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海外拠点への研修展開|世界共通にするもの・現地に合わせるものの決め方

国内で評価の高い研修を、海外拠点にも広げてほしい。経営や事業部門からそう言われたとき、最初に迷うのは進め方です。教材を翻訳して同じ内容を届ければよいのか。国や地域ごとに作り直すべきなのか。その中間だとしたら、どこまでを世界共通にして、どこからを現地に合わせるのか。この線引きが決まらないまま、翻訳の見積もりだけが先に進むことも少なくありません。

本記事では、アイディア社が2010年以降のATD国際会議(世界最大の人材育成会議)で取材してきた海外企業の展開事例と、アイディア社が海外の現地スタッフ向けに行っている研修の設計をもとに、海外拠点への研修展開の考え方を整理します。結論を先に言うと、研修を丸ごと「共通か、現地か」で決める必要はありません。研修をいくつかの層に分け、層ごとに共通にするか現地に合わせるかを決めます。

読み終えたときに、自社が展開しようとしている研修について、世界共通で守る部分と、現地に任せる部分を仕分けられる状態を目指します。

海外拠点への研修展開は、なぜ「全部同じ」でも「国ごとに別」でもうまくいかないのか

海外拠点への研修展開がうまくいかないのは、「全部同じにする」と「国ごとに任せる」のどちらを選んでも、別の代償が生まれるからです。全部同じにすると現地で使われにくくなり、国ごとに任せると内容と質がそろわなくなります。まず、それぞれの側で実際に何が起きたかを、海外企業の事例で見ていきます。

本社の研修をそのまま持ち込むと、何が起きるのか

本社の研修をそのまま持ち込むと、内容だけでなく、期間や費用の前提まで現地と合わなくなります。フォルクスワーゲンの中国法人が運営する企業内大学(VW Academy China)は、ATD国際会議2016でこの問題を報告しました。ドイツ本社には、研修講師を育てるための育成プログラムがすでにありました。しかし、中国ではそのまま使えませんでした。理由は3つです。育成期間が3年と長すぎること、受講者1人あたり10万米ドルと費用が高すぎること、そして内容が中国の受講者の関心のある現地の課題と合っていないことです。

注目したいのは、3つのうち2つが「内容」以外の理由だという点です。本社で成り立っている研修には、本社の事業の成長速度、人件費、受講者が研修に使える時間といった前提が織り込まれています。急成長する市場で人を早く育てたい拠点にとって、3年かけて講師を育てる設計は、中身がどれほど良くても選べません。同アカデミーは、発表のなかで、受講者のニーズに合った取り組みは成功するが、そうでない取り組みはなかなか成果につながらない、と述べています。

同じ指摘は、ほかの年の会議でも繰り返されています。2010年の会議では、育成プログラムを世界に展開する際、本社だけで完璧なプログラムをつくろうとすると失敗する、という助言が紹介されました。2018年の会議では、世界各地で研修を行ってきた講師が、自国向けにつくった研修をそのまま世界の受講者に使うことはできない、と強調しています。翻訳すれば届く、という見込みは、15年以上前から否定され続けていることになります。

国や拠点ごとに任せると、何が起きるのか

では、現地のことは現地に任せればよいのでしょうか。国や拠点ごとに任せた場合に起きるのは、内容と質のばらつき、そして費用の重複です。米国の医療機器メーカーBoston Scientificは、買収と合併を繰り返した結果、組織や社風に一貫性がなくなり、業務の効率が大きく落ちていました。同社はグローバルリーダーの育成プログラムを設計し直し、研修内容を全社で統一したものへと標準化し、依頼する研修会社も絞り込みました。その結果、経費を36万8,000ドル削減しています。成果の面でも、経営層に必要な能力を持つようになった受講者の割合が、以前のプログラムの20%から42%へと、2倍以上になりました(2010年の会議で報告)。

Samsungも、同じ壁を経験しています。同社は10年間で社員が9万人から32万人に増え、海外の社員は3万9,000人から22万人へと急増しました。海外展開を進めた段階では、リーダー育成のプログラムと質が地域によって異なっていました。同社がこの段階から得た学びは、世界共通の基準が大切だ、というものです。その後、同社は世界共通のプログラムをつくる方向へ進みますが、その際には各地域を巻き込んで一緒につくり上げることを重視しました(2016年の会議で報告)。

2つの事例が示しているのは、ばらつきの代償は費用だけではない、ということです。拠点ごとに別の研修をしていると、「良いリーダーとは何か」「良い仕事とは何か」を語る言葉が拠点ごとに変わります。国をまたいで人を異動させるときも、育成の成果を比べるときも、共通の物差しがありません。ここまでの両側を、同じ観点で並べてみます。

本社の研修をそのまま持ち込む

国や拠点ごとに任せる

優先するもの:世界で同じ内容

どの拠点でも同じ内容を、同じ品質で届けることを優先する

優先するもの:現地への適合

現地の課題や、現地の受講者の学び方に合わせることを優先する

起きやすいこと:前提が現地と合わない

内容が現地の課題と合わず、期間や費用も現地の実情に合わない。VW Academy Chinaでは、本社の講師育成プログラムが「3年・1人10万米ドル」で使えなかった

起きやすいこと:内容と質がそろわない

拠点ごとに内容と質が異なり、依頼先も費用も重複する。Boston Scientificは、統一と依頼先の絞り込みで36万8,000ドルを削減した

失うもの:現地での実践

受講はされても、現地の仕事に結びつかず、成果につながりにくい

失うもの:会社としての共通の物差し

拠点をまたいで通じる言葉と、育成の成果を比べる基準がなくなる

どちらか一方を選ぶ問題ではありません。左で守りたいものと、右で守りたいものを、同じ研修のなかで両方残す方法を考えます。

出典:アイディア社「ASTD ICE 2010」「ATD ICE 2016」報告資料をもとに作成

自社の現状がどちらに寄っているかは、すぐに確かめられます。海外拠点でいま行われている研修を書き出し、本社がつくったものと、現地が独自に用意したものに分けてみてください。本社発の研修ばかりで、受講後に現地から反応が返ってこないなら、左側の代償が出ています。現地発の研修ばかりで、本社が中身を把握できていないなら、右側です。多くの企業では、階層や研修のテーマによって両方が混ざっています。

問いを「どこまで合わせるか」から「どの部分を合わせるか」に変える

両方を残すための出発点は、問いの立て方を変えることです。研修の展開で担当者が抱える悩みは、2010年の会議でも「各国のニーズや事情に、どの程度合わせてアレンジすればよいか」と表現されていました。ただ、「どの程度」という問いは、研修全体を1つのかたまりとして扱っています。この問いのままだと、答えは「7割くらい共通で」といった、全体を薄める話になりがちです。

同じ会議で紹介されたSamsungのeラーニングの世界展開は、別の考え方を示しています。同社は、小さな試作を早い段階で立ち上げ、現地スタッフに確認してもらい、その結果を次の試作に反映させました。これを数回繰り返すと、全社に展開できるプログラムの核ができあがります。そのうえで、写真や色使い、事例、全体の構成の流れについては、現地に合わせたほうがよい場合がある、としています。つまり、研修を「核」と「現地に合わせる部分」に分けて、部分ごとに扱いを決めているのです。

海外拠点への研修展開で決めるべきなのは、合わせる度合いではなく、合わせる部分です。この分け方を最もはっきり示したのが、次の章で取り上げるPfizerの事例です。同社は、85カ国への展開を1年で進めるために、研修の中身と、それを教える役割を分けて考えました。

「歌と歌い手を分ける」とは?Pfizerが85カ国へ1年で展開した方法

「歌と歌い手を分ける」とは、研修の中身をつくる役割と、それを受講者に教える役割を、別のものとして考えることです。製薬会社のPfizerは、新しいマーケティング手法を85カ国に1年で広げるために、この考え方を使いました(ATD国際会議2015で報告)。優れた歌をつくった作詞家や作曲家が、いちばん上手に歌えるとは限りません。研修も同じで、内容をつくった会社や部門が教えるのが最善とは限らない、というのが同社の出発点でした。

CASE STUDY:Pfizer ― 新しいマーケティング手法を85カ国へ1年で展開

状況

世界175カ国で事業を行う製薬会社(当時の社員数は約8万人)。新しいマーケティング手法を、85カ国の担当者に1年で浸透させる必要がありました。ノウハウの提供元は5社、研修は10数種類に及びます。

結果

国ごとに伝え方を調整して展開した結果、受講者の上司を効果的に巻き込めました。世界の業務を統括するリーダーが各地域の事情を深く理解し、国をまたぐ人のつながりが機能するようになりました。

やったこと ― 役割を3つに分け、それぞれ得意な担い手に任せる

歌をつくる

中身を提供する

マーケティングの内容は外部の2社、ファイナンスの内容は自社の財務部門が担当

歌う

受講者に教える

研修プログラムを教える機能は、中身の提供元とは別の1社に任せる

舞台を整える

展開の作戦を立てる

全世界へ効果的に展開する作戦の立案は、さらに別の1社に任せる

5社のノウハウを10数種類の研修にまとめ、1つの統合された進め方で85カ国に届けました。

ポイント:1社に丸ごと任せず、各社が強みとする役割だけを任せて、全体を1つに束ねています。

出典:アイディア社「ATD人材育成国際会議 帰国報告会2015」資料をもとに作成。「舞台を整える」は本記事での表現です

この分業で見ておきたいのは、分けたことで何が守られたかです。中身の提供元が各国で教える形にすると、国が増えるたびに教え方が変わり、中身まで少しずつ変わっていきます。教える役割を切り離したことで、中身は世界で1つに保ったまま、教え方のほうを国に合わせて調整できるようになりました。前の章で見た、世界共通で守りたいものと、現地に合わせたいものが、役割の違いとして整理されたわけです。

「カスタマイズは禁止、チューニングはする」という線引き

Pfizerが置いた基本方針は、国別にカスタマイズした研修プログラムを複数つくることはしない、というものでした。一方で、各国の文化に合わせたチューニングは行います。研修の中身を国ごとに変えるのがカスタマイズ、中身はそのままに伝え方や進め方を合わせるのがチューニング、と読むと分かりやすくなります。

チューニングを担当者の感覚に任せなかった点も、参考になります。同社は、異文化を理解するための枠組み(The Lewis Model)を取り入れ、文化の傾向ごとに、研修のどこを調整するかを並べたリストを事前に用意しました。たとえば、ドイツ、スイス、米国、英国に強く見られる文化の傾向に向けたリストがあります。こうしたリストを3種類つくり、展開する国の受講者の特性に合わせて組み合わせました。85カ国それぞれに合わせ方を考えるのではなく、3つの型の組み合わせで対応した、ということです。

ここから持ち帰れるのは、線引きを先に言葉にしておく、という進め方です。「現地の事情に合わせてよい」とだけ伝えると、拠点によっては中身まで作り替えてしまいます。変えてはいけない部分と、調整してよい項目を、展開の前に一覧にして渡す。これだけで、現地の担当者は迷わずに動けます。

現地の4者を、4つの段階で巻き込む

Pfizerの展開は、6つのステップで進められました。得意な担い手に任せる、歌と歌い手を分ける、現地の関係者をすべて巻き込む、本社の意図を各国の文化の傾向を考慮して落とし込む、実務で成果が出るよう定着にこだわる、その先の展開へつなぐ、の6つです。このうち3番目の「巻き込む」には、具体的な型がありました。

巻き込む相手は、現地の4者です。受講者本人、その上司、現地の人材育成部門、現地の経営陣。この4者に対して、事前の課題と準備、研修の受講、実務での活用、事後の計測と評価という4つの段階ごとに、何を期待しているかを共有しながら進めました。研修を受ける本人だけに案内を送るのではなく、上司や経営陣にも、段階ごとの役割を伝えていたことになります。結果として挙げられているのが「上司を効果的に巻き込めた」ことである点からも、この型が展開の要だったことが分かります。

日本での進め方も紹介されています。研修の核となる内容を6つに分け、効果の出る順番に並べて提供しました。1つ学んだらすぐに実践し、約2カ月の実践期間を置いてから、次の内容へ進みます。85カ国へ1年で、という速さの一方で、1つの国のなかでは、学んだことを仕事で使う時間をしっかり取っていました。

自社に置き換えると、何を見直せばよいのか

この事例を自社に置き換えるときの問いは、1つです。研修の中身をつくった人と、海外拠点で教える人は、同じである必要があるか。日本企業では、国内で研修をつくった担当者や講師が、そのまま海外拠点へ教えに行く形がよく見られます。この形では、展開できる国の数が、その人の出張できる回数で決まってしまいます。言葉や文化の壁も、その人が1人で越えることになります。

なお、Pfizerの報告で示された成果は、上司の巻き込みや、地域をまたぐ理解と人のつながりといった内容で、売上などの数値は報告資料にはありません。数値の裏づけよりも、役割の分け方と線引きの置き方を参考にする事例です。ATD国際会議2015の全体像は、ATD2015の報告会レポートでご覧いただけます。

Pfizerは、研修を「中身」と「教える人」の2つに分けました。ただ、実際の研修には、成果の定義、教材に使う事例や写真、進め方、受講後のフォローなど、ほかにも多くの要素があります。次の章では、研修を6つの層に分け、それぞれを世界共通にするか、現地に合わせるかを整理します。

何を世界共通にし、何を現地に合わせるか|研修を6つの層に分ける

世界共通にするのは、成果の定義、核となる内容、巻き込みとフォローの型の3つです。現地に合わせるのは、事例や言語などの素材、進め方と講師の役割、教える人の3つです。研修をこの6つの層に分けると、「共通か、現地か」を層ごとに決められます。この6つの層は、どこか1社の枠組みではありません。ATD国際会議で報告された複数の企業の展開事例を並べ、共通していた線引きを本記事で整理したものです。

海外拠点へ展開する研修の6つの層

世界共通で守る

どの国でも同じにしておかないと、会社としての共通の物差しが失われる層

現地に合わせる

現地の受講者に合わせないと、受講はされても仕事で使われない層

▼ 上の層ほど変えにくく、下の層ほど現地に委ねやすい
1

成果の定義と重点テーマ

世界共通で守る

受講後に職場で何ができるようになればよいか。どの力に絞って育てるか。

事例:Walmartは28カ国・4つの階層で、重点を同じ4つの力(問題解決と思考力/コーチングと育成/柔軟な対応力/実行力)に絞った

2

核となる内容と枠組み

世界共通で守る

教える考え方、手順、判断の基準。国が変わっても同じ言葉で語れる部分。

事例:Pfizerは国別の研修を複数つくらない方針。IBMは160カ国の新任営業マネージャー教育を「世界統一」の考え方で企画した

3

巻き込みとフォローの型

世界共通で守る

誰を、どの段階で巻き込むか。受講後の実践を、誰がどう確かめるか。

事例:Pfizerは現地の4者(本人・上司・人材育成部門・経営陣)に、4つの段階ごとの期待を共有した

4

事例・写真・用語・言語

現地に合わせる

核を説明するための素材。現地の市場の事例、現地で違和感のない写真、通じる言葉。

事例:Samsungは写真と色使い、事例、全体の構成の流れを現地に合わせる対象とした。VW Academy Chinaは中国にしかない安全の問題を扱う内容を追加した

5

進め方と講師の役割

現地に合わせる

講義と演習の順番、グループの分け方、発表のさせ方、講師の立ち位置。

事例:VW Academy Chinaは、中国の受講者に合わせて講師の存在感を強め、グループワークを増やし、自由度を下げた

6

教える人

現地に合わせる

現地の言葉と文化で、核を受講者に届けられる人。Pfizerの言う「歌い手」。

事例:Pratt & Whitneyは、中国語の教材と現地の中国人講師で研修を行った。Walmartは各地域で認定講師を育てた

1〜3を先に固め、4〜6は現地と一緒に決める。逆の順番で進めると、翻訳や講師の手配が先に走り、守るべき核があいまいなまま展開が始まります。

出典:アイディア社のATD国際会議報告資料(2010年・2011年・2015年・2016年・2017年)の事例をもとに、本記事で整理

使い方は単純です。展開したい研修を1つ選び、6つの層を縦に並べて、それぞれに「共通」「現地」「未定」のどれかを書き込んでください。たいていの場合、4番目の言語だけが「現地(翻訳する)」と決まっていて、ほかは未定のままになっています。未定の層が、展開の前に本社と現地で話し合うべき項目です。以下、共通の側と現地の側に分けて、決めるときの勘どころを見ていきます。

世界共通で守る層は、「行動の言葉」まで落としておく

世界共通にする層で大切なのは、抽象的な言葉で止めないことです。Walmartは、米国の市場を中心にしていた時代のトップダウンのやり方は世界の各地では合わない、と認めたうえで、共通の自社らしさを持ちながら各国のニーズに合わせる道を選びました。その共通の部分として定めたのが、新任管理職から経営者までの4つの階層に共通する4つの力です。どの国でも、どの階層でも、同じ4つに重点を置きます。階層をまたいで同じ内容を学ぶと、上司と部下のあいだに共通の理解と言葉ができ、職場で使いやすくなる、というのが同社の説明です(ATD国際会議2017で報告)。

Samsungは、さらに一歩踏み込んでいます。世界共通のリーダーシップの要件を5つ定めたうえで、それぞれを複数の具体的な行動に分解しました。理由は、社員の文化的な背景や経験が違っても、誰でも理解できるようにするためです。「組織を動かす」という言葉は、国によって思い浮かべる場面が変わります。行動の言葉まで落としておけば、解釈のずれは小さくなります。同社は、この行動を人事評価にも組み込み、評価全体の4割を占めるようにしました。企業文化がまだ浸透していない海外拠点では、評価とつながっていないと行動が変わらない、と考えたためです(ATD国際会議2016で報告)。

つまり、世界共通にするとは、同じ教材を配ることではありません。何ができれば合格かを、どの国の人が読んでも同じ場面を思い浮かべられる言葉で決めておくことです。ここが決まっていれば、教材の事例や進め方が国ごとに違っても、育てている力は同じだと言えます。

現地に合わせる層は、「足す」調整が中心になる

現地に合わせる層では、本社の内容を削ったり置き換えたりするよりも、現地に必要なものを足す調整が中心になります。VW Academy Chinaが行った工夫は3つでした。1つ目は内容の追加です。中国の職場には、ドイツにはない安全上の問題があるため、それを扱う内容を新しくつくりました。2つ目は基礎の追加です。前提となる知識が受講者にない場合があるため、ドイツの内容の手前に基礎編を設けました。3つ目は理論の説明の追加です。実践だけで構成されていたドイツのプログラムに、背景となる理論の説明を加えました。中国の受講者の多くは、理論と実践のバランスが取れた学び方を好むためです。

3つとも、核を変えずに、核へたどり着くための道を足しています。現地から「うちの国には合わない」という声が出たときは、合わないのが核なのか、核にたどり着くまでの道なのかを確かめてください。多くは後者で、事例の差し替えや前提知識の補足で解決します。

進め方は文化でどう変わるのか

6つの層のうち、本社から最も見えにくいのが5番目の「進め方と講師の役割」です。同じ内容、同じ演習でも、講師の立ち位置やグループの分け方が受講者の期待と合っていないと、「良い研修」とは受け取られません。2011年の会議では、「良い」と言われる研修の特徴を文化別にまとめた調査結果が紹介されました。講師の役割に注目して並べると、3つの型に分かれます。

文化によって変わる「良い研修」の進め方

講師の役割で分けると3つの型になり、グループの分け方と発表のさせ方も型ごとに変わる

講師は進行役|米国

講師は控えめにふるまい、受講者に自立を促す。講義は少なく、活発な演習を多くする。

グループと発表:立場や関係を混ぜてグループを分ける。クラス全体に向けて、1人ずつ発表する

講師は先生|中国・日本

講師が受講者に細かく指示を与える。中国では、講師は正しい答えを持つ立場の人と見られ、見本を示しながら演習を進める。

グループと発表:中国は面子を大事にし、上下関係を考えて事前にグループを分ける。クラス全体の前での発表はさせない。日本はグループのなかの上下関係に注意し、グループ単位で発表する

講師は権威|インド・メキシコ

インドでは、講師はすべてを知っている人であり、受講者から挑まれる人でもある。メキシコでは、権威でありながら1人の人間として接し、受講者一人ひとりとの関わりを重んじる。

グループと発表:どちらも上下関係を考えて事前にグループを分ける。インドでは1人で発表させず、グループのリーダーが講師に報告する。メキシコではグループのリーダーに任せ、メンバー同士がなじむ時間を取る

出典:アイディア社「ASTD ICE 2011」報告資料(セッション「グローバル受講者向けの研修デザイン」)をもとに作成。調査の対象は米国・インド・中国・メキシコで、日本の特徴はアイディア社の経験に基づいて加えられたものです。3つの型への分類は本記事での整理です

この比較から読み取れるのは、発表のさせ方ひとつで、研修の評価が逆転しうるということです。米国では「全員の前で1人ずつ発表する」のが良い研修ですが、中国やインドでは避けるべき進め方です。日本の本社でつくった研修を米国の拠点へ持っていくときも、同じことが起こりえます。細かく指示を出して計画どおりに進める日本の進め方は、受講者の自立を重んじる米国の受講者には、窮屈に映るかもしれません。

だからこそ、進め方は本社で決め切らず、現地の講師に委ねる層にしておきます。本社が渡すのは「この演習で、受講者に何を体験させたいか」という狙いまでにとどめ、グループの分け方や発表の単位は現地で決めてもらいます。なお、文化の違いそのものを理解するための見方は、異文化を読み解く4つのフィルターや、ハイコンテクストとローコンテクストの違いで詳しく扱っています。

海外拠点に展開したい研修を、6つの層で一緒に仕分けるところからご相談いただけます。対象者ごとのグローバル研修の全体像は、進め方の記事でご覧いただけます。

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6つの層に分けると、次に出てくるのは量の問いです。教材全体のうち、どれくらいを共通にして、どれくらいを現地に合わせればよいのか。次の章では、実際の企業がどんな割合で展開したかを見ていきます。

共通と現地の割合はどう決めるか|8割共通から9割現地まで

共通と現地の割合に、決まった正解はありません。展開する中身と、展開先の市場によって、共通が8割になることもあれば、1割になることもあります。割合は最初に決める数字ではなく、6つの層を1つずつ判断した結果として出てくる数字です。まず、実際の企業でどれくらいの幅があるのかを見てみます。

同じ「世界展開」でも、割合は8倍違う

クリスタル製品で知られるSwarovskiは、世界の販売スタッフを育てる研修の体系を立ち上げました。教材は翻訳したうえで、現地向けに調整するのは内容の2割程度にとどめています(ATD国際会議2022で報告)。一方、前の章までに登場したVW Academy Chinaでは、ドイツ本社の内容を翻訳してそのまま使っているのは全体の1割でした。残りは、現地のニーズに合わせて調整したものが6割、中国で独自につくったものが3割です。

本社の内容を、翻訳だけでそのまま使っている割合

世界に展開している2つの研修体系を、同じ物差しで並べた場合

Swarovski(世界の販売スタッフ向け)
約80%
VW Academy China(中国の社員・販売店向け)
10%

同じ世界展開でも、そのまま使う割合には8倍の開きがあります。VW Academy Chinaの残り90%の内訳は、現地向けの調整が60%、中国での独自開発が30%です。

出典:アイディア社「ATD ICE 2016」「ATD人材育成国際会議 報告会2022」資料をもとに作成。Swarovskiの値は「現地用に2割程度を調整」という報告からの換算です

この差は、どちらかが正しく、どちらかが間違っている、という話ではありません。2社は展開している中身が違います。Swarovskiが育てているのは、ブランドを体現する販売スタッフです。同社は、ブランドのイメージに合った見せ方をそろえることで、内容が伝わりやすくなり、一貫性が出ると説明しています。世界のどの店でも同じ体験を届けたい研修では、共通の部分が大きくなります。VW Academy Chinaが向き合っていたのは、急成長する市場での専門的な知識と技能の不足でした。現地にしかない課題が多い研修では、現地の部分が大きくなります。

もう1つ見ておきたいのは、VW Academy Chinaの6割です。現地向けに調整した6割は、ゼロからつくったものではなく、本社の内容を土台にしています。翻訳の1割と合わせると、全体の7割は本社の内容から出発していることになります。「9割を現地に合わせた」と聞くと本社の内容がほとんど残っていないように思えますが、実際には、核を残したまま前の章の4番目と5番目の層を調整した結果だと読めます。

同じ研修を世界で行うと、何が共通で、何が違ったのか

割合を考えるうえで手がかりになるのが、家電メーカーWhirlpoolの報告です(ATD国際会議2018)。同社は、ブラジルで開発されたリーダー育成の研修を、世界の管理職向けに展開しました。受講者は北米が43%、南米が34%、アジアが14%、欧州が9%です。朝早くからの瞑想や運動、歌や踊りまで取り入れた熱量の高い研修だったため、展開の前には心配もありました。この熱量は世界で受け入れられるのか。失礼だと感じる受講者はいないか。文化の違う受講者は演習に参加してくれるのか。チーム同士の競争は、調和を大切にする受講者にも機能するのか。

実施してみて分かったのは、次のことです。受講者の強みは、驚くほどどの地域でも似ていました。信頼性はすべての地域で1位でした。一方で、弱みは地域ごとにばらばらで、共通していませんでした。弱みの1位は、北米が建設的なフィードバックと部下の育成、南米が感情面でチームに良い影響を与える力、欧州が効果的な指示の出し方、アジアが自分の考えを率直に伝える力です。

この結果は、共通と現地の分け方に1つの見方を与えてくれます。目指すリーダー像という到達点は、世界で共通にできます。しかし、そこへ向かう出発点は地域によって違います。だとすれば、到達点と核は共通にしたまま、どの内容に時間を多く割くかを地域ごとに変える、という設計が成り立ちます。同じ研修を全地域に同じ配分で届けると、ある地域には既に強い部分の復習になり、別の地域には一番必要な部分が足りなくなります。展開の前に、地域ごとの現状を簡単に測っておく意味はここにあります。現場からニーズを把握する進め方は、研修ニーズのヒアリング方法で整理しています。

割合を決める3つの問い

ここまでの事例をもとに、割合を決めるときの問いを3つに整理します。順番に答えていくと、6つの層の「未定」が埋まっていきます。

1つ目は、世界で同じでないと困る内容かです。ブランドの伝え方、安全や品質の基準、企業理念、国をまたいで人を評価するときに使う力。こうした内容は、国によって違うこと自体が問題になります。当てはまるほど、共通の割合は大きくなります。Swarovskiの販売の研修や、Pfizerの「国別の研修はつくらない」という方針が、この側の例です。

2つ目は、現地にしかない課題があるかです。市場の成長の速さ、現地特有の安全上の問題、受講者の前提知識の差。こうした課題が多いほど、現地の割合は大きくなります。VW Academy Chinaが内容を足し、基礎編を設けたのは、この問いに答えた結果です。

3つ目は、現地に任せられる体制があるかです。2010年の会議では、海外拠点に人事や教育の部門がある場合は、研修の内容と実施を現地に任せる、という考え方が紹介されました。部門がない場合は、国ごとではなく大陸などの地域でくくる、従業員の多い地域や会社にとって重要な拠点から始める、現地に協力を依頼する、といった進め方になります。任せたくても、任せる相手がいなければ現地の割合は増やせません。体制がない拠点では、まず共通の割合を大きくして始め、現地で教える人を育てながら、少しずつ委ねていくことになります。

3つの問いに答えても、本社と現地で意見が分かれる層は残ります。そのときに役立つのが、Samsungの進め方です。同社は、世界共通のリーダー育成を進める際、地域によってリーダーシップの捉え方が大きく違うという課題に直面しました。そこで、事前に「世界共通を優先するもの」「現地を優先するもの」「歩み寄れるもの」の3つに立場を分けておき、柔軟に対応することにしました。すべてを共通か現地かの二択で決めようとすると、話し合いは止まります。歩み寄れるものという3つ目の箱を用意しておくと、譲れない部分だけに議論を集中できます。

割合の目安がついたら、次は進め方です。本社で完成させてから一斉に配るのではなく、小さく試し、現地に確かめながら広げていきます。次の章で、その手順を見ていきます。

展開はどう進めるか|小さく試し、現地に確かめ、広げる5つのステップ

海外拠点への展開は、本社で研修を完成させてから一斉に配るのではなく、伝える、把握する、現地に合わせる、実施する、評価するの5つのステップで進めます。そのうえで、現地に合わせる段階は1回で終わらせず、小さな試行と現地での確認を繰り返します。この章では、28カ国に展開したWalmartの進め方を軸に、ほかの企業の工夫を重ねていきます。

海外拠点へ研修を展開する5つのステップ

STEP 1

伝える

研修の目的、重要性、内容、仕組みを各国に伝える

→
STEP 2

把握する

各国の状況と、その国ならではのニーズを特定する

⇔
STEP 3

現地に合わせる

言葉、文化、イメージ、知識のレベルに合わせて、内容と伝え方を調整する

→
STEP 4

実施する

各国で研修を行い、改善を重ねる

→
STEP 5

評価する

浸透の度合いと成果を確かめる

STEP 2とSTEP 3は、1回で終わらせません。小さく試し、現地のスタッフに確かめてもらい、次の試行に反映する。この往復を数回重ねてから、STEP 4へ進みます。

出典:アイディア社「ATD ICE 2017」報告資料(Walmartの事例)をもとに作成。STEP 2とSTEP 3の往復は「ASTD ICE 2010」報告資料(Samsungの事例)を重ねた、本記事での整理です

この流れで目を向けたいのは、最初のステップが「つくる」でも「翻訳する」でもなく、「伝える」であることです。現地の拠点から見ると、本社発の研修は、ある日突然やってくる追加の仕事です。なぜこの研修が必要なのか、何を目指しているのかが先に伝わっていなければ、2番目のステップでニーズを尋ねても、本音は返ってきません。自社の展開計画に、教材が完成する前に現地へ説明する場が入っているかどうかを、まず確かめてください。

規模が大きいほど、伝える内容は単純にする

Walmartがこの進め方で展開したのは、管理職向けのリーダー育成です。対象は28カ国、従業員は220万人、店舗は6,363にのぼります(ATD国際会議2017で報告)。同社がこの経験から挙げた教訓の1つ目は、展開が複雑になるほど、明確で分かりやすい考え方が必要になる、というものでした。国ごとに言語、文化、事情、知識のレベルが違うため、展開の計画はどうしても込み入ります。そこで伝える中身まで複雑だと、国を1つ越えるたびに意味が変わっていきます。

前の章で見た6つの層のうち、1番目の「成果の定義と重点テーマ」を先に固めておく理由は、ここにもあります。Walmartが各国に最初に伝えたのは、どの国のどの階層でも同じ4つの力に重点を置く、という一点でした。これなら、翻訳しても意味がぶれにくく、現地の担当者が自分の言葉で周囲に説明できます。

現地に合わせる段階は、試行と確認を数回くり返す

2番目と3番目のステップを往復する進め方は、複数の企業に共通しています。Samsungは、25カ国の海外拠点で働く現地の社員に向けて、会社の方針や歴史を伝えるeラーニングを展開しました。同社の進め方は、まず小さな試行を早い段階で立ち上げる、現地のスタッフに確認してもらう、その結果を次の試行に反映する、というものです。試行は必ず各国で行い、返ってきた意見を反映して新しい試行版をつくりました。これを数回重ねると、全社に展開できる核ができあがります(2010年の会議で報告)。

とはいえ、国の数が多いと、1カ国ずつ試して調整するのは現実的ではありません。ブラジルの資源会社Valeは、全支社共通の新入社員向けオリエンテーションをつくる際、すべての支社を、文化の傾向にもとづいて4つのグループに分けました。そのうえで各支社に試行版を試してもらい、意見を集めて内容を改善しています(2012年の会議で報告)。Pfizerが調整項目のリストを3種類にまとめたのと同じ発想です。国の数だけ調整の型をつくるのではなく、文化の近い国をまとめ、少ない数の型で対応します。

Swarovskiも、研修の体系を立ち上げる流れを、つくる、試す、調整する、展開する、の順で説明しています。試す段階と調整する段階には、講師の育成も組み込まれていました。試行は、内容を確かめるだけの場ではありません。現地で教える人が、試行を通じて育っていく場でもあります。

最初の相手は、前向きな管理職の5%に絞る

誰から始めるかについても、具体的な助言があります。2010年の会議で紹介されたのは、全社への展開を一気に狙わない、という考え方です。全社、全世界と考えると、規模が大きすぎて手が止まります。そこで、最初の対象を現場の管理職にします。管理職の理解と応援がなければ、一般の社員への展開は進まないためです。その管理職のなかでも、まずは最も前向きな5%を対象にし、次にさらに15%を巻き込みます。そこまで進めば、全社への展開につながる勢いが自然に生まれる、とされています。

この考え方は、国をまたぐ展開にもそのまま使えます。最初の試行を行う拠点は、規模や重要度だけでなく、協力的な管理職がいるかどうかで選びます。Samsungも、世界に広がる取り組みを進めるには各地域に味方が必要だとして、肩書きよりも意欲を優先して、各地域に現地の協力者をつくりました(2016年の会議で報告)。本社の担当者が最初にすべきことは、全拠点への一斉の案内ではありません。1つの研修、1つの拠点、そこで一緒に確かめてくれる1人を決めることです。

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進め方が決まると、残るのは「誰が教えるのか」という問いです。Pfizerの言う歌い手を、どこから連れてくるのか。次の章では、教える人の3つの選択肢と、育て方を見ていきます。

「歌い手」を誰にするか|外部の専門家・社内の認定講師・現地の講師

海外拠点で研修を教える人の選択肢は、外部の専門家、社内で認定した講師、現地の講師の3つです。短い期間で多くの国へ届けるなら外部の専門家、長く続けるなら社内の認定講師、言葉と文化への適合を最優先するなら現地の講師が向いています。どれを選んでも、教える人には「変えてはいけない部分」と「任せる部分」をはっきり渡す必要があります。

3つの選択肢は、何を優先するかで選ぶ

1つ目の外部の専門家は、Pfizerが選んだ道です。同社は、研修を教える役割を、内容の提供元とは別の、教えることを専門とする会社に任せました。85カ国に1年で届けるという速さを優先するなら、すでに各国で教えられる体制を持つ相手に頼るのが近道です。ただし、展開が終わったあと、教える力は社内に残りにくくなります。

2つ目の社内の認定講師は、Walmartが選んだ道です。同社は、世界に散らばる拠点で、共通の考え方を現地のニーズに合わせて届けられるよう、講師を育てて認定する仕組みをつくりました。同社はこれを、世界共通の部分と各国の個別のニーズを、両方受け入れるための仕組みと位置づけています。育てるのに時間はかかりますが、一度育てば、内容を更新するたびに外部へ依頼する必要がなくなります。

3つ目の現地の講師は、航空機エンジンメーカーのPratt & Whitneyの例に見られます。同社は、グローバルリーダーの育成研修を中国で行う際、中国語の教材と現地の中国人講師を使いました(2011年の会議で報告)。前の章で見たとおり、講師に期待される役割やグループの分け方は文化によって変わります。その国で育った講師は、こうした進め方の調整を自然に行えます。

3つは、どれか1つに決め切るものでもありません。最初の1年は外部の専門家と一緒に展開し、その間に社内や現地の講師を育て、2年目以降に引き継ぐ、という組み合わせも考えられます。大切なのは、展開先の拠点ごとに「誰が教えるのか」の欄を空けたままにしないことです。ここが空欄のまま翻訳だけが進むと、教材は届いても、教える人がいない拠点が生まれます。

社内の講師は、3つの段階で育てる

社内や現地の講師を育てる場合、教材を渡して「あとはお願いします」では機能しません。Walmartは、外部の専門機関と組み、講師を3つの段階で育てました。

Walmartが講師を認定するまでの3つの段階

1

内容を理解する

教える前に、研修の中身と、良い進行とは何かを自分のものにする

やること:進行役に求められる力の確認 / 研修内容の説明を受ける / 内容を教える練習 / 練習への助言を受ける

2

専門の講師と一緒に教える

経験のある講師の隣で実際に教え、現地向けの調整をここで行う

やること:実際の進行を経験する / 指導役の講師から支援と助言を受ける / 自社の文化に合わせ、進め方を現地向けに調整する

3

1人で教える

各国で研修を行い、改善を重ねる。認定後も孤立させない

やること:単独で進行する / 練習と改善を続ける / 講師同士が学び合う場に参加する / 指導役の講師から継続して支援を受ける

現地向けの調整は、2番目の段階で行われます。本社が机の上で決めるのではなく、現地の講師が、経験のある講師と一緒に教えながら決めていきます。

出典:アイディア社「ATD ICE 2017」報告資料(Walmartの事例)をもとに作成

この3つの段階は、6つの層の分け方ときれいに対応しています。1番目の段階で講師が受け取るのは、世界共通で守る層、つまり成果の定義と核となる内容です。2番目の段階で講師が自分で決めるのは、現地に合わせる層、つまり進め方です。講師の育成そのものが、共通と現地の線引きを現地に引き継ぐ場になっているわけです。同社の途中経過の報告では、アフリカを除く各地域で講師の育成が済み、優秀な講師を選んだことと、全階層に共通する明確な内容が使いやすい、という声が多く挙がっていました。

現場の専門家を講師にするには、何日かかるのか

海外拠点で講師の候補になるのは、多くの場合、その仕事に詳しい現場の人です。教えた経験はありません。こうした人を講師に育てる設計として参考になるのが、米国の空軍州兵の訓練センターの事例です(ATD国際会議2024で報告)。国をまたぐ展開の事例ではありませんが、状況はよく似ています。受講者は10万人以上、研修の実施地は全米54カ所、研修の種類は200以上。講師は全員が専門の技能を持つ現場の人で、ほとんどが講師の経験を持ちません。しかも、講師向けの研修に使える日数は10日以内に限られていました。

現場の専門家を講師に育てるコースの単位

16名
1回の受講者
2名
教える側の講師
10日間
コースの期間
3回
期間中の模擬研修

少人数に、講師2名が10日間ついて育てます。展開先の拠点数と、1拠点に必要な講師の人数から、このコースを何回開けばよいかを逆算できます。

出典:アイディア社「ATD人材育成国際会議 報告会2024」資料(米国空軍州兵の訓練センターの事例)をもとに作成

コースの中身は、大人の学び方の基本、研修の設計、講師としての技能の順に進みます。講師の技能の前に、内容の絞り方やまとめ方を教えているのが特徴です。この取り組みから得られた学びとして挙げられているのは、内容を絞ること、演習を多く入れること、そして研修の内容よりも、教える技能のほうに講師の目を向けさせることです。現場の専門家は内容には自信があるため、放っておくと知っていることをすべて話そうとします。育てるべきなのは、知識ではなく、受講者に考えさせ、練習させる進め方のほうです。この事例を含むATD国際会議2024の内容は、ATD2024の報告会レポートでも紹介しています。

社内の講師による展開が、どれくらいの広がりを生むかを示す例もあります。米国ジョージア州のある政府機関は、48人の社内の認定講師を育て、16カ月のあいだに8カ所で99回の研修を行い、1,672人が受講しました。成功の要因として挙げられたのは、社内で講師を認定する制度、共通の言葉を持つこと、すべての階層で実施したことです(ATD国際会議2018で報告)。外部の講師だけに頼っていたら、この回数を同じ期間でこなすのは難しかったはずです。

教える人に渡すのは、教材ではなく線引き

誰を歌い手にする場合でも、最後に確かめたいのは、歌そのものが変わってしまわない仕組みです。Swarovskiは、教材を翻訳する際に、同じ翻訳者に継続して依頼し、社内で品質を確認したうえで、内容を固定して配布し、管理できる状態を保つことを勧めています。あわせて、社内の講師が複数のテーマを教えられるよう、技能を高めることにも取り組みました。

教える人に渡すべきものは、3つあります。変えてはいけない核。現地で決めてよい項目の一覧。そして、迷ったときに相談できる相手です。Pfizerが調整項目のリストを事前につくり、Walmartが認定のあとも指導役の講師による支援を続けたのは、このためです。教材だけを渡された講師は、合わないと感じた部分を自分の判断で変えるか、合わないまま読み上げるかの、どちらかになります。線引きを渡された講師は、安心して現地に合わせられます。

ここまでで、現地に合わせる層のうち「進め方」と「教える人」を見てきました。残るのは、多くの担当者が最初に手をつける「翻訳と言語」です。次の章では、翻訳の前にすべきことと、この数年で大きく変わった言語対応の手段を整理します。

翻訳と言語対応はどう進めるか|文化の確認が先、翻訳は後

翻訳は、展開の最初に行う作業ではありません。その内容が相手の国の文化に合っているかを先に確かめ、そのあとで翻訳し、最後に現地の人が確認します。一方で、言語を合わせる手間そのものは、この数年で大きく下がりました。この章では、翻訳の前にすべきこと、翻訳だけでは直らない点、そして言語対応の手段の変化を順に見ていきます。

前提として、言語は現地化の一部にすぎません。eラーニングの専門団体による2023年に向けた提言では、現地化とは受講者の職場環境、言語、文化などに合わせることだと説明されています。言語は3つのうちの1つです。翻訳が終わった時点で「現地化が済んだ」と考えてしまうと、残りの2つが手つかずになります。

翻訳の前に、何を確かめるのか

翻訳の前に確かめるのは、内容そのものが相手の文化に適しているかどうかです。2012年の会議では、自国の言葉で設計した研修をほかの国で行うための助言が紹介されました。最初に考えるべき問いは、「教えようとしていることは、その国の文化に適しているか」。そのうえで、翻訳に入る前に、文化の面で問題がないかを十分に点検することが勧められています。翻訳してから問題に気づくと、直す範囲が言語の数だけ増えるためです。

翻訳を依頼する相手の選び方にも、3つの条件が示されました。1つ目は人です。その国の言葉を母語とし、翻訳の資格を持つか、扱う内容に詳しいこと。2つ目は手順です。良い翻訳を生むための進め方を、はっきり示せること。3つ目は実績です。文化への細やかな配慮を、過去の仕事で示していること。優れた訳はしっかりした手順から生まれる、というのがこの助言の要点です。

翻訳だけでは直らないのは、どんな点か

言葉を正しく置き換えても、伝わらない部分は残ります。世界各地で研修を行ってきた講師が、2018年の会議で、研修を世界に展開するときに気をつける点を8つ挙げました。そのうち、本社の担当者が見落としやすい4つを、対処とあわせて並べます。

翻訳しただけだと起きること

こう対処する

同じ言語でも、国が違うと通じない

ブラジルの人は、ヨーロッパのポルトガル語を、自分たち向けの正しい翻訳とは受け取らない

→ その国の人に任せる

翻訳は現地の会社に依頼し、現地の詳しい人が内容を確認する。少なくとも確認だけは現地で行う

社内の用語や略語が通じない

本社の社員には当たり前の言葉が、ほかの拠点では共通の言葉になっていない

→ 現地のスタッフに事前に確かめる

なじみのない言葉、独自の意味で使っている言葉、略語を洗い出し、言い換えるか説明を足す

写真やイメージが合わない

スポーツの写真は文化によって伝わらない。男女が一緒に写った写真を不快に感じる文化もある

→ 現地のデザイナーに見てもらう

写真と図版がその国でふさわしいかを、現地の目で確認してもらう

映像教材が1つの言語しかない

英語だけの安全教育の映像は、すべての受講者には理解されない

→ 吹き替え、字幕、撮り直しを検討する

現地の言葉での吹き替えか字幕を付ける。現地の課題を扱うなら、映像ごと撮り直す

4つの対処に共通するのは、現地の人の目を通すことです。本社でどれだけ丁寧に翻訳しても、最後の確認は現地でしかできません。

出典:アイディア社「ATD ICE 2018」報告資料(セッション「世界中で実施する研修をうまくファシリテートする」)をもとに作成

残りの4つは、俗語やことわざを使わないこと、時差を意識して相手の国の勤務時間に合わせること、祭日や休暇を調べ直すこと、身振り手振りの意味が国によって違うことです。たとえば、うなずきは多くの地域で賛成を意味しますが、日本では必ずしもそうではありません。日本の本社でつくった映像教材には、こうした日本特有のしぐさが気づかないうちに入っています。研修の映像を、展開の前に現地のスタッフに一度見てもらう。これだけで、多くの行き違いを防げます。

翻訳しやすい教材は、つくる段階で決まる

翻訳の手間は、元の教材のつくり方で大きく変わります。2012年の会議では、eラーニングをほかの言語に展開するときに起きやすい問題と、その備えが紹介されました。素材は編集できる形式で保管しておく。翻訳すると文章の長さが変わるため、画面や紙面に余白を残しておく。どの言語にも対応できる書体と文字の規格を使う。こうした備えによって、現地化にかかる費用を数年で大きく減らした例もあるとされています。国内向けの教材をつくる時点で、いずれ海外に展開する可能性があるなら、文字を画像に埋め込まない、余白を詰めすぎない、といった配慮をしておく価値があります。

翻訳したあとの管理については、Swarovskiの進め方が参考になります。翻訳の手順を決めて、それを守る。同じ翻訳者に継続して依頼する。社内で品質を確認する。内容を固定し、共有の場所から配布する。翻訳のたびに担当者や訳語が変わると、同じ言葉が拠点によって別の意味で使われるようになります。共通の言葉を守るという意味で、翻訳の管理は、世界共通で守る層の一部でもあります。

言語対応の手間は、この数年でどう変わったのか

ここまでの助言は、人の手による翻訳を前提にしています。しかし、言語を合わせる手段は、この数年で大きく変わりました。ATD国際会議で報告された内容を年代順に並べると、変化の向きがよく分かります。

ATD国際会議の報告に見る、言語対応の手段の変化

2012年 手順で質を守る

翻訳の手順にこだわり、翻訳後を見越して余白を残す

2018年 映像は作り直す

映像教材は、吹き替え、字幕、撮り直しのどれかで対応する

2023年 数分で切り替える

AIでつくる映像なら、背景、登場人物、言語を数分以内に変えられる

2026年 その場で通訳する

機械翻訳による同時通訳で、14の言語の受講者が母語で学ぶ

出典:アイディア社のATD国際会議報告資料(2012年・2018年・2023年・2026年)をもとに作成

2026年の事例は、食品大手のJBS USAです。国をまたぐ展開ではなく、米国内の現場で働く社員の話ですが、言語の壁の大きさは多国展開と変わりません。受講者は7万5,000名。社内に共通の言語がなく、国内だけで14の言語が使われていました。学習の管理システムは14に分かれ、入社時の研修には丸3日かかっていました。同社は、2,400種類のオンライン研修を1つの基盤にまとめ、機械翻訳(Google翻訳)を使って14の言語の同時通訳を実現しました。受講者には端末とイヤホンを貸し出しています。

成果として報告されたのは、次の4点です。入社時の研修が3日から2日に短くなりました。通訳者なしで、全員が母語で学べるようになりました。管理システムは14から4に減りました。そして、人材育成の担当者6名で、6カ月以内に9万2,000名の受講者の設定を終えました。同社は学びとして、端末の貸し出しと母語での通訳があると受講者の集中力が一気に高まること、研修は短いほど効果が高く20分未満が理想であることを挙げています。

この変化が、本社の担当者にとって意味するのは何でしょうか。言語は、「合わせるかどうか」を悩む層ではなくなった、ということです。かつては、翻訳の費用と時間が、展開できる国の数を決めていました。その制約が緩んだいま、言語は合わせるのが前提になります。浮いた時間と予算は、機械では代われない層に回せます。現地の講師が進め方を調整する時間、現地のスタッフが内容を確かめる時間です。ただし、機械翻訳が助けてくれるのは言葉の置き換えまでです。内容が文化に合っているか、社内の用語が通じるか、写真がふさわしいかの確認は、これまでどおり人の仕事として残ります。

JBS USAの事例を含む、ATD国際会議2026の最新の動向と企業事例は、帰国報告会のレポートにまとめています。無料でダウンロードいただけます。

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ここまでの事例は、欧米や韓国の企業が本社の側に立ったものが中心でした。日本の企業が本社の側に立つとき、同じ考え方に加えて気をつけたい点があります。最後の章では、アイディア社が海外の現地スタッフ向けの研修で行っている工夫をもとに、3つの注意点をまとめます。

日本企業が「本社側」になるときの3つの注意

日本の企業が本社の側に立って海外拠点へ研修を展開するときは、3つの点に注意します。本社の当たり前に理由を添えること、誰でも教えられる内容と自社にしかない内容を分けること、国内と海外の受講者を混ぜる前に分けて教えることです。この章では、アイディア社が海外の現地スタッフや多国籍のチーム向けに行ってきた研修の設計をもとに、1つずつ見ていきます。

注意1:本社の「当たり前」には、理由を添える

日本でつくった研修には、説明されていない前提が多く含まれています。なぜ報告をこまめにするのか。なぜ手順を細かく守るのか。国内の受講者には説明するまでもないことが、海外の受講者には理由の分からない決まりごとに見えます。アイディア社は、海外の現地スタッフ向けのマネジメント研修について、日本で実施している研修そのままではなく、アレンジが必要だと位置づけています。そして、その目的の1つを、企業理念と会社への理解を高めてもらうこととしています。

ここで、本社が見落としやすい事実があります。アイディア社代表のジェイソン・ダーキーは、海外の現地スタッフは、日本の本社が思っている以上に、企業理念やビジョン、ミッションへの関心が高いと指摘しています。問題の解決の進め方や顧客を第一に考える姿勢といった、日系企業の基本的な考え方を学びたがる人も少なくありません。こうしたテーマを教えるときに、日本特有の文化的な背景を付け加えて説明すると、理解と実務への応用が進みます。たとえば、集団での行動を重んじるのは仲間意識を大切にする考え方があるから、礼儀を細かく教えるのは上下の関係を重んじる文化があるから、といった説明です。

これは、前の章までに見た「足す」調整の、日本版だと言えます。VW Academy Chinaは、実践だけで構成されたドイツの研修に、理論の説明を足しました。日本の本社が足すべきなのは、「なぜ、当社ではそうするのか」という理由です。2010年の会議でも、世界に展開する企業への助言として、外国籍の社員にも自国の社員と同じように働いてほしいという一方的な期待を社内からなくすことが、本当の意味での国際化への近道だ、と紹介されていました。同じにしてほしいなら、まず理由を伝える。その順番が大切です。なお、現地スタッフを日本に招いて行う研修の設計は、海外研修・海外赴任者・現地スタッフ研修の設計で詳しく扱っています。

注意2:誰でも教えられる内容と、自社にしかない内容を分ける

海外拠点に届けたい内容は、2種類に分けられます。論理的な伝え方や部下の育成のように、どの会社でも通用する内容。そして、自社の理念、事業、仕事の進め方のように、自社にしかない内容です。本社が手間をかけるべきなのは、後者です。

どの会社でも通用する内容については、ジェイソン・ダーキーは次のように整理しています。海外拠点では、入社時や管理職への昇格時のように時期が決まっている研修を除き、目的に応じた研修を中心にする。そのために大切なのは、一人ひとりのニーズを的確につかむことで、難しい診断よりも、簡単なアンケートと聞き取りから始める。集合研修を開くほどの人数がいない拠点では、映像などで好きなときに学べる教材と個別の指導を組み合わせる。海外の企業では、学べる内容がそろっていること自体が社員の満足につながり、研修が足りないように見えると転職を考え始める人もいる、という指摘もあります。この領域は、既存の教材をうまく使い、効率よく整えるのが現実的です。受講者ごとに内容を組み立てる進め方は、Myラーニングジャーニーの実践ポイントで紹介しています。

一方、自社にしかない内容は、本社が設計に深く関わります。アイディア社が現地スタッフ向けの研修で挙げているポイントは、汎用的な内容より自社の業務内容に重点を置くこと、受講者以外の本社のメンバーと交流する場を設けること、経営に近い立場の人との接点を持たせること、参加者を日本人と外国籍の社員の混合にすることです。限られた予算と時間を、自社にしかない内容に集める。これが、6つの層で言う「核」を、ほかの会社には真似のできないものにします。海外拠点で行う現地スタッフ研修のつまずきやすい点は、外国籍社員の研修の3つのパターンでも整理しています。

注意3:混ぜる前に、分けて教える

国内の社員と海外の社員が一緒に学ぶ場は、共通の言葉をつくるうえで効果的です。ただし、いきなり全員を集めると、文化の違いによる行き違いが、研修そのものの進行を妨げます。アイディア社が支援したある企業では、世界中の情報システムを統合する3年がかりのプロジェクトを始めるにあたり、メンバーを日本、欧州、北米、その他の地域から25%ずつ集めました。組織も、文化も、経験も、言語も違うメンバーです。このチームの立ち上げで行ったのが、合同の前に分けて教える、という設計でした。

多国籍のプロジェクトを立ち上げるときの研修の組み立て

事前:日本人のメンバーだけで学ぶ

異文化の基本(文脈への頼り方、個人と集団、上下関係の強さなど)。言葉ではっきり伝える技術を身につける

事前:外国籍のメンバーだけで学ぶ

日本の文化の要点(行間を読む、細部を重んじる、リスクを避ける、上下関係が強い)。その受け止め方を身につける

▼ 互いの前提を知ったうえで、合同の場へ
1

合同の1回目:互いの人と職場を知る

全員・2時間

自己紹介、短い質問のやりとり、数字で見るメンバーの構成、文化の面で気をつけること、各拠点の職場の紹介。

進め方の工夫:細かくて簡単な演習を数多く入れる。言語の壁を越えるために、絵や図を多く使う

▼
2

合同の2回目:仕事の進め方をそろえる

全員・2時間

仕事の進め方の好みと優先順位の共有、プロジェクトの成功の姿をチームで定義する、文化の違いから起きやすい問題と回避の方法。

進め方の工夫:時差があるため、1回を1〜2時間に収める。同じ仕事を担当する各地域のメンバーを、1つのチームにする

事前に教える内容は、日本人と外国籍の社員で逆向きです。それぞれが相手の側の前提を先に学んでから、同じ場に集まります。

出典:アイディア社「ラーニングイノベーションフォーラム 2022」資料の事例をもとに作成

この組み立ては、海外拠点へ研修を展開するときにも応用できます。本社の社員と現地の社員が一緒に受ける研修を計画するなら、その前に30分でもよいので、それぞれの側に相手の前提を伝える時間を取ります。現地の社員には「日本の本社はなぜこう考えるのか」を、本社の社員には「相手にはっきり伝えるにはどうするか」を、別々に伝えておくのです。同じ内容を全員に一度に教えるよりも、合同の場での行き違いが減ります。

合同の場の進め方にも、手がかりがあります。2010年の会議では、異文化の研修の入り方が日本と欧米で逆だ、という観察が紹介されました。日本の企業は、文化の違う点を特定し、その原因を知り、違いを乗り越える方法を学ぶ、という流れを取りがちです。欧米で多くの研修を行う講師は反対に、相手と自分の文化の似ているところを探すことから始めていました。違いを学ぶのは、事前に分かれて行う段階で済ませる。全員が集まった場では、同じ仕事をしている者同士の共通点から入る。この順番にすると、最初の合同の場が、違いを確認する場ではなく、仲間を見つける場になります。

3つの注意に共通しているのは、本社のやり方を標準としてそのまま置かない、という姿勢です。世界共通で守る核を決めることと、本社のやり方を押し通すことは、同じではありません。核を守るためにこそ、理由を添え、自社にしかない内容に絞り、相手の前提を先に学びます。

よくある質問

Q. 海外拠点への研修は、日本の研修を翻訳すれば十分ですか?

十分ではありません。現地化とは、受講者の職場環境、言語、文化に合わせることで、言語はその一部です。翻訳の前に、内容が相手の国の文化に合っているかを確かめます。翻訳のあとも、社内の用語、写真、映像、進め方を現地の人に確認してもらう必要があります。

Q. 研修のどの部分を世界共通にすればよいですか?

世界共通にするのは、成果の定義と重点テーマ、核となる内容と枠組み、巻き込みとフォローの型の3つです。事例や写真や言語、進め方と講師の役割、教える人の3つは、現地に合わせます。共通にする部分は、どの国の人が読んでも同じ場面を思い浮かべられる行動の言葉まで落としておきます。

Q. 共通と現地の割合は、どれくらいが目安ですか?

決まった目安はありません。販売スタッフ向けの研修で現地向けの調整を2割程度にとどめた企業もあれば、本社の内容をそのまま使うのは1割だけという企業もあります。世界で同じでないと困る内容か、現地にしかない課題があるか、現地に任せられる体制があるか、の3つの問いで決めます。

Q. 海外拠点で研修を教える講師は、どう確保すればよいですか?

選択肢は、外部の専門家、社内で認定した講師、現地の講師の3つです。短い期間で多くの国に届けるなら外部の専門家、長く続けるなら社内の認定講師が向いています。社内や現地の講師を育てる場合は、内容を理解する、経験のある講師と一緒に教える、1人で教える、の3つの段階を踏みます。

Q. 機械翻訳やAIを使えば、現地化は不要になりますか?

不要にはなりません。機械翻訳やAIによって、言語を合わせる手間は大きく下がりました。14の言語の受講者が母語で学べる環境を、少人数の担当者で整えた企業もあります。ただし、内容が文化に合っているか、社内の用語が通じるか、進め方が受講者の期待に合っているかの確認は、人の仕事として残ります。

まとめ

海外拠点への研修展開は、「全部同じにする」と「国ごとに任せる」のどちらを選んでも代償が生まれます。全部同じにすると現地で使われにくくなり、国ごとに任せると内容と質がそろわなくなります。両方を残すには、研修を丸ごと扱うのをやめ、6つの層に分けて考えます。成果の定義、核となる内容、巻き込みとフォローの型は世界共通で守る。事例や言語などの素材、進め方と講師の役割、教える人は現地に合わせる。Pfizerの「歌と歌い手を分ける」は、この分け方を最もはっきり示した例でした。

進め方は、本社で完成させて一斉に配るのではなく、伝える、把握する、現地に合わせる、実施する、評価するの順です。現地に合わせる段階では、小さな試行と現地での確認を数回重ねます。言語を合わせる手間はこの数年で大きく下がったので、浮いた時間と予算を、現地の講師を育てることと、進め方の調整に回せます。日本の企業が本社の側に立つときは、本社の当たり前に理由を添えること、自社にしかない内容に力を集めること、国内と海外の受講者を混ぜる前に分けて教えることも忘れないでください。

最初の一歩は、展開したい研修を1つ選び、6つの層を縦に並べて「共通」「現地」「未定」を書き込むことです。未定が残った層が、本社と現地で最初に話し合うテーマになります。あわせて、最初に試す拠点を1つと、そこで一緒に確かめてくれる現地の協力者を1人、決めてください。

海外拠点への研修展開を、どこから始めるか

国内の研修を海外拠点にも広げたい、現地スタッフ向けの研修を見直したい、国内と海外の社員が一緒に学ぶ場をつくりたい、といったご相談を承っています。展開したい研修の内容と対象の拠点に合わせて、世界共通にする部分と現地に合わせる部分の仕分けからご提案します。

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