グローバル人材育成の進め方|対象別7つのアプローチ

グローバル人材育成の進め方は、全社員に一律の英語研修を課すことではなく、「誰を・何のために・どう育てるか」を対象ごとに分けて設計することが出発点です。海外売上比率の上昇と国内職場のグローバル化により、育成すべき対象は海外赴任者だけでなく、新入社員・全社員・外国籍社員・海外現地スタッフへと広がっています。対象が違えば、必要な狙いも手段も変わります。
本記事では、20年以上にわたってグローバル研修を設計してきたアイディア社が実際に提供しているプログラムをもとに、グローバル人材育成を対象別の7つのアプローチに整理し、自社で何から始めればよいかを判断できる「進め方の地図」を示します。英語研修から入って遠回りしないために、まず「対象で分ける」という発想を持つことが、結果として最短の進め方になります。
グローバル人材育成とは?なぜ今「進め方」が問われるのか
グローバル人材育成とは、外国人とビジネスを円滑に進められる人材を、対象に応じて計画的に育てる取り組みのことです。かつては海外赴任者や出張者に英語研修を行えば足りると考えられてきました。しかし今は、何を・誰に・どう進めるかを設計し直さなければ成果につながりません。その背景には、外と内の2つの変化があります。
1つは事業の重心が海外に移ったことです。国際協力銀行(JBIC)の調査では、製造業の海外売上高比率はFY20実績見込で全業種平均36.5%に達しています。個別企業ではさらに鮮明で、東京エレクトロンは海外比率88%、ユニチャームは2030年に海外比率70%(売上2倍)を掲げ、キッコーマンはコロナ禍で国内が落ち込むなか海外売上が業績を下支えし、FY22には海外比率が68.9%まで上昇しました。海外で収益を上げることが前提になれば、海外と渡り合える人材の層を厚くすることは経営課題そのものになります。
もう1つは国内の職場そのものがグローバル化していることです。訪日外国人の回復、在日外国籍労働者の増加、外国人取締役の登用が進み、外国籍の新入社員を採用する企業も増えています。一方で、文化的な違いへの配慮が足りず、せっかく採用した優秀な外国籍社員が1年もたずに離職してしまう例も少なくありません。海外に出る人材だけでなく、国内で多様な人材と働くすべての社員が、育成の対象になりつつあります。
こうした変化は、グローバル研修に求められる中身も大きく塗り替えてきました。研修の主役は「語学力」から「対象ごとの実践力」へと移っています。グローバル研修がたどってきた変遷を整理すると、今なぜ「進め方」が問われているのかが見えてきます。
グローバル研修の"波" ― 語学力から対象別の実践力へ
英会話やTOEICが中心。「英語力=グローバル力」という発想で、語学研修が主役だった。
グローバル人材ブーム。選抜した人材に高い英語運用力を求め、一部の企業が実践的な研修を始めた。
働き方改革とリモートワークへ移行。海外出張を前提にした研修設計が崩れ始める。
海外売上比率の上昇と国内のグローバル化で、対象が全社員・外国籍社員・現地スタッフへ拡大。問われるのは英語力より実践力。
つまり人事担当者にとって、グローバル人材育成はもはや「赴任者向けの英語講座」ではありません。リモート中心の現在は、相手と関係を築き、交渉し、書いて伝える実践力が問われます。アイディア社はこの変化を、リモートを前提とすること、異文化対応がきわめて重要になること、話す力よりも書く力の比重が増すこと、スピードと発想が求められることの4点として整理しています。対象によって必要な実践力は異なるため、全員に同じ研修を当てるほど成果は出にくくなります。だからこそ、まず「対象で分ける」ことが進め方の起点になります。
アイディア社では、海外赴任者から全社員・外国籍社員まで、対象や課題に応じたグローバル人材育成のプログラムをご用意しています。自社の対象に合う進め方を具体的に検討したい方は、プログラムの全体像をご覧ください。
進め方の起点|まず「対象」で7つに分ける
グローバル人材育成の進め方は、対象を「方向」で2つに分けることから始まります。1つは、日本人材を外に向けてグローバル化する流れです。社内の人材に異文化対応力と英語の実践力を足し、海外と渡り合えるようにします。もう1つは、外国人材を日本の職場で戦力化する流れです。採用した外国籍社員や海外の現地スタッフが力を発揮できるようにし、受け入れる日本側の体制も整えます。
この2つの方向の中に、合計7つの対象があります。「グローバル研修」とひとくくりにすると全員に同じ英語研修を当ててしまいがちですが、対象が違えば狙いも手段も変わります。まずは下の地図で、自社が抱える対象がどの方向に位置するかを確認してください。
大切なのは、7つすべてを一度に手がける必要はないということです。自社にとってどの方向が事業に効くか、どの対象から着手すれば成果が見えやすいかを見極めれば、優先順位は自然に定まります。次章からは、まず日本人材をグローバル化する5つの対象を、続いて外国人材を戦力化する2つの対象を、それぞれの狙いと具体的な手段に踏み込んで見ていきます。
日本人材をグローバル化する5つのアプローチ
日本人材をグローバル化する流れには、5つの対象があります。共通する考え方は、英語そのものを教えるのではなく、それぞれの立場で必要になる実践力を、適切な濃さで足していくことです。対象が浅い段階では広く薄く、深い段階では狭く濃く――投資の濃淡を対象に合わせて変えるのがポイントになります。
1. 新入社員|まずグローバルへの興味を引き出す
新入社員には、スキルの習得よりも「グローバルへの興味づけと苦手意識の除去」を狙います。アイディア社の「1日グローバル」は、その名のとおり1日(9:00〜17:30)で、異文化理解・ENGLISH SWITCH(日本語の発想を英語に切り替えるコツ)・グローバルビジネスシミュレーションをまとめて体験する集合研修です。文化によってコミュニケーションがどう変わるかを知り、会話の必須テクニックに触れます。
入社直後にいきなり高い英語力を求めると、苦手意識のある社員ほど離脱します。まず「面白い」「自分にもできそう」という入口をつくり、配属後の自己学習につなげる――これが新入社員段階の設計意図です。
2. 全社員|低コストで全社の意識を底上げする
全社員には、グローバル意識の底上げと英語の自己学習の習慣化を、低コストで広く届けることを狙います。オンデマンド研修で、グローバルマインドセット・自己学習テクニック・業務に効く10項目(英語の発想転換、リスニング、リーディング、語彙、表現、ライティング、スピーキング、プレゼン、メール、リサーチ)を、任意のタイミングで学べるようにします。英語の自己学習は月〜金のスケジュール例とともに提供し、続けやすくします。
全社員に集合研修を行うのは、時間も予算も現実的ではありません。オンデマンドにすることで「グローバルは一部の人のもの」という社内の壁をなくし、必要になったときにすぐ学べる土台を全社に敷きます。
3. グローバル人材|実践力を集中強化する
実際に海外と仕事をするグローバル人材には、語学力ではなく「ビジネスで通用する実践力」を集中強化することを狙います。中心になるのは約10週間の実践力強化研修です。まず「グローバル人間ドック」で会議・プレゼン・交渉・フィードバックの実力を客観的に診断し、その結果をもとにインプットと演習を重ねます。さらに、4日間の海外研修(シンガポール)や3日間のイノベーション合宿(AI・VR・ARを使った体験学習)を組み合わせることもできます。
語学研修とは評価軸が異なります。実践力は、語学テストではなく、会議やプレゼンのミニシミュレーションで測ります。診断で現在地を可視化してから鍛えるため、限られた研修時間を弱点に集中投下でき、行動変容が起きやすくなります。海外研修は「一生忘れない実体験」として、机上では得られないマインドの変化を生みます。
4. グローバルマネージャー|離れた相手を動かす力を鍛える
多国籍・リモートのチームを率いるグローバルマネージャーには、プレーヤーの実践力に加えて、離れた相手を動かすマネジメント力を狙います。マネジメントスキル徹底強化研修を、マイクロラーニングと反転学習を組み合わせた構成で提供します。事前に短い映像で知識をインプットし、集合の場では演習と議論に集中します。
管理職は多忙で、長時間の集合研修にまとまった時間を割けません。知識は短時間のマイクロラーニングで事前に渡し、貴重な集合時間を実践に使う――反転学習の設計にすることで、忙しいマネージャーでも無理なく回せるようにしています。
5. 海外赴任者|赴任前から赴任後まで個別に伴走する
海外赴任者には、赴任前から赴任後までを一貫して支え、現地で確実に成果を出せるようにすることを狙います。6カ月の個別ラーニングジャーニーとして設計し、アセスメントで一人ひとりの課題を把握したうえで、インプット・定着演習・コーチングを個別に組み合わせて伴走します。
赴任者は、赴任先も役割も語学レベルも一人ずつ異なります。全員一律の集合研修ではかみ合いません。だからこそ「個別ジャーニー」として、その人の状況に合わせて内容を変え、赴任前の準備で終わらせず赴任後のフォローまでつなげるのが設計意図です。
新入社員や全社員の「異文化理解・グローバルマインド」を、知識で終わらせず行動変容につなげる設計のポイントは、別の記事で詳しく解説しています。
外国人材を戦力化する2つのアプローチ
外国人材を戦力化する流れには、2つの対象があります。日本人材のグローバル化と大きく違うのは、本人を鍛えるだけでなく、受け入れる側や本社との関係まで含めて設計する点です。
6. 外国籍社員|1年目の節目で先回りして適応を支える
外国籍社員には、文化の違いによる早期離職を防ぎ、日本の職場にスムーズに適応・定着してもらうことを狙います。外国籍の新入社員は、文化的な違いからストレスを抱えやすく、配慮を欠くと優秀な人材が1年もたずに退職しかねません。そこでアイディア社は、入社前に学べる異文化対応のeラーニング「Working with Japanese Partners」を開発しました。新入社員研修・OJT・配属直後・1年目の評価など、1年目の大切な節目ごとに、何が求められ、どんな文化背景があり、どうすればよいかを映像で具体的に伝えます。
外国籍社員の1年目 ― 節目ごとに異文化ギャップを先回りで埋める
eラーニングで日本の職場の前提を先に知る。
ビジネスマナーと集団主義、求められる詳細重視。
先輩の指導や会議同行で生じる、権力格差とハイコンテクスト。
報連相・時間感覚・プロセス思考のギャップに対処する。
リクエストの仕方や評価面談で、フィードバックの受け方を学ぶ。
ポイントは、理想論ではなく少しシビアな現実を、外国人の視点から、文化背景(なぜ)と具体的な対処(何を・どう)をバランス良く伝えることです。さらに、本人向けの研修だけでは定着しません。受け入れる日本人上司向けの研修や、配属後のフォローアップワークショップ(同期との振り返りや、職場の困りごとを一緒に解く場)を組み合わせ、本人と受け入れ側の両面から支えるのが設計意図です。
7. 海外現地スタッフ|スキルと「つながり」を同時に育てる
海外の現地スタッフには、ビジネススキルを高めるとともに、本社との関係を強化し、現地での定着につなげることを狙います。5日間の来日研修と、4カ月のオンライン研修(ブレンド学習)を、状況に応じて使い分けます。育成施策は3つの軸で組み立てます。1つ目はビジネススキルの向上、2つ目は本社と現地をつなぐグループシナジーの強化(日本人と現地スタッフの共同研修、社内コンテンツの活用、交流の時間を多く取る)、3つ目は現地社員のリーダーシップ強化です。
現地スタッフは本社と物理的に離れ、帰属意識が薄れやすく、それがリテンションの課題になります。だから来日研修では、研修だけでなく交流や本社メンバーとの接点を意図的に組み込み、「会社の一員である」という実感をつくります。スキルだけでなく「つながり」を設計に含めることが、現地スタッフ育成の要です。
外国籍社員の研修設計は、対象のパターン別に「なぜ従来型が通用しないのか」と成功の原則を、別の記事で詳しく解説しています。
自社での進め方|どこから始めるか
グローバル人材育成の進め方で最も大事なのは、7つすべてを一度にやろうとしないことです。自社の事業と人材構成から効く対象を1〜2つに絞り、小さく始めて成果を確かめてから広げる――この順序が、限られた予算と時間で前に進めるための現実的なやり方です。
どの方向・対象から手をつけるかは、自社の状況で決まります。海外売上を伸ばす計画があるなら、グローバル人材や海外赴任者の実践力強化が効きます。外国籍の採用が増えている、あるいは海外拠点があるなら、外国籍社員や現地スタッフの定着支援が先決です。まだ全社的にグローバルへの意識が低いなら、全社員向けのオンデマンドや新入社員の1日研修で、広く薄く土台をつくるところから始めます。
効く方向と対象を1〜2つに絞る
7対象すべてに手を広げない。事業と人材構成から、最も成果が見えやすい対象を選ぶ。
その対象の「現在地」を把握する
たとえばグローバル人材なら、実力診断で会議・プレゼン・交渉の実力を可視化する。感覚ではなく事実から始める。
濃さを対象に合わせて小さく始める
広く浅い対象はオンデマンドや1日研修で軽く、狭く深い対象は個別の伴走で濃く。最初は一部門・一期で試す。
受け入れ側と上司を巻き込む
特に外国籍社員や現地スタッフは、本人だけでなく上司・本社を同時に動かす。職場での実施とフォローで定着させる。
効果を測り、横展開する
研修前後の変化(診断スコアや職場での行動)を測り、成果が出た形を次の対象や部門へ広げる。
重要なのは、最初から完璧な体系を組もうとしないことです。1〜2の対象で小さく始め、現在地を測り、成果が出た形を横に広げる。この順序で進めれば、限られた予算と時間でも、グローバル人材育成を着実に前進させられます。
よくある質問
Q. グローバル人材育成は何から始めればよいですか?
全社員に一律の英語研修を始めるのではなく、まず対象を絞ることから始めます。自社の事業と人材構成から、最も成果が見えやすい対象を1〜2つ選び、その対象の現在地を把握したうえで、小さく始めて成果を確かめ、横に広げていくのが現実的な進め方です。
Q. グローバル人材育成は「英語研修」とは違うのですか?
違います。英語力は手段の一つにすぎず、実際に求められるのは会議・交渉・プレゼン・ライティングといった実践力です。リモート中心の現在は、異文化への対応力と、書いて伝える力の比重が高まっています。実践力は語学テストではなく、会議やプレゼンのミニシミュレーションで測るのが効果的です。
Q. 育成の対象はどのように分ければよいですか?
大きく2つの方向に分けます。1つは日本人材をグローバル化する流れで、新入社員・全社員・グローバル人材・グローバルマネージャー・海外赴任者の5つの対象があります。もう1つは外国人材を戦力化する流れで、外国籍社員と海外現地スタッフの2つです。対象が違えば狙いも手段も変わるため、対象ごとに設計を分けます。
Q. 外国籍社員の早期離職を防ぐにはどうすればよいですか?
入社後に困ってから対応するのでは遅く、入社前から先回りすることが有効です。新入社員研修・OJT・配属直後・1年目の評価といった節目ごとに、何が求められ、どんな文化背景があり、どうすればよいかを事前に伝えます。さらに、本人向けの研修だけでなく、受け入れる上司側も同時に整える両面の支援が、定着につながります。
Q. 予算や時間が限られています。どの対象を優先すべきですか?
自社の状況で決めます。海外売上を伸ばす計画があるならグローバル人材や海外赴任者の実践力強化、外国籍の採用や海外拠点があるなら外国籍社員や現地スタッフの定着支援、まだ全社の意識が低いなら全社員向けのオンデマンドや新入社員の1日研修が起点になります。すべてを一度に手がけず、成果が出た形を次の対象へ広げるのが効率的です。
世界の人材育成トレンドを、自社の進め方に取り込む
グローバル人材育成の進め方をさらに具体化するには、世界最先端の動向を知ることが近道です。世界最大の人材開発カンファレンスであるATD(米国人材開発協会)国際会議の報告レポートを、無料でダウンロードいただけます。
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開催日程2025年10月21日(火) 10:05-12:00














