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人材育成ワールドトレンド報告会2020 セミナーレポート|コロナ禍で変わった研修設計・リモート・効果測定の最前線

人材育成ワールドトレンド報告会2020 セミナーレポート|コロナ禍で変わった研修設計・リモート・効果測定の最前線

2020年、新型コロナウイルスの影響で人材育成の世界は一変しました。集合研修の中止、リモート研修への緊急シフト、そしてwithコロナ時代の新しい研修設計——世界中の人材育成担当者が同時に同じ課題に直面した年でした。

IDEA DEVELOPMENT株式会社では、ATD Virtual Conference、Josh Bersin Remote Boot Camp、Learning Technologies、The L&D Conferenceなど2020年に開催された6つの主要グローバルカンファレンスの知見を集約し、「人材育成ワールドトレンド報告会2020」として報告会を開催しました。

本記事では、報告会で取り上げた6つのテーマを再構成し、2020年の転換点で何が起きていたのか、そしてその知見が今の研修設計にどう活かせるのかを整理します。

この記事で分かること

パンデミックが人材育成に与えた影響——データで見る2020年の転換点

2020年の人材育成は、大きく3つのフェーズをたどりました。4月の緊急対応期、5月の初期適応期、そして7月以降のwithコロナ定着期です。各フェーズで世界の人材育成担当者がどのような判断を迫られ、何が見えてきたのかをデータとともに振り返ります。

緊急対応期(4月):CLO調査にみるリモートシフトの実態

Center for Corporate Learning Innovationが世界のCLO(最高人材育成責任者)を対象に実施した調査は、パンデミック初期の混乱を数字で捉えた貴重なデータです。

CLO調査:パンデミック初期の人材育成への影響(2020年4月)

予算は維持できたが、リモートへの移行と設計力不足が大きな課題に

研修予算の削減なし
75%
新しい育成施策に着手
57%
リモートにシフト済み
41%
リモート研修設計ができない
28%

注目すべきは「予算削減なし」が75%だった一方で、「効果的なリモート研修の設計方法(メソドロジー)がない」が最大の課題として28%で浮上した点です。お金はある、やる気もある、しかし「どうやればいいか分からない」——これが2020年4月の世界の人材育成の現実でした。社会的距離を保ちながら研修を実施できるかという問いに対しても、「はい」と答えた組織はわずか34%にとどまっています。

初期適応期(5月):LinkedIn Learningが捉えた学習ニーズの急増

LinkedIn Learningのレポート「Leading with Learning」は、パンデミック初期に企業の学習行動がどう変化したかを定量的に示しました。

LinkedIn Learning「Leading with Learning」調査

LinkedIn Learningの歴史上最大の「学習スパイク」が発生した時期のデータ

130%

企業受講者の学習時間が増加

2020年3〜4月 vs 1〜2月

346%

管理者が作成した学習パス数が増加

2020年3〜4月 vs 1〜2月

27% → 70%

CEOが人材育成を積極支援する企業

2019年10月 → 2020年5月(半年で2.6倍)

10x

マインドフルネス・ストレス管理の視聴数

2020年4月 vs 2月

この数字が意味すること:上2つは「学ぶ側と管理する側の両方が動いた」こと、下2つは「経営層の意識変化」と「研修部門の守備範囲拡大」を示している。学習量・経営者の姿勢・テーマの3軸すべてが同時に変わった。

もうひとつ見逃せないのが、メンタルヘルスの台頭です。L&D担当者の69%が「従業員のメンタルヘルスと健康管理が新たな役割になった」と回答しています。マインドフルネスやストレス管理コンテンツの視聴が10倍に増えたことからも、研修部門の守備範囲が「スキル開発」から「従業員の心身のケア」へと広がったことが分かります。

さらに、受講者の上司も変化しました。68%のL&D担当者が「マネージャーがコロナ前よりも部下の学習を積極的に支援するようになった」と報告しています。危機を契機に、経営層・上司・L&D部門の三者が「人材育成は投資である」という認識で一致した——これは2020年の最も重要な構造変化のひとつです。

withコロナ定着期(7月):Adobe調査にみる予算と実施形態の変化

AdobeがCLOを対象に実施した「CLO's view of L&D Strategy post COVID-19」調査は、パンデミックから数ヶ月が経過した時点での人材育成の「落ち着いた現実」を映し出しています。

2020年の人材育成:3つのフェーズの変遷

1

緊急対応(4月)

「とにかくリモートに切り替える」

41%がリモートにシフト。33%は延期、26%は未定。リモート研修の設計ノウハウがないことが最大の壁に。

2

初期適応(5月)

「学習ニーズが急増、経営者も動いた」

学習時間130%増。CEO支援率27%→70%。メンタルヘルスが新テーマとして浮上。短期でILT 54%減、VILT 83%増。

3

定着(7月)

「リモートが標準、ブレンドが次の課題」

研修の77%がリモート。予算は45%が変更なし。35%が集合研修の大半をリモートに変更。来年度以降も3/4以上がリモート予定。

この変遷から読み取れること:わずか3ヶ月で「緊急対応」から「新しい標準」への移行が完了した。しかし、65%の組織がリモート対応の準備ができていたと回答しており、技術インフラより研修設計のスキルギャップが本質的な課題だったことが浮き彫りになった。

3つのフェーズを通じて見えてきたのは、「お金・ツール・やる気」は揃ったが、「どう設計すれば効果が出るか」という方法論の不足が最大のボトルネックだったということです。この課題感は2020年に限った話ではなく、リモート研修やブレンドラーニングの設計に取り組む今の研修担当者にとっても、依然として重要なテーマです。

パンデミックが引き起こした研修のリモートシフトがその後どのように進化し、現在のブレンドラーニング設計にどうつながっているかは、企業研修のトレンド|リモート・ブレンデッドラーニング設計の実践ポイントで詳しく解説しています。2020年の転換点と今をつなげて理解したい方はあわせてご覧ください。

リモート研修を成功させる3つのコンピテンシー

2020年後半、課題は「ツールの導入」から「リモートでいかに質の高い研修を実施するか」に移りました。報告会では、David Smith(DS Virtually)、Cindy Huggett、Kassy LaBorie(Kassy Consulting)らの知見をもとに、成功に必要なコンピテンシーを整理しました。

デジタルフルーエンシー:ツールの「使い方」から「使いこなし」へ

David Smithが提唱する「デジタルフルーエンシー」とは、目的を達成するために適切なデジタルツールを選択して使いこなす力です。「Zoomの使い方を知っている」ではなく、「この演習ではブレイクアウトルームとチャットのどちらが効果的か」を判断できることが求められます。

リモートツールの目的別マップ

目的に合わせてツールを選ぶことがデジタルフルーエンシーの本質

ファイル共有

情報のインプット、理解を深める

スピーキング

即興のレスポンス、口頭での意見交換

投票・アンケート

フィードバック収集、理解度確認

チャット

意見を引き出す、全員の声を可視化

ブレイクアウトルーム

グループワーク、少人数ディスカッション

ホワイトボード

アイディア出し、情報のビジュアル化

自社で試すなら:青=インプット、緑=フィードバック、橙=アウトプット。「今の目的は何か?」を意識してツールを切り替えるだけで参加度が変わる。

ツールの選択力に加え、Smithは「リモート達人」に必要な3つの領域を挙げています。

プラットフォームスキル

ツールを使い倒す力

複数プラットフォーム対応、全機能のフル活用、トラブルシューティング

バーチャルプレゼンス

画面越しに人を惹きつける力

カメラ・マイクの使い方、参加者を引きつける工夫、ファシリテーション

イベントの振り付け

全体を設計・デザインする力

ストーリー作成、演習設計、リハーサル、チームの準備

リモート講師に求められる5つのスキル(Cindy Huggett)

リモート講師トレーニングで20年以上の実績を持つCindy Huggettは、必要なスキルを5つに整理しています。

リモート講師に必要な5つのスキル

1

準備

事前準備7:研修実施3の配分。スライド・演習・トラブル対応をすべて事前に用意

2

巻き込み

3分に1回は必ず受講者を巻き込む。投票・チャット・挙手など手段は小さくてよい

3

マルチタスク

話しながらチャット確認・投票起動・ブレイクアウト準備。サポート役の配置が有効

4

スムーズなAV進行

画面共有のオン・オフが鍵。カメラは目の高さ、前からの柔らかい光、顔〜肩が映る距離

5

ITリテラシー

Zoom・Teams・Webexなど複数プラットフォームに精通し、受講者環境に柔軟対応

最も効果が出やすい一手:スキル2「巻き込み」。次のリモート研修で「3分に1回、受講者に何かしら反応を求める」だけで空気が一変する。

集合研修からリモート研修への変換6ステップ

既存の集合研修をリモートに変換する際、「スライドをそのままZoomで映す」だけでは機能しません。以下は体系的な移行プロセスです。

集合研修→リモート研修 変換の6ステップ

PHASE A 企画(そもそもリモートでやるべきか?)
1

目標設定

リモートで達成できるか? 困難なら「やらない」判断も必要

2

現状把握

既存コンテンツの棚卸し、受講者の通信環境・ITスキルの事前監査

PHASE B 設計(どうリモートに変換するか?)
3

プランニング

ビデオ・PDF・ポッドキャスト等を組み合わせた学習ジャーニーの設計

4

チューニング

フリップチャート→ホワイトボード、グループ演習→ブレイクアウトルームに変換

PHASE C 実行(どう実施し、成果を確認するか?)
5

期待設定

受講者への接続テスト案内、上司・ステークホルダーへの事前情報共有

6

研修実施

演習でスキルを鍛え、研修後は定着を支援。成果はビジネスへのリターンで確認

見落としがちなポイント:多くの企業がPHASE B(設計)から着手するが、PHASE A(企画)を飛ばすと「リモートでやる必要がない内容」までリモート化してしまう。

受講者が参加しない4つの原因と対策

研修設計が優れていても、受講者が参加しなければ意味がありません。報告会では、参加を阻む4つの原因とその対策が共有されました。

リモート研修に参加しない4つの原因と対策

テクニカル

通信環境が悪い、ツールの使い方が分からない

対策:事前の接続テスト、トラブルシューティングガイドの配布

ファシリテーション

どう参加すればよいか不明、指示が分かりにくい

対策:具体的な指示出し、ツールの使い方を冒頭で練習

社風

参加する習慣がない、発言に抵抗感がある

対策:少人数のブレイクアウトで安全な場をつくる

モチベーション

講師の話し方が退屈、巻き込まれない

対策:双方向の進行、3分に1回の巻き込み

リモート研修の設計は、集合研修をオンラインに「移す」作業ではなく、学習体験の再設計です。集合研修とリモート研修の使い分けについては、ブレンドラーニングとは|研修効果を高める設計の考え方と実践ポイントで解説しています。

研究に基づく研修設計——よくある「勘違い」と科学的エビデンス

報告会の第3テーマでは、Will Thalheimer(Work Learning Research)、Clark Quinn(Quinnovation)、Mirjam Neelen(Novartis)、Matt Richter(The Thiagi Group)ら、研究と実践をつなぐ専門家の知見が紹介されました。人材育成業界で「常識」とされていることの中には、科学的根拠がないものが少なくありません。ここでは報告会で取り上げられたクイズ形式の問いかけから、研修設計に直結する3つのテーマを取り上げます。

ラーニングスタイル神話:科学が否定した「定説」

「受講者のラーニングスタイル(視覚型・聴覚型・体感型など)に合わせて研修を設計すれば学習効果が上がる」——この考え方は人材育成業界で広く信じられていますが、科学的には否定されています。

広く信じられていること

「ラーニングスタイルに合わせれば効果が上がる」

視覚型の人にはビジュアル中心、聴覚型の人には音声中心の研修を提供すべき、という考え方。MBTIやDISCと同様に、直感的に「正しそう」と感じられるため広く普及した。

研究が示すこと

「ラーニングスタイルに合わせても効果は変わらない」

Pashler et al.(2008)、Willingham et al.(2015)など、数十年にわたる複数のレビューがすべて同じ結論に達した。スタイルに合わせた設計が効果を高めるという証拠はない。

では何に合わせるべきか:受講者の「スタイル」ではなく「知識レベル(Prior Knowledge)」に合わせることが研究で支持されている。初心者と経験者で同じ研修をしないことが、効果的な設計の出発点になる。

フィードバックのタイミング:いつ正解を教えるべきか

eラーニングの小テストで受講者が間違えた場合、いつ正解を教えれば最も記憶に残るか。報告会ではButler & Roediger(2008)やBrosvic et al.(2005)の研究が紹介され、フィードバックのタイミングによる効果の違いが示されました。

フィードバックのタイミングと記憶の定着率

Butler & Roediger(2008)の研究データをもとに構成

クイズなし

そもそもテストをしない場合、記憶の定着率が最も低い

クイズあり・フィードバックなし

テストするだけでも効果はあるが、正解を教えないと改善が限定的

解答直後にフィードバック

間違えた直後に正解を教えると定着率が大幅に向上

最高

テスト終了後にまとめてフィードバック

全問解答後にまとめて正解を示すと、最も高い定着率を記録

自社で試すなら:eラーニングの理解度テストを「正解を教えない確認テスト」から「正解と解説をテスト後にまとめて表示する復習ツール」に切り替えるだけで、知識の定着率が向上する。

繰り返しのタイミング:スペースドラーニングの効果

同じ内容を繰り返し学習する場合、間隔を空けたほうが記憶に残りやすいことは「間隔効果(Spacing Effect)」として知られています。しかし、最適な間隔はどのくらいか。報告会ではKrug et al.(1990)やDellarosa & Bourne(1985)の研究が紹介されました。

効果が低い繰り返し方

研修中に間髪入れず繰り返す

「さっき説明したことをもう一度」式の即座の繰り返し。その場では分かった気になるが、長期記憶には残りにくい。

1回見ただけで終わり

繰り返しなし。当然ながら定着率は最も低い。

効果が高い繰り返し方

間隔を空けて繰り返す(Spaced Repetition)

時間が経ち、少し忘れかけたタイミングでリマインドすると長期記憶に定着しやすい。Krug et al.の研究では即座の繰り返しに対し約1.5倍の定着率を記録。

広い間隔で繰り返す(Widely Spaced)

Dellarosa & Bourneの研究では、8文離して繰り返したほうが1文離した場合より定着率が高い結果に。

研修設計への示唆:1日研修で「午前に教えた内容を午後にもう一度」ではなく、「1週間後にメールでリマインド」「2週間後にフォローアップセッション」のほうが定着する。シリーズ研修やブレンドラーニングが効果的な理由のひとつがこの間隔効果にある。

その他の研究知見:脳科学・ゲーミフィケーション・研修目的

報告会ではほかにも、研修設計者が知っておくべき研究知見が複数紹介されました。

脳科学(ニューロサイエンス)

「脳科学に基づく研修」と聞くと説得力を感じる人が多いが、現時点で脳科学から直接導かれた研修設計の手法は存在しない(Bowers, 2016)。科学っぽい用語に惑わされないことが重要。

ゲーミフィケーション

研究結果に一貫性がない。「効果あり」「効果なし」「逆効果」の研究がそれぞれ存在する。エンゲージメントは上がるがテスト結果は下がる、という複雑な結果もある。

研修目的の提示

冒頭に研修目的を明確に伝えると、目的に関連する内容の学習効果は高まる。ただし目的に含まれない内容の学習効果は下がる。つまり目的設定は「集中させる」と同時に「視野を狭める」効果も持つ。

MBTI・DISCの妥当性

MBTIは信頼性と妥当性に問題がある。DISCもMBTIと大差ない。科学的に支持されているのはHEXACOやBig Fiveなどのパーソナリティモデル。

これらの研究知見に共通するメッセージは「直感的に正しそうに見えることが、必ずしも効果的とは限らない」ということです。研修設計の判断を「流行」や「権威ある響き」に委ねるのではなく、エビデンスに基づいて行うことが、限られた予算と時間で最大の効果を出す近道です。研修効果をどう測定するかについては、研修効果測定の代表的なモデル比較|カークパトリック・フィリップス・LTEM・SCMを解説で詳しく解説しています。

成果につながる研修設計——行動変容とラーニングジャーニー

報告会の第4テーマでは、Thiagi(The Thiagi Group)、Arun Pradhan(Learn 2 Learn)、Marek Hyla・Grzegorz Plezia(Accenture)、Sharon Boller(TIER1 Performance)らの知見をもとに、「受講者が研修後に職場で行動を変え、成果につなげる」ための設計手法が紹介されました。

人材育成担当者に必要なマインドシフト

Arun Pradhanは、人材育成担当者の役割を「Order Taker(依頼を受けて研修をつくる人)」から「Performance Partner(成果を出すパートナー)」に変える必要があると提唱しています。

ORDER TAKER(従来)

PERFORMANCE PARTNER(今後)

研修目的

コンプライアンス、勉強、スキルアップ

職場での行動変容、ビジネス成果

視野

狭い、短期的

広い、長期的

こだわり

研修の内容

ニーズ、目的、ビジネス課題

専門分野

研修設計と講師スキル

研修設計+システム思考+コンサルティング

研修の形

単独研修プログラム

総合的な施策(研修+職場実践+フォロー)

成果指標

学び、気づき、知識習得

行動変容、ビジネス成果

この対比が意味すること:「研修の質を上げる」話ではなく、「人材育成担当者の仕事の定義を変える」話。ビジネス課題の解決に責任を持つパートナーになるということ。

行動変容を促すE.A.S.T.フレームワーク

Pradhanはさらに、研修後の行動変容を促すための実践フレームワークとして「E.A.S.T.」を紹介しました。英国のBehavioural Insights Teamが開発したこのフレームワークは、人の行動を変えるための4つの原則を示しています。

行動変容の4原則「E.A.S.T.」と成功事例

E

Easy(簡単にする)

デフォルトに設定する、手間を減らす、シンプルに伝える

事例:手術の安全チェックリスト導入 → ミス30%減

A

Attractive(魅力的にする)

注意を引く、特典を与える、比較対象を並べる

事例:小便器にハエの絵 → 汚れ80%減、掃除費用8%減

S

Social(社会的にする)

「みんなやっている」と思わせる、集団力を使う、宣言させる

事例:「住民の9割は納税済み」と手紙に明記 → 集金15%増

T

Timely(タイムリーにする)

最適なタイミングで働きかける、目の前の損得を意識させる

事例:定例会議直前に承認表現集を送付 → 行動変容22〜40%

研修設計への応用:研修後のアクションプランを「If ○○, then ○○」の定型文にする(E)、上司に研修内容の1枚サマリーを送る(S)、定例会議の直前にリマインドを送る(T)——EASTの4原則を研修の前後に組み込むだけで定着率が変わる。

受講者のラーニングジャーニー6ステップ

AccentureのMarek HylaとGrzegorz Pleziaは、ATD Virtual Conferenceで「Moments That Matter in Corporate Learning」として、受講者が研修を通じて経験する6つのステップを整理しました。各ステップで受講者が何を求めているか、そして現状どこが手薄になっているかを把握することが、研修設計の改善につながります。

受講者のラーニングジャーニー:6つのステップと改善ポイント

STEP 1

出発

受講者が求めること:明確さ、関連性、上司サポート

現状:30%のみ研修前に上司面談

STEP 2

初接触

受講者が求めること:良い第一印象、分かりやすさ

現状:28%のみ迷わない工夫あり

STEP 3

講師との関わり

受講者が求めること:安全安心、信頼関係、フィードバック

現状:29%のみ失敗から学ぶ社風

STEP 4

研修の受講

受講者が求めること:役立つ内容、飽きない流れ

現状:26%が質の高いコンテンツ不足

STEP 5

スキル定着

受講者が求めること:練習時間、フィードバック

現状:7%のみ振り返る時間あり

STEP 6

行動変容

受講者が求めること:挑戦できる風土、上司サポート

現状:53%のみ上司サポートあり

最も手薄なステップ:STEP 5(スキル定着)とSTEP 6(行動変容)。研修当日の設計(STEP 2〜4)に注力する企業は多いが、研修後の振り返り・実践・フォローに投資している企業は少数派。ここを改善するだけで研修のROIが大きく変わる。

研修を「当日だけのイベント」ではなく「数週間〜数ヶ月のジャーニー」として設計するアプローチは、実際に多くの企業で成果を上げています。具体的な設計事例については、研修設計の実践事例17選|新入社員からグローバル人材育成までで詳しく紹介しています。

研修を「やりっぱなし」にしない定着の技術——ラーニングトランスファー

報告会の第5テーマでは、Paul Matthews(People Alchemy)、Ina Weinbauer-Heidel(Institute for Transfer Effectiveness)、Ian Townley(Practical Training Transfer)とJason Durkee(IDEA DEVELOPMENT)、Emma Weber(Lever)らの知見をもとに、研修内容を職場での成果につなげる「ラーニングトランスファー」の技術が紹介されました。

成果につながる研修の基本パターン

Paul Matthewsは、コロナ禍で集合研修からリモートに急シフトした今こそ、「研修の形」ではなく「研修の目的」を問い直すべきだと主張しています。研修のゴールは知識のインプットではなく、職場での行動変容です。その行動変容を実現するための基本パターンが、以下の4ステップの繰り返しサイクルです。

成果につながる研修の基本サイクル(Paul Matthews)

1

キックオフ

60〜90分のリモート会議。先週の振り返りと今週の実行計画を確認

2

インプット

PDF・ビデオ・調べ学習による自己学習。反転授業の考え方

3

実践演習

意識的な反復練習(Deliberate Practice)。できるまで繰り返す

4

フィードバック

上司・同僚・映像など多様な手段で。講師以外のフィードバックも視野に

このサイクルを毎週繰り返す。講師の役割は「講義」ではなく「職場実施の支援」。

定着を強化する12のレバー

Ina Weinbauer-Heidelが体系化した「12 Levers of Transfer Effectiveness」は、110年以上のラーニングトランスファー研究を集約したフレームワークです。12のレバーは「受講者」「研修設計」「組織」の3カテゴリに分類されます。

ラーニングトランスファーを強化する12のレバー

受講者(TRAINEES)

1. モチベーション

「ぜひやりたい」と思わせる

2. 学習力(自己効力感)

「自分にもできる」と思える自信

3. 定着への意欲

研修後もフォローする意欲の継続

研修設計(DESIGN)

4. 明確な目的

何をすべきかが分かる

5. 関連性の高い内容

「これは使える」と思える

6. アウトプット中心の演習

十分な練習で現場で使える自信

7. 実行計画

研修後に何をすべきかが明確

組織(ORGANIZATION)

8. 活用する機会

職場で使える機会がある

9. 個人の定着力

試してみる時間がある

10. 上司のサポート

上司の期待と支援がある

11. 同僚のサポート

周りの理解と協力がある

12. ラーニング文化

定着する責任感がある風土

自社の定着状況を診断するなら:12のレバーを1〜5点で自己採点し、最も低いレバーから改善に着手する。多くの企業では「10. 上司のサポート」と「8. 活用する機会」が弱点になっている。

定着を阻む課題と具体的な打ち手

Weinbauer-Heidelは、定着を阻む代表的な課題とその解決ヒントも共有しました。

定着を阻む4つの課題と打ち手

上司の巻き込み

課題

研修の重要性・内容が分からず、適切なフォローができない

打ち手

上司向け1枚サマリーの配布、「15分で良いから」と負担を下げる

第一歩を踏み出させる

課題

やる気はあっても行動に移らない

打ち手

「If ○○, then ○○」の定型文でベイビーステップを設定

同僚の巻き込み

課題

研修を受けていない同僚の理解がなく、新しいことを試しにくい

打ち手

同じチームから数人を受講させる、受講者が同僚に研修内容を教える

定着の意識を高める

課題

研修修了=卒業という意識。職場に戻るとモチベーションが下がる

打ち手

修了書を職場実施後に渡す、職場で実践後に結果発表をさせる

AI×ラーニングトランスファーの可能性

Emma Weber(Lever)とTrish Uhl(Owl's Ledge)は、AIを活用したラーニングトランスファーの事例として「コーチM」を紹介しました。コーチMは、Weberが20年以上のトランスファーコーチングの知見をもとに2015年から開発を進めてきたAIコーチングツールです。

定着フォローのスケール課題と解決アプローチ

「丁寧なフォロー」と「スケール」の両立が最大の課題

低テック × 低タッチ

定着なし

ITもフォローもない。研修をやって終わり。

低テック × 高タッチ

定着はあるが大変

手作業でフォロー。効果は出るが工数が膨大。

高テック × 低タッチ

定着の支援

ITでリマインドや進捗管理。手間は少ないが個別対応は弱い。

高テック × 高タッチ

理想(AIコーチング)

AIが個別コーチングを代行。丁寧さとスケールを両立。

コーチMの実績:20,000件以上の1対1コーチング会話、8,000人以上のコーチング受講者、120以上の会話パスウェイ。研修後8〜10週間のフォローで、アクションプラン作成率72%、マイルストーン達成率67〜75%を記録。

研修の定着フォローは、「やるべきだと分かっているが手が回らない」領域の代表格です。2020年時点ではAIコーチングはまだ黎明期でしたが、テクノロジーを活用して定着の「質」と「スケール」を両立する方向性は、今も変わらず重要です。研修後のフォロー設計について、パンデミック前の研修スタイルに戻ることのリスクはパンデミック前の研修に戻ってはいけない3つの理由で解説しています。

研修効果測定の実践——LTEM・フィリップス・ラーニング探偵

報告会の最終テーマでは、Will Thalheimer(Work Learning Research)、Kevin Yates(Facebook L&D Detective)、Jack Phillips・Patti Phillips(ROI Institute)らの知見をもとに、研修効果測定の実践手法が紹介されました。「効果測定は難しい」と敬遠されがちですが、報告会で共有された手法は「完璧な測定」ではなく「今日から始められる実践的な一歩」に焦点を当てています。

LTEM:スキル定着を重視した8段階モデル

Will Thalheimerが開発したLTEM(Learning-Transfer Evaluation Model)は、カークパトリックの4段階モデルの課題を踏まえ、知識のインプットよりスキル定着に重点を置いた効果測定モデルです。信号機の色(赤・黄・緑)で「測る意味があるか」を直感的に判断できるのが特徴です。

LTEM(Learning-Transfer Evaluation Model)8段階

赤=測る意味が薄い、黄=不十分、緑=効果測定として有効

8

成果 — 職場実施の成果を幅広い視点(受講者・組織・ビジネス)で確認

7

職場実施 — 研修内容を実際の業務で適切に活用できている

6

応用能力 — 業務に近いシナリオで適切な判断と行動ができる

5

基本能力 — ケースで適切な判断ができる(忘れる可能性あり)

4

知識 — 用語や事実を答えられる(実務能力の証明にはならない)

3

意識 — 受講者満足度アンケート(効果の証明にはならない)

2

評価 — 注意・関心・参加度の測定(学習の証明にはならない)

1

出欠席 — 参加したかどうか(参加しても学ばない可能性)

自社の効果測定を診断するなら:自社が今やっている効果測定は何段階か? 多くの企業が段階1〜3(赤ゾーン)にとどまっている。段階6以上(緑ゾーン)に到達するには、研修後の職場実施を追跡する仕組みが必要。

ラーニング探偵:効果測定の3つの問い

FacebookのL&D部門で「ラーニング探偵」として知られるKevin Yatesは、効果測定を「事実と証拠に基づいてミステリーを解決する」プロセスと捉えています。すべての研修で効果測定をする必要はなく、以下の基準に当てはまるプログラムに絞って実施すべきだとしています。

効果測定を始めるための3つの問い(Kevin Yates)

1

ビジネスゴールは何か?

「売上20%増」「残業3割減」「開発期間2週間短縮」など具体的に。これが分からなければ効果測定は不可能

2

目標達成のために何が必要か?

研修後にどこの職場で誰が何をすればよいか。行動イメージを明確にしないと研修と最終目標がつながらない

3

効果の証拠はどこにあるか?

既存KPIの中から目標達成・受講者の行動と関連するものを見つける。研修前から経営者と合意しておくことが重要

Yatesからのアドバイス:効果測定は難しいが、不可能ではない。大切なのはビジネス成果に対する高い好奇心と、客観的な事実と証拠にこだわること。

フィリップスの5段階モデル:どこまでやるべきか

Jack PhillipsとPatti Phillipsが提唱するROI Methodologyは、カークパトリックの4段階にROI(投資対効果)を加えた5段階モデルです。すべての研修で5段階まで測定する必要はなく、以下が推奨割合です。

フィリップスの5段階モデル:推奨する測定割合

すべての研修を5段階まで測る必要はない。重要なプログラムほど深く測る

段階

測定内容

推奨割合

一言アドバイス

0. インプット

受講者数、出欠、コスト

100%

すでに出ている

1. 評価

受講者の満足度、フィードバック

90〜100%

ニーズへの重点を

2. 習得

知識・スキルの習得度

60〜90%

簡単なテストで十分

3. 活用

職場での実践度合い

30〜40%

現場のフォローが必要

4. 成果

ビジネス上のインパクト

10〜20%

因果関係の特定が必要

5. ROI

費用対効果(金額換算)

5〜10%

究極の評価

実践のポイント:まず全プログラムの2割程度の重要プログラムで段階3(活用)まで測定することから始める。段階5(ROI)が必要なのは、経営者が直接関与し、大きな予算をかけたプログラムのみ。

効果測定の各モデルの詳細な比較と、自社に合ったモデルの選び方については、研修効果測定の代表的なモデル比較|カークパトリック・フィリップス・LTEM・SCMを解説で詳しく解説しています。また、効果測定を今日から始めるための具体的な手順は研修効果測定のやり方|実践できる3つのステップを解説をご覧ください。

よくある質問

Q1. 2020年のトレンドは今の研修設計にも役立ちますか?

はい。2020年に浮上した課題——リモート研修の設計力不足、研修後の定着フォローの欠如、効果測定の形骸化——は、2020年固有の問題ではなく構造的な課題です。パンデミックがこれらの課題を顕在化させただけで、本質的な対策は時代を問わず有効です。特にブレンドラーニングの設計、ラーニングトランスファー、効果測定モデルの知見は、今の研修設計にそのまま活かせます。

Q2. リモート研修で受講者の参加度を上げるには何から始めればよいですか?

最も即効性があるのは「3分に1回、受講者に何かしら反応を求める」ことです。投票1問、チャットで一言、挙手で確認——手段は小さくて構いません。講義時間を減らし、ブレイクアウトルームでの少人数ディスカッションの時間を増やすことも効果的です。研修時間全体のうち演習を7割、講義を3割に設定することを目安にしてください。

Q3. ラーニングスタイルに合わせた研修設計は本当に効果がないのですか?

数十年にわたる複数の学術レビューが「ラーニングスタイルに合わせた設計が学習効果を高めるという証拠はない」と結論づけています。代わりに、受講者の「知識レベル(Prior Knowledge)」に合わせることが研究で支持されています。初心者と経験者で同じ研修をしないこと、つまり受講者の前提知識に応じて内容の深さと進め方を調整することが、効果的な設計の出発点です。

Q4. 研修効果測定はすべての研修で行うべきですか?

すべての研修で詳細な効果測定をする必要はありません。フィリップスの推奨では、ROI(費用対効果)まで測定するのは全プログラムの5〜10%で十分です。まずは経営者が直接関与している研修、経営方針に基づいた戦略的な研修、大規模な研修プログラムに絞って、段階3(職場での活用度)まで測定することから始めるのが現実的です。

Q5. 研修後の定着フォローを最小限の工数で実施するにはどうすればよいですか?

最も手軽で効果が高い方法は3つあります。1つ目は研修1ヶ月後にリマインドメールを送ること。2つ目は研修中に「If ○○, then ○○」の定型文でアクションプランを作らせること。3つ目は上司に研修内容の1枚サマリーを送り、「15分で良いので部下と振り返り面談をしてください」と依頼すること。いずれも大きな工数をかけずに定着率を大幅に改善できます。

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