ASTD2014 定着の肝 “Can I?” “Will I?”
この記事では、ASTD2014帰国報告会のうち「定着の肝 “Can I?” “Will I?”」をお伝えします。
※「ASTD(ATD)人材育成国際会議 帰国報告会」は、世界最大の人材育成会議であるASTD(ATD) ICEで発表された内容を日本企業に役立つように紹介するセミナーで、アイディア社が毎年開催しているものです。
講演者:Andrew Jefferson、役職:President and CEO
講演者:Roy Pollock、役職:Chief Learning Officer
会社名:The 6Ds Company
“Can I?”、“Will I?”
この2つの質問についてこの記事では紹介していきます。
まず定着の原点ということで、3つほどスライドを紹介します。
定着の重要性とメカニスズム
研修から職場での成果が出るメカニズムは 下記の通り。
学習(スキルと知識)x 定着=成果だとすると、学習100 x 定着 0 = 0
それより学習10 x 定着 5 = 50 のほうが 圧倒的に良い成果となる。
当たり前だが、研修に重みを置きすぎて定着までなかなか手が回らない場合が多い。
上の画像は、笑ってしまう絵と数字なんですけれども、Learningが10であっても、Transfer、要は現場で使っていくということですが、それが0だったら、結局成果は0ですよね?
だったら、Learningが100じゃなくて、10でも構わないから、何とか使うようにTransferの部分に5の意識を持っていけば50になるじゃない?
ということでとにかく足し算ではなく、掛け算なので、Transferに工夫をしないと、結局皆さんの
- エネルギー
- 努力
- 予算
などが本当に結果に繋がらないんですよ。
ということを彼らは強調しています。
定着度が決まる瞬間
研修後、受講者は研修で得られた内容を職場で使うかどうか迷うタイミングが出てくる。
その際、受講者の選択は以下の2つとなる。
1.研修で学んだ方法を試してみる
2.今まで通りの方法で行う
瞬時に選択1(研修内容を生かしてみる) を選ぶ受講者がどれだけいるかで、だいたいの研修効果が決まってくる。
次は定着度が決まる瞬間ということで、結局やるかどうかが勝負なので、どういう良いことを学んだだけじゃ決まらないですよということです。
根本となる2つの問い
受講者が研修内容を職場で使うかどうかを考える際、その答えを導くために、この2つの簡単な問いがきわめて有効である。
1.Can I?(できる?)
2.Will I?(やるの?)
Can Iという、この出来るの?ということと、あとWill I、本当にやるの?という、この2つの質問に両方Yesと答えられる状況を作らないと、結局皆さんが色んな事を考えて行っていく、研修やトレーニングは全く意味がないです。
ということを言っています。
定着しない際のポイント
職場で受講者が「できる?」「やるの?」と自問した際、明確に 「はい」と瞬時に答えられないなら、研修の効果や定着はゼロになる。
日本人の受講者の特徴の一つは、研修中の理解度と習得度が高いのに研修後に職場で研修内容を生かさないこと。
その一つの理由は「Can I?(できるの?)」について謙虚に考えており、やってみる自信がない。
「Will I?」については周りに迷惑をかけたくなくて、やりたくても新しいやり方をすぐ生かさない場合がある。
具体的にどういうことなのか。
上の図を見ていきましょう。
まず、左側です。最初にCan Iが来ます。
「出来るの?」ということですね。出来ないことは出来ないわけですから。
では研修を通じて、出来るようにしていきましょうというのが第1段階です。
2つの問いの詳細
細かく言えば、下記のような要素が2つの問いに含まれる。
「できる?」(Can I?)
1. 研修を通して本当にできるようになったか
2. 研修内容を使う機会が近いうちにあるか
3. やってみる自信はあるか
4. 必要なら助けてくれる人がいるか
「やるの?」(Will I?)
1. 使ってみるモチベーションはあるか
2. やったところで何か利点はあるか
3. 使ってみたら誰が気づくか
4. 上司・同僚はどう思うか
次に、「出来たらやるか?」というと、そうじゃないことってたくさんあると思います。
- 忙しいから出来ない
- あの上司のためにはやりたくない
- いろいろ何とかがあって
言い訳みたいなこともあれば、なぜそれをやるべきなのか、全く意味が分からないとかいうことだと、結局やろうとしないので「Will I?(やるの?)」って聞かれた時に、Noなんです。
じゃあ、それをYesって言ってもらうためにはどうしていけばいいのか?
最初に出来る方、「Can I?(できるの?)」ですけれども、研修を通して本当に出来るようになったのかということです。
分かったつもりは所詮「理解した」ということなので、「出来るか」というのとは別問題です。
だから、ちゃんと出来るようになっているかを確認することが非常に大切です。
なおかつ、研修中の演習等を通して、自分はちゃんと出来るようになったと、本人に自覚させること、それがないと「Can I?(できるの?)」って聞いた時に、「よく分かりません」となってしまうので、研修を通じて出来るようにさせて、近いうちに出来るような機会を作っておく。
近いうちに使う機会を作っておくっていうのは、研修前に上司とかと調整しておくと明確になるので、この辺もさっきの話と繋がって来るのではないかなと思います。
あと、「Will I?(やるの?)」っていう方はやる意味ですよね。
こういったことを伝えていく。
これもまさに上司との事前の面談とかで結構決まっていくと思います。
「今回の研修って、どうやらこういうテーマみたいだよね。もしこういうことが出来たら、戻って来たらこんなプロジェクトが出来そうなんで、どうだろう?」
とやっておくと。
すると自分がもしそのプロジェクトをやってみたいと思っていたら、一生懸命研修も学ぶでしょうし、出来るように研修でなったら、よしやってやろうって思って、研修会場を出ていくじゃないですか?
ぜひ、そのような機会をうまく作っていこうということです。
「はい、できる」と言わせるヒント
「Can I?」対策として、特にこの2つは有効である。
1.研修で伝える内容を減らして、演習を増やす(分かった状態で終わらせて、ちゃんとできるようにさせる)
2.サポートツールを使う(職場で困ったときにすぐ使える便利な チェックリストやツールがあれば、受講者は安心する)
ここから少し理屈っぽくなってしまいますが、「Can I?」と言われて「Yes,I can!」と言うためには、さきほど紹介した、シックスデイズのプロセスのD3番とD5番とD1番辺りを意識する。
「はい、やる」と言わせるヒント
「Will I?」対策として、特にこの2つは有効である。
1.研修の受講者と自分にとってのメリットを明確にして強調する
2.環境的な障害をできるだけ少なくする(上司を自然と巻き込む仕組みをつくる、定期的に研修内容のリマインドをするなど)
あと、「Will I?」と言われて「Yes,I will!」OKやるよって言うためには、このDの1番、4番辺りを意識する。
ということなんですけど、
本当にこれをちゃんとやろうとすると、表紙の辺りで紹介していた、青い分厚い英語の難しい単語が書いてある、300ページの本を読みこまないといけないので、結構しんどいと思います。
なのでポイントとしては上の画像の「日本語で書いてあるところ」を意識して設計する。
我々は研修とかを企画したり、こういった場所でセミナーをやっていると「出来るようにすれば何とかなるんじゃないか?」みたいな思い込みに捉われる時が私はたまにあります。
でも出来るようになってもらっただけじゃ、やっぱり現実は動かなくて「やってみよう。やるの?」と聞かれた時に「やる!喜んでやる!ぜひやってみたい!」っていうふうにやっていくにはどうすればいいのか?と。
実は研修中のファシリテーションのやり方とかでも、確かに工夫できるところはありますが、その前とか後で工夫できることはたくさんあるので、その辺もトータルでうまくデザインしていきましょう。
というのが、もともとシックスデイズが言っている、D1の考え方です。
それをすごくシンプルに言うと、「Can I?Yes.Will I?Yes.って言えるような工夫って、どんどんどんどん皆さんやっていきましょう」というのが、彼らが結構難しい理屈をシンプルにこの2つの質問に込めた背景なんじゃないかなというふうに思います。