ATD人材育成国際会議 2019 帰国報告会レポート|AI・レジリエンス・ラーニングジャーニーの最前線

ATD人材育成国際会議 2019 帰国報告会レポート|AI・レジリエンス・ラーニングジャーニーの最前線
2019年5月19〜22日、世界最大の人材育成カンファレンス「ATD International Conference & Exposition 2019(ATD ICE 2019)」がアメリカ・ワシントンD.C.で開催されました。今年のテーマは「HIGH-TECH」「HIGH-TOUCH」「LEARNING JOURNEY」の3本柱。AIの台頭による仕事の変化と人材育成の再設計、レジリエンスやモチベーションといったヒューマンスキルの科学的アプローチ、そして研修設計・定着・効果測定の最新手法が一堂に会しました。
アイディア・デベロップメントでは現地に参加したメンバーが帰国後に報告会を2日程開催。2019年6月18日(火)および7月3日(水)、東京・御茶ノ水ソラシティにて延べ314名の人材育成担当者にお集まりいただきました。本記事では報告会の内容を3テーマ・15事例でお伝えします。
ATD国際会議では「人工知能(AI)はどこまで仕事を変えるのか」「社員のレジリエンスをいかに高めるか」「研修後の定着率を上げるにはどう設計すべきか」といった問いに対し、Accenture・Walmart・American Express・韓国ハンファ など世界を代表する企業の担当者が実践データを持ち寄りました。
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ATD人材育成国際会議 2019
帰国報告会レポート(全104ページ)
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無料でダウンロードする →HIGH-TECH①|AIに対応するリスキルと人材育成の4B戦略(Accenture)
最初のテーマ「HIGH-TECH」では、AIとテクノロジーが人材育成に与えるインパクトを4つのセッションで取り上げました。
Accentureのシニアラーニングプリンシパル、Grzegorz Plezia氏・Marek Hyla氏は「AIに対応するリスキル」と題して、自社の研究データを公開しました。「インテリジェントオートメーション(IA)を本格導入した企業は5年間で38%の収益向上が見込まれる」という試算のもと、人材育成担当者がAI時代に取るべき行動として「4B戦略」を提唱。Buy(外部採用)、Bot(AI・RPAの活用)、Build(既存社員のアップスキル)、Borrow(業務委託・社内流動)の4つを状況に応じて組み合わせながら人材ポートフォリオを再設計することが求められると述べました。
続いてErnst & Young(EY)のセッションでは、RPAを人事・育成業務に導入した実践例を紹介。「ホワイトカラーの繰り返し業務はRPAで効率化できる。人事だからと言って自動化を避けるのは損失だ」という言葉は、参加者に強い印象を残しました。さらにJUVIS(韓国のダイエットコンサルタント企業)のAI×ハイタッチ型サービスの事例では、AIの導入と同時に仕事の再設計と社員の精神的サポートを行うことが人材育成の最優先課題だと示されました。
HIGH-TECH②|マイクロラーニングの完全ガイドと「7つの失敗ポイント」
ラーニングテクノロジーのパートでは、Caliber Home Loans社(住宅ローン会社)によるマイクロラーニング導入の全記録が披露されました。2016年からの3年間で「失敗→改善」を繰り返した軌跡を惜しみなく公開したこのセッションは、マイクロラーニング導入を検討している担当者にとって実践的な教科書となりました。
同社が整理した「7つの成功ポイント」は次の通りです。①経営者の巻き込み(期待を低く設定して入口を広げる)、②ソフトの選定(ニーズを明確にしてから決める)、③コンテンツ制作(受講者の好みを先に調べる)、④ハウジング(コンテンツをどこに置くかも設計のうち)、⑤プロセス(完璧を目指さず出してから改善する)、⑥コミュニケーション(社内チャンピオンを作り、仕掛けを打ち続ける)、⑦効果測定(あらかじめ指標を絞って設計する)。「失敗を恐れず最後までやり遂げる」という姿勢が一貫して強調されたセッションでした。
デジタル×体験学習のパートでは、Comcast Universityが「モバイルを活用した現場密着型オンボーディング」を紹介。集合研修の代替としてではなく、現場OJTを補強するツールとしてモバイルを使い、上司が随時フィードバックできる仕組みを構築した事例は、ハイブリッドワーク時代に向けて多くの示唆を与えてくれました。
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eラーニング・マイクロラーニングの研修設計について詳しくは、「研修ニーズアセスメントとヒアリングの進め方」もあわせてご覧ください。
HIGH-TOUCH①|レジリエンス・EQ・モチベーションの科学
「HIGH-TOUCH」テーマでは、第4次産業革命の変化の中でいかに人間力を鍛えるかという問いに、心理学・神経科学・行動科学の知見で答えるセッションが続きました。
レジリエンスのパートでは3つのセッションが印象的でした。第1は「アジャイルリーダーシップ」—変化の激しい環境を「脅威」ではなく「機会」と捉える認知の転換が、レジリエンスの核心だというメッセージ。第2はWilson Learning Worldwideによる変化に伴う「喪失感」の整理—役割・仲間・場所・ルーティンの4種類の喪失に向き合い、チームを新しい方向へ導くフレームワーク。第3はEQの研究者Ryan Gottfredson氏による「自己認識の低さがリーダーの根本問題」という指摘で、EQを高める4つの切り口(成長志向・オープンマインド・前向きな思考・他者志向)が提示されました。
モチベーションのパートでは、Wilson Learning Worldwideが「エンゲージメント向上の5要素」を紹介。「機会の知覚」「個人の責任感」「つながり」「インクルージョン」「承認」の5つが揃うことで、社員の内発的動機が持続するという研究結果です。Susan Fowler氏の研究では、人間の根本的な3つの心理的欲求(有能感・自律感・関係性)を満たす設計が、研修の効果を大幅に高めることが示されました。
HIGH-TOUCH②|イノベーション・リーダーシップ・ダイバーシティ
イノベーションのパートでは「デザイン思考×人材育成」「イノベーターの思考習慣」の2セッションが取り上げられました。Jim Smith Jr.氏は、イノベーションを起こす人材に共通する6つの習慣として「つながりを見つける・質問する・よく観察する・幅広く人脈を作る・とにかくやってみる・失敗を恐れない」を挙げ、これらはいずれも研修で意図的に鍛えられる能力だと語りました。
リーダーシップのパートでは4事例が紹介されました。テネシー州政府の人材育成改革(学習文化を組織変革のエンジンにした事例)、プレイングマネージャー支援(TP&Lフレームワーク:タスク・ピープル・ラーニングの3軸でマネージャーを支援)、ブラジルの病院Einstein医療センターのメンター制度(NPS 90点・キャリアチェンジ率11%という成果)、そしてDDIによる「経営者のフィットとフィットネス」研究(経営者の能力水準と業績の強い相関)と、現場で使える知見が次々と提示されました。
ダイバーシティのパートでは、女性リーダーの成功要因(Center for Creative Leadership)・ミレニアル世代向け育成の4ポイント・Walmartの本格的なゲームラーニング・リモートワーク支援(信頼・帰属感・サポートの3要素モデル)の4セッションが並びました。特にWalmartのゲームラーニング事例は、全米200拠点・年間25万人規模の研修をゲーム形式に切り替えた規模感と、行動変容への効果の高さで参加者の関心を集めました。
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リーダーシップ研修の設計について詳しくは、「研修効果測定の進め方ステップ完全ガイド」もあわせてご参考ください。
LEARNING JOURNEY①|ブレンドラーニング設計と「初めてのチャレンジ」から学ぶ
「LEARNING JOURNEY」テーマでは、研修設計・定着・効果測定の実践事例が9セッションにわたって展開されました。
デザインのパートでは3事例が印象的でした。米海軍シニア下士官アカデミー(SEA)は、卒業定員が2倍になったことを機に集合研修をブレンドラーニングへ全面刷新。「受講者と講師の比率は聖域」「3週間オンライン=1週間集合の換算率」など、設計の原則を数値で示した事例は実践的な参考になりました。アメリカ商務省国際貿易局(ITA)は組織内に次世代リーダー育成の「予備軍プログラム」を立ち上げ、コーチ20名・800時間以上のコーチング・リーンシックスシグマ認定者14名など具体的な成果を出した事例です。3つ目は不動産投資信託会社による「リーダーシップ研修の大リニューアル」—現場の視点と自社のビジネス課題に根ざしたカスタムカリキュラムが、参加者の行動変容に直結した背景が語られました。
LEARNING JOURNEY②|ラーニングトランスファーの「12のテコ」とチャットボット定着
ラーニングトランスファー(研修定着)のパートでは、4つのセッションを通じて「なぜ研修は職場で活かされないのか」という問いに正面から向き合いました。
Promote International(カナダ)が提唱する「HPLJ(ハイパフォーマンス・ラーニングジャーニー)」は、研修の設計を「学習の習得(20%)」よりも「職場でのパフォーマンス発揮(80%)」に重点を置くべきだという考え方です。6〜12ヶ月にわたる複数モジュール設計で616名を対象にした研究では、職場でのアクション実行率と成果に大きな差が出たことが示されました。
「ラーニングトランスファーの12のテコ」は、研究者Emma Weber氏らによる体系的なフレームワークです。受講者本人・研修設計・組織環境の3側面から、定着に影響する12の要因(上司からのサポート・個人の定着力・活用機会など)を整理したもので、「どのレバーを引けば最も効果が上がるか」を研修設計の段階で特定することが重要だとされています。
チャットボットを使った定着フォローの事例(製薬会社・営業マネージャー向け研修)では、「アクションプラン作成+3回のテキストチャット確認」という極めてシンプルな仕組みで、やりっぱなし研修と比べて有意な成果の差が出ることが示されました。「簡単なフォローでも効果がある」「小さい実験を重ねて少しずつ高める」という学びは、コスト・工数に悩む多くの担当者に希望を与えてくれました。
LEARNING JOURNEY③|研修効果測定の最前線と韓国ハンファの社内アセスメント改革
評価・効果測定のパートでは、KirkpatrickモデルとフィリップスのROIモデルの「大バトル」セッションに加え、韓国ハンファグループによる社内アセスメント改革の事例が取り上げられました。
Kirkpatrickモデル(Level 1〜4)とROI(Level 5)の比較議論では、「効果測定は最初から計画する」「研修の終わりが測定の始まりではなく、研修の始まりが測定の始まりである」という原則が改めて強調されました。測定の目的を「研修の正当化」ではなく「次の改善への投資判断」と位置づけることが、持続可能な効果測定文化を作る鍵だと示されました。
ハンファグループのケースは日本の人材育成担当者に特に響いた事例です。年功序列文化が根強く残る中で、管理職のリーダーシップアセスメントを全面刷新。外部プロに依存せず社内アセッサー認定制度を構築することで、1人あたりのコストを従来の25万円から6.5万円へ大幅削減しながら、37.5時間という充実した評価プロセスを実現しました。アセスメント結果を昇格・評価・育成・採用に一貫して活用する仕組みは、「仕組みとしての人材育成」の理想形として大きな示唆を与えてくれました。
よくある質問
ATD2019はどこで開催されましたか?
ATD ICE 2019は2019年5月19〜22日、アメリカ・ワシントンD.C.で開催されました。世界120カ国以上から人材育成・HRDの専門家が集まり、約200のセッションと数百のブース展示が行われました。アイディア・デベロップメントの帰国報告会は2019年6月18日(A日程)・7月3日(B日程)に東京・御茶ノ水ソラシティで開催し、延べ314名にご参加いただきました。
マイクロラーニング導入で最も重要な成功ポイントは何ですか?
ATD2019でCalibr Home Loans社が提示した「7つの成功ポイント」の中でも特に重要とされたのは「経営者の巻き込み」と「完璧主義を捨てて早く出すこと(Done is better than perfect)」です。また、事前に受講者のニーズと好みを十分に調査することなく進めると、コンテンツが刺さらないという失敗例も紹介されています。詳細は帰国報告会レポートのp.15〜24でご確認いただけます。
ラーニングトランスファーの「12のテコ」とはどのようなフレームワークですか?
「12のテコ(12 Levers of Transfer Effectiveness)」はEmma Weber氏らの研究に基づく研修定着フレームワークです。受講者側(動機・準備度など)、研修設計側(内容の関連性・設計の質など)、組織環境側(上司のサポート・活用機会・組織文化など)の3つの視点から、定着に影響する12の要因を整理したもの。特に「上司からのサポート」は単独でも定着率に最大46ポイントの差をもたらすというAmerican Express社のデータも示されました。
AI・リスキルへの対応として、人材育成担当者はまず何をすべきですか?
ATD2019でAccentureが提唱した4B戦略(Buy・Bot・Build・Borrow)をベースに考えると、まず自社でどの業務がAI・RPAに代替され得るかを整理することが出発点です。その上で、社員に新たに必要となるスキル(リスキル・アップスキル)を特定し、学習体験の設計に落とし込む—これが人材育成担当者の役割として改めて定義されました。詳細は帰国報告会レポートのp.2〜14でご確認ください。
研修効果測定はどこから始めるのが現実的ですか?
ATD2019の効果測定セッションで一貫して強調されたのは「研修の終わりから測定を始めるのではなく、研修の設計段階から測定を組み込む」という原則です。すべての研修でKirkpatrick Level 4や ROI(Level 5)まで測定する必要はなく、まずLevel 1(受講者の反応)とLevel 2(学習)を確実に押さえることから始め、重要な研修から段階的に測定レベルを上げていくことが現実的なアプローチです。
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帰国報告会レポート
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- マイクロラーニング7つの成功ポイント・ラーニングトランスファー12のテコ
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