例年にも増して濃厚な情報が集まり始める
ASTD 2012に参加して3日目を迎えました。
昨日までの2日間はCertificate Program(ASTD公認の研修プログラム)ということで、ごく一部の希望者だけが$1,000以上追加で支払って参加する研修でした。
ASTD2012 INTERNATIONAL CONFERENCE & EXPOSITION は、今日からいよいよ本格化。今日日曜日から水曜日までの4日間で、300近い種類の個別Session(人材育成関連セミナー、75〜90分)が開催されます。
同じ時間帯に約30種類の個別Sessionが開催されるため、どのSessionに参加するのか?みな悩んでいます。しかし、ASTDスパイの3人は、日本を出発する前に、誰がどのSessionに参加するのかをすべて決めています。
それは、今回デンバーに来ていないスパイ#001のダーキーが、実は事前にかなり頑張っているお陰です。300近いSessionの紹介文章を彼がすべて読み込み、日本の方々のお役に立てそうなSessionを厳選した上で、どのスパイにどのSessionへ潜入させるかをプランニングしているのです。
このダーキーの働き振りは、映画&TVドラマ「チャーリーズエンジェル」のボスであるチャーリーみたいなものです。自分の姿は一切見せずに、「エンジェル」達を自分の手のひらの上で上手にころがしているようなものです。(自分たちを「エンジェル」に例えたことに、強烈な恥ずかしさを覚えております)
実際に、1日の諜報活動が終わってヘトヘトになっているスパイ3人がベースキャンプ(ホテル)に戻った頃を見計らって、Skypeを使ってビデオ会議を仕掛けてきます。
チャーリーは「エンジェル諸君・・・」と言って電話で話しを始める所を、ダーキーは「ASTDスパイの諸君・・・」とか言って、Skype会議が毎夕始まります。
そんなダーキーのことを「チャーリー気取りはいかがなものか???」と、ASTDスパイ #004のCatherineはいつも微妙な表情を浮かべています。
実は、チャーリー気取りのダーキーも、2010年のシカゴ大会ではその姿をYoutube上にさらしながら頑張っていました。その証拠映像はこちらにあります。
それでは今日も、デンバーにおける諜報活動の成果を、日本にいるみなさまに日本語で日本一素早くお伝えします。
※本日撮影したビデオ映像はこちらにあります(Youtube)
潜入したSessionのキモ
以下に3人のスパイが手分けして潜入したSessionの概要を、今日は次の5つのテーマに分けて紹介していきます。
- 1.GLOBAL
- 2.LEARNING TECHNOLOGY
- 3.LEARNING TRANSFER
- 4.GREAT TRAINING
- 5.Other
※文章中の「ヒント」とは?
各Sessionでスパイたちが収集した情報の中から、日本の人材育成担当者の方にとってヒントになりそうなことをエッセンスとして記しています。
1. GLOBAL
#004 Catherine
SU112 「グローバルリーダシップと異文化の有効性について私たちはいったい何を知っているというの?」
What the Bleep Do We Know About Global Leadership & Multicultural Effectiveness?
(Katherine Holt, Kyoko Seki)
内容:
グローバルリーダーシップのコンピテンシーモデルといえば米国が最先端と信じられてきたが、世界市場に変化が起きている現在、中国文化と伝統に基づいたリーダーシップや経営価値観がこれからは世界的に受け入れられていくだろう。特定の文化のリーダーシップモデルを追随する必要がない今、自国の文化を活かしながらグローバルリーダーを育成する重要性と、その変化によってリーダーが直面するパラドックスを解説する。
ヒント:
自国文化の中でリーダーを育成する
- 自国文化のユニークさを認識する=自己認識
- リーダーシップのエネルギーを意識する=独自性を表現するエネルギー
- 異文化の有効性を伸ばす=各文化の智慧を問題解決に利用する
- パラドックスに対応する力をつける=コーチングの重要性
- リーダーが直面する10のパラドックス
- Strategic or Operational
- Taking change or Empowering
- results or relationship
- listening or expressing
- Global or Local
- Common group or uniqueness
- Open mind or Decisiveness
- Consistency or Versatility
- Humility or Confident
- Doing or Being
#005 David
SU120 グローバルバーチャル研修:成功のための5つの鍵
The Global Virtual Classroom: 5 Keys to Success
(Darlene Christopher)
内容:
Considerations and how to do virtual training globally and across cultures.
ヒント:
- Trim content by making some pre-work and some post-work, because virtual training takes more time.
- Use more slides and graphics that change frequently to keep learners focused and engaged.
- Be aware of cultural references – eliminate, modify with more instructions, or adjust to the culture of the target learners.
- Use interactivity to keep learners focused and engaged.
- Two trainers is best: one is the Lead Facilitator who delivers the training and the other is the Producer who handles the technology and logistics.
- Give learners the options to respond through a different channel – ex. if the trainers asks a question verbally, the learner can respond via chat if she/he wants.
- Prepare and rehearse with the facilitation team, mock learners and with the equipment and place to be used for the actual training.
- Pay attention to time, especially day light savings time, and holidays and work days.
2. LEARNING TECHNOLOGY
#004 Catherine
SU203 本当に使いたくなるe-ラーニングを構築する
Building E-Learning that People Will (Really) Want to Use
(Marc Rosenberg)
内容:
e-ラーニングの権威Marc Rosenbergが、優秀なe-ラーニングであるかを判断するための、13項目全40個の質問からなるチェックリストを紹介する。
ヒント:
本当に使いたくなるe-ラーニングとは、以下の13項目を網羅している
- クライアントの求めているものを正確に把握する
- 正しい優先順位にフォーカスする
- 適材適所にテクノロジーを使用する
- 粗製乱造をしない
- 学習者の立場にたつ
- タイムリーである
- 現実に則している
- 退屈でない
- 学習することにフォーカスしている
- 操作しやすい
- 学習者の経験レベルに合っている
- 学習内容が定着しやすい
- スムーズに導入できる環境である
各項目にはそれぞれ3〜4個の質問があり、5段階評価をするようになっている。
合計スコアが150〜200点であれば、優れたe-ラーニングであると言える。
#002 Kageyama
SU321 ラジオトークショーで研修を強化する多国籍企業
Multinational Food Company Reinforces Training with Global “Talk Radio” Show(Mary McNevin, Paul Reid)
内容:
世界6大陸で20,000人を要してグローバルビジネスを展開している食品会社McCain社の成功事例が紹介された。グローバルに人材育成を進めていくために、彼らは社員向けのラジオショーという大変ユニークなアプローチを展開し大成功を収めた。
人材育成の鍵は、現場のニーズに合ったコミュニケーションであるとMcCain社のグローバル人材育成センターは捉えた。研修のための研修を単純に実施するのではなく、社員の日常業務の中に、人材育成の要素をいかに組み込むかが効果的であるとの認識が、その背景にはある。
それを、1.グローバルに、2.継続的に、3.低コストで、4.みんなを巻き込む形で、と4拍子すべてを満たす具体策はラジオショーであると考えた。
実際にラジオショー(音声だけのDJ番組)を実施して得られた成果とその手法を紹介しながら、「みなさんもラジオショーをやってみては?」とお勧めされた。
ヒント:
ラジオショーは思いの他、低コストで実現できる。しかし、多くの日本企業のビジネス環境や社風を考えると、ラジオショーをグローバルに配信することがビジネス成果に直結するとは考えにくい。
しかし、グローバルにメッセージを届けたいという経営ニーズや人材育成部門の思いは、多くの企業にあるはず。通常その対応策としては、中期経営計画を映像でグローバル配信することや、社長年頭挨拶を世界中に映像で届けることなどで対応していることがしばしば確認できる。
しかし、映像ではなく音声だけであれば、極めて少ないコストと労力で実現できることが、McCain社の事例から読み取れた。映像で3年に一度、1年に一度という少ない頻度ではなく、音声だけであれば毎月または毎週、グローバルにメッセージを届けることが現実的な検討課題となる。このことは多くの日本企業にとって、グローバルに人材育成・能力開発にチャレンジしていくヒントになりうると考える。
#004 Catherine
SU322 バーチャルラーニングへの移行:講師を成功へ導くロードマップ
Moving to the Virtual Classroom: A Trainer’s Roadmap to Success
(Cindy Huggett)
内容:
バーチャル研修を実施する時に、講師が注意しなければならない10のステップと必要なスキルを、スピーカー自身の経験から語る。
ヒント:
バーチャル研修で最も難しいことは、スクリーンの向こう側の受講者をどうやって飽きさせずに継続して集中させることができるか。テクニックとしては以下のようなものが挙げられる。
投票をさせる/常に質問を投げかける/受講者の発言に頻繁にコメントをする/ホワイトボードを利用する/配布物をオンラインで共有する/ゲームタイプの演習をさせる/受講者同士を交流させる
3. LEARNING TRANSFER
#002 Kageyama
SU111 研修成果定着の真実
The Truth About Training Transfer
(Paul Donovan MSc. Mgmt. MSc. T & L, PhD)
内容:
アイルランド国立大学教授によるプレゼンテーション。よい研修を実施しても、10人に一人しか本気で取り組もうとはせず、そのわずか一人も上司の理解が不足しているため、研修で学んだことを実務に活かす機会とその意欲が失われているのが現実である。
その対策として、研修そのものだけではなく、Learning Transfer(学習したことを基に職場で成果を出すこと)こそが重要である。職場で本当に成果を生み出すためには、次の5つのステップを順番に精度よく実践していくことが有効である。
- Identify the Need(現場で求められていることを特定する)
- Design & Development(集合研修と含めた人材育成策を設計する)
- Initiation(研修受講前に上司が動機づけをする)
- Delivery(職場で成果を生み出すように研修を実施する)
- Return to Work(職場に戻った後に研修で学んだことを実践する)
ヒント:
- 研修単体ではなく、研修前後をより一層緻密に設計する
このことは昨年よりASTD世界大会において極めて強く強調される傾向が見られるが、そのことが更に強調されているトレンドを感じる。是非、日本においてももっと注目し、その具体策を実施することが得策であろう。 - 研修受講者の上司を本気にさせるのが肝
研修受講前に上司が受講者に対して、効果的な働きかけをする具体策が紹介された。
※その詳細についてはチェックリスト形式にした上で、「ASTDスパイ帰国報告会」なとで別途ご紹介していきたい。
#002 Kageyama
SU217 リーダーシップ研修の定着を現場で最大限に活かすために
Maximizing the Transfer of Leadership Learning Back to the Job
(Steve Frieman)
内容:
リーダーシップ開発におけるLearning Transfer(学習したことを基に職場で成果を出すこと)を現実のものとして生み出すためには、人材育成担当者が持つ従来型発想から新たな発想へと転換することが求められる。
- 従来の発想: Leaning → Sustained Transfer [前後の関係]
- 新たな発想: Sustained Transfer ・ーー・ Learning [対等の関係]
Sustained Transferを実現するためには、今までもっていた思い込み(パラダイム)を根本的に変える必要がある。この極めて困難な課題を克服するための具体策は、Leader Ally Bench group(研修と受講したリーダー同盟)を組織して安心できる環境をつくり、そのgroup内で定期的に集まりを持ち、職場での実践結果を良い面も悪い面を含めて互いに相談し合うことを継続的に実践することが有効である。
ヒント:
毎年ASTDのSessionで有益な話しを数多く聞けるが、日本企業のビジネス環境や企業文化においては実現が極めて難しい情報が多いのが現実。しかし、心理学博士であるFrieman氏が唱える手法は、多くの日本企業との親和性の高いものとの印象を受けた。
※そのように感じた背景や具体策の詳細については、「ASTDスパイ帰国報告会」なとで別途ご紹介していきたい。
#005 David
SU222 命を救うためのブレンドラーニングとオンライン学習
Blending Instructor-Led and Online Learning to Save Lives
(Leanne Batchelder)
内容:
A case study of a highly successful training program using blended learning and how it was designed. The program was for nurses to train kidney patients on how to perform self-dialysis; therefore it also involved a train-the-trainer element in training the nurses to be effective trainers.
ヒント:
Blended learning should be based on an analysis of learner needs and ability/openness to using a blended approach. Also, the 1:3 approach should be used when designing and implementing a blended solution – that is no more than 1/3 should be teaching and 2/3 should be interactive learning activities. Finally, change management may be necessary when implementing blended learning to ensure that the trainers a comfortable with and can effectively use the blended material and media.
4. GREAT TRAINING
#005 David
SU320 「あなた」というブランドによりエネルギーを与えるための4つの方法
Four Winning Ways to Re-energize YOUR Brand
( Jim Smith Jr.)
内容:
How to develop and promote your own brand as a trainer in order to be more successful as a trainer and to have better personal fulfillment.
ヒント:
If you deliver standard training that is the same as ever other training, you will be invisible. Instead, you should decide what makes you excellent and use that to develop and promote your unique brand as a trainer. (Jim’s brand is “Mr. Energy”.) This will allow for superior training. Moreover, Jim’s facilitation style was beneficial to watch because it provided many useful techniques for one’s own training.
5. Other
#005 David
CPLP Connect Room
(For CPLP holders only)
内容:
A room for CPLP holders to meet each other, good for exchanging ideas and best practices with other CPLPs. (Also a good place to find a table to use since everywhere was quite crowded.)
明日の予告:
明日は朝一番でGeneral Session(基調講演)が行われます。毎年、初回のGeneral Sessionには大物スピーカーが招かれています。
その大役を今年務めるのが、JIM COLLINS。
日本でも「ビジョナリーカンパニー」3部作で有名な方です。彼の最新刊である「Great by Choice: Uncertainty, Chaos, and Luck—Why Some Thrive Despite Them All」に関する講演になることが想定されます。
この本は日本ではまだ翻訳本が出版されていないようなので、スパイ3人でしっかりと諜報活動して、明日またその情報をお伝えしたいと思います。
その他にも、また9つの個別Sessionに参加して収集した情報も併せてお伝えする予定です。