対面研修に戻したのに成果が出ない3つの落とし穴|やりっぱなし・形態固定・内容陳腐化

対面に戻したのに、なぜ成果が出ないのか
2023年5月の新型コロナ5類移行から3年が経ち、企業研修の現場では対面回帰がほぼ完了しました。ところが、人材育成担当者の方々と話していると、こんな声を多く聞くようになりました。「対面に戻したのに、以前のような手応えがない」「アンケート評価がコロナ前より下がった」「集まったのに何が残ったのかよく分からない」——。
原因を「形態」だと考えると、対面・リモート・オンデマンドの選択を繰り返しても解決しません。本当の原因は、研修の設計にあります。パンデミックの3年間に得た学びを反映せず、コロナ前のやり方をそのまま戻してしまっていることが、成果が出ない最大の要因です。
研修定着と効果測定の第一人者であるコンラッド・ゴットフレッドソン博士は、研修効果が出にくい最大の理由は「研修が現場から離れていること」だと指摘しています。SCM(Success Case Method)で知られるブリンカホフ博士も、現場で成果の出た事例を分析し要因を展開することが研修成功の早道だと長年提唱しています。研修の成功とは現場でのビジネス成果であり、その出発点は最新のニーズを把握することにあるのです。
本記事では、対面研修に戻した後で成果が出ない原因として、以下の3つの落とし穴を解説します。
「やりっぱなし」が形態を超えて続いている
単発で終わる研修設計は、対面でもリモートでも成果が出にくい。定着フォローの仕組みが組み込まれていない。
「対面に戻せばOK」が招く失望
若手社員ほど対面研修への期待値は高い。期待外れの対面はリモート以上に評価を下げる結果を招く。
「研修内容の陳腐化」を放置している
事業戦略や働き方が四半期単位で変わる時代に、数年前の研修内容のまま運用すると現場ニーズと噛み合わなくなる。
3つの落とし穴は形態を選び直すだけでは解消しません。研修設計そのものを見直す視点が必要です。対面研修の設計ポイントについては対面研修を効果的に設計する4つのポイントもあわせてご覧ください。
落とし穴①「やりっぱなし」が形態を超えて続いている
なぜパンデミック後も「やりっぱなし」が続くのか
パンデミック前、対面研修の7割以上は単発のやりっぱなしでした。長期的なシリーズ研修(新任管理職研修、次世代リーダー研修など)も一部ありましたが、圧倒的多数は1回限りで終わっていました。
パンデミック中は録画して配信するだけのリモート研修が増え、これも事実上の「やりっぱなし」でした。そして対面に戻った今、同じ単発設計のまま会場と講師を呼び戻しているケースが少なくありません。形態は変わっても、定着フォローの仕組みが組み込まれていなければ成果は出にくいのです。
やりっぱなしの最大の問題は、成果が出にくいことです。成果を出すには定着フォローが必要ですが、忙しい講師と受講者を複数回対面させることは困難でした。さらに、豪華な外部会場とカリスマ講師による非日常的な研修ほど、かえって成果が出にくいというパラドックスがあります。当日のインパクトが強く記憶には残りますが、多くの受講者はその特別な体験をいつもの職場でどう活かせばよいか分かりません。
研修の成果は当日ではなく、職場に戻った後の数週間〜数ヶ月で決まります。研修効果を測定する具体的な方法は研修効果測定のやり方|実践できる3つのステップを解説で詳しく解説しています。
単発研修から脱却する3つのアプローチ
やりっぱなしから脱却するために、自社の研修に組み込みやすい3つのアプローチをご紹介します。すべてを一度に実装する必要はなく、1つから始めるだけでも効果があります。
知識研修を数回に分ける
狙い:忘却曲線に負けない設計にする
一回にインプットする情報量を絞り、忘れそうなタイミングでプチレビューを挟みながら次回のインプットへつなげる。半日×4回の方が、丸2日間の集中研修より定着率が高い場合が多い。
反転授業にする
狙い:対面・集合の貴重な時間をアウトプットに集中させる
インプットは事前に自己学習(課題図書・eラーニング・短時間動画)で済ませ、集合研修ではアウトプット(演習・ディスカッション・ロールプレイ)に集中する。「集まったからこそ」の価値を最大化する設計。
研修後フォローを自動化する
狙い:担当者の手間を増やさず継続的な接点を作る
メール配信ツールやLMSの自動送信機能を使い、研修1ヶ月後にリマインダー、1〜2ヶ月後に活用ヒント、2〜3ヶ月後にヒアリングアンケートを送る仕組みを設定する。1通のメールでも効果は大きく変わる。
この3つは、研修内容を変えなくても今日から検討できる工夫です。「研修効果が出ない」と感じている場合、内容よりもこの3点の有無を最初に確認することをお勧めします。
落とし穴②「対面に戻せばOK」が招く失望
若手社員ほど対面研修への期待値は高い
パンデミック前の2019年、当社が実施した研修の9割以上は対面集合研修でした。その後2020年春に一気にリモートへシフトし、2023年以降は対面回帰の流れが進んでいます。対面研修には確かに長所があります。受講者の一体感を生み出せますし、ダイナミックな演習も可能です。一方で、運営と準備が大変なこと、移動時間と費用が必要なこと、受講者の期待値が高すぎて対応が難しいことも事実です。
特に若手社員・新入社員は学生時代からリモートに慣れており、対面研修に非常に大きな期待を抱いています。「わざわざ集まったのだから、リモートでは得られない何かがあるはず」という意識が、そのまま研修評価の物差しになります。期待外れの対面研修は、リモート研修より評価が下がる結果を招きます。
失望のメカニズムはシンプルです。一方通行の講義を長時間続ける、受講者同士の交流が乏しい、リモートでもできる内容をそのまま対面でやる——こうした研修では「集まった意味」が見えません。対面に戻すこと自体が目的化していると、この失望を生みやすくなります。
形態の使い分け判断軸
対面集合・リモート・オンデマンドのどれを選ぶかは、研修の目的と内容で決まります。「対面に戻すべき」「リモートを残すべき」という形態起点の議論ではなく、研修ごとに最適な形態を選ぶ判断軸を持つことが重要です。
対面集合
向いている場面:受講者同士の交流が必要な場面、体を動かす演習、イベント的な特別な体験、関係構築が成果に直結する研修
判断目安:「対面でしかできない理由」が明確に説明できるとき。説明できない場合はリモートかオンデマンドを検討する
リモート
向いている場面:情報伝達・知識インプット・簡単なスキル習得・拠点を超えた合同研修・短時間のフォローアップ
判断目安:従来の研修内容の大半はリモートで実施可能。デフォルトの選択肢として検討する
オンデマンド
向いている場面:単純な知識インプット、自分のペースで受講できる内容、リマインダー的な内容、受講者数が多く時間調整が難しい研修
判断目安:リアルタイムの質疑応答や交流が不要なとき。事前学習や復習教材としての活用が有効
特におすすめのスタイルが「事前オンデマンド+少人数の短時間リモートフォロー」という組み合わせです。受講者は事前に内容をインプットし、グループに分かれた短時間のリモートセッションでアウトプットとフォローを行います。例えば24人の研修を6人チーム×4グループに分け、各チームと1時間のリモート研修を2回行うと、講師の拘束時間は変わらず丁寧な個別フォローができます。
対面・リモート・オンデマンドを組み合わせるブレンドラーニングの設計方法は、こちらの記事で詳しく解説しています。
▶ ブレンドラーニングとは|研修効果を高める設計の考え方と実践ポイント
落とし穴③「研修内容の陳腐化」を放置している
環境変化スピードと研修開発スピードのギャップ
「良い研修を作るには最低10年かかる」という言葉が、パンデミック以前の研修業界の常識でした。長い時間をかけて作り込まれた研修プログラムには確かな価値があります。ただし現在、この考え方には2つの致命的な問題があります。
1つ目は、過去に作った研修内容が今のビジネス環境のニーズと合わなくなっていることです。リモートワーク主体の時代に「歩き回ることによるマネジメント(MBWA)」を教えても意味がありません。テレワークが定着した職場で部下と週1回も対面しない管理職にとって、「現場を歩き回って観察する」というメッセージは、現実から乖離したアドバイスにしか聞こえません。
2つ目は、環境変化のスピードに研修開発が追いつかないことです。現在の事業戦略・目標・組織変更は四半期から1年未満で行われます。新しい組織体制が立ち上がり、新しい役割が定義され、新しい技術が導入されるサイクルがどんどん短くなっています。研修の企画から完成まで1〜2年かけていては、出来上がったときには現場のニーズが別のものに変わってしまっています。
さらに厄介なのは、陳腐化が進んでいることに担当者自身が気づきにくい点です。「去年も同じ内容で実施できた」「受講者からの大きなクレームはない」という運営面のスムーズさが、内容の鮮度低下を見えにくくします。気づいたときには「研修と現場の乖離」が大きく広がっているケースが少なくありません。
陳腐化を防ぐスピード優先のアプローチ
今求められるのは、完璧主義を手放したスピード重視の研修開発です。ニーズを聞いてから1ヶ月後に初回研修を実施し、3ヶ月以内に終了するくらいのスピード感を目指しましょう。研修内容の8割は既存の素材を活用できることが多いため、まず現行の研修を棚卸しして、使えるものと使えないものを仕分けることから始めます。
具体的には、現在のワークスタイル・経営方針・事業戦略に合わない内容をチューニング・入れ替え・削除する作業から取り掛かります。すべてをゼロから作り直す必要はありません。残せる部分は残し、変える必要がある部分だけを差し替える方が現実的です。
もう一つ重要なのは、最初のバージョンを早く出してフィードバックで改善するサイクルを回すことです。完璧を目指すと現場ニーズとのズレが拡大しがちですが、初回でフィードバックを受けて2回目以降に反映する設計なら、ニーズとのズレを最小化できます。最初は粗くても、現場で動かしながら磨いていく方が、結果として現場に響く研修になります。
陳腐化を防ぐ第一歩は、現場の今のニーズを把握することです。研修ニーズの聞き出し方は研修ニーズのヒアリング方法|把握から設計につなげる3つのアプローチで詳しく解説しています。
来年度の研修企画で持つべき3つの問い
パンデミックの3年間、多くの組織がリモート研修の設計・運営・定着という新しいスキルを身につけました。この経験は単に緊急対応の産物ではなく、「研修の成果とは何か」「現場定着のために何が必要か」を考え直す貴重な機会でした。対面に戻った今、その学びを活かさず元のやり方に戻ってしまうのは、もったいない選択です。
来年度の研修企画を立てるとき、ぜひ次の3つの問いを持ってください。この問いに答えながら設計された研修は、経営層と現場の両方に響く内容になります。
問い①:やりっぱなしになっていないか?——研修当日の盛り上がりだけで満足していないか、職場に戻った後の定着フォローが設計されているかを確認しましょう。研修の成果は職場に戻った後の数週間〜数ヶ月で決まります。
問い②:対面である必然性があるか?——「対面に戻すべき」という前提を一度外し、研修の目的と内容に対して最適な形態を選び直します。受講者同士の交流や体を動かす演習が必要なら対面、それ以外はリモートやオンデマンドの選択肢も含めて検討する姿勢が必要です。
問い③:研修内容は今のニーズに合っているか?——数年前のカリキュラムをそのまま使い続けていないか、現在の事業戦略・働き方・組織体制と整合しているかを確認します。陳腐化は担当者自身に気づきにくいからこそ、定期的な棚卸しが重要です。
対面研修自体が悪いわけではありません。むしろ、研修設計を見直したうえで対面を活用すれば、対面の強みは最大限に発揮されます。問題は「対面に戻すこと」を目的化してしまい、やりっぱなし・形態固定・内容陳腐化という旧来の問題をそのまま持ち込んでしまうことです。3つの問いを起点に、自社の研修を一度見直してみてください。
研修設計の見直しをお考えの方へ
「やりっぱなし研修から脱却したい」「対面とリモートの使い分けを整理したい」「研修内容を今のニーズに合わせてリニューアルしたい」——こうしたご要望に、研修設計の段階からアイディア社がご支援します。御社の現状と来年度の方向性をお聞かせください。
よくある質問
対面研修に戻すこと自体は問題ないですか?
対面研修自体は問題ありません。受講者同士の交流が重要な場面、体を動かす演習が必要な場合、特別なイベント性を持たせたい場合などは対面が最適です。問題なのは、対面研修に戻ることが目的化してしまい、やりっぱなし・単発・内容の陳腐化という旧来の問題をそのまま持ち込んでしまうことです。形態の選択ではなく研修設計そのものを見直す視点を持てれば、対面の強みは最大限に発揮されます。
対面研修に戻したのに評価が下がりました。原因は何ですか?
原因は対面に戻したこと自体ではなく、リモート時代に顕在化した研修設計の課題が放置されていることが多いです。一方通行の講義中心、受講者同士の交流が乏しい、リモートでもできる内容をそのまま対面でやる——こうした設計では、若手社員ほど「わざわざ集まった意味」を感じられず、リモート研修以上に評価が下がります。演習時間を全体の50〜70%確保し、講義は1回15分以内を目安に設計し直すことで、対面の強みを活かせるようになります。
対面・リモート・オンデマンドはどう使い分ければいいですか?
研修の目的と内容で選びます。受講者同士の交流や体を動かす演習が必要なら対面集合、情報伝達や知識インプット中心ならリモート、自分のペースで受講させたい単純な知識インプットならオンデマンドが向いています。「対面でしかできない理由」が明確に説明できないなら、リモートかオンデマンドを検討する姿勢が現代的です。さらに「事前オンデマンド+少人数の短時間リモートフォロー」のような組み合わせも有効で、講師の拘束時間を増やさず丁寧な個別フォローが可能になります。
研修後フォローを「自動化」するとはどういう意味ですか?
担当者が毎回手動で連絡する必要はないという意味です。メール配信ツールやLMSの自動送信機能を使って、研修から1ヶ月後にリマインダー、1〜2ヶ月後に活用ヒント、2〜3ヶ月後にヒアリングアンケートを自動送信する仕組みを作ります。最初は1通のメールを設定するだけでも、やりっぱなし研修からの脱却に大きく貢献します。設定のハードルが高ければ、まずは研修1ヶ月後の振り返りメール1本から始めるのが現実的です。
既存の研修プログラムを陳腐化させないコツは?
定期的な棚卸しと、現在の事業戦略・働き方への適合確認を習慣化することです。具体的には、年1回は研修内容を全項目チェックし、現在のワークスタイル・経営方針・事業戦略に合わない部分をチューニング・入れ替え・削除します。すべてをゼロから作り直す必要はなく、研修内容の8割は既存素材を活用できることが多いため、変える必要がある部分だけを差し替える方が現実的です。陳腐化は担当者自身に気づきにくいので、外部視点を入れる仕組みも有効です。
研修スピードを上げると質が落ちませんか?
完璧を目指して時間をかけるより「最初のバージョンを早く出してフィードバックで改善する」サイクルの方が、現場ニーズとのズレを最小化できます。研修内容の8割は既存の素材を活用できることが多いため、まず現行の研修を棚卸しして使えるものを確認してから、不足する部分だけを新規開発するアプローチが現実的です。完成度を追求して1〜2年かけている間に、現場のニーズが変わってしまうリスクの方が大きいことを意識してください。














