企業研修のトレンド|リモート・ブレンデッドラーニング設計の実践ポイント

2020年春、多くの企業がほぼゼロからオンライン研修を立ち上げることを迫られました。準備期間も前例もないまま、研修を動かし続けなければならなかった。あの経験は、日本の企業研修に対する考え方を根本から変えたといえるでしょう。
それから5年。リモート研修は「緊急対応」から「選択肢のひとつ」を経て、今や研修設計の前提条件になっています。集合研修とオンライン学習を組み合わせるブレンデッドラーニングも、かつての「いつか実現したい理想」から「多くの企業が実際に取り組んでいる実践」へと変わりました。
一方で、「リモートに切り替えたものの、受講者が受け身になっている」「ブレンデッドラーニングに取り組みたいが、何から始めればいいかわからない」という声は今も少なくありません。リモート研修の導入は進んだものの、その設計を最適化する段階に入った企業が多いのが実情です。
本記事では、コロナ禍が企業研修にもたらした構造的な変化をデータとともに振り返り、そこから生まれた3つの潮流を整理します。そのうえで、ブレンデッドラーニングの設計を段階的に進めるための実践ポイントを、今まさに研修の見直しに取り組む人事・研修担当者に向けてお伝えします。
コロナ禍が企業研修にもたらした構造変化——データで見る転換点
2020年4月、多くの企業が一斉にリモート研修へ移行しました。当初は各社の対応に大きな差がありました。しっかりと成果を出せた企業がある一方で、想定外のトラブルに見舞われ、試行錯誤を繰り返した企業も少なくありませんでした。
しかし同年12月には状況が大きく改善しています。弊社が2020年12月に開催したイベント(参加者160名)でのアンケートでは、「リモート研修をやってみてどうだったか」という問いに対し、約70%が「良い」と回答。さらに「今後の研修実施形態はどうなると思うか」という問いでは、83%が「今後もほぼ100%またはそれに近い割合でリモートを継続する」と回答しています。
2020年4月の「手探りの緊急対応」から、同年12月には「リモート研修は使える」という実感に変わっていたことがこのデータからわかります。わずか8ヶ月で企業研修の「当たり前」が塗り替わったのです。この急速な転換は、その後の研修設計に3つの構造的な変化をもたらしました。
転換点が生んだ3つの変化
変化1:リモート研修が定着し、「質」の課題が前面に出てきた
リモート化によって「費用・移動・時間・場所の制約が減り、開催側も受講側も負担が軽くなった」というメリットは広く認識されました。その結果、従来の集合研修をそのままオンラインに置き換える形が急速に広まり、集合形式は経営層による特別なイベントや参加者同士の交流を主目的とする場合に限られるようになりつつありました。
ただし、この流れには落とし穴がありました。「従来の研修をそのままオンラインに移す」だけでは、一方通行の講義がオンラインでも再現されるだけです。実際に研修現場からは「カメラもマイクもオフにしたまま参加している受講者が増えた」という声が上がり始めました。画面の前にいるだけで、実質的には参加していないのと同じ状態です。
リモート研修を「使える手段」として機能させるためには、研修設計そのものを変える必要がある。この認識が広がったことで、「オンラインでいかに受講者を巻き込むか」という設計の議論が本格化しました。研修の効果測定モデルに注目が集まったのも、この時期です。「やったかどうか」ではなく「行動が変わったかどうか」を問う視点が、リモート研修の質を考えるうえで不可欠になったからです。
変化2:人事・研修部門に求められるスピードと柔軟性の高まり
リモート化と同時に、組織内のさまざまな層から新しいニーズが噴出しました。経営層は双方向でやりとりできるコミュニケーション手段を求め、現場社員はリモート勤務の中でチームワーク不足やモチベーションの低下を感じていました。管理職もメンバーとのコミュニケーションの取り方に悩みを抱えるようになっていました。
以前であれば、これらのニーズは年度計画の中でゆっくり対処できたかもしれません。しかしリモート環境下では、課題の発生から深刻化までのスピードが早く、人事・研修部門には「現場の変化を素早くキャッチし、迅速に対応する」ことが求められるようになりました。
年に一度の研修計画を粛々と実行するだけでは、現場の変化についていけない。この認識が、研修部門の役割そのものを再定義するきっかけになっています。研修の企画・設計スキルを体系的に学び直す動きも、こうした背景から生まれたものです。
変化3:ブレンデッドラーニングが「理想」から「実践」へ
集合研修とオンライン学習を組み合わせた「ブレンデッドラーニング」は、コロナ以前からキーワードとして語られていました。しかし「ツールを統合するIT基盤がない」「情報システム部門の制約が厳しい」といった理由で、実際に取り組めていた企業は限られていました。
コロナ禍での強制的なリモート移行が、この状況を一変させました。ビデオ会議ツール、チャットツール、クラウド上の資料共有——これらが業務の前提として導入されたことで、研修でも同じ環境をそのまま活用できるようになったのです。
人事担当者も受講者も、「集合研修以外にどのような学び方があるか」をリモートで体験したことで、初めて現実的に考えられるようになりました。技術的な壁が取り払われた今、残された課題は「どう設計するか」です。
ブレンデッドラーニングの設計——3つのステップで段階的に進める
ブレンデッドラーニングの設計は、いきなり複雑なプログラムを目指す必要はありません。弊社が推奨するのは、以下の3段階で段階的に高度化していく進め方です。それぞれの段階には明確な「設計のポイント」と「得られる効果」があり、自社の現在地に合わせてどこから着手するかを判断できます。
第1段階:インプットとアウトプットを分離する
最も取り組みやすいのは、「事前にビデオや資料で知識を入れておき、オンラインセッションではディスカッションや演習に集中する」という設計です。いわゆる反転授業(フリップドラーニング)の考え方で、これだけでもオンラインセッション中の受講者の参加度は大きく変わります。
ポイントは、事前課題を「読むだけ」で終わらせないことです。たとえば「動画を見たうえで、自分の業務に当てはめた事例を1つ考えてくる」という課題を出せば、セッション冒頭から受講者が発言できる状態をつくれます。「聞くだけ」の状態が減り、考える・発言する・動くという行動が増えることで、オンライン研修の質が格段に上がります。
第2段階:学習→実践→振り返りのサイクルを作る
次の段階は、研修での学びを職場実践につなげ、その結果を持ち帰って振り返るサイクルをプログラムに組み込むことです。「研修で学ぶ→職場で2週間実践する→オンラインで振り返りを共有する」という流れを繰り返すことで、知識が行動として定着していきます。
この段階で重要なのは、「実践期間に何をするか」を研修中に具体的に決めておくことです。「学んだことを活かします」では行動に結びつきません。「来週の1on1で、今日学んだ傾聴のスキルを使って部下の話を最後まで聞く」のように、いつ・どこで・何をするかを明確にすることが、実践率を大きく左右します。
研修が「学ぶ場」ではなく「変わる場」になるためには、このサイクルの設計が不可欠です。研修効果測定のモデルでも、行動変容(レベル3)の評価が重視されるのはこのためです。
第3段階:ラーニング・ジャーニーとして設計する
最終的に目指すのは、自己学習・職場実践・リモート研修・コーチングを有機的に組み合わせた「ラーニング・ジャーニー」です。受講者が数ヶ月にわたって学び・実践し・フィードバックを受け・また実践するという、旅のような学習体験を設計します。
たとえば「事前動画で基礎インプット(1週目)→ リモート研修で演習(2週目)→ 職場で実践(3〜4週目)→ コーチングで振り返り(5週目)→ 応用演習(6週目)」のように構成します。単発の研修と比べて行動変容の定着率が大幅に高まるだけでなく、受講者自身が「自分の変化」を実感できるため、学習へのモチベーションも持続します。
ブレンデッドラーニングの設計や自社に合ったプログラム構成についてのご相談は、弊社の無料相談からお気軽にどうぞ。貴社の研修体系や現在の課題に合わせた設計のヒントをお伝えします。
今すぐ取り組める3つの実践ポイント
「設計の見直しに着手したいが、どこから手をつければいいかわからない」という担当者に向けて、今日から実践できる具体的な起点を3つ紹介します。
ブレイクアウトルームの活用で「参加する研修」に変える
オンライン研修の質を高める最も即効性のある手段は、ブレイクアウトルーム(ビデオ会議ツールの小グループ分割機能)を積極的に活用することです。全体講義の時間を減らし、少人数でのディスカッションや演習の時間を増やす。研修時間全体のうち演習を7割、講義を3割程度に設定することを目安にすると、受講者の能動的な参加が格段に増えます。
「講義で伝えたい内容が多くて削れない」という声もよく聞きます。その場合こそ反転授業の出番です。講義部分を事前の動画や資料に切り出すことで、セッション当日は演習に集中できる時間が生まれます。新入社員研修の設計でも、この「インプットの事前化+セッション中の演習比率アップ」は効果が高い手法です。
現場ニーズを定期的にキャッチする仕組みをつくる
研修部門が年度計画だけで動くのではなく、現場社員・管理職・経営層がそれぞれ何に困り、何を求めているかを定期的にキャッチできる接点を持つことが重要です。四半期ごとの簡易アンケート、マネージャーとの定例ミーティング、研修後のフォローアップ面談など、情報が自然に入ってくる仕組みをつくっておくと、研修プログラムの企画精度が上がります。
人事だけで考えていても見えない課題が、現場との対話の中から見えてきます。この「ニーズ把握の仕組み化」は、ブレンデッドラーニングの設計に限らず、研修全体の質を底上げする基盤になります。
研修設計の発想を「アウトプット中心」に切り替える
最も根本的な変化は、研修の設計思想を「教える」から「使う」に切り替えることです。研修の場では受講者が考え、発言し、動くことに時間を割く。そのためのインプットは事前課題として整備する。この発想の転換が、ブレンデッドラーニングへの移行を自然な形で後押しします。
アウトプット中心の設計は、受講者のエンゲージメントを高めるだけでなく、研修の効果測定もしやすくなります。「何を知ったか」ではなく「何ができるようになったか」を見るため、研修の価値を組織内で説明する際の説得力も増します。
よくある質問
リモート研修と集合研修はどう使い分ければいいですか?
知識のインプットや個人演習が中心の内容はリモートが適しています。一方、初対面のメンバー同士の関係構築、経営層からのメッセージ発信、身体を使う体験型演習など「場の空気や一体感」が重要な内容は集合形式の方が効果的です。目的・内容・対象者に応じて使い分けることが基本で、「すべてをどちらかに統一する」必要はありません。
ブレンデッドラーニングの導入には大がかりなシステムが必要ですか?
大がかりなシステム導入は不要です。ビデオ会議ツール(Zoom、Teams等)と資料共有の環境があれば、まず第1段階(事前課題+オンラインセッション)から始められます。最初から完璧な仕組みを構築しようとするよりも、1つのプログラムで試してフィードバックを得て、段階的に展開していく方が現実的です。
オンライン研修で受講者が受け身になってしまう場合、どう改善できますか?
最も効果的な対策は、講義時間を削り、演習・ディスカッションの時間を増やすことです。具体的にはブレイクアウトルームで少人数の発言機会をつくる、チャット機能でリアルタイムに意見を出してもらう、冒頭に「今日のセッションで持ち帰りたいこと」を言語化させるなどが有効です。受講者が「参加者」ではなく「学習の主役」になれる設計を意識することがポイントです。
ラーニング・ジャーニーとは具体的にどのようなプログラムですか?
数週間から数ヶ月にわたって「学ぶ→実践する→振り返る→また学ぶ」を繰り返す学習設計のことです。たとえば「事前動画で基礎インプット(1週目)→ リモート研修で演習(2週目)→ 職場で実践(3〜4週目)→ コーチングで振り返り(5週目)」のように構成します。単発研修と比べて行動変容と職場への定着率が大幅に高まります。弊社ではこの設計を軸にした研修プログラムを提供しています。
リモート研修の効果をどのように測定すればいいですか?
研修直後の満足度アンケートだけでなく、「研修で学んだことを職場で実践したか」「実践した結果、行動が変わったか」を一定期間後に確認する仕組みを設けることが重要です。カークパトリックの4段階モデルでいうレベル3(行動変容)の測定を組み込むことで、リモート研修の実質的な効果を可視化できます。詳しくは研修効果測定の代表的なモデル比較もご参照ください。
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