IDEA DEVELOPMENT株式会社 アイディア社
企業向け社員研修会社 全国対応の人材育成企業
公式ブログ
2026.10.13管理職研修

ストレングスファインダーで部下を個別マネジメントする方法|診断を上司の行動に翻訳する3手法

「ストレングスファインダーを部下に受けさせたが、結果レポートが共有されただけで、上司の関わり方は何も変わらなかった」。管理職研修のご相談で、この声を繰り返し伺います。診断そのものが悪いのではありません。診断結果を上司の具体的な行動に翻訳する手順が、研修の中に組み込まれていないことが原因です。

本記事では、ストレングスファインダー(クリフトンストレングス)を中心に、STANDOUT・エニアグラムという粒度の異なる3つの強み診断をどう使い分け、診断結果を部下一人ひとりへの個別マネジメントにどう落とし込むかを解説します。根拠として、ATD人材育成国際会議2026で発表されたZenger Folkman社の最新データ、米国政府機関で1,672人に展開した事例、当社のマネージャー育成フォーラムで実際に使っている資質別の動機づけヒントを引用します。

なぜ「強み」で部下を見るのか|エンゲージメント86%の根拠

結論から述べると、部下を強みで見る最大の理由は、弱みの改善よりもエンゲージメントへの効き目が大きいからです。ATD人材育成国際会議2026でZenger Folkman社のJoe Folkman氏が示したデータでは、本人が「優れた強み」を3つ持っている場合、エンゲージメントは86%に達します。従業員のエンゲージメントを左右する要因の70%は直属の上司とチーム環境にあり、上司が部下の強みをどう扱うかは、その中核にあたります。

86%
優れた強みを3つ持つ人の
エンゲージメント
70%
エンゲージメントを左右する
直属上司とチーム環境の影響
96%
同僚とのつながりが強いほど
エンゲージメントが高い人

この3つの数字を並べると、上司にとっての含意がはっきりします。86%は部下側の「結果」であり、70%と96%はそれを生む「環境」です。つまり、部下の強みを見つけて発揮させる行動は、上司が自分の裁量で動かせる70%の側にあり、同時にチーム内のつながりという96%の側にも効きます。診断ツールを導入するかどうかの前に、上司自身が「自分の関わり方がエンゲージメントの7割を左右している」と受け止めることが出発点になります。

強みを活かすことと、弱みを放置することは同じではない

「強みに注目する」と聞くと、弱みを見ないことだと誤解されがちです。Folkman氏はこの点について明確に線を引いています。チームに致命的な欠陥がある場合には、弱点の改善が効果を発揮する。ただし、それ以外の多くの場面では、強みの組み合わせを増やす方が成果につながる、という整理です。同じ発表で示された「優れたチームになる確率」の比較が、この線引きを裏付けています。

優れたチームになる確率(Zenger Folkman・ATD2026)

「成果」と「良好な職場環境」の組み合わせの有無で、確率は10倍以上開く

成果と良好な環境の両方が揃う
88%
本人のエンゲージメントだけ高い
9%
職場環境だけ良好
4%

読み方:職場の雰囲気が良いだけ、あるいは本人のやる気が高いだけでは、優れたチームにはほとんど届きません。成果を出す行動と良好な環境が同時に揃ったときにだけ、確率が跳ね上がります。

この比較が管理職に示しているのは、「部下の強みを活かす」とは、雰囲気を良くする活動ではなく、成果を出す行動と結び付けて初めて意味を持つということです。強み診断の結果を見て「この人は共感性が高いから、チームの空気づくりを任せよう」で終わると、環境のみ良好の4%に近づきます。「共感性が高いから、顧客の潜在ニーズを引き出す商談の最前線に置く」と、成果に接続して初めて88%の側に入ります。本記事で扱う「診断結果を上司の行動に翻訳する」とは、この接続を一人ひとりについて設計することです。

当社の管理職研修では、この「強みを成果に接続する」設計を、部下育成の5要素のひとつ「モチベーションを上げる」の中に組み込んでいます。研修の全体像は管理職・実践型マネジメント研修のページでご覧いただけます。

部下の強みを「雰囲気づくり」ではなく「成果」に接続させる管理職研修を設計したい方へ。貴社の管理職の現状に合わせたプログラム設計をご提案します。

▶ 管理職・実践型マネジメント研修を見る|▶ お問い合わせ

診断を受けさせても上司の行動が変わらないのはなぜか?

結論から述べると、原因は診断の精度ではなく、診断結果が「本人の自己理解」で止まり、上司が読んで動くための形になっていないことにあります。当社が管理職研修のご相談で見てきた「診断を入れたのに変わらない」ケースには、共通する3つの詰まりがあります。

詰まり1:レポートの読み手が「本人」で終わっている

ストレングスファインダーの結果レポートは、受検者本人が自分の資質を理解するために書かれています。上位5資質の説明は丁寧ですが、「この部下を持つ上司は、来週の1on1で何を変えればよいか」までは書いてありません。上司の手元に届くのは資質名の一覧だけで、そこから行動を組み立てる作業は上司任せになります。多くの上司はその作業をする時間も方法も持っていないため、レポートは共有フォルダに保存されて終わります。当社がマネージャー育成フォーラム2024で紹介した「上司向けビデオ教材」は、この詰まりを解消するために、部下の資質ごとに上司が取るべき行動を3〜5分の映像にして上司へ届ける設計にしています(詳細は後述の研修設計の章で扱います)。

詰まり2:見えている「行動」だけを見て、「動機」を読んでいない

ATD人材育成国際会議2018で、PSP社とExxonMobilが「Core Strengths」の実践を発表した際に使った比喩が、この詰まりをよく表しています。強みは「浮き」であり、水面に見えていて環境によって変わる。動機は「錨」であり、水面下にあって外からは見えない。人は相手を見ても、何がその人を動かしているかを自動的には知り得ない、という整理です。

上司が診断結果から「この部下は学習欲が高い」とだけ受け取ると、「では勉強会に出してあげよう」という表面的な対応になりがちです。しかし学習欲の資質を持つ人が本当に動かされているのは、学んだ結果ではなく「学ぶプロセスそのもの」です。短期間で新しいことを多く学び、一段落したらまた別のことに取りかかれる環境で力を発揮します。この動機を読めていないと、同じ勉強会を毎年受けさせて「飽きられた」という結果になります。診断結果の翻訳とは、浮きとして見えている資質名から、錨である動機を読み取り、それに合う仕事の与え方を決めることです。

詰まり3:強みを活かす前に、モチベーションを下げる要因を放置している

3つ目の詰まりは順番の問題です。強みを活かす働きかけは、本人のモチベーションが一定水準にあって初めて効きます。当社のモチベーション向上研修では、強みの話に入る前に「下げる要因を減らす」ことを先に扱います。下げる要因と上げる要因は、同じテーマの裏表として対になっており、下げる側を放置したまま上げる側だけを足しても相殺されてしまうからです。

モチベーションが下がる要因

同じテーマが上がる要因に転じる

達成感

達成感が味わえない仕事が続く

→ 区切りのある仕事で達成感を味わわせる

小さく完了する単位に仕事を切る

上司の関心

上司は自分に関心がないと感じる

→ 褒める・認める、頻繁に声をかける

変化に気づき、言葉や態度で示す

仕事の中身

意欲の湧かない仕事・定型的な仕事ばかり任される

→ やりがいのある仕事・創造的な仕事を任せる

ここで初めて「強み」が割り当ての根拠になる

裁量

指示・命令される

→ 裁量権を委ねる

進め方を本人に決めさせる

貢献の実感

社会や周囲への貢献を感じない

→ 誰の役に立っているかを言葉にして伝える

成果の先にいる相手を見せる

順番の原則:「下がる要因」を先に減らしてから、「上がる要因」を足します。強み診断が効くのは3段目「仕事の中身」の割り当てからで、1〜2段目が放置されたままでは効きません。(出典:当社マネージャー育成フォーラム2024「モチベーション向上」)

この表が示しているのは、強み診断の出番が「仕事の割り当て」という特定の場面にあることです。達成感がなく、上司から関心を向けられていないと感じている部下に、いきなり資質に合った仕事を振っても、本人には「また新しい仕事を押し付けられた」としか映りません。逆に、下げる要因を減らしたうえで「あなたの共感性を活かして、この顧客対応を任せたい」と伝えれば、同じ仕事の割り当てが「自分を見てくれている」という受け取りに変わります。診断結果を翻訳する手順は、次の章で扱う3つの診断の使い分けと、その次の章で扱う資質別の行動例に分けて解説します。

なお、マネージャー育成フォーラム2024で扱った「ヒューマンスキル」「ギャップマネジメント」「モチベーション向上」の全体像は、マネージャー研修の設計|トレンド・内容・実施形態を3層で体系化にまとめています。

3つの強み診断の使い分け|ストレングスファインダー・STANDOUT・エニアグラム

結論から述べると、診断ツールは「どれが正しいか」ではなく、粒度と運用コストのバランスで選ぶものです。細かい診断ほど上司の行動に翻訳しやすい一方で、受検の手間と費用、そして上司が読み解く負担が増えます。本記事では、当社の研修で実際に使っているストレングスファインダーとエニアグラムに、ATD人材育成国際会議で紹介されたSTANDOUTを加えた3つを、この軸で整理します。

ストレングスファインダー(34資質)とSTANDOUT(9役割)はどう違うのか?

両者は同じMarcus Buckingham氏の系譜にある診断です。Buckingham氏はストレングスファインダーの開発に関わった後、2011年のASTD ICE(現ATD人材育成国際会議)の基調講演で、その進化版としてSTANDOUTを発表しました。当社の報告書に残る講演の要点は「弱みの克服よりも強みの強化を目指す」「イノベーションの原動力は人そのもの」であり、STANDOUTは人がもっとも力を発揮できる役割(Strength Role)を9種類に特定し、上位2つを診断する設計です。

ストレングスファインダー(クリフトンストレングス)

STANDOUT(2011年・進化版)

粒度:34の資質

上位5資質が本人に返される。組み合わせが多く、一人ひとりの輪郭が細かく出る

→ 粒度:9つの役割

上位2役割が返される。組み合わせは少なく、チーム内で共通言語にしやすい

結果の読み手:本人

自己理解のためのレポート。上司が行動に翻訳する作業は別途必要

→ 結果の読み手:本人+マネジメント

役割ごとに「顧客対応・営業・チームの管理でどう動くか」の実践アドバイスが付く

向く場面:個別マネジメントの本体

資質ごとの動機づけ・下がった時の対処を上司に渡せる(次章で例示)

→ 向く場面:役割分担とチーム編成の入口

9役割の組み合わせでプロジェクトの配役を考えるときに使いやすい

使い分けの原則:一人ひとりの関わり方を決めるならストレングスファインダー、チームの中での役割を話し合うならSTANDOUT。どちらも「上位の結果を上司がどう使うか」を決めないと、レポートで止まります。(出典:当社ASTD ICE 2011報告書、マネージャー育成フォーラム2024)

この対比で押さえておきたいのは、STANDOUTが「ストレングスファインダーでは説明されなかった詳細な行動アドバイスが得られ、リーダーシップ/マネジメント研修に応用しやすい」と当時の報告書で評価されている点です。つまり、上司の行動への翻訳という本記事の主題に対しては、STANDOUTの方が最初から翻訳済みの形で結果が返ってきます。一方で9役割という粗さは、部下一人ひとりの違いを細かく捉えるには足りません。チーム編成や役割分担の議論にはSTANDOUT、個別の1on1や仕事の割り当てにはストレングスファインダー、という使い分けが実務上は自然です。なお、STANDOUTの診断は発表当時は英語版のみでした。

STANDOUTの9つの役割

9つの役割は、当社の報告書では一覧として記録されています。ここでは上司が配役を考えやすいよう、本記事の整理として「人を動かす」「人を支える」「状況を整える」の3群に分けて示します(原資料にこの3群の分類があるわけではありません)。

人を動かす役割|Influencer・Stimulator・Teacher

Influencer(インフルエンサー)は人々と直接かかわって納得させる、説得が原動力の人。Stimulator(スティミュレーター)は人々の感情の世話役で、振り向かせ、持ち上げることに責任を感じる人。Teacher(ティーチャー)は他人に秘められた可能性にわくわくし、それを解き放つ方法を学ぶことで力を発揮する人。

人を支える役割|Advisor・Provider・Connector

Advisor(アドバイザー)は他人の問題に反応し、解決することに力を発揮する実際的で具体的な思考の人。Provider(プロバイダー)は人の感情を察知し、知ったら声をかけずにはいられない人。Connector(コネクター)は化学でいう触媒で、人と人、アイディアとアイディアを結び付けて大きくすることに喜びを見いだす人。

状況を整える役割|Creator・Equalizer・Pioneer

Creator(クリエイター)は物事をばらばらにし、より良い形を見いだし、つくり上げながら世の中を理解する人。Equalizer(イコライザー)は実際的・倫理的にバランスをとることで力を発揮する冷静な人。Pioneer(パイオニア)は世界をフレンドリーな場所と考え、不安定な場面で楽観主義によって力を発揮する人。

この3群で見ると、上司がまず確認すべきは「自分のチームの上位2役割が、どの群に偏っているか」です。たとえば「人を支える」群ばかりのチームは居心地が良い反面、前章で見た「環境のみ良好」に陥りやすく、「人を動かす」役割の人に意図的に推進役を任せる必要があります。逆に「人を動かす」群に偏ったチームは、Equalizerのようにバランスをとる人が不在だと摩擦が増えます。STANDOUTは、個人の診断というより、こうしたチームの配役を話し合う材料として使うと効果が出ます。

エニアグラムは「粗い入口」として位置づける

3つ目のエニアグラムは、性格を9つのタイプに分ける診断で、当社のマネージャー育成フォーラムでは「分析追求型」「目標達成追求型」「安心追求型」「援助追求型」など、動機に基づく名称で扱っています。ストレングスファインダーが「詳細だが手間と費用がかかる」のに対し、エニアグラムは「大まかだが手間が少なく費用がかからない」のが実務上の違いで、当社では新入社員の配属後フォローでもこの比較で使い分けを提案しています(新入社員の配属後フォロー|4ステージで設計するメンター育成の年間プログラム)。

管理職の個別マネジメントにおいては、エニアグラムを「ストレングスファインダーを全員に受けさせる前の粗い入口」と位置づけるのが現実的です。タイプごとの「やる気が起きる一言」と「モチベーションが下がる要因」は、上司が今日から使える粒度で整理されており、診断費用をかけずに「この部下はどの一言で動くか」の仮説を立てられます。タイプ別の動機づけのうち、管理職になりたがらない若手に多い安心追求型・援助追求型の扱い方は、管理職になりたくない若手の本音と魅力の伝え方で詳しく解説しています。エニアグラムの9タイプそのものを使ったチームの相互理解は、本記事の範囲を超えるため別記事で扱います。

診断結果を上司の行動に翻訳する方法|「学習欲」「共感性」の例

結論から述べると、翻訳とは資質名を「動機」に言い換え、その動機に合う「仕事の与え方」と「下がったときの対処」を1資質ごとに決めておく作業です。当社のマネージャー育成フォーラム2024では、ストレングスファインダー34資質のうち「学習欲」と「共感性」の2つを例に、上司向けのヒントを整理しました。ここでは、その2資質を使って翻訳の手順を示します。

翻訳の4ステップ

上司が診断結果を受け取ったあとに行う作業は4段階に分かれます。多くの上司は1段階目で止まっています。

1

上位資質から、仕事に直結する1つを選ぶ

上位5資質を全部扱おうとしない。今の担当業務でもっとも使われている資質を1つに絞ります。

2

資質名を「何に動かされるか」の一文に言い換える

学習欲なら「学んだ結果ではなく、学ぶプロセスに動かされる」。ここを飛ばすと、勉強会に出すだけの表面的な対応になります。

3

動機に合う「仕事の与え方」を1つ決める

褒め方ではなく、割り当てる仕事と任せ方で決めます。前章で見たとおり、強みが効くのは仕事の中身の場面です。

4

「下がったときのサイン」と対処を先に決めておく

資質が強い人ほど、その資質が満たされないときの落ち方も大きい。サインと対処を事前に持っておくと、1on1で後手に回りません。

この4ステップの要点は、2段階目の「言い換え」にあります。資質名は診断ツールのラベルであり、上司の行動の根拠にはなりません。「何に動かされる人か」を自分の言葉で一文にできて初めて、仕事の割り当てと下がったときの対処が導けます。以下に、学習欲と共感性でこの4ステップを実際に埋めた例を示します。

「学習欲」と「共感性」で埋めた翻訳例

学習欲が上位の部下

共感性が上位の部下

動機:学ぶプロセスそのもの

学んだ内容や結果より、短期間で新しいことを多く学び、一段落したら次へ移れる環境で力を発揮する

動機:人の気持ちを察し、代わりに表せること

他人の感情を自分のことのように感じ、うまく表現できない人の気持ちを代弁できるときに力を発揮する

上司が増やす行動:新しいテーマを次々に渡す

新規プロジェクトや専門外の職場に配属する/他社・他分野を調査させる/チャレンジ的なテーマを与える/学ぶための時間とツールを用意する/知識の豊富な人を上司にする

上司が増やす行動:人と関わる場面を任せる

個人作業よりグループで進める仕事を任せる/それぞれの思いを発言できる場をつくる/対面でコミュニケーションする/「君だけだよ」と頼る/困っている人の橋渡し役を任せる

下がるサイン:「全部知った」「同じ作業の繰り返し」

対処:目標がもっと先にあることを分からせる/次の目標を立てさせる/配置転換を検討する/作業的な仕事が続くなら仕事以外の学びを探させる/思いつきのアドバイスには根拠を添える

下がるサイン:「人間関係がギクシャク」「放置されている」

対処:小さい単位の人間関係から築かせる/人間関係が壊れた組織なら配属を検討する/気持ちを発信する場をつくる/「ありがとう」が届く仕組みにする/声をかける頻度を上げる

翻訳の型:同じ3つの観点(動機/増やす行動/下がるサインと対処)を資質ごとに埋めます。学習欲では「仕事の新しさ」が、共感性では「人との関わり」が、上司が動かすレバーになります。(出典:当社マネージャー育成フォーラム2024「内的モチベーション」)

この翻訳例から読み取ってほしいのは、同じ「褒める」でも中身が変わるという点です。学習欲の部下には「よく調べたね」よりも「次はこのテーマを任せたい」が効き、共感性の部下には「成果が出たね」よりも「あなたがいたからチームがまとまった」が効きます。前章の対比で「仕事の中身」の段に強み診断の出番があると述べたのは、このためです。上司が増やす行動の欄を見ると、どちらも「言葉のかけ方」ではなく「仕事の割り当て方」が中心になっています。

もうひとつ重要なのは、下がるサインの欄です。学習欲の部下が「全部知った」と感じたとき、共感性の部下が「放置されている」と感じたときは、資質が満たされていない状態です。このサインを上司が事前に知っていれば、1on1で「最近どう?」と漠然と聞く代わりに、「今の仕事、新しさは残っている?」「チームの中で気持ちを出せている?」と、資質に沿った問いを立てられます。問いの立て方そのものは、GROWモデルの記事で扱っているため、本記事では「何を聞くか」の材料だけを提供します。

当社では、この翻訳を34資質すべてについて上司向けに用意し、研修の中で部下ごとに埋めてもらう運用をしています。その具体的な組み込み方は、最終章の「研修でどう組み込むか」で解説します。

個人のスキルから組織の共通言語へ|米国政府機関が1,672人に展開した事例

結論から述べると、強み診断は上司個人の技術として終わらせず、組織の共通言語にしたときに成果が安定します。ATD人材育成国際会議2018で発表された、米国ジョージア州の政府機関DBHDD(行動保健・発達障害局)の事例は、強み診断を全階層に展開して風土を変えた例として、当社の報告書で詳しく記録しています。

CASE STUDY:ジョージア州DBHDD ― 強み診断(SDI)で官僚的な風土を変える

BEFORE

依存症・知的発達障害の支援を担う政府機関。機能別に細かく分かれていた組織を約10年前に統合し、新たなミッションとビジョンを策定したが、「官僚的な考え方」が変革の障害になっていた。

AFTER

16カ月で1,672人が受講。受講者の98%が自分の強みを理解し、85%が職場の人間関係が良くなったと回答。10年計画の変革の一部として、市民へのサービス水準を高めることに成功。

やったこと ― 診断を「共通言語」にするための3つの仕組み

1. 社内認定講師48人を育てた

外部講師に頼らず、社内に認定ファシリテーターを置き、16カ月で99回の研修を8拠点で回した。集合研修への投資は抑えた。

2. Lunch & Learnを21回開いた

研修の外で、昼食中の勉強会を繰り返し、診断の言葉を日常会話に持ち込んだ。わかりやすい3色のビジュアル中心のレポートを使った。

3. 全階層で実施した

管理職だけ、若手だけにしない。社内メンバーそれぞれの反応・変化を確認しながら、全階層に展開して共通言語にした。

ポイント:成果を生んだのは診断ツールの精度ではなく、「社内に講師を置く」「研修の外で使う」「全階層に広げる」という運用です。(出典:当社ATD人材育成国際会議 報告会2018 レポート)

この事例で使われたSDI(Strength Deployment Inventory)は、ポーター博士の人間関係に対する意識研究に基づく診断で、ストレングスファインダーとは別のツールです。DBHDDが数ある診断からSDIを選んだ理由として報告書に挙げられているのは、「簡単」「行動だけでなく裏の根拠(動機)も分かる」「ありがちな2×2マトリックスより適切」「ステレオタイプになりにくい」「共通言語になる」の5点です。ツール名は違っても、本記事で述べてきた「行動の裏の動機を読む」「上司だけでなく組織の言葉にする」という要件は共通しています。

「自分の強みを理解」から「メンバーの強みを活かす」までの落差

この事例でもっとも注目すべきは、受講者アンケートの5項目の間にある落差です。

DBHDD受講者アンケート(1,672人・ATD2018)

「自分」から「他者の強みを目標に活かす」へ進むほど、達成率は下がる

自分の強みを理解している
98%
自己・他者理解が深まった
93%
目標達成に自分の強みを活かせる
91%
職場の人間関係が良くなった
85%
メンバーの強みを目標達成に活かせる
74%

読み方:1,672人規模で全階層に展開しても、「メンバーの強みを活かす」は74%にとどまります。自分の理解と他者への適用の間にある24ポイントが、上司への翻訳が必要な範囲です。

98%と74%の差は、本記事の主題そのものです。自分の強みを理解することは診断を受ければほぼ達成できますが、「メンバーの強みを目標達成に活かす」は上司の行動の問題であり、診断だけでは届きません。DBHDDほど徹底して展開した組織でも、この最後の一段は4人に1人が未達でした。裏を返せば、管理職研修で狙うべきはこの一段であり、前章の「翻訳の4ステップ」を上司全員に身につけさせることが、組織として強みを活かす状態への最短経路になります。

本章で引用したATD人材育成国際会議2018の事例に加え、第1章で引用したZenger Folkman社のエンゲージメントデータは、ATD2026の帰国報告会レポートに収録しています。

「3つの強みでエンゲージメント86%」「成果×環境で88%」などZenger Folkman社の最新データを含む、ATD2026帰国報告会のフルカラーレポートを無料でダウンロードいただけます。

▶ ATD2026 帰国報告会レポートをダウンロードする|▶ お問い合わせ

研修でどう組み込むか|アセスメント→レポート→上司向け映像の3ステップ

結論から述べると、強み診断を管理職研修に組み込む際の設計要件は、診断結果を「本人」ではなく「上司」に届け、上司が翻訳する作業を研修の中で済ませることです。当社がマネージャー育成フォーラム2024で紹介した「上司向けビデオ教材」は、この要件を3ステップの運用にしたものです。

上司向けビデオ教材の運用フロー(当社マネージャー育成フォーラム2024)

STEP 1

部下のアセスメント

部下がストレングスファインダーを受検し、上位資質を特定する

→
STEP 2

上司へのレポート提出

結果を本人で止めず、上司の手元に部下ごとの資質レポートを届ける

→
STEP 3

上司へのアドバイス映像

34資質ごとに「特徴・動機づけのコツ・下がるポイントと対応」を3〜5分の映像で届ける

この3ステップで重要なのは、STEP 3の映像が「部下向け」ではなく「上司向け」である点です。映像1本は3〜5分で、1つの資質について「部下の理解を深めるための特徴」「強みとモチベーションを引き出す具体的なヒント」「モチベーションが下がるポイントと対応策」の3項目で構成されています。これは前々章の翻訳例で示した「動機/増やす行動/下がるサインと対処」の3観点と同じ構造で、上司が自力で翻訳する代わりに、翻訳済みの材料を資質ごとに受け取れる形にしたものです。STEP 1で止まる組織が多い中で、STEP 2とSTEP 3を仕組みとして持つかどうかが、診断が機能するかどうかの分かれ目になります。

1日研修の中でどう扱うか|「外向」と「内向」の順番

当社のモチベーション向上研修(1日)では、午前に「外向的なモチベーション」、午後に「内向的なモチベーション」を扱います。午前は第2章で示した「下げる要因を減らす・上げる要因を増やす」の整理と、部下のモチベーションを高めるコミュニケーションのコツが中心です。午後に初めて「部下の才能を引き出すテクニック」として、ストレングスファインダーに基づく資質別の対応に入ります。この順番は、第2章で述べた「下げる要因を放置したまま強みを活かしても相殺される」という原則をそのまま時間割にしたものです。

研修の目的は「部下のモチベーションを高める方法を知る」「内向的モチベーションを引き出すメカニズムが分かる」「部下の強みを活かしてより良い成果を出す」の3つで、最後に各受講者が自分の部下について翻訳の4ステップを埋めたアクションプランを作ります。診断ツールの説明を聞いて終わるのではなく、自分の部下の名前を入れたプランを持ち帰ることが、研修後の1on1で行動が変わるかどうかを決めます。

部下育成の5要素の中での位置づけ

強みを活かすマネジメントは、単独の研修テーマというより、部下育成の全体像の一部として位置づけると定着します。当社の「チームメンバー成長支援強化研修」では、部下育成を「教える」「気づかせる」「定着させる」「モチベーションを上げる」「課題を解決する」の5要素で扱い、強みの特定と発揮は4つ目の「モチベーションを上げる」の中に、「下がる要因を減らす」「上がる要因を増やす」と並ぶ3番目の項目として組み込んでいます。前半3要素の中身は管理職研修で身につけるべき3つのスキル|ティーチング・コーチング・定着で解説しているため、本記事では4つ目の要素に絞りました。

この位置づけにしておくと、「強み診断を入れたい」という相談が「教える・気づかせる・定着させるは既にできているか」という点検に自然につながります。診断を先に入れても、上司が部下の話を聞けていなければ、資質レポートは活かされません。強み診断は部下育成の5要素のうち、他の4つが一定水準にある上司に渡して初めて効果を発揮するツールです。管理職研修全体の設計は管理職研修の完全ガイド|目的・内容・設計・効果測定にまとめています。

「診断は導入済みだが上司の行動が変わらない」「どの診断を選べばよいか決めかねている」という段階からご相談いただけます。貴社の管理職の人数・部下の構成に合わせて、診断の選定から上司向けの翻訳教材までをご提案します。

▶ お問い合わせはこちら|▶ 管理職・実践型マネジメント研修を見る

ストレングスファインダーを使ったマネジメントに関するQ&A

Q1. ストレングスファインダーは部下全員に受けさせるべきですか?

全員に受けさせる前に、上司側の受け皿を先に用意することを推奨します。診断結果が本人で止まると、受検者が増えるほど「受けたのに何も変わらない」という不満も増えます。まず管理職が「資質を動機に言い換え、仕事の与え方と下がったときの対処を決める」翻訳の手順を身につけ、そのうえで部下に受検してもらう順番が安全です。費用をかけずに仮説を立てたい段階では、エニアグラムのような粗い診断から入る方法もあります。

Q2. 強みに注目すると、弱みの改善がおろそかになりませんか?

ATD人材育成国際会議2026でZenger Folkman社が示した整理では、チームに致命的な欠陥がある場合は弱点の改善が効果を発揮し、それ以外の場面では強みの組み合わせを増やす方が成果につながります。つまり「弱みを見ない」のではなく、「致命的な弱みだけを直し、残りは強みで補う」という優先順位の問題です。業務に支障が出ている弱みは改善対象にし、そうでない弱みは他のメンバーの強みで補う配役を考えます。

Q3. ストレングスファインダーとエニアグラムはどちらを選べばよいですか?

一人ひとりの仕事の割り当てまで細かく決めたいならストレングスファインダー、費用をかけずに「この部下はどの一言で動くか」の仮説を立てたいならエニアグラムが向いています。ストレングスファインダーは34資質で詳細な反面、受検の手間と費用がかかります。エニアグラムは9タイプで大まかですが、手間が少なく費用がかかりません。当社では、エニアグラムを入口にして上司の観察眼を養い、必要に応じてストレングスファインダーで深掘りする順番を提案しています。

Q4. 診断結果を上司に共有することに、部下が抵抗した場合はどうしますか?

共有の目的を「評価」ではなく「仕事の与え方を合わせるため」と事前に伝えることが前提です。当社の上司向けビデオ教材の運用では、レポートを上司に提出するのは「上司が部下の強みを引き出すためのヒントを受け取る」ためであり、資質が評価や昇進に使われることはないと明示します。それでも抵抗がある場合は、上位資質のうち本人が共有してよいと判断した1〜2つに絞る方法もあります。翻訳の4ステップは1資質からでも始められます。

まとめ|診断は「上司の行動」に翻訳して初めて機能する

本記事では、ストレングスファインダーを中心とした強み診断を、部下の個別マネジメントに活かす方法を解説しました。要点は4つです。第一に、強みで部下を見る根拠は、優れた強みを3つ持つ人のエンゲージメントが86%に達し、その要因の70%が直属の上司とチーム環境にあるという最新データにあります。第二に、診断を受けさせても上司の行動が変わらないのは、結果が本人で止まり、動機が読まれず、下げる要因が放置されているからです。第三に、診断はストレングスファインダー・STANDOUT・エニアグラムを粒度と運用コストで使い分け、資質名を動機に言い換えてから仕事の与え方と下がったときの対処を決める「翻訳の4ステップ」で上司の行動に落とします。第四に、米国政府機関の1,672人事例が示すとおり、自分の強みの理解(98%)とメンバーの強みの活用(74%)の間にある落差こそが、管理職研修で埋めるべき範囲です。

部下の強みを「上司の行動」に翻訳する管理職研修

ストレングスファインダーの結果を上司向けの資質別アドバイスに翻訳する教材と、部下育成の5要素の中にモチベーション向上を組み込んだ管理職研修をご提供しています。診断の選定段階、あるいは「導入したが機能していない」段階からご相談ください。

管理職・実践型マネジメント研修を見る

▶ お問い合わせはこちら

関連コンテンツ

「わかった」で終わらない。「できる」ようになる。
研修内容を実践で活かし、徹底した定着フォローにより職場で成果を出す

演習中心の飽きさせないダイナミックな研修

人材育成、企業研修に関するお問い合わせはこちらからどうぞ

WEBサイトに掲載されていない研修も多数ございます。
最適なご提案をさせていただきます

03-5368-0890
メールフォームからのお問い合わせはこちら
メルマガ登録
無料レポートダウンロード
Copyright IDEA DEVELOPMENT INC.
All rights reserved.
TOPへ