新入社員の主体性の育て方|指示待ちから「考えて動く」へ

「指示したことはきちんとやる。でも、その範囲を一歩超えると途端に止まってしまう」——新入社員に対するこうした声は、多くの育成担当者から聞かれます。結論から言えば、この「指示待ち」は本人の性格ではなく、育成の設計で変えられます。「決められたことをやる」から「自分で考えて動く」への転換は、配属直後の関わり方しだいで大きく変わるのです。
背景には、仕事の進み方そのものの変化があります。環境変化のスピードが上がり、指示を受けた時点と成果物を出す時点とで「求められるもの」がずれることが珍しくなくなりました。その結果、「言われたとおりにやったのに、違うと言われた」という、新入社員にとっても上司にとっても不本意なすれ違いが起きます。決められたことを正確にこなす力だけでは、もう成果に直結しにくくなっているのです。
アイディア社が毎年開催する「ラーニングイノベーションフォーラム」では、配属直後の新入社員にデザインシンキングを取り入れ、早い段階で「考えて動く」マインドを育てた実例を紹介してきました。本記事では、その知見をもとに、なぜ配属直後が主体性を育てる最大のチャンスなのか、そして「考えて動く」を引き出すために育成担当者が押さえるべき研修設計の3ステップを、順を追って解説します。
なぜ今、新入社員に「考えて動く」力が必要なのか?
「決められたことを正確にこなす」だけでは、評価や成果につながりにくくなっています。理由はシンプルで、指示を受けた時点と、成果物を出す時点とで「求められるもの」がずれる場面が増えたからです。変化のスピードが上がるほど、このズレは大きくなります。
その結果、配属後の現場では、新入社員も上司も悪気がないのに、すれ違いが起きます。アイディア社が研修現場で繰り返し見てきた、典型的な3つのすれ違いを整理しました。同じ出来事を、新入社員と上司がどう受け止めているかに注目してください。
育成担当者が向き合うべきは、この「指示と成果のあいだの空白」です。空白を埋めるには、指示を待つのではなく、相手が本当に求めているものを自分で確かめ、考えて動く力が要ります。これが「考えて動く」の正体であり、新人のうちから育てておきたい力です。次の章では、その力が「決められたことをやる」力と対立しない理由を見ていきます。
「決められたことをやる」と「考えて動く」は対立しない
結論から言えば、両者は対立しません。「決められたことを正確にやる」は土台であり、「考えて動く」はその上に積み上がる応用です。どちらか一方ではなく、土台があるから応用が成果につながります。主体性を求めるあまり、報連相やPDCAといった基本を軽視するのは逆効果です。
新入社員研修でつまずきやすいのが、この順序です。土台が固まる前に「自分で考えて動け」とだけ伝えると、確認すべきことを確認せずに突っ走る“空回り”が起きます。逆に土台だけを徹底すると、前章で見た「指示と成果の空白」で止まってしまいます。両者の関係を1枚で整理すると、次のようになります。
土台 だけ
報連相・PDCAは完璧
↓
指示の空白で
止まる(受け身)
応用 だけ
土台より先に「考えて動け」
↓
確認せず
空回りする
土台 + 応用
正確にやる力の上に考えて動く
↓
自分で動いて
成果になる
気づき:「決められたことをやる」か「考えて動く」かの2択ではありません。土台の上に応用が積み上がったときだけ、成果になります。
育成設計のうえで大切なのは、「考えて動く」を教える前に、土台の質を担保しておくことです。たとえば報連相は、単なるマナーではなく「自分で状況を把握して、必要な人に必要な情報を渡す」という、主体性の入り口でもあります。土台づくりの具体は、新入社員の報・連・相基本訓練(口頭でのアウトプット演習)でも詳しく扱っています。
土台が見えたところで、次の疑問が出てきます。「考えて動く」を育てるなら、いつ始めるのが最も効果的なのか。その答えが「配属直後」である理由を、次章で説明します。
なぜ「配属直後」が主体性を育てる最大のチャンスなのか?
「考えて動く」力を育てるなら、配属直後が最大のチャンスです。理由は、まだ「仕事とはこういうもの」という思考のクセ――前例の踏襲や指示待ち――が固まっていないからです。早いほど、無理なく自然に身につきます。
アイディア社が研修現場で繰り返し見てきた事実があります。イノベーション研修や主体性向上の施策を実施しても、思ったほど成果が出ないことが少なくありません。その一因は、対象者がすでに従来の業務に慣れ、考え方が固まっていることにあります。長年のやり方が染みついた状態で「もっと考えて動こう」と促しても、上書きは簡単ではないのです。
「考えが固まる」とは、具体的にどういうことでしょうか。経験を積むほど、過去にうまくいったやり方が「正解」として定着します。すると、新しい進め方を示されても「今までのやり方を否定された」と無意識に受け取り、抵抗が生まれます。一方、比較する前例を持たない新入社員には、その抵抗がありません。「考えて動く」を、最初から仕事の標準として素直に受け取れるのです。
ここに発想の転換があります。主体性やイノベーションの研修は、つい中堅・ベテランに対して行いがちです。しかし「考えが固まる前」という観点で見れば、先入観のない配属直後の新入社員こそ、最も効果が出やすい対象です。「決められたことをやる」ことしか知らない状態に固定される前に、「自分で考えて動く」を当たり前の前提として受け取れるからです。
だからこそ、配属直後の導入研修に「考える力」を組み込む価値があります。アイディア社のラーニングイノベーションフォーラムでも、配属直後の新入社員にデザインシンキングを取り入れ、早い段階で「考えて動く」感覚を育てた実例が紹介されています。では、その「考えて動く」とは具体的に何をする力なのか。次章で中身を見ていきます。
「考えて動く」とは?――NEEDS→IDEAS→ACTION
「考えて動く」とは、漠然とした心構えではありません。①本当の困りごとを掴む → ②新しい解き方を出す → ③形にして動かす、という3ステップの思考プロセスです。これはデザインシンキングの考え方を、新入社員向けにシンプルにしたものです。アイディア社の研修では、この3要素を NEEDS・IDEAS・ACTION と呼んでいます。
掴む → 出す → 動かす
これが「考えて動く」の3拍子
NEEDS(課題発見)
本当の困りごとを掴む
傾聴・観察で相手の本音を引き出す
世界の例:IDEO
IDEAS(発想)
新しい解き方を出す
逆転の発想・欠点列挙法で視点を広げる
世界の例:Apple
ACTION(実行)
形にして動かす
小さく試し、結果から学んで進める
世界の例:Google
気づき:主体性は性格ではなく、「掴む→出す→動かす」という手順です。手順だからこそ、研修で教えて育てられます。
ここがポイントです。「考えて動く」を“手順”として捉えれば、それは育成設計の対象になります。性格や本人のやる気に頼るのではなく、3拍子を体験させる研修を組めばよい、ということです。実際にどう組み立てるかは、新入社員研修の設計ポイント(対面・リモート・定着の組み合わせ方)とあわせて考えると具体化しやすくなります。
では、この3拍子を新入社員に体験させ、配属後も「考えて動く」が続くようにするには、研修をどう設計すればよいのでしょうか。次章で、育成担当者が押さえるべき3ステップにまとめます。
主体性を引き出す研修設計の3ステップ
「考えて動く」を根づかせるには、単発の研修を1回行うだけでは足りません。①受身の研修をやめる → ②配属直後に考える力を入れる → ③現場フォローで定着させる、という3ステップを連続させることが鍵です。研修の前・最中・後をつなげて初めて、主体性は習慣になります。
ポイントは、各ステップが次のステップの前提になっていることです。受身の研修スタイルのままでは、配属直後に考える力を入れても身につきません。さらに現場フォローがなければ、せっかくの学びも職場で消えてしまいます。順番に見ていきましょう。
研修の作り方
受身の研修をやめる
講義中心から反転教室・演習中心へ。知識インプットは事前に済ませ、研修は「考える練習」の場にする
配属直後
考える力を入れる
導入研修でNEEDS→IDEAS→ACTIONを体験。報連相・PDCAとの使い分けと、すぐ使える場面も具体的に伝える
配属後
現場で定着させる
職場実践・個別コーチング・上司の巻き込みで継続。成果・成長・説明責任の「3つの責任」を意識づける
気づき:「主体性研修」を1回やって終わりにすると根づきません。研修の前・最中・後をつなげる設計が、「考えて動く」を習慣に変えます。
3つのうち、見落とされやすいのがSTEP3の現場フォローです。研修で「考えて動く」を体験しても、配属先の上司が指示通りの動きだけを評価していれば、新入社員はすぐに元の受け身に戻ります。だからこそ、上司を巻き込み、職場で小さく実践して振り返るサイクルを設計に組み込むことが欠かせません。
新入社員研修や育成設計の最新の考え方は、状況に合わせて少しずつ変わっていきます。アイディア社では、研修現場で得た実践のヒントをメルマガで定期的にお届けしています。設計の引き出しを増やしたい方は、登録しておくと役立ちます。
【実例】受け身をやめる:新入社員が“主役”になる部門紹介
抽象論だけではイメージしにくいので、実例を紹介します。アイディア社が、どの会社にもある「部門紹介」を“受け身をやめる”設計に変えた事例です。ポイントは、新しい研修を足したのではなく、既存プログラムのやり方を変えただけで、新入社員の主体性のスイッチが入ったことです。
ポイント:「説明される」を「自分で取りに行く」に変えるだけで、主体性のスイッチは入ります。自社の既存研修にもすぐ応用できる視点です。
この実例が示すのは、主体性を育てるために必ずしも特別な研修を新設する必要はない、ということです。すでにある研修の「受け身になっている部分」を見つけ、新入社員が自分で動く形に組み替える。その小さな設計変更が、「考えて動く」の第一歩になります。
よくある質問(Q&A)
新入社員にイノベーションや主体性の研修は早すぎませんか?
早すぎません。むしろ配属直後が最も効果的です。「仕事とはこういうもの」という思考のクセが固まる前だからです。すでに従来のやり方に慣れた層よりも、先入観のない新入社員のほうが「考えて動く」を自然に受け入れます。
「考えて動く」を重視すると、報連相など基本がおろそかになりませんか?
おろそかになりません。両者は対立せず、報連相やPDCAという土台の上に「考えて動く」が積み上がる関係です。土台が弱いまま主体性だけを求めると空回りするため、基本の徹底と並行して育てるのが効果的です。
「考えて動く」と「指示どおりにやる」は、どう使い分けさせればいいですか?
「使い分け」を明示的に教えるのが有効です。決められた手順を正確に実行すべき場面(報連相・PDCA)と、自分で課題を見つけて動くべき場面を、具体例とともに区別して伝えます。新入社員は両者を対立と捉えがちなので、どちらも必要だと最初に示すことが大切です。
研修後、配属先ですぐ指示待ちに戻ってしまいます。定着させるには?
研修だけで終わらせず、配属後のフォローを設計に組み込みます。職場での小さな実践と振り返り、個別コーチング、そして上司の巻き込みが鍵です。上司が指示どおりの動きだけを評価していると元に戻るため、「考えて動いた」行動を現場で認める仕組みまで含めて設計します。
新入社員の主体性を育てる研修設計について、さらに知りたい方へ
研修現場で得た実践のヒントを継続的にお届けしています。自社の新入社員研修の設計を具体的に相談したい場合も、お気軽にどうぞ。
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