集合研修・eラーニング・Myラーニングジャーニーの使い分け|3方式比較で研修投資を決める3つの質問

来期の研修計画を組むとき、「eラーニングの比率をどこまで上げるか」「集合研修は何を残すか」という議論から入っていないでしょうか。多くの人材育成チームが手元に持っているのは、次のような年間レビューの数字です。実施した研修83件、延べ受講者2,318人、研修形態の内訳は対面研修12%・リモート研修53%・eラーニング35%、受講者一人あたりの費用98,000円(従業員4,500名規模の企業を想定した例)。集計としては正しいのですが、この数字をどれだけ眺めても「来期、どの内容にどの方式で投資すべきか」は決まりません。比率は投資判断の結果であって、判断の材料ではないからです。
この記事では、研修の実施形態を集合研修・自己学習(eラーニング/オンデマンド)・Myラーニングジャーニーの3方式に整理し、「どれが優れているか」ではなく「どの軸で評価が逆転するか」を比較します。3方式は成果の出やすさ、個別ニーズへの対応、受講者に求めるモチベーションの3つの軸で評価が入れ替わるため、1つの方式に寄せるほど、得意な軸で勝って不得意な軸で負ける構図になります。
そのうえで、研修テーマごとに「成果が要るか、知っていれば良いか」「受講者のニーズはそろっているか、ばらついているか」「本人任せで走れるか」という3つの質問に答えるだけで、方式と投資配分が決まる判断フローをご紹介します。アイディア社が自社の研修設計で実際に使っている比較表と、スペインの損害保険会社MAPFREのように「業界常識と逆の比率」で成果を出した海外事例、国内の人事担当者へのヒアリング結果を根拠にしていますので、来期の研修計画の議論にそのまま持ち込んでいただけます。
「eラーニングは何%が適切か」は、なぜ答えにならないのか
結論から言えば、研修形態の比率は「どの内容にどの方式を割り当てたか」の結果として後から決まるものであり、比率を先に決めても成果にはつながりません。冒頭の年間レビュー例では、eラーニングが35%、リモート研修が53%、対面研修が12%でした。この内訳を見て「eラーニングを50%に増やせば効率が上がる」と考えるのは自然ですが、その判断には「どの研修テーマがeラーニングに向いていて、どのテーマが向いていないか」という視点が抜けています。比率を動かす前に、テーマごとの割り当てが先です。
比率が目標にならないことを示す海外事例があります。スペインの損害保険会社MAPFREは、46カ国・3万5,000人の社員を抱え、15年間で海外売上比率を25%から67%へ伸ばした企業です。人材育成の規模も大きく、年間延べ20万人が受講し、社員1人あたりの年間受講時間は40時間、教育予算は15億円(当時、前年比20%増)でした。注目すべきは、その内訳です。2013年のATD国際会議で同社が公開した研修形態の比率は、eラーニング25%に対して集合研修75%。人材育成業界がeラーニング化へ進んでいた時期に、同社は集合研修を主軸に据えたまま、グローバル展開を成功させています。
MAPFREの研修形態の内訳(2013年・ATD国際会議での発表より)
業界がeラーニング化へ進む中、集合研修に4分の3を配分したままグローバル展開を実現した
読み方:同社は「価値観→3つの戦略コンピテンシー→望ましい行動→研修→評価」を一貫させ、4大陸から受講者を集めて混ぜる集合研修を設計の中心に置きました。研修中に出た提案の85%が承認を得て実行されています。
この事例から読み取るべきなのは「集合研修が正しい」ということではなく、比率は設計思想の結果として現れるという点です。MAPFREは「価値観の共有」と「4大陸の社員が信頼関係をつくる」ことを研修の目的に置いていたため、人を集めて混ぜる集合研修が主軸になり、結果として75%という数字になりました。もし同社の目的が「全社員への制度周知」であれば、同じ会社でもeラーニングが大半を占めていたはずです。逆に、日本企業の年間レビューでeラーニングが35%だったとしても、それが知識系の必須研修に集中しているなら妥当ですし、ヒューマンスキル研修まで置き換えているなら成果が出ていない可能性が高いと言えます。
したがって、来期の計画で最初に決めるべきは比率ではなく「このテーマは、どの方式に向いているか」です。パンデミックを境にリモート研修とオンデマンドが急速に広がった経緯と、その中で見えてきた形態ごとの向き不向きの背景については、リモート研修とブレンドラーニングのトレンドで整理しています。本記事では、その向き不向きを判断する軸そのものを、次の比較表から見ていきます。
集合研修・自己学習・Myラーニングジャーニーの3方式比較表
研修の実施形態は、対面かリモートかという「場所」ではなく、「学び方の構造」で分けると投資判断に使えます。アイディア社では、集合研修・自己学習・Myラーニングジャーニーの3方式に整理しています。集合研修は、受講者を同じ時間に集めて同じ内容を学ぶ方式で、対面でもリモートでも構造は同じです。自己学習は、eラーニングやオンデマンド教材を受講者が自分のタイミングで進める方式です。Myラーニングジャーニーは、共通のインプット教材を使いながら、アウトプット演習・職場実践・個別コーチングを受講者ごとの職場ニーズに合わせて組む方式で、数カ月のシリーズとして設計します(設計の実践ポイントはMyラーニングジャーニーの5つの実践ポイントにまとめています)。
3方式を「成果」「個別ニーズへの対応」「必要なモチベーション」「適している内容」の軸で並べると、評価が軸ごとに入れ替わることが分かります。どれか1つが全軸で勝つことはありません。
横方向に読むと、3つの逆転が見えてきます。第一に、成果の軸では自己学習が最も弱く、Myラーニングジャーニーが最も強い。第二に、モチベーションの軸ではその順位が入れ替わり、集合研修が最も強く、自己学習が最も弱い。第三に、個別ニーズの軸では集合研修が最も弱くなります。つまり、自社の研修を「成果が出ていない」と感じているなら自己学習への依存を、「受講者の温度差が大きい」と感じているなら集合研修への依存を、それぞれ疑う必要があります。
この表は「どの方式を選ぶか」の答えそのものではなく、「自社の研修テーマを、どの軸で評価すべきか」を示す地図として使ってください。次の3つの章では、成果・個別ニーズ・モチベーションの各軸を、研修テーマに当てはめるための質問の形に置き換えていきます。
質問1:成果が要るのか、知っていれば良いのか|研修内容の3分類で主方式が決まる
最初の質問は「この研修テーマは、受講後に職場での行動が変わる必要があるか。それとも、知っていれば足りるか」です。答えが「知っていれば良い」なら自己学習が主方式になり、「行動を変えて成果を出す」なら集合研修かMyラーニングジャーニーが主方式になります。比較表の「成果」の軸で自己学習が×になっているのは、自己学習が劣っているからではなく、そもそも成果を目的にした方式ではないからです。
この判断は、国内の人事担当者の実感とも一致しています。アイディア社が2021年6月から7月にかけて顧客企業の人材育成担当者にヒアリングしたところ、98%の企業が研修の半分以上をリモートで実施しており、「知識系の研修はリモートで十分」「知識系はリモート研修からオンデマンドへ切り替えたい」という声が経営層からも増えていました。一方で、ヒューマンスキル、技術教育の実技、受講者同士の交流が大切な階層別研修については「集合研修が良い」という意見が明確でした。担当者は、内容の種類によって方式を分けるべきだと、経験から気づいていたということです。
この「内容の種類」を整理すると、知識系・スキル系・マインド系の3分類になります。知識系は「知っていれば良い」内容、スキル系は「練習しないとできるようにならない」内容、マインド系は「分かっていても不安で職場で使えない」内容です。成果までの距離は知識系が最も短く、マインド系が最も長くなります。アイディア社が研修設計で使っている分類別の組み立てを、次の図にまとめました。
この図で読者の皆さまに持ち帰っていただきたいのは、3分類とも「自己学習をインプットに使う」点は共通で、違うのは投資の重心をどこに置くかだということです。知識系はインプットの効率化に、スキル系は演習の量に、マインド系は職場実践とコーチングに投資します。年間の研修一覧を3分類に仕分けするだけで、「このテーマはeラーニングに置き換えてよい」「このテーマは置き換えると成果が消える」が線引きできます。
成果を目的に置いた設計がどれだけ効くかは、Promote International社が7つの業界・7社・受講者616人・上司441人を対象に6〜12カ月のプログラムで検証したデータが示しています。講師による研修を3〜4回に分け、自己学習・職場実践・上司の関与を組み合わせたプログラムでは、研修後に81%の受講者が仕事上で成果を得たと答え、9%が実施中、実施も成果もなしは10%でした。修了1年後に再調査すると、70%が長期的な成果を維持し、短期で成果が消えたのは3%にとどまっています。知識系の設計でこの数字は出ません。成果が要るテーマは、成果が出る方式に投資する必要があります。このような数カ月のシリーズを組む具体的な手順は、ブレンデッドラーニングの設計ガイドで9週間の設計図とチェックリストとして公開しています。
自社の研修一覧を知識系・スキル系・マインド系に仕分けし、どのテーマをeラーニングに置き換えてよいかを一緒に線引きしたい方は、お気軽にご相談ください。人材育成担当者向けの無料オンデマンド研修では、研修企画から効果測定までの体系を自己学習方式で体験いただけます。
質問2:受講者のニーズはそろっているのか、ばらついているのか
2つ目の質問は「この研修テーマについて、受講者が必要としている内容と現在の実力は、どれくらいそろっているか」です。全員が同じ内容をゼロから学ぶなら集合研修が最も効率的で、一人ひとりの職種や所属で応用の仕方が違うならMyラーニングジャーニーが適しています。自己学習はその中間で、汎用的な教材の中から各自が必要な部分を選べる一方、教材そのものは個別化されません。比較表の「個別ニーズの対応」の軸で集合研修が×、Myラーニングジャーニーが◯になっているのは、この違いです。
ばらつきを見極める基準は、受講者を3人思い浮かべたとき「3人に同じ説明をして、3人とも同じ行動を取れば成果になるか」です。新入社員のビジネスマナーや全社のコンプライアンスは、答えが「はい」になる代表例です。管理職のコーチングや外国籍メンバーのマネジメントは、同じ説明をしても使う場面・相手・難易度が3人とも違うため、答えは「いいえ」になります。ばらつきの大きさに応じた方式の割り当てを、3段階に整理しました。
ニーズのばらつきと、研修の「共通部分」「個別部分」の割合
ばらつきが大きいほど個別部分が広がり、主方式が移る(幅は構造を示すイメージで、実測値ではありません)
ばらつき 小|全員が同じインプット・同じ演習・同じ行動
→ 集合研修
ばらつき 中|知識の土台に差があるが、必要な演習は共通
→ 自己学習+集合研修
ばらつき 大|職種・所属・相手によって応用の仕方が違う
→ Myラーニングジャーニー
見極めの一問:受講者を3人思い浮かべて「同じ説明をして、3人とも同じ行動を取れば成果になるか」。はい=小(例:新入社員のビジネスマナー基本、全社の制度周知)/土台だけ差がある=中(例:管理職研修の事前インプット)/使う場面も相手も違う=大(例:外国籍メンバーを持つ管理職、部門ごとに課題が違う次世代リーダー)
3段階に分けて見えてくるのは、ばらつきの大きさは「テーマ」ではなく「受講者の集め方」でも変わるという点です。同じコーチング研修でも、新任管理職だけを対象にすれば土台はそろい(中程度)、部長から係長までを混ぜれば応用の仕方は大きくばらつきます(大)。受講者を絞ればばらつきは小さくなり、安い方式で済みます。逆に、ばらつきの大きい集団に集合研修を1回行うのが、最も費用対効果の低い投資です。
「ばらつきが大きいならMyラーニングジャーニー」と聞くと、手間と費用がかかる印象を持たれるかもしれません。実際の時間配分を見ると、その印象は変わります。アイディア社が外国籍メンバーを持つ日本人マネージャー向けに設計した12週間のプログラムでは、毎週の構成は自己学習と20分の理解度確認、そして受講者2人に講師1人がつく55分の個別演習です。3つのステージの始まりだけ、半日のセミナーで大人数の土台づくりを行います。インプットはマイクロラーニングで効率化し、人の時間は「一人ひとりの演習にフィードバックする55分」に集中させる。これがMyラーニングジャーニーの投資の置き方で、受講者の拘束時間は集合研修の数日間より少なくなります。この方式を自社で組む際の5つの実践ポイントは、Myラーニングジャーニーの解説記事をご覧ください。
管理職研修の事前インプットをオンデマンドにした理由も同じです。半日×2回の部下育成研修を設計した際、マネージャーの知識ベースにばらつきがあり、研修時間も限られていたため、インプットを事前のオンデマンドで効率よく済ませ、3時間のリモート研修をロールプレイとディスカッションに充てました。ばらつきが「中程度」のテーマでは、自己学習は集合研修の代替ではなく、集合研修を演習中心にするための前処理として機能します。
質問3:本人任せで走れるのか|受講者のモチベーションで方式の下限が決まる
3つ目の質問は「この研修テーマについて、受講者は本人任せでも最後まで学び、職場で試すだろうか」です。答えが「いいえ」なら、自己学習は主方式に置けません。比較表の「必要なモチベーション」の軸で、集合研修が◯、Myラーニングジャーニーが△、自己学習が×になっている理由はここにあります。集合研修は周囲のプレッシャーで学習が進み、Myラーニングジャーニーは講師と上司の支援で進みますが、自己学習だけは受講者の意欲以外に進める力がありません。つまりモチベーションの見立ては、方式の「上限」ではなく「下限」を決めます。
自己学習が止まる理由は、受講者の怠慢ではなく構造にあります。アイディア社がオンデマンド研修の課題として整理しているのは、品質にムラがある、内容が自分のニーズに合わず何を学べばよいか分からない、インプットだけで終わる、何がどこにあるか分からない、行動変容につながらない、の5つです。このうち「何を学べばよいか分からない」と「インプットだけで終わる」は、どれほど意欲の高い受講者でも、仕組みがなければ止まります。逆に言えば、この2点を補う仕組みを足せば、自己学習が主方式として成立する範囲は広がります。
受講者のモチベーションの見立てと、成立する方式の下限
「本人任せで走れるか」の答えで、どこまで自己学習に寄せられるかが決まる
本人任せでは止まる → 下限は集合研修
同じ時間・同じ場に集めて、周囲の圧力と講師の進行で学習を前に進める。自己学習は事前課題の範囲に限る
支援があれば走る → 下限はMyラーニングジャーニー
自己学習を主軸にしつつ、講師のコーチングと上司の関与で止まらない仕組みを足す
本人任せで走る → 自己学習が成立
ニーズ調査と知識クイズで「何を学ぶか」を決め、10分の面談で道筋を一緒に決めれば、人の関与は最小で済む
この図で注目していただきたいのは、右端の「高」であっても、人の関与がゼロにはならない点です。アイディア社が個別のラーニングパスを組む際に勧めているのは、簡単なアンケートによるニーズ調査、数問の知識クイズ、そして人材育成担当者が10分のビデオ会議でラーニングパスを一緒に考える「コンテンツコンシェルジュ」の3点です。必須ではありませんが、担当者がこの10分だけ関わると受講者の動機付けが一気に上がります。自己学習方式の投資は教材費ではなく、この10分のような「止まらない仕組み」に置くと効率が良くなります。
もう一つ、モチベーションの見立てで誤りやすいのが世代の思い込みです。「若手はデジタルに慣れているからeラーニングで十分」という前提は、データと合いません。DDI社のGlobal Leadership Forecast 2021によると、対面での学習を好むリーダーの割合はミレニアル世代で67%、X世代・ベビーブーマー世代で58%と、若い世代の方が高くなっています。理由の一つは、インプットだけでなく受講者同士の交流を求めているからで、同じ調査では「一緒に研修を受けた人と価値あるつながりができた」に「まさにその通り」と答えた人が55%、「ややその通り」が29%でした。本人任せで走れるかどうかは、世代ではなく、テーマへの関心と職場で使う必然性で見立てる必要があります。
なお、自己学習で起きる5つの課題それぞれへの対処(品質の選別、個別ラーニングパス、アウトプットの機会、迷わないプラットフォーム、教育からマニュアルへの位置づけ変更)は、オンデマンド研修の落とし穴を解説した記事で詳しく扱っています。本記事では、その課題が「方式の下限」を決めるという判断への使い方に絞りました。
3つの質問で投資配分を決める判断フロー
ここまでの3つの質問を、来期の研修一覧に順番に当てていくと、テーマごとの方式が決まり、最後に集計すれば形態の比率が自然に出ます。順番が大切で、最初に「成果が要るか」で主方式の候補を絞り、次に「ばらつき」で個別化の度合いを決め、最後に「モチベーション」で下限を確認します。逆の順番、たとえばモチベーションから考えると「受講者の意欲が低いからとりあえず集めよう」という判断になり、成果が要らない知識系のテーマまで集合研修になってしまいます。
研修テーマごとに方式を決める4ステップ
3分類に仕分ける
来期の研修一覧を
知識・スキル・マインドの
3系統に分ける
またがるテーマは分割
成果が要るか
知っていれば良い → 自己学習
行動を変える → 集合研修か
Myラーニングジャーニー
ニーズはばらつくか
そろっている → 集合研修
土台だけ差 → 自己学習で前処理
応用が違う → Myラーニング
ジャーニー
本人任せで走るか
走らない → 下限を引き上げる
(集合研修か
Myラーニングジャーニー)
走る → 止まらない仕組みを
足して確定
配分の出し方:全テーマの方式が決まったら、受講者数×時間で集計する。それが来期の「集合:自己学習:Myラーニングジャーニー」の比率で、先に決める数字ではありません。
フローを3つのテーマに当てると、次のようになります。新入社員のビジネスマナー基本は、成果が要る(行動を変える)・ニーズはそろっている・本人任せでは走りにくい、の3点から集合研修が主方式になります。ただし「名刺の渡し方」のような知識部分だけを切り出せば、そこは入社直後の自己学習に回せます。全社の情報セキュリティ研修は、知っていれば良い・そろっている・受講は義務なので本人任せでも完了する、の3点から自己学習です。管理職のコーチング研修は、行動を変える・使う場面が人によって違う・本人任せでは職場で試さない、の3点からMyラーニングジャーニーになり、事前インプットだけ自己学習に置きます。
この3例を集計すると、受講者数の多い新入社員研修と全社研修が比率の大半を占め、Myラーニングジャーニーは人数が少ない代わりに1人あたりの投資が最も大きくなります。経営層に「eラーニングの比率が低い」と言われたときは、この集計表をそのまま見せてください。どのテーマを自己学習に置き換えると成果が消えるかが、テーマ単位で説明できます。
なお、この判断フローは「どのテーマを研修するか」が決まった後に使うものです。テーマそのものの優先順位を付けるには、現在地の診断から対象と深さを決める研修プログラムの選び方を、研修の目的(コンプライアンスから企業戦略の実現まで)ごとに適した形態を整理するには研修計画の立て方を、それぞれ先にご覧ください。本記事のフローは、その後の「方式と配分」の工程を担います。
来期の研修一覧に3つの質問を当てた結果を、第三者の目で確認したい方はご相談ください。テーマ単位で「置き換えてよい」「置き換えると成果が消える」を一緒に線引きし、経営層への説明に使える配分表の形に整えます。
同じテーマを分解して方式を割り当てた2つの実例
判断フローを実際の研修に当てると、1つのテーマが「自己学習で済む部分」と「集めないと成果が出ない部分」に分かれ、それぞれに方式を割り当てる形になります。アイディア社が設計した2つの例をご紹介します。1つは管理職向けの部下育成研修、もう1つは新入社員のビジネスマナー研修で、どちらも従来は「1日集めて終わり」だったテーマです。
実例1:部下育成研修|知識はオンデマンド、演習は3時間のリモート研修に分ける
ある企業では、以前から気になっていた部下育成・コーチング・キャリアマネジメントを強化することにしました。従来はOJT中心である程度職場任せでしたが、より意図的に成長支援を行いたいという背景です。設計上の制約は「忙しい管理職の負担をなるべく少なくしながら、研修の効果は高める」という両立でした。3つの質問に当てると、成果は要る(部下への関わり方を変える)、ニーズのばらつきは中程度(マネジメントの知識ベースに差があるが、必要な演習は共通)、本人任せでは走りにくい、となります。
この設計で注目すべきは、集合研修を「1日1回」から「3時間×2回」に分割した点です。時間の合計は減っていますが、間に職場実践を挟むことで、2回目の研修は「学んだことを使ってみた結果」を持ち寄る場になります。これは比較表で集合研修の成果が△だった理由(数回の研修と定着フォローがあれば成果につながる)を、そのまま設計に落とした形です。
実例2:ビジネスマナー研修|1日終日の集合研修を、eラーニングと半日の対面演習に分ける
新入社員のビジネスマナー研修は、長年「4月の第1週に1日終日、全員を集めて行う」のが定番でした。これを3つの質問に当てると、名刺の渡し方や敬語のルールといった知識部分は「知っていれば良い」、お辞儀や名刺交換の所作は「身体で覚えるまで繰り返す」スキル部分に分かれます。ニーズはそろっていて、新入社員は本人任せでも事前課題をこなします。そこで、テーマを2つに分解して方式を割り当て直しました。
この分解で得られたのは、拘束時間の短縮だけではありません。研修内容そのものも「最近のビジネス環境に合わせて必要な内容に絞る」「社内編・社外編のように実践イメージが想像しやすい場面設定にする」「総合的なシミュレーション演習を行う」という方向で見直されています。方式を分けると、集合の時間の使い道が「解説」から「練習」に変わるため、内容の見直しも同時に進みます。マナー研修の分解は、読者の皆さまが自社で最初に試せる最小単位の実例です。新入社員研修全体をリモート・対面・定着フォローでどう組むかは、新入社員研修の設計を解説した記事で扱っています。
投資配分で失敗する3つのパターンと見分け方
3つの質問を使わずに配分を決めると、失敗は決まった形で現れます。アイディア社が人材育成担当者との会話や自社の実施記録から見てきた代表的なパターンは3つで、いずれも「方式をテーマではなく慣習や費用で決めた」ことが原因です。自社の研修一覧を見直すときの見分け方と処方を、パターンごとに整理します。
集合研修をデフォルトにする|「集めて1日」が単発で終わる
見分け方:研修一覧の大半が「1日・1回・全員」で、研修後に受講者と再び接点を持つ設計がない
処方:パンデミック前、対面研修の7割以上は単発でした。知識のインプットはオンデマンドに移し、集合は「24人で1日」ではなく「6人×1時間×2回のリモート」に分割すると、講師の拘束時間は同じまま、受講者ごとの職場での使い方までフォローできます。
費用を理由にeラーニングへ置き換える|インプットだけで終わる
見分け方:受講完了率は高いのに、職場の行動が変わったという声が上司から出てこない
処方:スキル系のテーマを置き換えた場合は、アウトプットの機会をセットで戻します。大人数の対面集合は不要で、事前オンデマンド+少人数・短時間のリモートフォローで足ります。知識系のテーマであれば、研修ではなく「困ったときに見るマニュアル」として位置づけ直すと、置き換えは正解になります。
1回の研修に対面とリモートを同居させる|どちらの良さも出ない
見分け方:「集められない人はリモートで」と決めた研修で、リモート側の満足度が対面側より低い
処方:方式は混ぜずに分けます。同じ内容を対面回とリモート回に分けて実施する、シリーズ研修なら回ごとに方式を変える(ヒューマンスキルやチームビルディングの回は対面、知識やテクニカルの回はリモート)。どうしても同居させるなら、講義を録画で統一し、演習のフォロー講師を対面とリモートで分担します。
3つのパターンに共通するのは、「方式を1つに決めて全テーマに当てはめる」か「1つの研修に複数の方式を詰め込む」かの、どちらかに振れていることです。本記事で勧めているのは、その中間、つまりテーマを分解してから、分解した単位ごとに方式を1つずつ割り当てるやり方です。実例で見たマナー研修の「知識はeラーニング、所作は半日の対面」や、部下育成研修の「事前オンデマンド+3時間リモート×2回」は、どちらもこの形をしています。
もう一点、パターン1で触れた「立派な外部会場と印象的な講師による非日常の研修ほど成果が出にくい」という観察は、集合研修を否定するものではありません。当日のインパクトは強く記憶に残りますが、多くの受講者はその特別な体験をいつもの職場でどう活かせばよいかが分からないのです。集合研修に投資するなら、その投資を活かすために、研修後の職場実践と上司の関与を同じ予算の中に組み込んでください。対面研修が失敗する原因の詳しい分析は対面集合研修が失敗する4つの原因に、対面とリモートを同居させる際の課題と採否判断はハイブリッド研修の問題と解決策にまとめています。
よくある質問|研修形態の使い分けと投資配分
eラーニングだけで研修の成果は出ますか?
「知っていれば良い」知識系のテーマであれば、eラーニング(自己学習)だけで目的を達成できます。一方、行動を変えることが目的のスキル系・マインド系のテーマでは、インプットだけで終わり成果につながりにくくなります。その場合は、eラーニングを事前インプットに限定し、演習や職場実践、コーチングを別の方式で組み合わせてください。
集合研修は、どのようなテーマに残すべきですか?
全員が共通の内容をゼロから学び、行動に移る必要があるテーマが最適です。具体的には、受講者同士の交流や共通言語づくりが価値になる階層別研修の共通パート、ヒューマンスキルの演習、身体や設備を動かす実技です。逆に、情報伝達や知識のインプットが中心のテーマは、集める価値が薄いため自己学習かリモート研修に移すのが合理的です。
Myラーニングジャーニーは少人数向けで、コストが高いのではありませんか?
人の時間を使う場所を絞るため、受講者の拘束時間は集合研修の数日間より少なくなるのが一般的です。たとえば12週間のプログラムでは、毎週の構成は自己学習と20分の理解度確認、受講者2人に講師1人がつく55分の個別演習で、大人数のセミナーは各ステージの始まりだけです。1人あたりの投資は集合研修より大きくなりますが、職種や所属で応用の仕方が違うテーマでは、集合研修1回より成果に対する投資効率が高くなります。
研修形態ごとのコストは、どのように比較すればよいですか?
方式ごとの単価を比べるのではなく、テーマごとに「成果が出る最も安い方式」を選んでから、受講者数×時間で集計してください。知識系のテーマを集合研修で行うのは、成果が同じで費用だけ高い状態です。逆に、行動変容が必要なテーマを自己学習に置き換えると、費用は下がりますが成果が消えるため、投資としては最も効率が悪くなります。
若手社員はデジタルに慣れているので、eラーニング中心でよいですか?
世代で方式を決めるのは避けてください。DDI社のGlobal Leadership Forecast 2021では、対面での学習を好むリーダーの割合はミレニアル世代で67%と、X世代・ベビーブーマー世代の58%より高くなっています。若い世代ほど受講者同士の交流を求める傾向があり、本人任せで走れるかどうかは、世代ではなくテーマへの関心と職場で使う必然性で見立てる必要があります。
まとめ|比率を決める前に、テーマごとに3つの質問を当てる
研修形態の比率は、投資判断の材料ではなく結果です。集合研修・自己学習・Myラーニングジャーニーの3方式は、成果・個別ニーズ・モチベーションの3つの軸で評価が逆転するため、1つの方式に寄せるほど得意な軸で勝って不得意な軸で負けます。来期の研修一覧に「成果が要るか、知っていれば良いか」「ニーズはそろっているか、ばらついているか」「本人任せで走れるか」の3つの質問を順に当て、テーマを分解した単位ごとに方式を1つずつ割り当ててから集計すれば、経営層にも説明できる配分表になります。
最初の一歩としては、来期の研修一覧から3テーマだけを選び、知識系・スキル系・マインド系に仕分けしてみてください。マナー研修のように「知識はeラーニング、所作は半日の対面」と割れるテーマが1つ見つかれば、残りのテーマにも同じ目で向き合えるようになります。
来期の研修配分を、テーマ単位で一緒に線引きしませんか
アイディア社では、研修一覧を3分類に仕分け、「置き換えてよいテーマ」と「置き換えると成果が消えるテーマ」を線引きしたうえで、方式ごとの設計までご一緒しています。自己学習方式を試してみたい方には、人材育成担当者向けの無料オンデマンド研修をご用意しています。人材育成の最新トレンドや研修設計のヒントは、メールマガジンでもお届けしています。
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