ATD ICE 2022レポート|グローバル人材育成トレンドと日本への示唆

世界最大の人材育成国際大会であるATD ICE(Association for Talent Development International Conference and Exhibition)は、4日間でグローバルの人材育成トレンドと最先端の成功事例を一気に把握できる貴重な場です。弊社代表は2022年5月にフロリダ州オーランドで開催されたATD ICE 2022に対面で参加し、発表も行いました。本記事では大会から得た知見のうち、「重要で実用的かつ日本でも実践できる」トレンドを3つの視点(NOW・NEW・NEXT)から紹介します。
ATD ICEとはどんな大会か
ATD(Association for Talent Development)は1944年設立の非営利団体で、40,000人以上の会員を持つ世界最大の人材育成会員制組織です。ICEはATDがアメリカで毎年開催する国際大会で、100以上の多彩なセッション、数百社が参加する展示会という業界最大規模のイベントです。世界中から数千人の人材育成関係者が集まり、ベストプラクティスとトレンドが一堂に集まります。
ATD ICE 2021に関するレポートはこちらの記事でも紹介しています。2021年との比較でいうと、2022年はコーチング・DEI(多様性・公平性・包括性)・マインド強化といったテーマへの注目がさらに高まり、「成果にこだわる人材育成チーム」をどう作るかという実践的な議論が増えていました。
NOW:今すぐベンチマークすべき成功事例
2022年のホットトピックはマインド強化・DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)・コーチングの3つでした。特にリーダーシップ系のセッションでも、スキルより先にマインドとコーチングの話が中心を占めていた点が印象的でした。
マインド強化の事例として、製薬会社のノバルティスは好奇心・主体性・ウェルネス向上を目的とした総合的な育成施策を25,420名を対象に実施し、業界内イノベーション力第1位という結果を達成しています。医療機関のメトロヘルスは全社的なDEI強化施策でコミットメント79.2%・コネクション75.8%という高い数値を達成しました。食品企業のタイソンフーズは6ヶ月間のダイバーシティ対応力強化研修でコミュニケーション力86%向上、エンゲージメント85%向上という成果を報告しています。
コーチングについては、研修単独よりもコーチングとの組み合わせに期待する流れが明確でした。リーダーシップ研究で著名なジャック・ゼンガーの分析によると、コーチングには大きく2つのパターンがあります。管理職にコーチングスキルを習得させて部下に実践してもらうパターンと、外部のプロコーチを活用するパターンです。いずれにも長短がありますが、質の高いコーチングを組み合わせると研修単体の4倍の成果が期待でき、100円のコーチング投資に対して790円の回収という試算も示されています。
DEIの取り組みも、定義や重要性の啓発から「成果を出す施策」へと内容が進化していました。従来の手法の落とし穴を列挙して対策を示す、個人レベルではなく組織レベルで浸透させる方法を議論する、そしてDEI施策の効果測定を行うという実践的なアプローチが注目を集めていました。
NEW:今まさに進んでいるラーニングの最前線
NEWとは、過去のベストプラクティスのベンチマーキングではなく、先進的な企業がまさに今取り組み始めているラーニングの形です。キーワードはマクロラーニングとミクロラーニングです。
ミクロ(マイクロ)ラーニングは以前より内容が細かく短くなっています。数分程度の映像が代表的な形式で、受講者の負担を最小化しながら必要な知識にアクセスできる利便性を高めています。一方でマクロラーニングはより長く・複雑になっています。単発研修だけではなく、研修+職場実践+上司の巻き込み+コーチングなどを組み合わせた複雑なラーニングジャーニーが標準になりつつあります。
この流れの中で重要性を増しているのが、定着と効果につながるブレンドラーニングジャーニーの設計です。知識系・スキル系・マインド系という研修の種別ごとに設計パターンが異なります。知識系はフリップト・クラスルーム(事前自己学習でインプット、集合で理解を深めてアウトプット)が有効です。スキル系はインプットを事前に行い、研修で演習中心にして、研修後に反復練習と職場実践の機会を設けるという流れが機能します。マインド系は上司を巻き込んだ「ブックエンド設計」が効果的で、研修前後に上司とのアクションプラン設定・職場実践・コーチングを配置します。ブレンドラーニングの設計についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
NEXT:これからウォッチすべきラーニングテクノロジー
NEXTは、今後期待できる可能性の高いテクノロジーです。いずれも急速に実用化が進んでいます。
ハイブリッドラーニングは、対面研修とリモート研修の受講者を同じ研修に混在させるスタイルです。セッティングと運営が難しく、実施時に全員が聞こえてハウリングがない設定が成功の鍵です。VR(バーチャルリアリティ)はやっと成功事例が増えてきました。現実的な擬似体験・繰り返し訓練・場面別演習・高いエンゲージメント・細かい個別フィードバック・チームワーク強化といった活用が広がっています。AR(拡張現実)は特に技術教育に向いており、機械の操作やプロセスを教える場面で活躍します。AI+体験学習は、AIと映像を組み合わせて大人数でも個別フィードバックができる形式で急速に普及しています。ポッドキャストは特に20代の社員に人気で、特別な設備がなくても社内の最新情報を発信するのに有効です。
成果にこだわる人材育成チームを目指して
ATD ICE 2022全体を通じて最も強く感じたのは、「成果にこだわる人材育成チーム(HILO:High Impact Learning Organization)」を目指すという方向性への収束です。ラーニングテクノロジーを使いこなすスキル、様々な施策を設計するノウハウ、職場の関係者を巻き込む能力、そして成果を出し続ける力——これらを備えた人材育成チームが、企業の競争力を支える時代になっています。
グローバルのトレンドは「教えること」から「成果を出すこと」へと完全にシフトしています。日本の人材育成担当者にも同じ転換が求められています。研修効果測定の基本的なステップはこちらから確認できます。自社の研修がどこまでビジネス成果に貢献しているかを問い直すことが、最初の一歩です。
グローバルトレンドを自社の研修設計にどう活かすか、具体的な相談はお気軽にどうぞ。
よくある質問
ATD ICEの内容は日本企業にも適用できますか?
多くの内容は日本でも十分適用できます。コーチング・DEI・ブレンドラーニングなどのテーマは日本でも関心が高まっています。ただし米国ではコーチングの活用が文化的に定着しており、日本より導入のハードルが低い点があります。日本では「上司が部下をコーチングする」という形よりも、外部プロコーチを活用して新入社員や次世代リーダーのフォローに使うアプローチから始める企業が多い印象です。
ミクロラーニングを社内で作成する際の注意点は何ですか?
最大の注意点は「受講者目線で設計しているか」です。社内で作成するマイクロラーニングは教育テレビのような堅苦しいトーンになりがちです。1本あたり4分以内、視聴後に即役立てられる内容、検索で簡単に見つけられる命名規則——この3点を徹底するだけで受講率と活用率が大きく変わります。
DEI研修を効果測定するにはどうすればよいですか?
DEI施策の効果測定は「従業員の構成(年代・性別・人種などの割合)」「課題の予防(離職・エンゲージメント・問題行動の防止)」「ビジネス成果(売上・生産性・費用・社会貢献への改善)」という3つの切り口で測定するのが実践的です。最初から定量測定を目指さず、まず受講者アンケートと事後インタビューによる定性評価から始めることをお勧めします。
グローバルの人材育成トレンドを自社に活かしたい方へ
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