新入社員の発想力を伸ばす方法|新鮮なアイデアを量で生み出す研修設計

「これからはイノベーションが大事」と言われて久しくなりました。それでも新入社員研修の現場では、発想力を鍛える時間はどうしても後回しになりがちです。マナー、報連相、ビジネスマインドを詰め込むだけで、研修期間はあっという間に終わってしまいます。
この記事では、新入社員研修を企画する立場の方に向けて、2つの問いに答えます。1つは「なぜ新入社員こそ発想力の訓練に向いているのか」。もう1つは「どうすれば新鮮なアイデアを大量に出せるように訓練できるのか」です。発想力は一部の人だけが持つ才能ではなく、正しい手順で訓練すれば誰でも伸ばせる力だ、という前提から話を始めます。
なぜ「新入社員」こそ発想力の訓練に向いているのか
発想力やイノベーションの研修は、これまで中堅社員や管理職を対象に行われることが多いものでした。ところが「アイデアコンテストもイノベーション研修も実施しているのに、思ったほど発想力が伸びない」という声は少なくありません。その原因の一つは、対象者の側にあります。
中堅以上の社員は、すでに自分なりの考え方ができあがり、従来の業務のやり方に慣れています。経験が豊富であるほど「こういうものだ」という前提が積み重なり、その前提が自由な発想にブレーキをかけてしまいます。
その点、新入社員は業務上の「当たり前」をまだ持っていません。先入観が少ないぶん、固定観念にとらわれない発想を引き出しやすいのが強みです。だからこそ、配属の直後という早いタイミングで、発想の考え方とテクニックに触れさせることに大きな意味があります。早い段階でアイデアの出し方を身につけておけば、その後の業務でも「まず自分で考えてみる」姿勢が自然と育ちます。この「指示を待つ」から「自分で考えて動く」への転換については、入社直後のマインド転換を扱った記事もあわせてご覧ください。
では、現在の新入社員研修では、発想力にどれだけの時間が割かれているのでしょうか。アイディア社が2024年に担当した新入社員研修(受講者およそ2,000名)の内容を、3つの柱の割合で振り返ってみます。
新入社員研修の時間配分(アイディア社 2024年・受講者約2,000名)
研修時間の大半をマインドとコミュニケーションが占め、発想力に充てられるのは約1割にとどまっている
ポイント:先入観が少なく発想を引き出しやすい新入社員の時期に、最も時間を割けていないのが発想力です。ここに伸びしろがあります。
マインドとコミュニケーションで研修時間の大半が埋まり、発想力に充てられるのはわずか1割です。裏を返せば、発想力は新入社員研修のなかで最も伸びしろを残した領域だということになります。先入観が少なく吸収の早いこの時期に、まだ多くの企業が手をつけていない発想力を鍛えておく。それが、数年後に「自分から新しいアイデアを出せる社員」と「指示を待つ社員」の差につながっていきます。問題は、その限られた時間で何を、どう訓練すれば発想力が伸びるのかです。次の章で、その鍵となる考え方を見ていきます。
「発想力」は別の筋肉|本当の壁は「出す前に止めること」
「考える力を鍛えたい」と研修を組むとき、筋道を立てる力(論理思考力)、課題を見つける力(課題発見力)、新しいアイデアを生む力(発想力)は、つい一緒くたにされがちです。アイディア社の社会人基礎力の診断では、この「考える力」を3つの項目に分けて測っています。
論理思考力|筋道を立てる力
物事をロジカルに整理し、筋道を立てて考える力です。研修でいう「考える力」の中心と見られがちですが、これを鍛えても発想力は自動的には伸びません。
課題発見力|問いを見つける力
さまざまな角度から「何を解くべきか」を見つける力です。アイデアを出す前段にあたり、ここがずれると、いくら数を出しても的外れな案ばかりになります。
発想力|新しい案を生む力
まだ存在しない案をひねり出す力です。診断では「短い時間に出せるアイデアの数が限られている/質は平凡」と出やすく、論理思考とは別に意識して鍛える必要があります。
図が示すとおり、発想力は「考える力」のなかの独立した1項目です。ここで見落とされやすいのは、論理思考を鍛える研修をいくら積んでも、発想力は自動的には伸びないということです。筋道を詰める頭の使い方と、まだ存在しない案をひねり出す頭の使い方は、別の筋肉だからです。発想力は、意識して別に鍛える必要があります。
では、新入社員の発想力が弱く見えるのはなぜでしょうか。多くの場合、アイデアが頭に浮かばないのではありません。浮かんでも「これは平凡かもしれない」「的外れかもしれない」と、口に出す前に自分で却下してしまうのです。診断で「出せるアイデアの数が限られる」という結果が出るのは、この自己検閲が主な原因です。そして新入社員は、慣れない環境で「変なことを言って評価を下げたくない」という萎縮が働きやすく、人一倍このブレーキが強くかかります。
つまり、新入社員の発想力訓練でまずやるべきは、高度な技法を教え込むことではありません。「下手なアイデアでも、評価を気にせず口に出してよい」という許可を与え、そう振る舞える場をつくることです。良し悪しの判断はいったん後回しにして、まず数を出す。質は、出し尽くした先に選び取るものです。先入観の少ない新入社員は、検閲のブレーキさえ外れれば、経験を積んだ社員よりむしろ自由な案を出せます。では、なぜ「まず数を出す」ことが質につながるのでしょうか。次の章で、その仕組みを見ていきます。
発想力は、専用の研修枠を新たに設けなくても、既存の新入社員研修に少しずつ組み込めます。研修設計の具体的なヒントは、無料メルマガで継続的にお届けしています。
「量が質を生む」仕組み|数稽古がいちばん効く理由
前章で「良し悪しは後回しにして、まず数を出す」と述べました。ここで気になるのは、なぜ数を出すと質が上がるのか、という点です。「数は出たけれど、どれも平凡だった」では意味がないと感じる方もいるでしょう。ところが、平凡な案を出すことこそ、新鮮な案にたどり着くための近道です。
アイデアを出し始めると、最初に出てくるのは、誰もが思いつくありきたりな案です。これは避けられません。むしろ、ありきたりな案を先に出し切ってしまうことで、頭のなかの「定番」が一通り片づき、その先にほかと違う案が現れます。前章で触れた発想力の診断アドバイスも、「短い時間に多くのアイデアを出す訓練をする」「さまざまなテーマで練習する」というものでした。質を直接ねらうのではなく、量を出す練習=数稽古を重ねることが、結果として質に効くという考え方です。
量を出すと質に変わる流れ(数稽古)
まず大量に出す
質を問わず、判断を止めて数だけを追う
平凡な案を出し切る
最初に出るありきたりな案で止めない
新鮮な案が現れる
出し尽くした先に、ほかと違う案が出る
選んで磨く
数のなかから良い案を絞り込む
この流れで大切なのは、STEP2で止めないことです。「平凡な案しか出てこない」と感じる時点こそ、多くの人がやめてしまうところです。けれども、新鮮な案はその先にあります。新入社員研修では、「最初は平凡で当たり前。出し切った先に良い案が出てくる」とあらかじめ伝えておくだけで、途中であきらめずに数を出し続けられるようになります。
逆にいえば、量を出さずに、いきなり「良いアイデアを1つ考えなさい」と求めるのは、最も難しいやり方です。母数となる量がなければ、そこから絞り込んで選ぶ良い案も生まれません。なお、数を出すには切り口を増やすことが欠かせず、その切り口にあたるのが欠点列挙法やNM法といった発想法です。発想法そのものの具体的な手順は、実務で使う発想法をまとめた記事で詳しく解説しています。本記事では、この「数を出す場」を新入社員研修のなかでどう回すかに話を進めます。
アイディア社では、新鮮なアイデアを素早く大量に出す演習を中心にした発想力の研修を、新入社員向けにも設計しています。研修への組み込み方のヒントは、無料メルマガでもお届けしています。
新入社員研修での数稽古の回し方|「量が出る場」のつくり方
前章で見た「量を出す」流れを、新入社員研修のなかでどう回せばよいのでしょうか。発想法そのものの型(欠点列挙法やNM法など)の手順は実務で使う発想法の記事に譲り、ここでは「量が出る場」をどうつくるかという運営の工夫に絞ります。同じ発想法でも、業務経験のない新入社員に回すときは、中堅社員とはつまずきやすい点が違うからです。次の4つのステップで設計します。
身近で自分ごとのテーマを選ぶ
経営課題のような大きなテーマではなく、「配属先での1日の過ごし方」「先輩への質問の仕方」など、新入社員が当事者として考えられる題材にします。手が止まりにくく、最初の1案を出しやすくなります。
時間と数のノルマを決めて、判断せず出す
「5分で10個」のように、時間と数の目標を先に決めます。質を問わず、浮かんだ案をそのまま書き出させます。判断を止めること自体が、前章で見た自己検閲を外す仕掛けになります。
平凡で止めず、出し切らせる
多くの人がやめてしまう脱落点です。「最初は平凡で当たり前、出し切った先に良い案が出る」と運営側があらかじめ予告し、ありきたりな案が続いても手を止めさせないようにします。
出した数から1つを、小さな行動に落とす
出して終わりにせず、案の中から1つを「2分あれば始められる行動」に変えて書き出させます。「企画書を完成させる」ではなく「相談の時間を打診するメールを1通送る」のように、最初の一歩を小さくするのがコツです。
4つに共通するのは、「考える前に、出しやすくする」という設計です。経験の少ない新入社員ほど、正解を探して手が止まります。テーマを身近にし、時間と数のノルマで判断を止め、平凡で止めないよう予告する。この「出しやすい場」が母数を増やし、結果として質の高い案にたどり着かせます。そして最後に1つを小さな行動に落とすことで、研修で出したアイデアが「出して終わり」にならず、配属後の行動につながります。
ここまでが、数稽古そのものの回し方です。実際の新入社員研修に落とし込むときは、報連相やマナーといったほかの新人教育との兼ね合いなど、設計上のもう一段の工夫が必要になります。最後に、その設計ポイントを整理します。
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新入社員研修に落とし込むときの設計ポイント
同じ数稽古でも、業務経験のない新入社員に教えるときは、中堅社員向けとは伝え方を変える必要があります。経験という土台がないぶん、つまずきやすい点が違うからです。アイディア社が新入社員向けにイノベーションの研修を行うときに押さえている工夫を、3つの観点で整理します。
1つ目は、「いつ・どこで使うか」をはっきり示すことです。経験のない新入社員は、アイデアを出す訓練を受けても「現場のどの場面で使えばいいのか」が思い浮かびません。そこで、活用する具体的な場面をセットで伝え、配属直後からすぐ使えるヒアリングや傾聴のスキルと一緒に教えます。アイデアを出す前に相手の話を正しく聞く力は、何を解くべきかという課題を見つける場面でそのまま役立ちます。
2つ目は、従来の新人教育との「使い分け」を示すことです。これは、研修を企画する側がいちばん気にする点でもあります。「報連相やPDCAを教えるだけで精一杯なのに、発想力まで教えて混乱しないか」という不安です。ここははっきり伝えておきましょう。報連相やPDCAは、決められたことを正確に回すための力です。一方、発想力は、答えの決まっていない問いに新しい案を出すための力です。両者は対立するものではなく、役割が違うだけで、どちらも仕事には欠かせません。「基本の型は守りつつ、答えのない場面では自分で発想する」と整理して伝えれば、新入社員も迷わずに両方を学べます。
3つ目は、すぐ使わなくても忘れない工夫を入れることです。配属直後は、数稽古で身につけた出し方を毎日使う場面ばかりではありません。そこで、要点を1枚のカードにまとめて手元に残したり、数か月後に振り返る機会を設けたりして、必要になったときに思い出せるようにしておきます。なお、発想力に限らず、対面・リモート・定着をどう組み合わせるかという研修全体の設計については、新入社員研修の設計ポイントをまとめた記事で詳しく解説しています。
ここまで、なぜ新入社員こそ発想力の訓練に向くのか、何を、どう回すのかを見てきました。最後に、研修を企画する段階でよく挙がる疑問に答えておきます。
よくある質問
新入社員に発想力の研修は早すぎませんか?
早すぎることはありません。むしろ、業務上の「当たり前」がまだ身についていない新入社員は先入観が少なく、固定観念にとらわれない発想を引き出しやすい時期です。報連相やビジネスマナーといった基本の型を学びながら、並行して小さく取り入れることができます。配属直後に発想の出し方に触れておくことで、その後の業務でも「まず自分で考えてみる」姿勢が育ちます。
発想力は研修で本当に伸びるのですか?
発想力は才能ではなく、訓練で伸ばせる力です。新入社員が「アイデアが少ない」ように見えるのは、頭に浮かばないからではなく、「平凡かもしれない」と口に出す前に自分で却下してしまうためです。良し悪しの判断をいったん止めて、まず数を多く出す練習(数稽古)を重ねると、ありきたりな案を出し尽くした先から新鮮な視点が出てきます。複数の発想法を知ることも、出せる数を増やすことにつながります。
報連相やマナーの研修で手一杯です。発想力の訓練と両立できますか?
両立できます。発想力のために専用の研修枠を新たに設ける必要はなく、既存の新入社員研修で扱う身近なテーマに、小さなアイデア出しを少しずつ組み込むだけで成立します。また、報連相やPDCAは決められたことを正確に回す力、発想力は答えのない問いに新しい案を出す力で、両者は対立せず役割が違うだけです。「基本の型は守りつつ、答えのない場面では自分で発想する」と整理して伝えれば、新入社員も迷いません。
具体的に何から始めればよいですか?
身近で答えのあるテーマを選び、「5分で10個」のように時間と数のノルマを決めて、判断せずに出す数稽古から始めるのがおすすめです。質を問わずに数を出し、「型に沿えばアイデアは出せる」という成功体験を持たせましょう。出した案は、最後に1つだけ「すぐ始められる小さな行動」に変えると、研修で出したアイデアが職場での行動につながります。テーマごとの切り口となる発想法の具体的な手順は、実務で使う発想法をまとめた記事を参考にしてください。
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