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若手社員のグローバル研修の始め方|2〜5年目は語学より先に異文化対応力から

新入社員研修にはグローバルの時間を入れた。海外赴任者や選抜メンバーには、語学や実践力の研修を用意している。それでも、入社2〜5年目の若手社員に向けたグローバル研修は手つかずのまま、という企業は少なくありません。海外売上が伸び、経営からは「若いうちから育ててほしい」と言われる一方で、全員を海外に送り出す予算はない。誰に、何から、どの重さで始めればよいのかが決めにくいのが、若手のグローバル研修です。

本記事では、アイディア社が毎年のフォーラムで公開してきた研修プログラムと、若手社員研修の現場で見えている課題をもとに、若手社員のグローバル研修の始め方を整理します。結論を先に言うと、2〜5年目に先に入れるのは語学ではなく異文化対応力です。そのうえで、国内でつくる土台、短期の海外研修、実務で使う力の順に積み上げます。

読み終えたときに、自社の若手のうち誰から始めるか、来期の計画にどの順番で入れるかを決められる状態を目指します。

若手のグローバル研修は、なぜ後回しになるのか

若手のグローバル研修が後回しになるのは、若手に必要がないからではありません。グローバル研修が「入社時の全員向け」と「少人数の選抜向け」に分かれていて、その間の2〜5年目を受け持つ施策がないからです。まず、選抜向けの研修がどれくらいの人数に届いているかを見てみます。

よくある3つの研修は、どれも対象が絞られている

アイディア社は、日本企業でよく見られるグローバル人材育成を3つのパターンに整理しています。海外MBAへの派遣、グローバル実践力の強化研修、語学研修です。それぞれの対象人数を並べると、次のようになります。

日本企業でよくあるグローバル人材育成の対象人数

3つのパターンは、どれも対象を絞って実施されている

5人未満
海外MBA(0.5〜2年のコース)
10〜50人
グローバル実践力の強化(70時間程度)
50〜150人
語学研修(50時間)

3つを合わせても、対象は多くて200人ほど。選ばれるのは、すでに英語ができる人か、海外の仕事が決まった人です。

出典:アイディア社「1-2-3年目社員育成フォーラム 2023」資料

この3つは、どれも必要な研修です。ただ、対象の選び方を見ると、英語力がすでにある人、あるいは赴任や海外案件が決まった人から順に声がかかります。入社2〜5年目で、まだ海外との仕事が決まっていない若手の大半は、どのパターンにも入りません。自社のグローバル研修の受講者を、一度年次別に数えてみてください。2〜5年目の人数が、空白の大きさをそのまま示します。

階層ごとに育てる力は違い、若手の段は「異文化対応力」

では、若手には何を用意すればよいのでしょうか。アイディア社は、グローバル研修を階層ごとに分け、それぞれの階層で育てる力を変えています。新入社員から部長層までを並べると、5つの段になります。

階層ごとに育てるグローバルの力(アイディア社の研修体系)

新入社員

グローバルの基本にふれ、興味を持つ(1日)

若手社員(2〜5年目)

異文化対応力を強化する

本記事の対象
管理職手前の中堅

英語で仕事を進めるグローバル実践力を強化する

課長層

外国籍の部下を率いるグローバルマネジメント力を強化する

部長層

経営層として海外と渡り合う場面を、シミュレーションで経験する

出典:アイディア社「グローバルフォーラム」資料(2022〜2025年)の対象別プログラムをもとに作成

この並びで見ると、若手の段は「英語で仕事を進める力」の1つ手前にあります。文化の違う相手と仕事をするときに何が起きるかを知り、対応できるようになるのが、2〜5年目の課題です。ここが抜けたまま中堅になると、海外との仕事を初めて任された時点で、頼れる経験が入社時の1日だけという状態になります。語学や実践力の研修は、この段の上に積むものとして設計されています。

なお、新入社員の段は新入社員研修に1日で組み込む設計で、対象ごとの全体像はグローバル研修の進め方で詳しく扱っています。本記事では、その間にある若手の段に絞って、次の章から中身を見ていきます。最初の問いは、なぜ語学より先に異文化対応力なのか、です。

若手に先に必要なのは語学か、異文化対応力か

先に必要なのは異文化対応力です。理由は、若手が最初に海外と接する場面が、海外出張ではなく、チャットやメール、リモート会議だからです。英語の流暢さが問われる前に、文化の違う相手とのやりとりが始まります。

若手の最初の海外接点は、どんな仕事か

グローバルビジネスというと、海外赴任や海外出張を思い浮かべがちです。しかし、日常の業務はメール、チャット、ビデオ会議が中心で、現地に行かずに進む仕事のほうが多くなっています。アイディア社は、リモートで外国人と仕事をするときのスキルを、難しさで3つの層に分けています。

リモートで外国人と仕事をするときの難しさ

若手が最初に加わるのは、左の層の仕事

低い
普通
高い

低い|若手が最初に加わる場面

プレゼンテーション、ミーティング、情報共有、状況報告

普通|管理職手前の中堅が担う場面

アイディア出し、ミーティングファシリテーション、ネゴシエーション、方針説明、意思決定

高い|管理職が担う場面

チェンジマネジメント、メンバーの育成、メンバーの動機付け、プロジェクトマネジメント、コーチング、ネガティブフィードバック

出典:アイディア社「グローバルフォーラム 2022」資料。3つの層とスキルの分類は同資料のとおりです。各層を担う階層の対応づけは、本記事での整理です。

若手が最初に任されるのは、左の層にある仕事です。海外拠点との定例会議に同席する、進み具合を英語のメールで報告する、チャットで資料を共有する、といった場面です。ここで大事なのは、難しさが低い層でも、相手は文化の違う人だという点です。交渉や部下育成のような高度なスキルは要りませんが、相手が何を前提に読み、聞いているかを知らないと、短い報告でも意図が伝わりません。

たとえばチャットでは、成功のポイントは「素早い対応」と「フレンドリーなトーン」だとされています。日本の職場の感覚で、丁寧に考えてから返信しようとすると、相手には反応が遅い人と受け取られかねません。これは英語力の問題ではなく、仕事の進め方についての前提の違いです。

国内で働く若手にこそ、異文化対応力が要るのはなぜか

「職場は国内で、海外とのやりとりは仕事の一部にすぎない。そういう社員に異文化の研修までは要らない」という考え方があります。アイディア社は、これをはっきり誤りだと指摘しています。海外出張であれば、移動の間に頭を切り替える時間があり、現地の雰囲気も肌で感じられます。リモート会議にはそれがありません。日本語の会議が終わって数分後に、文化の違う相手との会議が始まることもあります。日本にいながら海外と接する人ほど、文化の違いを知識として先に持っておく必要があるということです。

文化の違いがどこに表れるかは、ハイコンテクストとローコンテクストの違いと4つの異文化フィルターで詳しく扱っています。若手の研修では、この知識を、自分の報告やチャットの書き方に当てはめるところまでを目標にします。

語学の研修は、いつ始めればよいのか

語学が不要だという話ではありません。順番の話です。英語の初級者には、学校で習った英語への苦手意識が残っていることが少なくありません。アイディア社の研修では、英語の前に異文化やグローバルマインドに少しふれておくと、英語への抵抗を避けられるという知見を得ています。この順序の考え方は、新入社員向けの1日研修の設計で詳しく説明しています。

若手の段では、異文化対応力を先に入れ、語学は自己学習の習慣として並走させます。英語で会議や交渉を進める力を本格的に鍛えるのは、海外との仕事が増える次の段です。語学力と実践力の違いは語学力と実践力の予算配分で、英語で書く力はメール・チャット・PowerPointの4つの型で扱っています。

では、2〜5年目のどの年次に、何を入れればよいのでしょうか。次の章で、年次ごとの置き方を見ていきます。

2〜5年目のどこで、何を入れるのか

軸にするのは3年目です。2年目までに全員へ軽い土台を入れ、3年目で異文化対応力の研修を行い、そこから短期の海外研修、実務で使う力へと進めます。全員に同じ重さの研修を課すのではなく、段が上がるごとに対象を絞るのが、予算を抑えながら層を厚くするやり方です。

なぜ3年目が軸になるのか

理由は2つあります。1つは、3年目に伸ばすべき力と異文化対応力の方向が重なることです。アイディア社は、若手社員に求められる15の能力を、どの年次で育てるのが最も合っているかで整理しています。このうち「柔軟性(意見の違いや立場の違いを理解する力)」「働きかけ力(他人に働きかけ巻き込む力)」「学習能力(新しいことを一人で学ぶ力)」は、3年目が最適な対象です。文化の違う相手の前提を理解し、それに合わせて動くという異文化対応力は、この柔軟性を社外・海外の相手に広げたものと言えます。

もう1つは、2年目の負担です。2年目社員によくある問題として挙がるのは、「こなしている仕事の量が少ない、スピードが遅い」「基本的なビジネススキルがまだ弱い」といった、本業の基礎に関わるものです。同じ整理で、2年目に最適とされるのは実行力や課題発見力です。この時期に重い研修を上乗せすると、本業の立ち上がりと取り合いになります。2年目のグローバルは、負担の小さい土台にとどめるのが現実的です。

土台・体験・実践の3つの段に分ける

ここまでを踏まえて、2〜5年目のグローバル研修を3つの段に分けて配置します。下の図は、アイディア社の研修プログラムと若手社員研修の知見をもとに、本記事で組み立てた配置です。

若手社員のグローバル研修|3つの段と年次ごとの配置

土台|全員に

国内で、文化の違いを知り、自分の仕事に当てはめる

体験|希望者と選抜者に

短期の海外研修で、文化の違う相手と実際に関わる

実践|海外の仕事が見えた人に

英語で会議や交渉を進める力を、数カ月かけて鍛える

▼ 年次に置くと
1

2年目|短い講演会とオンデマンドで基本にふれる

土台

数時間の講演会や10分未満の映像で、異文化の基本と英語への向き合い方を知る。英語の自己学習を習慣にする。

この年次に置く理由:2年目は仕事の量とスピードを上げる時期。本業と取り合いにならない軽さにする

▼
2

3年目|異文化対応力の研修を行う

土台

文化の違いが仕事のどこに表れるかを学び、自分の報告やチャット、会議での発言に当てはめる演習を行う。

この年次に置く理由:3年目に伸ばす「柔軟性」と方向が同じ。若手研修の仕上げとなる3年目研修に組み込みやすい

▼
3

3〜4年目|短期の海外研修に送り出す

体験

数日間、複数の文化に直接ふれる。現地の人と関わるフィールドワークと、自社の現地オフィス訪問を組み合わせる。

この年次に置く理由:3年目の課題である「接点のない人や違う組織と関わる力」と「会社への理解」を、同じ施策で伸ばせる

▼
4

4〜5年目|グローバル実践力の強化に進む

実践

研修の前後に実力を診断し、会議・プレゼンテーション・交渉を英語で進める力を、約10週間の演習で鍛える。

この年次に置く理由:海外との仕事が具体的に見えてくる時期。管理職手前の中堅向けの研修へ、そのままつながる

全員に行うのは「土台」の2つだけ。費用のかかる「体験」と「実践」は対象を絞り、土台を終えた人から送り出します。

この配置で押さえたいのは、3番目の海外研修を単独で考えないことです。3年目社員によくある問題には、「ヒューマンスキル(特に接点のない人や違う組織)が弱い」「会社に対する理解が浅い」「3年間の明確な成果がない」が挙がります。海外研修で現地の人と関わり、自社の現地法人を訪ね、最後に成果を発表する設計にすれば、グローバルの研修が、3年目研修の課題をそのまま解く手段になります。若手研修とグローバル研修を別々の予算、別々の企画として扱うと、この重なりを使えません。

年次は目安です。入社時の研修でグローバルにどこまでふれているか、海外との仕事が何年目から始まるかによって、前後に動かしてください。変えないほうがよいのは順番です。土台を飛ばして海外研修に送ると、体験だけが残りやすくなります。一方で、体験の段は全員が通る必要はありません。海外研修に行かない人も、土台から実践へ進めます。

2年目・3年目の研修体系の中に、グローバルの要素をどう組み込むか。若手社員の年次別プログラムは、こちらでご覧いただけます。

▶ 若手・次世代リーダー研修を見る|▶ 若手社員育成の完全ガイドを読む

次の章からは、3つの段を順に見ていきます。まずは、全員に届ける土台をどこまで軽くできるかです。

国内でつくる土台は、どこまで軽くできるか

全員に届ける土台は、1回数時間の講演会と、1本10分未満の映像まで軽くできます。海外との仕事がまだ始まっていない若手に、重い研修は合いません。負担に感じさせないことが前提になります。軽くする代わりに、内容の順番と、続けるための仕掛けを設計します。

土台に使える3つの形式

アイディア社が、グローバルとの接点が少ない社員に向けて実施している施策は、大きく3つの形式に分かれます。1回あたりにかかる時間が違うので、並べて見てください。

全員向けの土台に使える3つの形式

1回
45分〜3時間

講演会|グローバルへの苦手意識をほぐす最初の一歩

前半で異文化の基本、後半で日本語を英語の発想に切り替える考え方を扱う。身近な職場のケースを話し合うところから始める。

1本
10分未満

オンデマンド研修|いつでも見られる映像で基本を知る

マインドセット、自己学習のテクニック、業務で使うテクニックの3分野・10項目。英文メールや英語プレゼンテーションなど、仕事の場面が想像できる内容にする。

毎日
30分

英語の自己学習|スマートフォンで習慣にする

月曜は書く、火曜は聞く、水曜は覚える、木曜は読む、金曜は話す、と曜日で内容を変える。基本の練習に加えて、本人が選べる題材を用意する。

出典:アイディア社「グローバルフォーラム」資料(2025年)、「ラーニングイノベーションフォーラム」資料(2024年・2025年)

2年目の全員に行うなら、講演会とオンデマンド研修の組み合わせで足ります。オンデマンド研修を企画したときの考え方は、「業務上のニーズが低い社員には、研修ほどしっかりした施策は合わない。負担と感じずに、いつでもどこでも学べる形にする」というものでした。全員向けの土台で目指すのは、スキルの習得ではなく、グローバルに対して少し前向きになることです。

英語の自己学習は、毎日続ける分だけ負担が大きくなります。若手の土台としては、全員に課すのではなく、講演会やオンデマンド研修で関心を持った人が選べる形にしておくことをおすすめします。

軽い施策を、やりっぱなしにしないためには

軽い施策の弱点は、見ないまま、続かないまま終わりやすいことです。強制的に勉強させることはできませんし、業務時間外に多くの時間を使わせることもできません。アイディア社が自己学習型の研修で取り入れている工夫は、次の3つです。

1つ目は、最初に集まることです。オンデマンドや自己学習でも、開始時に集合研修でキックオフを行い、目的と進め方を伝えて意欲を高めます。2つ目は、講師と話す場を定期的につくることです。一人で続ける学習に、人と話す楽しい時間を挟みます。3つ目は、進み具合を見ながら声をかけることです。受講者の進捗を確認し、止まっている人には早めにフォローします。

内容の順番にも決まりがあります。英語の前に異文化を置くこと、そして英単語の暗記や文法より前に、日本語と英語の発想の違いを扱うことです。学校で習った英語とは違う入り方をすると、初級者の意欲が上がりやすくなります。

3年目の研修では、どこまで踏み込むか

3年目に行う異文化対応力の研修は、知識を知るところで終わらせず、自分の仕事に当てはめるところまで進めます。講演会やオンデマンド研修で入れた知識を、ここで使える形にします。

進め方の基本は、具体的な場面から入ることです。これは、アイディア社が異文化を扱うワークショップで使っている進め方です。文化は抽象的な概念なので、定義から説明すると自分ごとになりません。「納期の受け止め方が食い違った」「雑談や食事の場での距離感が合わない」といった場面を先に示し、何が起きているかを話し合ってから、背景にある文化の違いと対応のヒントを示します。なぜそうなるのかという背景と、どうすればよいかという対応を、両方入れるのがポイントです。知識のインプットは映像で事前に済ませ、集まる時間は話し合いと演習に使います。

土台ができたら、次は体験の段です。短期の海外研修に送り出すとき、何を設計しておけばよいかを見ていきます。

海外研修に送り出す前に、何を設計しておくか

設計するのは、現地での日程だけではありません。事前研修、現地での体験、成果発表、上司への共有、帰国後のフォローを、一続きの流れとして組んでおくことです。海外研修は印象が強い分、行って帰ってきただけで満足しやすい施策です。体験を仕事の力に変えるには、前後の設計が要ります。

3日間でも、複数の文化にふれられる

若手の海外研修は、長期である必要はありません。アイディア社が実施しているシンガポールでの海外研修は、現地3日間です。日曜に移動し、月曜はインド、火曜はイスラム、水曜は中国と、1日ごとに違う文化を扱います。月曜と火曜は、午前に現地の講師から歴史・文化・政治・商業について2時間の講義を受け、午後はリトルインディアやアラブストリートで2時間半のフィールドワークを行います。水曜は午前に自社の現地オフィスを訪ね、午後にチャイナタウンで2時間のフィールドワークを行います。フィールドワークは、街に出て、与えられた課題に沿って現地の人と自分から関わる時間です。

行き先にシンガポールを選んでいるのは、安全で英語が通じ、数日のうちに複数の文化に直接ふれられるからです。日程には、現地スタッフとの懇親の食事会も入っています。現地オフィスで事業所を見て、現地の事業戦略の説明を受けることで、海外の仕事が自分の会社の話として見えてきます。

体験で終わらせないための5つの工程

この研修は、現地の3日間を真ん中に置いて、前後を含めた流れで設計されています。

短期の海外研修|出発前から帰国後までの流れ

STEP 1

事前研修

初日から積極的に動けるよう、必要な知識と練習を済ませる

→
STEP 2

現地での講義とフィールドワーク

現地講師から学び、街に出て現地の人と関わる

→
STEP 3

現地オフィス訪問

自社の現地法人や関係会社で、実際の仕事を見る

→
STEP 4

成果発表と上司への共有

最終日に各自の発表を撮影し、後日上司に見せる

→
STEP 5

帰国後のフォロー

高まった意欲を、次の段のスキル習得につなげる

出典:アイディア社「グローバルフォーラム」資料(2025年)、「ラーニングイノベーションフォーラム 2023」資料

人事担当者が力を入れるべきなのは、STEP 1とSTEP 4です。事前研修の狙いは、初日から積極的に動ける状態をつくることです。現地は3日間しかないため、初日を様子見に使う余裕はありません。前の章で見た土台を終えた人から送り出すのは、このためです。そしてSTEP 4の成果発表は、本人が体験を言葉にまとめる機会であると同時に、上司が「何を学んできたか」を知る数少ない接点になります。発表を映像に残して上司に見せるところまでを日程に組み込んでおけば、帰国後に職場で話題にしやすくなります。

「特別な機会」から「成果を出す研修」へ、何を変えるか

海外で行う研修は、特別な機会としての性格が強くなりがちです。アイディア社が支援した、あるグローバル人材の早期選抜研修がそうでした。国内と海外の現地スタッフが一緒に受講し、日本、タイ、シンガポールと開催地を移しながら行う、人気の高い研修です。これが対面で実施できなくなったとき、研修の重点そのものを見直しました。その前後を並べると、海外研修を設計するときの点検項目になります。

見直し前|特別な機会としての研修

見直し後|成果を出すための研修

重点は、特別な機会と意欲の向上

選ばれて海外に行くこと自体が、研修の価値になっている

→ 重点は、成果を出すこととスキルの向上

研修期間中に、職場で何を変えたかを問う

集まった日だけで完結する

講義も演習も当日に行い、終わればそのまま職場に戻る

→ 事前学習・研修・職場での実践をつなぐ

知識は数分の映像で先に入れ、毎回の行動計画を次の回で全員に共有する

交流と観光が記憶に残る

毎回のパーティーや観光が、参加者の楽しみになっている

→ 上司の関与と成果発表が軸になる

上司が事前・事後の評価に加わり、最後は上層部の前で成果を発表する

変わらない原則:海外での体験は、それだけでは成果になりません。職場での行動と上司の目につなげる設計が要ります。

出典:アイディア社「ラーニングイノベーションフォーラム 2022」資料の事例をもとに、本記事で見直しの前後に整理

交流や観光に意味がないわけではありません。海外の同僚との関係は、その後の仕事を進めやすくします。ただ、若手の海外研修の企画を経営層に説明するときに根拠にしやすいのは、「見直し後」の項目です。自社の海外研修をこの3項目に照らし、「見直し後」に移せるものから1つずつ変えていくのが、無理のない進め方です。

長期の海外派遣を考えている場合は

海外トレーニー制度のように、若手を数カ月から1年以上海外に送る仕組みを検討している企業もあります。本記事では長期派遣の制度設計には立ち入りませんが、順番の考え方は同じです。国内の土台と短期の体験を、長期派遣の前の段として位置づけてください。

海外研修を目的別にどう選ぶかは海外研修の目的別設計で、赴任が決まった人の準備は海外赴任前研修の4つの段階で扱っています。

体験の次は、英語で仕事を進める力を鍛える段です。事前と事後の実力診断をはさみ、10週間で実践力を高めた研修の設計を、事例として公開しています。

▶ グローバル実践力強化研修の事例を読む

ここまで、若手の段を土台と体験に分けて見てきました。次に、海外の企業が育成の対象をどこまで広げているかを確認しておきます。

海外企業は、育成の対象をどこまで広げているか

グローバル展開が進んだ企業の例を見ると、育成の対象を、本社のリーダーから選抜者へ、さらに全社員へと広げています。選抜者だけを育てる段階は通過点であり、最後は一般の社員まで同じ枠組みに乗せるという流れです。2016年のATD人材育成国際会議で発表された、サムスン電子の事例を見てみます。

CASE STUDY:サムスン電子 ― リーダー育成の対象を3段階で広げた

BEFORE

10年間で社員は9万人から32万人へ、海外の社員は3万9,000人から22万人へと増え、2014年には全体の69%を占めた。一方で、育成は韓国本社が中心で、海外スタッフの育成はほとんどなかった。

AFTER

プレーヤーから海外拠点の責任者まで、5つの階層すべてに、それぞれ5つほどのリーダーシップ強化プログラムを用意。世界共通の内容を土台に、地域ごとの事情を反映させている。

やったこと ― 育成の重点を3段階で移した

STEP 1

本社のグローバル化

本社のリーダーを海外に赴任させ、世界で通じるように育てる

→
STEP 2

海外展開

海外の社員から選抜したリーダーに重点を置く。地域によって内容と質に差が出た

→
STEP 3

全社員の育成

世界共通のプログラムをつくり、全階層に展開する。行動の基準を人事評価の4割に組み込む

ポイント:本社のリーダーを育てることは、第一歩にすぎない。その先に、海外の社員の育成、そして全社員の育成という段階がある。

出典:アイディア社「ATD ICE 2016 帰国報告会」資料(Samsung Electronics の発表をもとに作成)。数値は発表当時のものです。

この事例はリーダーシップ育成の話ですが、対象の広げ方は、若手のグローバル研修を考えるうえでそのまま参考になります。最初の章で見た日本企業の3つのパターン、つまり海外MBA、グローバル実践力の強化、語学研修は、どれも対象を絞った施策でした。本記事の見立てでは、サムスン電子の3段階のうちSTEP 1からSTEP 2に近い状態です。次に取り組む余地があるのは、STEP 3の「全社員の育成」に向けて、選抜の外にいる層へ対象を広げることです。その最初の対象として、本記事では2〜5年目の若手を挙げています。

もう1つ注目したいのは、5つの階層の一番下が、管理職ではなくプレーヤーだという点です。役職に就いてから育て始めるのではなく、プレーヤーの段階から同じ枠組みに乗せています。本記事で見てきた、新入社員、若手、管理職手前の中堅と段を積む考え方と重なります。

海外企業の人材育成の最新事例は、世界最大の人材育成カンファレンス「ATD」の報告レポートにまとめています。無料でダウンロードいただけます。

▶ ATD 2026 帰国報告会レポートを見る

最後に、ここまでの内容を、来期の計画にどの順番で入れるかに落とし込みます。

来期の計画に、どの順番で入れるか

新しい研修を一度に立ち上げる必要はありません。最初の年は、今ある若手研修の枠に土台を組み込むところまでで十分です。順番は次の4つです。

1つ目は、現状を数えることです。語学研修、実践力の研修、海外研修、海外MBAなど、自社のグローバル研修の受講者を年次別に並べます。2〜5年目の人数が、これから埋める空白の大きさです。経営層に説明するときも、この数字が出発点になります。

2つ目は、3年目研修に異文化対応力を組み込むことです。3年目研修は、若手研修の仕上げとして実施している企業が多くあります。この枠の中に半日から1日を確保すれば、新しい研修を別に立ち上げずに済みます。3年目に伸ばしたい柔軟性や、接点のない相手と関わる力と目的が重なるので、研修全体の流れにも収まります。

3つ目は、2年目に軽い土台を届けることです。数時間の講演会か、10分未満の映像から始めます。知識を伝える部分は映像で、意欲を高める部分は集まって行う、と形式を使い分けてください。

4つ目は、翌年度に体験の段を小さく試すことです。土台を終えた3〜4年目から希望者と選抜者を募り、短期の海外研修を少人数で実施します。成果発表を映像に残して上司と経営層に見せれば、次の年に対象を広げるかどうかの判断材料になります。

どの段でも共通して効くのが、上司の関わりです。若手研修では、上司の負担を1回10分未満に抑えたうえで、研修の前、研修の直後、数カ月後と、接する回数を増やす工夫をしています。グローバルの研修でも同じです。若手が何を学んだかを、上司が知っている状態をつくってください。

よくある質問

Q. 若手社員のグローバル研修は、何年目から始めるのがよいですか?

2年目に軽い土台を入れ、3年目に異文化対応力の研修を行うのが基本です。2年目は仕事の量とスピードを上げる時期なので、数時間の講演会や10分未満の映像にとどめます。3年目は、意見や立場の違いを理解する力を伸ばす時期にあたり、異文化対応力の研修と方向が重なります。

Q. 英語が苦手な若手にも、グローバル研修は必要ですか?

必要です。全員向けの土台は、英語力を前提にしません。扱うのは、文化の違いが仕事のどこに表れるか、日本語と英語で発想がどう違うか、という内容です。英語の前に異文化にふれておくと、英語への抵抗を避けやすくなります。語学の学習は、関心を持った人から自己学習として始めれば十分です。

Q. 若手全員を海外研修に送る予算がありません。どうすればよいですか?

全員に行うのは、国内でできる土台だけにします。海外研修は、土台を終えた人の中から希望者と選抜者に絞ります。土台は講演会とオンデマンド研修で組めるため、1人あたりの負担は小さく抑えられます。費用のかかる段ほど対象を絞るのが、予算を抑える考え方です。

Q. 若手の海外研修は、何日間あればよいですか?

日数よりも、前後の設計で決まります。アイディア社のシンガポールでの海外研修は現地3日間ですが、事前研修で準備を済ませ、最終日に成果発表を行い、帰国後に上司へ共有するところまでを一続きにしています。現地の日数を延ばす前に、事前研修と成果発表が組まれているかを確認してください。

Q. 若手のグローバル研修と語学研修は、何が違うのですか?

育てる力が違います。語学研修が伸ばすのは、文法や語彙、聞く力や読む力です。若手のグローバル研修で先に扱うのは、文化の違う相手の前提を理解し、自分の伝え方を合わせる異文化対応力です。語学力と、英語で仕事を進める実践力の違いは、語学力と実践力の予算配分で整理しています。

まとめ

若手社員のグローバル研修が後回しになるのは、入社時の全員向け研修と、少人数の選抜向け研修の間に、2〜5年目を受け持つ段がないためです。この段で先に育てるのは、語学ではなく異文化対応力です。若手が最初に海外と接するのは、出張ではなくチャットやリモート会議であり、そこでは文化の違う相手の前提を知っていることが先に問われます。

進め方は、土台・体験・実践の3つの段です。全員には国内の軽い土台を届け、3年目で異文化対応力の研修を行い、希望者と選抜者を短期の海外研修へ、海外の仕事が見えた人を実践力の強化へと送り出します。海外研修は、事前研修から帰国後のフォローまでを一続きに設計します。来期はまず、自社のグローバル研修の受講者を年次別に数え、3年目研修の中に異文化対応力の時間を確保するところから始めてください。

若手社員のグローバル研修を、自社の研修体系にどう組み込むか

2年目・3年目の研修にグローバルの要素を加えたい、若手向けの海外研修を見直したい、といったご相談を承っています。対象人数や現在の研修体系に合わせて、段ごとの進め方をご提案します。

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