経営者と人事が押さえるべきグローバル人材育成の成功条件|戦略から逆算する発想転換【連載第6回】

グローバル人材育成を適切に実施すれば、確実に成果につながります。しかし現実には、研修を導入しても期待した効果が得られないケースが少なくありません。その原因の多くは、研修プログラムそのものではなく、経営者と人材育成担当者の「発想」にあります。
本記事は、全6回連載「グローバル人材育成の進め方」の最終回です。これまでの5回で解説してきた全体像、グローバルマインド、語学力と実践力、プログラム設計、海外研修のすべてを成功に導くために、経営者と人事に求められる発想の転換と、成果を測定する効果的な方法をお伝えします。
経営者に必要な発想——「具体的なイメージ」を人事に渡す
グローバル人材育成が上手くいかない企業に共通しているのは、経営者からの指示が抽象的すぎることです。「グローバル人材を育ててほしい」「英語力を上げてほしい」という漠然とした指示では、人材育成担当者は適切なプログラムを設計しようがありません。
経営者が人材育成担当者に提供すべきなのは、ビジネスの現場で求められる人材の具体的なイメージです。理想は、以下の3つを明確に伝えることです。
① いつまでに育成するか——タイムライン
グローバル戦略の実行スケジュールに合わせて、「来年度末までに」「3年以内に」といった育成のタイムラインを示します。タイムラインがないと、人材育成担当者は優先順位をつけられず、緊急度の低い施策と重要な施策が同列に扱われてしまいます。
② 何人が必要か——人材プールの規模
第1回のWIDE & DEEPフレームワークでも触れましたが、DEEP施策は数人の海外留学では十分な人材プールが作れません。「海外拠点を5拠点に拡大するために、各拠点に派遣できる人材が最低3人ずつ、計15人必要」といった具体的な数字があれば、人材育成担当者は逆算して研修を企画できます。
③ どのレベルまで育てるか——ゴールの具体像
最も重要なのが、「どのようなシーンでどのような仕事ができたらいいか」というゴールの具体像です。たとえば「海外の取引先との電話会議を自分でリードできる」「英語でのプレゼンテーションで経営層を説得できる」「現地スタッフのマネジメントを英語でスムーズに行える」といった具体的なシーンのイメージを伝えることで、人材育成担当者はそのゴールに到達するために必要なスキルを特定し、最適なプログラムを設計できるようになります。
人材育成担当者に必要な発想——「手段」から考えない
「グローバル」と聞いた瞬間に英語研修を思い浮かべてしまう——これは人材育成担当者が陥りやすい典型的な思考パターンです。しかし、第3回で解説した通り、人材育成の目的は語学力ではなくグローバル実践力の強化です。
研修を企画する際の出発点は、「○○研修がしたい」や「○○力を高めたい」という手段ではなく、ニーズからの逆算であるべきです。ニーズからの逆算には2つのアプローチがあります。
アプローチA:グローバル戦略から逆算する
経営者から提示されたグローバル戦略の内容と目標を起点にして、「その戦略を実行するために社員にはどのようなスキルが必要か」を分析し、そこから研修を設計するアプローチです。たとえば、「3年以内に東南アジアに2つの新拠点を設立する」という戦略があるなら、現地スタッフのマネジメント力、異文化コミュニケーション力、英語でのビジネスライティング力などが必要スキルとして導き出されます。
アプローチB:現場のニーズから逆算する
すでにグローバルビジネスを行っている現場のスタッフに「今、何に困っているか」「何ができるようになれば仕事がスムーズになるか」をヒアリングし、そこから研修を設計するアプローチです。現場の声は具体的で切実なため、研修内容が実務に直結しやすいメリットがあります。
いずれのアプローチでも重要なのは、第4回で紹介したWIDE施策とDEEP施策のバランスを意識することです。WIDE施策にはエネルギー・時間・予算をかけすぎず、DEEP施策で必要性の高い受講者に密度の濃い研修を提供して成果にこだわりましょう。
経営者と人事の発想を対比する
この表のように、経営者と人事育成担当者の発想はそれぞれ異なる角度からグローバル人材育成にアプローチします。しかし、「成果にこだわる」という点は共通です。その成果をどのように測定するかが、次のテーマです。
成果を測る——説得力のある2つの効果測定法
グローバル人材育成の成果を測定する方法は、大きく2つあります。いずれも第4回で触れた「研修内容に合った測定法」の原則に基づいています。
方法①:受講者への行動変化ヒアリング
研修後に実際のグローバルビジネスに携わっている受講者に対して、行動の変化と成果をヒアリングする方法です。たとえば「メールを書くスピードが速くなり、1回で意図が伝わるようになった」「ミーティングでより積極的に参加して自分の意見をしっかり言えるようになった」といった具体的な変化を確認します。この方法は最も分かりやすく、経営層への報告としても説得力があります。
方法②:実践力の事前事後診断
研修の前後に、実際のビジネスに近い形式で実力診断を行う方法です。ミーティング・プレゼンテーション・ネゴシエーションなどのシミュレーションを実施し、研修前後のスコアを比較します。数値化されたデータとして提示できるため、投資対効果を示す根拠として有効です。
注意すべきは、簡単な英語の読み書きテストや英語インタビューだけではグローバル実践力を正確に測ることは難しいという点です。実際のビジネスシーンに近い診断形式を用いることが、正しい効果測定の条件です。
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連載全体の振り返り——グローバル人材育成の成功ロードマップ
全6回の連載を通じてお伝えしてきた内容を、一つの流れとして整理します。
グローバル人材育成は、一度研修を実施して終わりではなく、経営戦略と連動した継続的な取り組みです。経営者が具体的なゴールを描き、人材育成担当者がニーズから逆算してプログラムを設計し、成果を測定してフィードバックする——このサイクルを回し続けることが、グローバルビジネスで成果を出せる人材を組織的に育てる唯一の方法です。
よくある質問
経営者がグローバル人材育成に関心を持ってくれません。どうすればよいですか?
経営者の関心を引くには、「語学力」ではなく「事業成果」の言語で話すことが重要です。たとえば「海外M&Aの成功率は人材の質に左右される」「海外売上比率を伸ばすために必要な人材が不足している」といった、経営課題と直結する文脈でグローバル人材育成の必要性を伝えます。また、小規模なパイロットプログラムで具体的な成果を示し、そのデータをもとに投資の拡大を提案する方法も効果的です。
グローバル人材育成の成果が出るまでにどのくらいかかりますか?
個人レベルでは、集中的な実践力研修を受講した場合、3〜4ヶ月で明確な行動変化が見られます。組織レベルでグローバル人材プールを構築するには、WIDE施策とDEEP施策を並行して1〜2年継続する必要があります。重要なのは、短期間で目に見える成果を出すDEEP施策の受講者を先行させ、その成功事例を社内に発信しながら組織全体の意識変革を進めることです。
中小企業でもグローバル人材育成は可能ですか?
可能です。むしろ中小企業のほうが、経営者の意思決定から実行までのスピードが速いという強みがあります。大規模なプログラムは不要で、グローバルビジネスに直接関わる数名の社員に対してDEEP施策を集中実施するだけでも十分な効果が得られます。ITツールを活用した語学力の自己学習支援と、対人トレーニングによる実践力強化を組み合わせることで、限られた予算でも成果を出すことが可能です。
連載シリーズ一覧
「グローバル人材育成の進め方」全6回連載は今回で完結です。各回の記事は以下からお読みいただけます。
第2回:グローバルマインドの鍛え方——異文化理解から行動変容へ
第3回:英語力×実践力の両輪で鍛える——語学研修だけでは足りない理由
第5回:海外研修・海外赴任者育成の実践法
第6回(本記事):経営者と人事が押さえるべきグローバル人材育成の成功条件
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