広げる質問・深める質問の使い分け|管理職になる前に鍛える対話の技術

「次世代リーダー研修の中身が、結局は新任管理職研修の流用になっている」。管理職手前の若手・中堅社員の育成を担当する人事の方から、よく聞く悩みです。この階層に本当に刺さるスキルは何なのか、確かな根拠を持って選べているでしょうか。
アイディア社が2026年6月開催のマネージャー育成フォーラムで公開した受講者調査では、管理職になる手前の若手・中堅社員がコミュニケーション研修で「最も良い学びになったこと」の1位は「広げる・深める質問」(30%)でした。さらに「今後活用してみたいこと」では「質問スキル」が45%と、2位以下を大きく引き離しています。本記事では、この調査データを起点に、広げる質問・深める質問とは何か、どう使い分けるのか、そして部下がいない階層でどう練習させるのかを解説します。
調査データが示す「管理職手前に一番刺さるスキル」
まず、データから見ていきます。アイディア社はマネージャー育成フォーラム2026で、コミュニケーション研修の受講者を「新任管理職」と「次世代リーダー(管理職手前)」に分けた調査結果を公開しました(調査全体の解説はセミナーレポートにまとめています)。このうち管理職手前の層が「最も良い学びになったこと」として挙げた項目は、次のとおりです。
コミュニケーション研修で「最も良い学びになったこと」(次世代リーダー・管理職手前)
出典:マネージャー育成フォーラム2026 受講者調査(アイディア社)
ポイント:質問スキルが、巻き込みや心理的安全性といった定番テーマを抑えて1位。管理職手前の層には「問いの技術」が最も強く刺さっている。
この結果から人事担当者が読み取るべきなのは、管理職手前の層に研修を企画するなら、質問スキルを中核に据えると受講者の手応えを得やすい、ということです。しかも同じ調査の「今後活用してみたいこと」では、質問スキル(広げる/深める/本音を引き出す)が45%と、2位の雰囲気づくり(25%)の1.8倍に達しています。学んで良かったで終わらず、現場で使いたいという意欲が最も高いのも質問スキルでした。研修は受講後に使われて初めて投資が回収されます。「刺さる」と「使われる」の両方で1位のテーマは、プレ層向け研修の設計において最も外れにくい中核だと言えます。
アイディア社のコミュニケーション研修は、質問スキルを含む対話の技術を「分かる」から「できる」に変える実践型プログラムです。
なぜ「気づかせる質問」ではなく「広げる・深める質問」なのか
同じ調査で新任管理職を見ると、順位がまったく違います。新任管理職の「最も良い学び」の1位は「気づかせる質問・考えさせるテクニック」で48%、「今後活用したいこと」でも37%で1位です。つまり質問スキルが刺さるのは両階層に共通ですが、刺さる質問の種類が階層で異なるのです。気づかせる質問の技術そのものは管理職向けの解説記事に譲り、ここでは「なぜ管理職手前では広げる・深めるなのか」を考えます。
理由は、置かれた環境の違いにあります。次世代リーダーは、部下を持たないまま、数年先には「相談する先輩のいない立場」で、異なる暗黙知を持つメンバーを率いる役割へ向かう層です。現役管理職のように共有された暗黙知や指導場面を前提にできないため、まず必要になるのは、相手に気づかせて行動を変えさせる高度な問いではなく、考えや情報を引き出して対話の幅と解像度を上げる基礎の問いです。実際、同調査で管理職手前の層が挙げたコミュニケーションの悩みは、Z世代・世代差(25%)、個別対応・さじ加減(25%)、説明・傾聴・フィードバックなど伝え方の質(20%)が上位でした。価値観の異なる相手・個別対応が必要な相手を前にしたとき、共通して効くのが「相手から引き出す」質問です。
人事担当者にとってのポイントは、次世代リーダー研修を新任管理職研修の流用で済ませると、この違いを取りこぼすということです。気づかせる質問は「相手が答えを持っている」前提で機能する応用技術であり、部下を持たないプレ層には練習の土俵がありません。一方、広げる・深める質問は、上司・他部署・顧客など今日の相手にそのまま使える基礎技術です。だからこそ、この層の学びの実感(30%)と活用意欲(45%)の両方で1位になっていると考えられます。管理職手前の育成全体をどう段階設計するかは、管理職になる前の4段パイプラインもあわせてご覧ください。
広げる質問と深める質問──2つの機能と代表フレーズ
では、広げる質問・深める質問とはそれぞれ何をする問いなのでしょうか。アイディア社の研修では、コーチング型の対話の目的を「相手に考えさせる・理解を深める・頭を整理させる」と定義しています。この目的に対して、2つの質問は役割を分担しています。広げる質問は相手の考えを「横」に増やす問い、深める質問は出てきた答えを「縦」に掘る問いです。
広げる質問|選択肢と視点を横に増やす
話がひとつの答えに閉じる前に、別の観点や他の可能性を相手に出させる問い。会議で意見が偏っているとき、相手の話が一面的なとき、アイデアを集めたいときに使います。
代表フレーズ:「他にはありますか」「別の見方をするとどうでしょう」「たとえばどんな場面がありますか」
深める質問|理由と具体を縦に掘る
出てきた答えの解像度を上げ、背景・理由・本音に近づく問い。報告が抽象的なとき、原因がぼやけているとき、相手の考えの根拠を確かめたいときに使います。
代表フレーズ:「具体的には何がありましたか」「なぜそう考えたのですか」「そのとき何が起きていましたか」
使い分けの判断軸はシンプルです。相手の答えの「量」が足りなければ広げる、「解像度」が足りなければ深める。たとえば後輩との面談で「特に困っていません」と返ってきたら、いきなり掘っても出てきません。まず「仕事以外でも、チームのことでも構いませんよ」と広げて材料を出させ、出てきたものの中から「それ、具体的にはどういう場面ですか」と深める。この往復ができると、対話の主導権を握らずに相手から引き出せるようになります。管理職手前の層が悩みの上位に挙げた「世代差」「個別対応」は、まさに自分の前提が通じない相手との対話です。前提が通じないからこそ、決めつけずに広げ、確かめるために深める。この2つが基礎体力になります。
使い分けの型は「確認→広げる→深める」
広げると深めるは、思いつきで繰り出すものではなく、順番があります。アイディア社が管理職手前の層向けに実施しているスキル研修では、コーチングパートを「確認」→「広げる」→「深める」の順で構成しています。実際のタイムテーブルでも、確認の演習から始めて30分後に広げる、さらに30分後に深めるへと段階的に進みます。順番に意味があるからです。
質問を進める3段階(アイディア社のプレ層向けスキル研修の構成)
確認
事実と認識を揃え、話の土台をつくる
広げる
選択肢と視点を出させ、材料を増やす
深める
出てきた材料を掘り、解像度を上げる
この順番が守れないと、質問はむしろ対話を壊します。確認を飛ばせば、認識のずれたまま話が進みます。広げる前に深めれば、材料が1つしかない状態で掘ることになり、相手は詰問されているように感じます。だからこそ、確認で土台を揃え、広げて材料を増やし、選んで深める。この流れ自体が、面談や会議の設計図になります。
あわせて、実際の研修で講師が受講者に指摘する失敗パターンも知っておくと役立ちます。アイディア社のマネジメントシミュレーションの個人レポートには、質問に対してこんな講師コメントが残っています。「主観を入れず、質問を短く、相手に考えてもらうようにすると尚良い」。つまりよくあるつまずきは、質問が長い・自分の主観や誘導が混ざる・相手が考える前に自分が話してしまうの3つです。広げる・深めるのフレーズは短いほど機能します。「他には?」「具体的には?」で十分です。短く問うて、沈黙を待つ。ここまでを含めて型だと捉えてください。
確認→広げる→深めるの型は、アイディア社の若手・次世代リーダー研修でロールプレイを通じて練習できます。
部下がいないプレ層はどう練習するか──研修への落とし込み
最後に、人事担当者が最も悩む点です。管理職手前の層は部下がいないため、コーチング的な質問を普段の業務の中で自然に練習する機会がありません。学んでも使う場がなければ、管理職になる頃には忘れてしまいます。だからこの層の質問スキル研修は、練習機会を研修の中に意図的につくり込む設計が必須になります。ポイントは3つです。
1つ目は、ロールプレイとシミュレーションを研修の中心に置くことです。講義で型を理解させるのは短時間で済ませ、時間の大半を「実際に問う」演習に使います。アイディア社のマネジメントシミュレーションでは、指示出し・コーチング・動機づけ・プレゼンテーションの場面を講師相手に演じ、質問や確認の質まで個別に評価します(設計の詳細は管理職アセスメントの解説記事をご覧ください)。
2つ目は、個別フィードバックをセットにすることです。質問スキルの上達は、自分の問いがどう聞こえたかを他者から指摘されて初めて進みます。前のセクションで紹介した「主観を入れず、質問を短く」という講師コメントのように、一人ひとりの問い方の癖に対する具体的な指摘があると、受講者は次の練習で直すべき点が明確になります。集合研修だけで終わらせず、演習への講師コメントや個別コーチングを組み込んでください。
3つ目は、部下以外の実践相手を職場に設定することです。広げる・深める質問は、部下がいなくても使えます。後輩への指導、他部署へのヒアリング、上司との認識合わせ、顧客への要件確認。研修の最後に「誰に・どの場面で使うか」を決めさせ、上司を巻き込んで実践機会を確保すれば、プレ層でも研修期間中に行動変容まで到達できます。同じ発想でプレ層に「任せ方」を先に練習させる設計は、別記事で解説しています。
問いの設計を研修に落とし込み、1on1の質を変えた企業の実例を公開しています。
よくある質問
Q. 広げる質問と深める質問は、どちらを先に使うべきですか?
A. 原則は「確認→広げる→深める」の順です。まず確認で事実と認識を揃え、広げる質問で選択肢や視点を増やし、出てきた材料の中から深める質問で掘ります。材料が1つしかない段階で深めると詰問になりやすいため、相手の答えの量が少ないうちは広げるを優先してください。
Q. 傾聴と質問スキルはどう関係しますか?
A. 質問と傾聴は一体で機能します。短く問うて、相手が考える沈黙を待ち、答えを最後まで聞く。この聞く姿勢がないと、広げる・深める質問も誘導や詰問に変わってしまいます。質問を短くすることは、その分だけ相手が話す時間を増やすことでもあります。
Q. 質問スキルの研修は何年目の社員に実施するのが効果的ですか?
A. 広げる・深める質問は上司・他部署・顧客との対話にも使える基礎技術のため、早く学んで損はありません。ただしアイディア社の調査で「最も良い学び」1位(30%)・活用意向1位(45%)となったのは管理職になる手前の若手・中堅社員でした。リーダー役割を意識し始め、かつ日常業務で使う場面が急増するこの時期が、最も投資対効果の高いタイミングです。
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アイディア社は、調査データに基づいて階層ごとに刺さるスキルを見極め、ロールプレイと個別フィードバックで「分かる」を「できる」に変える研修を設計しています。次世代リーダーの質問スキル強化について、貴社の状況に合わせてご提案します。
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