は、メンバーが成長する機会を上司の側から用意し、建設的なフィードバックを伝えること。Forward momentum(促進力)は、次の行動を示して前向きな見本になること。Transparency(透明性)は、良い情報も悪い情報も共有し、自分の考えを開示することです。
並べてみると、話を聞く、理由を伝える、見本になるなど、信頼の3条件と重なる行動が多いことに気づきます。1対1の信頼を築く行動を、チーム全体に向けて広げたものがGIFTだと捉えると分かりやすいでしょう。心理的に安全な場のつくり方は、心理的に安全な場は「聞き方」でつくるで詳しく取り上げています。
Trifecta of Trustが発表されたATD人材育成国際会議2023の内容は、全72ページの報告会レポートにまとめています。信頼関係のほか、心理的安全性、AI活用、研修効果測定など22事例を収録しています。
信頼は研修で高められるのか|919人で31%から67%へ
信頼は、研修で高められます。Folkman氏によると、信頼関係が大切だと分かっていても、簡単には向上できないと思い込んでいる人は少なくありません。しかし氏の研究では、信頼の評価が低め(平均31%)だった919人の管理職に育成を行ったところ、研修後の評価は67%まで上がりました。3条件が観察できる行動として定義されているからこそ、練習によって変えられるのです。
ただし、どんな研修でも同じ結果になるわけではありません。アイディア社がマネージャー育成フォーラム2023で人事・育成担当者に尋ねたところ、98%がコーチングは管理職にとって大切だと答えた一方、実施したコーチング研修の効果が良いと答えたのは25%でした。重要だと分かっていて研修もしているのに、回答者の4人に3人は、期待した手応えを得られていません。
行動が変わる研修は、どう設計するのか
手応えが出ない研修には共通点があります。知識の解説が中心で練習の時間が足りないこと、職場のどの場面で使うのかが受講者に見えていないこと、そして研修後のフォローがないことです。信頼は部下との実際のやり取りのなかでしか築けません。研修室の中だけで完結する設計では、行動は職場まで届かないのです。
アイディア社の管理職向けコーチング研修では、次の流れで設計しています。
行動が変わる管理職研修の流れ(3カ月の例)
事前学習と体験
知識は自己学習で先に入れる。プロのコーチングを受け、良い見本を知る
演習中心の研修
1回3時間。時間の7割以上を、聞く・問う・伝える練習に充てる
職場実践
実際の部下との面談で試し、その様子を録画する
個別フィードバック
講師が映像を見て講評する。本人も自分の面談を見直す
STEP 2〜4を2回まわします。1回目の実践で見つかった課題を、2回目の研修で練習し直すためです。
この流れの核心は、STEP 3の録画とSTEP 4の振り返りにあります。前半で見たとおり、管理職は自分の関わり方を実際より高く見積もっています。自分が50分のうち何分話していたかを映像で確かめることは、45%の差を本人が自分の目で知る機会になります。講師からの指摘よりも、自分の映像のほうが行動を変える力を持つことは少なくありません。
STEP 1でプロのコーチングを受けてもらうのにも理由があります。多くの管理職は、良い聞き方をされた経験がありません。聞いてもらうことで自分の考えが整理され、相手への信頼が生まれる。その感覚を知らないまま技術だけを学んでも、何を目指せばよいのかが分からないからです。
誰から、どの順番で始めるのか
全管理職に一斉に展開するよりも、始める相手と順番を選ぶほうがうまく進みます。アイディア社がマネージャー育成フォーラム2023で紹介した、上司と部下の信頼構築の進め方のヒントのうち、順番に関わるものが2つあります。
一つ目は、関係の良い相手から始めることです。関係がこじれた相手との「マイナスからゼロ」よりも、すでに良い関係にある相手との「プラスをさらにプラスへ」のほうが、スムーズに進みます。まず成功体験をつくり、聞く・問う・伝える行動に慣れてから、難しい相手に広げます。二つ目は、上位層から順に展開することです。部長が課長との関係で先に実践し、その経験を持って課長が部下と向き合う。上司自身が体験していない関わり方を、部下に対してだけ実行するのは難しいからです。
この進め方を実行した例を紹介します。上司と部下が互いの行動について記名で伝え合う手法を取り入れた、ある企業の営業本部の事例です。
この事例で使われた記名式のフィードバックは、従来の匿名の360度評価では行動が変わりにくいという問題意識から生まれたものです。たとえば3人から「指示が多い」、7人から「指示が少ない」と匿名で言われても、上司はどう変えればよいか分からず、結局何も変えません。誰が何を求めているのかが分かって初めて、行動に移せます。手法の詳細はマネージャー育成フォーラム2023のレポートで紹介しています。
信頼づくりを育成テーマに据えるときは、研修の中身だけでなく、誰から始めてどう広げるかまでを設計に含めてください。順番を誤らなければ、信頼は組織のなかを上から下へ伝わっていきます。
部下との信頼関係づくりに関するよくある質問
Q1. 部下との信頼関係を築くために、最初に何をすればよいですか?
最初に取り組むのは、面談で聞く時間を5割以上にすることです。信頼の3条件のうち最も影響が大きいのは人間関係の構築で、その土台が聞くことだからです。一度に20秒以上話し続けない、相手の話を要約して確かめる、という2点から始めると、自分の話す量に気づけます。
Q2. 信頼関係と心理的安全性はどう違いますか?
信頼関係は上司と部下の1対1のあいだのもので、心理的安全性はチーム全体の場の感覚です。信頼関係は「この上司を当てにできるか」、心理的安全性は「このチームで発言しても大丈夫か」を指します。互いに支え合いますが、必要な行動が異なるため、別のスキルとして練習します。
Q3. 部下との信頼関係は、どうやって測ればよいですか?
部下の側から見た評価で測ります。管理職本人の自己評価は、部下からの評価より平均45%高いというデータがあり、本人へのアンケートでは実態がつかめないためです。360度評価を使うほか、上司が部下に「増やしてほしい行動、減らしてほしい行動」を直接尋ねる方法があります。
Q4. 世代の違う部下とは、信頼関係を築きにくいのでしょうか?
データ上は、世代の違いが信頼を妨げるとは言えません。Joe Folkman氏の研究では、信頼に男女差は見られず、25〜35歳の従業員は60歳以上の従業員よりも高い信頼を寄せていました。信頼の差を生むのは部下の属性ではなく、上司の行動です。
Q5. 信頼関係は、研修で本当に高まりますか?
高まります。Folkman氏の研究では、信頼の評価が平均31%だった919人の管理職が、育成の後に67%まで上がりました。ただし知識を学ぶだけでは変わりません。演習中心の研修、職場での実践、映像などを使った振り返りを組み合わせることが条件です。
まとめ|信頼は人柄ではなく、鍛えられる行動
部下との信頼関係は、人間関係の構築、的確な判断能力、一貫性のある行動という3つの条件で決まります。どれも観察できる行動であり、3つとも平均より少し上にそろえれば、信頼は大きく高まります。最初の一歩は、面談で聞く時間を増やすことです。
管理職本人は、自分が信頼されていると考えがちです。だからこそ、部下の側から測り、実際の面談を振り返る機会を、研修の設計に組み込む必要があります。信頼を育成テーマに据えることは、エンゲージメントと定着という経営課題に、管理職一人ひとりの行動から取り組むことでもあります。
部下との信頼関係づくりを、管理職研修に組み込みませんか
アイディア社の管理職研修は、聞く・問う・伝える行動を演習と職場実践で定着させ、研修期間中に行動の変化を確かめる設計です。自社の管理職の課題に合わせたプログラムをご提案します。まずはお気軽にご相談ください。
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