人を動かす研修|立場が弱くても協力を引き出す5つの切り口

「もっと協力してほしいのに、お願いしても周りが動いてくれない」——権限を持たない若手・中堅にとって、これは身近な悩みです。しかし人が動くかどうかは、立場の強さでは決まりません。相手が自分から「動きたくなる」理由を整えれば、権限がなくても協力は引き出せます。本記事では、人が動く5つの切り口と、それを職場で使える力に変える研修設計のポイントを整理します。
なぜ今、管理職になる前の若手・中堅層に「人を動かす力」が必要なのか?
結論からお伝えすると、役職や権限を持たない若手・中堅層にこそ、いま「人を動かす力」が必須になっています。理由は大きく2つです。1つは、立場や部署を越えて協働する機会が増え、権限がなくても人を巻き込まなければ仕事が進まない場面が日常化したこと。もう1つは、入社3年目前後で多くの人が、その協働の場面でつまずくことです。
背景には、この数年の協働環境の変化があります。かつては同じ場所・同じ部署で働くのが前提で、顔を合わせていれば自然に周囲を巻き込めました。ところがリモートワークやハイブリッドワークが定着し、場所も部署も立場も異なる相手と協働するのが当たり前になった。「察してもらう」「その場でお願いする」が通用しなくなり、意図して相手に働きかける力が求められるようになっています。こうして「巻き込む力」は、あれば望ましい力から、若手・中堅に欠かせない力へと位置づけが変わりました。
ここで押さえておきたいのは、これは本人の資質の問題ではなく、環境そのものが変わった結果だということです。だからこそ、人を動かす力は素質任せにせず、研修で育てられるスキルとして扱う必要がある。これが本記事の出発点になります。
3年目前後でつまずく「ヒューマンスキル」とは?
この変化のしわ寄せが最も出やすいのが、入社3年目前後の社員です。仕事の基本はひと通りこなせるようになる一方で、「接点のない人」や「自分とは違う組織の人」を巻き込むヒューマンスキルが弱い、という声が多く聞かれます。指示を出す権限はまだ与えられていないのに、他部署への依頼や、後輩・先輩を巻き込んだ協働は求められる。この「責任は重いのに、与えられた権限はほぼゼロ」というギャップこそ、人を動かす力が試される典型的な場面です。
そのため、この層の育成では「対人能力が弱まっている中で、人を巻き込む力をどう強化するか」が最優先の論点になります。3年目特有のつまずきと打ち手を整理した3年目社員の育成課題6選もあわせてご覧いただくと、本記事の前提がより具体的につかめます。
では、権限のない立場で人を動かすには、具体的に何に働きかければよいのでしょうか。次章では、その鍵となる「相手が動きたくなる」5つの切り口を見ていきます。
「相手が動きたくなる」5つの切り口とは?
権限のない立場で人を動かす鍵は、相手を「押す」「無理にお願いする」ことではなく、相手が自分から動きたくなる理由を整えることにあります。人が動く理由は、大きく5つの切り口で整理できます。アイディア社が研修現場で体系化してきた、人が動くメカニズムの捉え方です。
時間があるから
人は、時間や気持ちに余裕があるときほど動きやすいものです。相手が立て込んでいる時間帯を避け、余裕のあるタイミングで持ちかけるだけでも、協力は得やすくなります。
簡単だから
動き出すハードルが低いほど、人は腰を上げやすくなります。依頼を「すぐ着手できる小さな単位」に分け、何をすればよいかを具体的に示すことが、最初の一歩を引き出します。
重要だから
その行動が自分にとって重要だと腑に落ちると、人は動きます。なぜ重要なのかを、自分の都合ではなく相手の立場や関心に引きつけて伝えることが大切です。
やりたいから
義務感ではなく「やりたい」と思えたとき、人は前向きに動きます。相手自身のメリットや興味と、依頼する内容を結びつけられるかがポイントになります。
あの人だから
「この人の頼みなら」と思える信頼関係が、最後にものを言います。日頃の関わりの中で積み上げた信頼こそが、いざというときの協力を引き出す土台になります。
注目したいのは、この5つが「浅い」から「深い」への順に並んでいることです。①と②は権限がなくても今日から整えられる外側のコツ、④と⑤は信頼や相手の内面に関わる、時間をかけて育てる深い部分にあたります。立場が弱いうちは、まず①②で協力の糸口をつくり、③で意味づけをし、④⑤を日頃から育てていく。この順で積み上げるのが現実的なアプローチです。相手が動きたくなる状態をつくるには、聞くだけで済む浅いコツから、奥深い人間力やあり方までをバランスよく扱うことが大切です。
では、この5つの切り口を、立場の弱い受講者でも職場で実際に使えるようにするには、研修としてどう設計すればよいのでしょうか。次章で設計のポイントを見ていきます。
立場が弱くても協力を引き出す研修設計のポイント
5つの切り口を「知っている」だけでは、職場で人は動かせません。とくに立場の弱い若手・中堅ほど、学んだことを実際の行動と定着まで設計でつなぐ必要があります。相手が動きたくなる状態を職場で実際につくれるようにするための設計の鍵は、次の3つです。
研修を「知識」で終わらせない3つの設計ポイントとは?
1つ目は、すぐ使える浅いコツと、信頼や人間力に関わる深い部分の両方を扱うことです。浅いコツは権限のない受講者でもその日から試せるため、早い段階で小さな成功体験が生まれます。一方で深い部分を同時に扱うことで、長期的に効く信頼関係づくりにも目が向きます。
2つ目は、研修の中で実行計画までつくり込むことです。「人が動く理由」を学んでも、自分の職場の具体的な場面に落とし込めなければ行動は変わりません。受講者自身の実際の依頼・協働シーンを題材に、誰に・どの切り口で・どう働きかけるかを研修中に決めておきます。
3つ目は、コーチングによる個別フォローを組み込むことです。研修後に進捗を確認し、つまずきを補正しながら実践を後押しすることで、「分かった」が「できる」へと定着していきます。ケーススタディやロールプレイ、個人診断といった演習中心の進め方も、この「できる」への橋渡しを担います。
「知って終わり」にしないための定着の流れ
学ぶ
5つの切り口を、ケースやロールプレイで「分かる」から「できる」へ
実行計画をつくる
自分の職場の場面に落とし、誰にどの切り口で働きかけるか決める
職場で実践
立場の弱い実際の場面で、まず浅いコツから試してみる
フォロー
コーチングで進捗を確認し、つまずきを補正して定着させる
立場の弱い受講者にとって大切なのは、いきなり難しい働きかけに挑むことではありません。研修で糸口をつかみ、自分の職場の場面に落とし、まず試し、フォローで補正する——この一本の流れがあるからこそ、権限がなくても少しずつ人を動かせるようになっていきます。実際にこの設計で3年目社員向けに行った研修の進め方と手応えは、3年目社員の影響力研修|相手が動きたくなる5つのアプローチでご覧いただけます。
ところで「人を動かす」というと、交渉で相手を説得するイメージを持つ方もいるかもしれません。次章では、よく似た「Win-Win交渉」との違いを整理し、「相手が動きたくなる」という発想の位置づけをはっきりさせます。
「相手が動きたくなる」は説得・交渉とどう違う?
「人を動かす」と聞くと、交渉や説得で相手を動かすイメージを思い浮かべる方も多いかもしれません。たしかに、利害がぶつかる場面では、条件をすり合わせて合意を取りに行く交渉の力も必要です。ただ「相手が動きたくなる」は、効く場面も発想も異なります。両者を並べて整理すると、それぞれの位置づけがはっきりします。
つまり「相手が動きたくなる」は、相手をねじ伏せる説得術でも、対立を収める交渉術でもありません。相手が自ら動きたくなる理由を、ふだんから整えておく発想です。権限のない立場でこそ効くのは、力で押さない分、相手の納得と信頼に支えられているからです。
そして、こうして培う「人を動かす力」は、やがて管理職として人を率いるときの土台にもなります。次のステージを見据えるなら、次世代リーダー育成の方法もあわせてご覧ください。
よくある質問
権限がなくても、本当に人は動かせますか?
動かせます。人が動く理由は権限の有無ではなく、相手が「動きたくなる」かどうかにあります。時間があるから・簡単だから・重要だから・やりたいから・あの人だから、という5つの切り口を整えれば、立場が弱くても協力は引き出せます。まずは相手の負担が少ないタイミングを選ぶ、着手しやすい小さな単位で依頼するといった、今日から試せる浅いコツから始めるのが現実的です。
「人を動かす研修」は何年目の社員が対象ですか?
仕事の基本を身につけた一方で、権限のないまま他部署や周囲を巻き込む場面が増える、入社3年目前後(管理職になる前の若手・中堅層)が中心です。リモートワークやハイブリッドワークで立場や部署を越えた協働が増えた今、この層にとって人を動かす力は欠かせないものになっています。
研修を受けても、職場で使えるようになりますか?
「知っている」だけでは使えるようにはなりません。研修の中で自分の職場の具体的な場面に落とした実行計画をつくり、まず試し、コーチングで進捗を確認しながら補正する。この流れを設計に組み込むことで、「分かった」が「できる」へと定着していきます。ケーススタディやロールプレイなど演習中心の進め方も、その橋渡しを担います。
説得や交渉とは何が違いますか?
説得・交渉は、利害が対立している場面で合意や承諾を取りに行く技術です。一方「相手が動きたくなる」は、対立のない日常の協力・依頼の場面で、相手が自分から動きたくなる状態をつくる発想です。共通するのは、立場の強さではなく相手の理解で人を動かす点で、対立を合意に変えたいなら交渉、協力を引き出したいなら「相手が動きたくなる」と、場面で使い分けます。
人を動かす力を、現場で育てるために
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