人を動かす伝え方の3要素 Head・Heart・Hands|論理×誠意×実行で「正論なのに動かない」を解く

「筋は通っているはずなのに、相手が動いてくれない」「熱意を込めて頼んだのに、納得してもらえない」「何度言っても、結局こちらがやることになる」。管理職になる手前の次世代リーダーや新任管理職から、こうした「伝え方」の悩みがよく聞かれます。アイディア社がマネージャー育成フォーラム2026で公開した受講者調査でも、次世代リーダーのコミュニケーションの悩みのうち「コミュニケーションの質・伝え方(説明・傾聴・フィードバック・誤解)」は20%で第3位、新任管理職では「相手の理解度や意見を引き出す難しさ」が17%を占めていました。
先に結論を述べます。人が動く伝え方には、Head(論理)・Heart(誠意)・Hands(実行)の3要素が揃っている必要があります。「正論なのに動かない」のは、論理が足りないからではなく、論理はあるのに誠意か実行のどちらかが欠けているからです。逆に、熱意はあるのに納得されないのは論理が欠けており、言うだけで自分が動かない人の言葉は、どれだけ筋が通っていても相手を動かしません。
この3要素は、2001年にFortune500史上最悪の社員エンゲージメントを記録したキャンベルスープ社を、わずか2〜6秒の「タッチポイント」と呼ばれる声かけで8年後に史上最高へと引き上げた、CEO Doug Conant氏の実践から生まれたものです。アイディア社はこの発表をASTD ICE 2011(現ATD国際会議)の現地で取材し、報告書にまとめています。
本記事では、「正論なのに動かない」が起きる理由、Head・Heart・Handsの3要素とキャンベル社の事例、どの要素が欠けると相手がどう反応するかの診断マトリクス、3要素を一つのメッセージに組み込む伝え方の型、そして研修で「分かる」を「できる」に変える設計までを、アイディア社の研修データとATD国際会議の知見をもとに解説します。次世代リーダー・管理職の研修を企画する人事担当者と、いま伝え方に悩む管理職本人の双方に向けた内容です。
「正論なのに動かない」はなぜ起きるのか?|論理・誠意・実行のどれかが欠けている
相手が動かないとき、多くの人は「説明が足りなかった」と考えて、さらに論理を積み上げます。しかし、相手が動かない原因の多くは論理の不足ではありません。論理(Head)、誠意(Heart)、実行(Hands)のうち、どれか一つが欠けた状態で伝えているからです。3つのうち2つが揃っていても、相手は「分かるけれど動かない」という反応を返します。
このことを示す象徴的な事例が、アイディア社がラーニングイノベーションフォーラム2025で紹介した新入社員向けの研修設計にあります。多くの会社が新入社員研修にロジカルシンキング研修を入れており、ピラミッド構造やロジックツリー、MECEといった内容をしっかり定着させると、たしかに話はロジカルになります。ところが、そこで新しい問題が生じました。コミュニケーションが「ロボットやAIのように杓子定規」になってしまったのです。論理(Head)だけを鍛えた結果、相手への配慮や人間らしいトーン(Heart)が抜け落ち、正しいのに冷たい伝え方になったという事例です。アイディア社はこの問題を受けて、ロジカルな構成と人間らしいコミュニケーションを両立させる研修へと設計を変えました。論理の型そのものについては「ロジカルシンキングと伝える力は別物」の記事で解説しています。
「情報は伝わるのに、心が動かない」という症状
同じ症状は管理職にも見られます。マネージャー育成フォーラム2026では、外国籍社員をマネジメントする日本人管理職のプレゼンテーションの問題として「納得しない」「飽きる、つまらない」に並んで「情報伝達は良いが、心を動かせない」が挙がりました。内容は正確で構成も整っているのに、聞き手が自分ごととして受け止めない。これは論理が足りないのではなく、「なぜあなたに頼むのか」「それがあなたにとって何を意味するのか」という誠意の部分が伝わっていない状態です。
反対の症状もあります。思いは強く、相手のことも考えているのに、「なぜ今それをやるのか」「やるとどうなるのか」が整理されていないため、相手が判断できないケースです。この場合は論理(Head)が欠けています。そしてもう一つ、論理も誠意も揃っているのに、頼んだ本人が自分では動かず、次の一手も示さないケースがあります。相手から見れば「言うだけの人」であり、言葉がどれだけ正しくても行動は起きません。これが実行(Hands)の欠落です。
人事担当者にとってこの見方が持つ意味は、「伝え方の研修」を一括りにせず、受講者がどの要素を欠きがちかで打ち手を変えられることです。ロジカルコミュニケーション研修を受けた層が「冷たい」と言われるならHeartを、熱意型の若手が「根拠は?」と返されるならHeadを、頼み上手だが自分では動かない中堅にはHandsを足す必要があります。調査の全体像はマネージャー育成フォーラム2026のレポート記事にまとめています。次のセクションでは、この3要素がどこから生まれ、なぜ「2〜6秒の声かけ」が会社を変えるほどの力を持ったのかを見ていきます。
Head・Heart・Handsとは?|キャンベル社を8年で復活させた「2〜6秒の伝え方」
Head・Heart・Handsとは、相手を動かす短い言葉に必要な3つの要素で、Head(頭を使ってロジカルに考える)、Heart(誠の心を持って伝える)、Hands(実際に自分の手を動かす)を指します。缶詰スープで知られるキャンベルスープ社のCEO Doug Conant氏が、コンサルタントのMette Norgaard氏とともにASTD ICE 2011(現ATD国際会議)の基調講演で示したもので、同社の再建を支えた「タッチポイント」というコミュニケーションの中核にある考え方です。
タッチポイントとは、非常に短い言葉、時間にして2〜6秒程度でありながら、相手を尊重し、相手のエンゲージメントを強化できる声かけのことです。講演で紹介された例は「How can I help you?(何か手伝えることはありますか)」「You can do better.(あなたなら、もっとできる)」という、ごく平凡な一言でした。重要なのは言葉の長さや巧みさではなく、その短い言葉の中に3要素が揃っているかどうかです。Conant氏は、3つの要素を押さえていなければタッチポイントは機能しないと明言しています。
史上最悪から史上最高へ|キャンベル社で起きたこと
この考え方が注目されたのは、結果が極端だったからです。2001年にConant氏がCEOに就任した当時、キャンベル社の社員エンゲージメントはギャラップ社の調査でFortune500企業の中で史上最悪の水準にありました。そこから同社は、「Campbell valuing people, people valuing Campbell(社員を大切にするキャンベル社と、会社を大切にする社員)」というキャンベル・プロミスを掲げ、その達成度をギャラップ社のエンゲージメント診断でほぼ毎年測り続けました。経緯を時系列で見ると、言葉の変化が最初ではなく、最後だったことが分かります。
キャンベル社の社員エンゲージメント再建(ギャラップ社調査・ASTD ICE 2011基調講演より)
Conant氏がCEOに就任。社員エンゲージメントはFortune500の中で史上最悪の水準。問題解決の切り札としてエンゲージメント強化をトップ自らが決断
グローバルリーダー350人のうち300人を交代(内部昇格100人・新規採用200人)。CEO自らが主催する「CEO Institute」で、課題への不屈さ(Tough Minded)と人への優しさ(Tender Hearted)の両立を教育
リーダーたちが2〜6秒のタッチポイントを本気で実践し、徹底的に浸透。ギャラップ社調査で最高レベルのエンゲージメントに到達
Fortune500の中で史上最高のエンゲージメントを記録。Best Workplace、Best Customer Satisfaction、Best CSRに類する賞を多数受賞し、業績も大幅に向上
この時系列から読み取るべきことは二つあります。一つは、タッチポイントは「声かけのテクニック」として単独で導入されたのではなく、部下のエンゲージメントを引き出せる資質のあるリーダーだけでチームを再編し、そのリーダーたちを教育したうえで浸透させたものだという点です。もう一つは、CEO Instituteでリーダーに求めたのが「Tough Minded(課題に対しては不屈)」と「Tender Hearted(人に対しては優しい)」の両立だったことです。課題には論理で厳しく向き合い、人には誠意で接する。この二つが分離せずに一人の中に同居していることが、HeadとHeartが揃った伝え方の原型になっています。
アイディア社はこの事例を取材した報告書で、「低迷していた企業が社員の活性化に真剣に取り組んだら、超一流の会社に8年で生まれ変わった」と要約し、社員を大切にして力を引き出すことは本来、日本企業が得意としてきたアプローチだと述べています。人事部門が中心となって企業業績に貢献できることの実証例でもあります。取材の全体像はASTD ICE 2011レポートの記事にまとめています。
3要素の中身と、同じ名前の別フレームとの違い
Headは「頭を使ってロジカルに考える」こと、つまり相手に何を・なぜ求めるのかが整理されていることです。Heartは「誠の心を持って」伝えること、相手を尊重し、本気で相手のためを思っていることが言葉に表れている状態を指します。Handsは「実際に手を使って」、言った本人が自分で動き、具体的な行動につなげることです。講演では、この3つに加えて「Touch(相手に触れながら声をかける)」を含めた4要素版も示されましたが、身体接触を伴うこの要素は日本の職場にはなじみにくいため、本記事では3要素として扱います。
なお、「Head・Heart・Hands」という言葉は、人材育成の分野でほかの文脈でも使われています。たとえばKen Blanchard氏はサーバントリーダーシップの要点を「Heart(意図・動機)、Head(思い込み・考え)、Hands(手法・行動)、Habits(価値観・習慣)」の4つで説明しており、ATD国際会議2018でもこの整理が紹介されました。こちらはリーダー自身の内面と行動を整えるためのフレームです。本記事が扱うのは、Conant氏の「相手を動かす短い言葉に3要素を揃える」という伝え方のフレームであり、両者は別物です。検索で調べる際や社内で説明する際は、この違いを押さえておくと混乱がありません。
キャンベル社の例は、3要素が揃った言葉の力を示す一方で、どれか一つでも欠けると機能しないという裏面も持っています。次のセクションでは、Conant氏が示した「欠けた要素と相手の反応」の対応を、日本の職場でよく起きる症状に翻訳して診断できるようにします。
3要素のどれが欠けると、相手はどう反応するのか?|伝え方の診断マトリクス
相手の反応を見れば、自分の伝え方にどの要素が欠けているかを特定できます。Conant氏は基調講演で、Head・Heart・Handsのうち一つが欠けた3つの組み合わせと、3つが揃った状態の計4パターンを示し、それぞれの結果を「論理性がない」「信頼性がない」「スキルがない」「エンゲージメント」と整理しました。アイディア社の報告書に収録されたこの図を、日本の職場で実際に聞こえてくる相手の反応に翻訳すると次のようになります。
このマトリクスの価値は、「相手が動かない」という一つの結果を、原因の異なる3つの症状に分けられることにあります。原因が違えば処方も違います。Handsが欠けた人に論理の研修をしても「言うだけの人」のままですし、Heartが欠けた人に実行力の研修をしても、冷たさは変わりません。研修を企画する側にとっては、受講者の層がどの型に偏っているかを見てから中身を決める、という順序が重要になります。相手が動く動機そのもの(時間があるから、簡単だから、重要だから、やりたいから、あの人だから)については「人を動かす研修|5つの切り口」の記事が扱っており、本記事の3要素はその動機に火をつける「言葉の組み立て方」にあたります。
「話し方」の差ではない|人を動かす力の55%は性格に由来する
3要素のうちHeartとHandsが軽く見られがちなのは、伝え方の改善というと「話し方」や「資料の見せ方」を直すことだと思われているからです。しかし、人を動かす力の差は話し方の差ではありません。リーダーの「プレゼンス(組織を動かす存在感)」を研究するBates社がATD国際会議2018で示したデータでは、成長している企業のリーダーとそうでない企業のリーダーを分ける29の行動要素のうち、差の55%は性格(Character)、31%はスキル・中身(Substance)、スタイル(Style)はわずか14%でした。
成長企業のリーダーを分ける要素の内訳(Bates ExPI・29の行動要素)
差の86%は性格と中身にあり、話し方や見せ方にあたるスタイルは14%にとどまる
読み方:差が大きかった上位5項目は「約束を守る」「考えをしっかり伝える」「安定している」「適切な判断をする」「ビジョンがある」。約束を守るはHands、考えをしっかり伝えるはHeadにあたり、3要素が人柄として定着したものが「性格」の中身になっている。
このデータが示すのは、伝え方を変えるとは、声の出し方や資料の体裁ではなく、「約束したことを自分がやる」「考えを整理して伝える」「相手のことを考える」といった、日々の行動の積み重ねを変えることだという事実です。だからこそ、3要素は1回のプレゼンで身につけるものではなく、2〜6秒の短い言葉で毎日繰り返すことで初めて相手に伝わる「性格」になります。キャンベル社がタッチポイントという最小単位にこだわった理由もここにあります。信頼そのものを築く条件については「部下との信頼関係の築き方」の記事で詳しく解説しています。
アイディア社の「相手が動きたくなる研修」は、立場が弱くても相手に協力してもらうための伝え方を、簡単なコツから生き方の深い部分までバランスよく扱う1日研修です。受講者がどの要素を欠きがちかを演習の中で特定し、職場で使える言葉に落とし込みます。
3要素を一つのメッセージに組み込む「伝え方の型」は?|依頼文のBefore・After
3要素を伝え方に組み込む最も確実な方法は、一つのメッセージをHead・Heart・Handsの3層で点検することです。Headの層では「何を、いつまでに、なぜ」を一文で言えるか。Heartの層では「相手の状況を見ている一言」と「なぜほかでもないあなたに頼むのか」が入っているか。Handsの層では「自分が先にやること」と「相手の次の一手」が具体的に示されているか。この3つを確認してから口に出すだけで、同じ依頼でも相手の反応は変わります。
Headの層で使う「結論を先に、理由を添えて」という論理の組み立て方は、「ロジカルシンキングと伝える力は別物」の記事が扱う領域です。本記事で焦点を当てるのは、その論理に何を足せば相手が動くのか、という残りの2層です。管理職になる手前の次世代リーダーがよく直面する「権限のない他部署への依頼」を例に、Before・Afterで見てみます。
この例で注目したいのは、Afterの依頼に「期限厳守」という言葉がなくなっていることです。Beforeでは期限を守らせるために圧をかけていましたが、Afterでは「経営会議で判断材料になる」という理由(Head)と「金曜の午前中に取りに伺う」という自分の行動(Hands)が、期限の重さを自然に伝えています。Heartの層にある「締め処理で一番お忙しい週だと分かったうえで」という一言は、相手の負担を減らすものではありませんが、相手は「自分の状況を見たうえで頼んでいる」と受け取ります。これが、Conant氏のいう「相手を尊重し、エンゲージメントを強化する」言葉の具体的な中身です。
アイディア社のシミュレーション評価に見る、3層の実地の姿
3層の点検は、研修の評価軸としてもそのまま使えます。アイディア社がマネージャー育成フォーラム2026で公開した「Potential Leader勉強会」の個人レポートでは、PRESENTATION(発表する)を「伝える目的を明確にし、構成・話し方・非言語表現を工夫して相手に理解・納得・行動を促す表現技術」と定義しています。理解を促すのがHead、納得を促すのがHeart、行動を促すのがHandsにあたり、3要素は評価の観点としてすでに実装されています。
同レポートの講師コメントも、3層のどこが足りないかをそのまま指摘しています。ロジカルなコミュニケーションの項目では「テーマが明確。キーワードがわかりやすい」と評価したうえで「数字を使うと尚良い」と、Headの精度を上げる助言が添えられていました。一方、部下を動機づける場面では「感謝から入っていてGOOD。『あなたならできる』の声がけも素晴らしい」と、Heartの層が機能していたことが評価されています。この「あなたならできる」は、Conant氏が例に挙げた「You can do better.」と同じ、2〜6秒のタッチポイントです。
2〜6秒の短い言葉に、3要素をどう収めるか
依頼文のように長い言葉なら3層を順に並べられますが、タッチポイントは2〜6秒です。短い言葉では、Headの多くを「すでに共有されている目的」に預け、言葉そのものはHeartとHandsを担います。「困っていることはない?」は相手の状況を見ていること(Heart)と、手を貸す用意があること(Hands)を同時に伝えます。「これ、先にやっておいたよ」はHandsそのものです。「あなたなら、もっとできる」は、相手の力を見ている(Heart)と、次の一歩を求めている(Hands)の両方を含んでいます。
日本語の職場では、依頼や指示を組み立てるときにHead・Heart・Handsの順で点検し、実際に口に出すときはHeart(相手の状況への一言)から入ったほうが自然に聞こえる場面が多くあります。順序は場面に合わせて変えて構いません。変えてはいけないのは、3層のどれかを省かないことです。長い依頼でも短い声かけでも、「論理はあるか、誠意は見えるか、自分は動いているか」の3問で点検する習慣が、相手の反応を変えていきます。
Headの層を鍛える「ロジカルコミュニケーション研修」は、分かりやすく伝える基本、複雑な資料を簡潔に説明するコツ、双方向のテクニックを反復演習で「できる」レベルにします。人間らしいトーンとの両立を前提に設計しており、杓子定規な伝え方になる副作用を防ぎます。
研修で「分かる」を「できる」にするには?|3要素を定着させる4ステップ設計
Head・Heart・Handsは、講義で聞けば1時間で「分かる」内容です。しかし「できる」ようになるには、自分の伝え方のどこが欠けているかを特定し、自分の実際の案件で書き換え、職場で毎日使い、第三者の評価を受けるという順序が必要です。順序を飛ばして演習だけを行うと、受講者は得意な層ばかりを厚くし、欠けている層はそのまま残ります。アイディア社が次世代リーダー・新任管理職向けに設計する場合、次の4ステップで組み立てます。
3要素を「できる」にする研修設計の流れ
自己診断
相手の反応から、自分が欠きがちな要素を3問で特定する
実案件の書き換え
直近の依頼・指示を持ち込み、欠けた層を足して書き直す
職場実践
3日以内に書き換えた依頼を使い、毎日1回の2〜6秒の声かけを続ける
第三者評価
シミュレーションで理解・納得・行動の観点から講師が評価し、次の学習計画へ
STEP 1の自己診断は、前のセクションの診断マトリクスをそのまま3問にしたものです。「頼んだあと、相手から『口だけ』と思われていないか」「『言われたとおりにはやります』という返事が多くないか」「『根拠は?』と聞き返されることが多くないか」。受講者には、直近1カ月の依頼や指示を思い出しながら答えてもらいます。この診断が先にあることで、STEP 2以降の演習で自分が何を足すべきかが明確になります。
STEP 2では、架空のケースではなく受講者自身の実際の依頼文やメールを持ち込み、3層に分解して空欄の層を埋めます。研修後に職場で使う機会が近いことが定着の条件で、アイディア社は「研修が終わって3日以内に使える内容」を実践型研修の設計基準にしています。STEP 3の職場実践では、書き換えた依頼を実際に使うことに加え、2〜6秒のタッチポイントを「毎日1回、相手を決めて」続けてもらいます。短い声かけは行動として数えられるため、できたかどうかを本人も上司も確認でき、Handsの層が習慣になります。
STEP 4の第三者評価では、指示出しやモチベーションの場面をロールプレイで再現し、講師が「理解・納得・行動を促せているか」の観点で評価します。アイディア社のPotential Leader勉強会では、TEACHING・COACHING・MOTIVATION・PRESENTATIONの4領域で個人レポートを返しており、「数字を使うと尚良い」「感謝から入っている」といったコメントが、受講者の3層のどこが強くどこが弱いかを本人に示します。自己診断(STEP 1)と第三者評価(STEP 4)のずれが、次の学習計画の出発点になります。
階層によって、厚くする層を変える
4ステップの骨格は同じでも、どの層を厚くするかは階層で変わります。管理職手前の次世代リーダーは、権限のない相手に協力を頼む場面が中心です。マネージャー育成フォーラム2026の調査でこの層の悩みの第3位が「伝え方(説明・傾聴・フィードバック・誤解)」だったように、論理はあっても相手が動かない経験を重ねているため、HeartとHandsの層を厚くします。一方、新任管理職は「相手の理解度や意見を引き出す難しさ」が17%と、伝えたつもりが伝わっていない悩みが目立ちます。この層には、Headを一方通行にせず相手の理解を確認しながら進める双方向の設計と、指示したことを自分も守るHandsの層を厚くします。
同じ調査で、新任管理職がコミュニケーション研修の内容として「今後活用してみたい」と答えた上位には、「相手に気づかせる・考えさせる質問テクニック」37%に続いて「巻き込み(タッチポイント、参加を促す工夫)」が23%で入っています。タッチポイントは研修の中ですでに打ち手として受け止められており、3要素の設計はその実践を支える土台になります。階層ごとの打ち手の全体像は「コミュニケーション研修 階層別ナビ」の記事にまとめています。
次世代リーダー・新任管理職の「伝え方」を、自己診断から職場実践・第三者評価まで一連で設計したい場合は、貴社の受講者層と場面を伺ったうえで構成をご提案します。若手向けに実施した1日研修の設計例は事例記事でご覧いただけます。
よくある質問
Head・Heart・Handsとは何ですか?
相手を動かす伝え方に必要な3つの要素で、Head(頭を使ってロジカルに考える=論理)、Heart(誠の心を持って伝える=誠意)、Hands(実際に自分の手を動かす=実行)を指します。キャンベルスープ社のCEOだったDoug Conant氏が、2〜6秒の短い声かけ「タッチポイント」を機能させる条件としてASTD ICE 2011で示したもので、3つのうち一つでも欠けると、相手は「分かるけれど動かない」という反応を返します。
「相手が動きたくなる5つの切り口」やWIN-WINコミュニケーションとは何が違いますか?
5つの切り口(時間があるから、簡単だから、重要だから、やりたいから、あの人だから)は、相手が動く「動機」を整理したものです。WIN-WINコミュニケーションは、対立する相手と「合意」をつくる進め方です。これに対してHead・Heart・Handsは、動機や合意に向けて発する一つ一つの言葉に、論理・誠意・実行が揃っているかを点検する「言葉の組み立て方」です。動機の見立てが正しくても、言葉に3要素が欠けていれば相手は動きません。3つは重なるものではなく、順に使うものです。
誠意(Heart)は研修で身につくものですか?
人柄そのものを研修で変えることはできませんが、誠意が「言葉に表れる」ようにすることはできます。本記事のHeartの層は、相手の状況を見ている一言を入れる、なぜほかでもないあなたに頼むのかを言う、という具体的な行動です。これは型として練習でき、職場で毎日繰り返すうちに相手から「自分を見てくれている人」と受け取られるようになります。Bates社の調査が示したように、人を動かす力の過半は性格に由来しますが、その性格は「約束を守る」「相手のことを考える」といった日々の行動の積み重ねでつくられます。
どの階層の研修に向いていますか?
最も効果が出やすいのは、権限のない相手に協力を頼む場面が増える管理職手前の次世代リーダーと、指示や依頼が「伝わったつもり」で止まりやすい新任管理職です。次世代リーダーにはHeartとHandsの層を、新任管理職には双方向のHeadと自分も約束を守るHandsの層を厚くします。新入社員や2〜3年目の若手には、先にロジカルコミュニケーションで論理の型を固め、そのうえで3要素を点検の習慣として加える順序を推奨します。
まとめ|「正論なのに動かない」は、足りない一層を足せば変わる
人が動く伝え方には、Head(論理)・Heart(誠意)・Hands(実行)の3要素が揃っている必要があります。相手が「口だけ」と見るならHandsが、「言われたとおりにはやります」と返すならHeartが、「根拠は?」と聞き返すならHeadが欠けています。キャンベルスープ社が2〜6秒のタッチポイントで史上最悪のエンゲージメントを8年で史上最高に変えたのは、短い言葉の中にこの3要素を揃え、リーダー全員が毎日繰り返したからでした。
研修で「できる」にするには、自己診断で欠けがちな層を特定し、受講者自身の依頼文を書き換え、3日以内に職場で使い、第三者の評価で自己認識とのずれを確かめる、という順序が必要です。伝え方の改善は話し方の修正ではなく、「論理はあるか、誠意は見えるか、自分は動いているか」を毎日の言葉で点検する習慣づくりです。まずは、自分が最近出した依頼を一つ取り上げ、3層のうち空欄になっている一層を埋めるところから始めてみてください。
次世代リーダー・管理職の「伝え方」研修をご検討の方へ
アイディア社は、自己診断・実案件の書き換え・職場実践・シミュレーション評価を組み合わせた実践型の研修を、貴社の受講者層と場面に合わせて設計しています。「相手が動きたくなる研修」「ロジカルコミュニケーション研修」の組み合わせや、1日研修から数カ月の定着プログラムまで、まずは現状の課題をお聞かせください。
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